例のシャツ男を見た次の日。
「何で出会っちゃうかなー……」
「リンちゃん、知り合い?」
撫子と学校の帰り道を歩いていると、件のシャツ男が憔悴した表情で立っていた。
「君は……僕と同じ……?」
「そーだよアマゾンですよ。撫子の事食べようってんなら殺すよ?」
「知り合いなの!?」
突然の物騒な会話に驚く撫子。ごめん。
「食べる訳、ない……僕は……僕は……!」
「あー、昨日見て思ったんだけど、アンタ何か特別なアマゾンだったりするの?」
「リンちゃーんそろそろ説明プリーズ」
うん、先に話しちゃおうか。
「ごめんごめん、説明するよ。昨日撫子が帰る時間の前にこの人と例の赤いアマゾンと他四体のアマゾンが居てさ、私達の住んでる場所とは逆方向に逃げたから放置してたんだけど」
「今日はそっちの人から来たって事?」
「そうだね」
そこまで話してシャツ男の方に向き直る。
「で、何の用?」
「用があるって訳じゃ……ただ歩いてたらここに」
「同族感知がずは抜けてるのかな、腕輪着けて何年?」
返答次第ではここで殺そうと思ったのだが、予想とは違う返答が帰って来た。
「昨日」
「は……?昨日!?」
え、マジで?と固まってると撫子が声を掛けてきた。
「リンちゃん、何か事情あるみたいだし話だけ聞いてみれば?」
「……そうだね」
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自宅は知られたくないので近くのカフェへと向かい、取り敢えずコーヒーを頼んで飲みながら話を聞く。
途切れ途切れの話だったけれども大体内容は把握した。
「つまり悠は昨日まで自分がアマゾンだって知らなかったと」
「うん」
「そういうのってあり得るの?」
「抑制剤の代わりの何かを取ってれば平気だと思う。多分話に出てきた注射がそれだったんだよ」
「それを打たなかったから……」
「抑制剤が切れてアマゾンになったんだね」
あれ?ちょっと待てよ。
「悠、今人を食べたいって思ってる?」
「お腹は空いてるけど思わないよ……」
「どうかしたの、リンちゃん?」
「アマゾン態になるって事は抑制剤が切れたアマゾンと同じ状態で、食人衝動が抑えられなくなるのが普通なんだけど……今の悠って抑制剤切れる前とほぼ同じ状態だよね」
最初に見たアマゾン態の時も真っ先にコウモリアマゾン狩りにいってたし……そばに人が居たのに。
「どこか特別製なのかな?食人衝動より闘争本能の方が勝ってるとか」
「そうなの……かな」
私も考え込んでいると撫子が耳打ちをしてきた。
(リンちゃんリンちゃん、新品の腕輪だけど倒さないの?)
たまにサラッと恐ろしいよな、撫子って。
(それもちょっと考えたけどさ、ああ見えて悠って私より強いよ?)
「そうなの!?」
撫子がビックリして大声を出す。
「どうかしたの?二人とも」
「ななな何でもないよ!?」
貴方の殺害計画です♪とか言える訳ないし!!
(なーでーこー!声大きいよ!)
(ごめんごめん、リンちゃんがそういうのって珍しかったから)
(ここは下手に敵対するより恩を売っといた方が後々為になる気がするから)
(リンちゃんがそう決めたならオッケーだよ)
よし、じゃあここからどうするか。
悠には何か事情を知ってそうな水澤母を尋ねに行ったら?とでも伝えるか……
あれ?
「悠と……もう一人?」
目の前の悠の反応に気を取られ過ぎてた。
気付けば店内には私達以外誰も居ない。
「撫子!机の下に隠れてて!」
「え?うん!分かった!」
キョトンとしている悠の腕を掴んで席から離れる。
レジ付近に置いてあった袋入りのワッフルを纏めて掴み悠へと放る。
「食べなよ、カロリー必要でしょ」
「そうだね」
袋を引き裂いて取り出し、一気に食べる。
「手伝って貰うよ」
「……分かった」
私は腕輪を、悠はドライバーを構える。
「アマゾン」
「オォォォォォ!!ア゛マ゛ソ゛ン゛ッ!!」
同時に変身したのはいいのだが、
「い、痛ってぇ……」
「ご、ごめんねリンちゃん……」
悠の変身時の衝撃波で私だけ壁に叩き付けられて暫し悶絶。
すると、厨房から人間の腕だけを手に持ったアマゾンがゆっくりと歩いてきた。
「悠!」
「はぁぁぁぁぁ!!!」
怒号を上げてオメガが飛び掛かる。
避けられるも着地と同時に足払いをして相手のマウントポジションを取り、両腕の連打を浴びせる。
堪らず相手は両腕の翼を広げて風を巻き起こしオメガを吹き飛ばす。
すぐさま逃走に移ろうとするが、
「逃がさないよ」
私の右手から生やした触手が足に絡み付き地面に引き倒す。
体勢を整える前に飛び掛かり、左手の触手をオメガのアームカッターに擬態させて斬撃を喰らわせる。
一際深く切り裂かれ相手が膝を着いた瞬間、
「悠!」
「【violent punish】」
肥大化した悠の右腕のアームカッターが背中から深く突き刺さり、
「ああぁぁぁぁぁぁ!!!」
引き抜かれたその右手にはアマゾンの心臓がぶら下がっていた。
悠の標的が此方に移る前にさっさと変身を解く。
暫く唸っていた悠も興奮が収まったのか変身を解除した。
「ありがとね、手伝ってくれて」
「ハァハァっ……はぁ……」
まだ呼吸が収まっていないみたいなので溶けたアマゾンの亡骸の中から腕輪を拾い上げる。
「リンちゃん、さっきの姿は……」
やっぱり訊かれると思ってた。
「仁さんそっくりだって?」
「うん……色と能力以外はあの人そっくりだった」
「全部話すと長くなるから端的に話すと、私もアマゾンだから闘った事があるんだよ、あの赤いアマゾンの仁って人と。で、私の能力は【擬態】。戦闘に向いてるフォルムだったからね、腕の触手の硬度弄って悠と仁のみたいにアームカッターとして使ってるんだ」
「そうだったんだ」
驚いた顔で頷いている。
そんな悠にさっき拾った腕輪を渡す。
「はい、これ持っていけば悠が人類の味方って分かってくれるでしょ」
「僕は……人間の味方って訳じゃ」
「どっちにつくにしても、今の社会は人間中心だからね。決める時まで人間側に居た方がいいよ」
「……ありがとう」
腕輪の信号で駆除班が来る前に撤退しようと撫子の隠れている場所へ呼びにいく。
「あ、そうだ。他のアマゾンが皆私みたいだって思わないでね」
「それってどういう……?」
「他のアマゾンは皆『生きる為に人を殺してる』って事」
怖かったのか、撫子は机の下から出るとすぐ抱きついてきた。
背中をさすりながら、悠の方を向いて私のスタンスを彼に告げる。
「私は『撫子と生きる為にアマゾンを殺す』……端から見たら人類の味方だけど、私が味方してる人類は一人だけ」
「撫子だけだから」