ペテル・モークに憑依転生!   作:ハチミツりんご

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投稿が遅れて申し訳ないです!


エ・ランテルにて

城塞都市 エ・ランテル

 

王国最東部に位置する大都市であり、国王であるランポッサⅢ世の直轄領。城塞都市、と名がつく通り、三重の堅牢な城壁によって守られており、バハルス帝国との戦争の際には最前線となる重要な場所である。また、リ・エスティーゼ王国、バハルス帝国、スレイン法国の三国に隣接しており、交易都市としても重要であり、まさに王国側の要とも言える都市である。

 

そして、エ・ランテルは、3つの区画に分けられている。

 

軍事系統の設備が整っており、王国軍の駐屯地として利用される外周部。

 

都市の中枢機能である行政関係のものや食料を保存するための倉庫が並び、厳重な警備が行われる最内周部。

 

そして、様々な露店が立ち並び、住民達の声が絶えない内周部の3つである。

 

 

 

そんなエ・ランテルの内周部の広場ーーー露店が立ち並ぶ所に、3人の若い男女が歩いていた。

 

 

「おっ!串焼き売ってるぞ、買ってこーぜ!!」

 

「いいね、私も小腹がすいてたんだ〜」

 

「あ、ちょっと2人とも!待ってくださいよ!!」

 

 

 

・・・まぁ言うまでもなくペテル達である。

 

 

 

 

 

 

 

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「まったく・・・。いくらエ・ランテルについたと言っても、少しは落ち着いてくださいよ。」

 

「ははっ、悪い悪い。」

 

「そうは言っても、ペテルもちゃっかり2本買ってるじゃん。」

 

「だって仕方ないじゃ無いですか。ここ数日は固い黒パンと干し肉だったんですから。」

 

 

そんな会話をしながら冒険者組合に向かっていくペテル(おれ)達。

 

いやー、馬車での食事は結構キツかった。果実やら野菜やらは無く、先程も言ったが商会から分けてもらった干し肉と俺とエドストレームが持ってきていた黒パンしか無い。これがずっとだ。ルクルットのバカは何も持ってきてなかったし。

 

 

「はぁ・・・。とりあえず早く冒険者組合に行きましょう。登録は済ませておきたいですし。」

 

「おっし!!ここからこのルクルット様の伝説が始まるんだ!!大金稼いでかわいい女の子と・・・ゲヘヘ」

 

「あっほくさ。」

 

「あはは・・・。最初はそんなに期待しない方がいいですよ、ルクルット。」

 

「え?なんでだよ。」

 

「登録したての(カッパー)に大仕事なんて任せませんからね。多分討伐依頼どころか採取依頼も出来ませんよ。」

 

「嘘だろ、俺のルクルット伝説が・・・。」

 

 

ルクルットがうなだれているが、まぁ組合も馬鹿じゃない。地道にやるしかないのだ。

 

間違っても登録してすぐに指名依頼が来たり、都市が無くなるレベルのアンデット騒動を解決したり、化け物クラスの吸血鬼(ヴァンパイア)を討伐してアダマンタイトになるなんて事は起こらない。ないったら無い。

 

 

「・・・あ、あれじゃない?冒険者組合。」

 

エドストレームが指した方を見ると、周りの建物と比べて立派な建物が見えてきた。ドア付近には武器や鎧を身につけた男達が出入りしている。

 

おお、それっぽい。そんなことを思いながらドアの前まで歩いていく。

 

・・・なんか、結構感慨深いなぁ。

 

 

「なんか、結構緊張するもんだね。」

 

「ですね。このために頑張ってきたわけですし。」

 

「おい、俺のこと忘れんなよ?!」

 

「大丈夫、忘れてませんよ。

 

中に入ったら、先輩方から観察されると思いますが、怯んじゃ駄目ですよ。」

 

2人に注意をしながら、組合のドアを開いていく。中に入ると、こちらを睨むように観察してくる冒険者達がーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいてめぇ!!(カッパー)如きが調子乗ってんじゃねぇぞゴラァ!!」

 

「あァ!!??誰に向かって口聞いてんだお前!!!」

 

 

 

ーーーある訳ではなく、そこには取っ組み合いの喧嘩をしている2人の男達と、オロオロとしている受付嬢に、それを見ながらバカ騒ぎをしている冒険者達の姿があった。

 

 

「・・・観察されてないみたいだけど?」

 

「これは、ちょっと予想外です・・・。」

 

エドストレームのツッコミに苦笑して答える。いやだって、入って早々喧嘩を見るなんて思わないでしょ!?

 

 

「お、おい2人とも!あの喧嘩してんの、片方金級(ゴールド)だぜ!」

 

 

ルクルットの言葉を聞き、喧嘩している2人を眺める。確かに、喧嘩している男のうち、ショートソードを腰に差している黒髪の方の首には金色に輝くプレートが下げられている。もう片方は銅のプレートなのだが、よく金級(ゴールド)相手に喧嘩を売る気になったものだ。

 

 

「・・・御三方、冒険者登録をしにきたのであるか?」

 

 

バッ!!と声のした方を振り返る。そこには、灰色の髪にボサボサのヒゲを生やした、ガッシリとした体格の男性がたっていた。首には鉄のプレートが下げられている。

 

・・・先程の特徴的な語尾からして間違いない。原作での【漆黒の剣】正規メンバーの1人、ダイン・ウッドワンダーだ。

 

 

ルクルットといい、なんでこう立て続けに会うのかね。

 

 

「え、えぇ。そうなんですが、タイミングが悪かったみたいですね。」

 

「それは災難だったであるな。まぁ、もう少ししたらあの喧嘩も収まるであろう。待つといいのである。」

 

「・・・てか、おじさん誰?」

 

「おじさんと呼ばれるような歳ではないのであるが・・・。自己紹介が遅れたであるな。私は、ダイン・ウッドワンダー。森祭司(ドルイド)をやっているのである。」

 

「でも見た目がおじさんっぽいよ?あ、私はエドストレーム。盗賊だよ。こっちのハルバード背負ってるのが戦士のペテルで、弓もってるのが野伏(レンジャー)のルクルットね。」

 

「ルクルットだ、よろしくな、おっさん。」

 

「こら、2人とも!!すみません、申し遅れました。ペテル・モークと言います。」

 

「よろしくお願いするのである!・・・それにしても、一向に収まらないであるな、あの喧嘩。」

 

ダインの言った通り、男達の喧嘩は先程から全く収まる気配を見せない。それどころか2人とも頭に血が上っているのか、自身の武器に手をかけ今にも引き抜きそうだ。

 

・・・流石にそれはまずいだろう。止めなければ。

 

「ちょっと、止めてきますね。」

 

「え?あっ、ちょっとペテル!!」

 

エドストレームが止めるのも聞かず、喧嘩する2人の方に近付いていく。こちらに気づいた2人は、武器に手をかけながら敵意を向けてくる。

 

「なんだぁ!?関係ねぇやつはすっこんでろ!!」

 

「・・・お二人共、ここで武器を抜くのはまずいんじゃないんですか?こちらも冒険者登録出来なくて困っているので、そろそろ喧嘩をやめて欲しいのですが。」

 

「お前さんが冒険者登録ぅ?はっ、やめとけやめとけ!!お前じゃ無理だよ!」

 

「少なくとも、貴方よりはできる自信がありますけどね?」

 

「アァ?!んだとゴラァ!!」

 

 

激昂した(カッパー)の男がレイピアを抜き、顔を狙って刺突を繰り出す。その攻撃はこちらの予想よりも遥かに速く、正確だった。なるほど、確かに実力はあるようだ。

 

「〈即応反射〉 〈流水加速〉 〈剛撃〉」

 

武技によって刺突を躱し、加速しながら相手の横腹を蹴り飛ばす。〈剛撃〉をのせた蹴りの威力は、本職の修行僧(モンク)には及ばないがそこそこの威力を発揮した。男は吹き飛び、周りにいた野次馬たちを巻き込んで倒れる。

 

「っ!!てめぇ!!」

 

金級(ゴールド)の男もショートソードを引き抜きこちらに斬りかかってくる。確かに速い攻撃だが、先程の刺突の方が速かった。

 

・・・金級(ゴールド)よりも銅級(カッパー)の方が攻撃速いってどうなのよ。

 

相手の振り下ろしを後ろに下がってかわすと、切り上げ、突きを流れるように放つ。その動きには無駄が少なく、自信がこもっていた。

 

「まぁそんなに凄くはないけど。」

 

〈回避〉を使い攻撃をかわすと、再び〈流水加速〉と〈剛撃〉を使って顔面を殴り飛ばす。吹き飛んでいった男は、当たりどころが悪かったのか、そのままカウンターにぶつかり気絶する。

 

「イ、イグヴァルジ!!」

 

仲間らしき奴らが、金級(ゴールド)の男に近付いていく。え?あれイグヴァルジさんだったんだ。よくよく見ていると、黒髪に目つきの悪い目など、アニメで見たことあるようなないような見た目をしていた。

 

まぁ、気を取り直してとっとと登録済ませますか。ポカンとしている受付嬢に近付いて、話しかける。

 

「すみません、冒険者登録したいのですが。」

 

「え?は、ひゃい!!お1人でしょうか!!」

 

「いえ、向こうの2人も・・・って、何してんですか、2人とも。」

 

「・・・あいつって、いつもこんな感じなのか?」

 

「いや、あんなことするなんて思わなかったわ、私も・・・。」

 

顔を引きつらせながら近寄ってきた2人も含めて、冒険者登録を済ませる。

 

「で、では、プレートのお渡しは明日となります。後、駆け出しの方にはこちらの宿をおすすめしております。」

 

「はい、それでは失礼します。ありがとうございました。」

 

受付嬢に礼を言いながら組合を出ていく。そのまま真っ直ぐオススメされた宿に向かっていく。その後は必要なものを買わなければならない。とっとと荷物置きたいし。

 

 

「なぁ、金級(ゴールド)の先輩をぶん殴ったのはまずかったんじゃねぇのか?なんかやり返されるかもしれないぞ?」

 

「まぁ、そうかも知れませんけど。むしろ周りの方々には良いアピールが出来たと思いますし、いいんじゃないんですか?」

 

「アピール?」

 

「・・・あぁ、なるほど。格上相手に立ち向かって、一撃で気絶させるほど強い新人って思わせたわけね。」

 

「そういう事です。落ち着いてやったらどっちが勝つかは分かりませんけどね。向こうがこっちを舐めてたから不意をつけた訳ですし。

 

とりあえず、宿に荷物置いたら買い出しに行きましょう。エドストレームの消耗品やルクルットの予備武器を買っておかないと。」

 

 

「おーう」

「はいはーい」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「それじゃ、お願いしますね。」

 

「うむ、任されたのである!」

 

 

トテトテと去っていく受付嬢の背中を眺めながら、ダインは小さくため息をついた。

何故、自分がこの男を介抱しなければならないのか、と。

 

 

ペテル達が出ていった後、その場でポカンとしていたダインは、受付嬢から銅級(カッパー)の男を介抱してやってくれないか、と頼まれたのだ。

 

受付嬢がダインに頼んだ理由は、主に2つあり、1つは彼の人柄を知っていた為だ。冒険者の中でかなり温厚な性格をしており、礼儀正しく責任感も強い。その上、鉄級(アイアン)ながら回復魔法を行使することが出来る、まさにこの場にうってつけの人物だ。

 

 

2つ目の理由は、これをきっかけにダインと男がチームを組んでくれないか、と組合が考えたためだ。

 

未だダインが鉄級で燻っているのは、全くもって仲間に恵まれず、依頼をこなせないという理由がある。森司祭(ドルイド)であるダインは、必然的に身体能力は戦士に比べて劣る。その為、魔法の大切さを知らない馬鹿たちは、彼の事を見下し、チームに加えようとしないのだ。

 

しかし、この気絶している男、実は登録初日に

「チームを組んでいない魔法詠唱者(マジック・キャスター)はいないのか」

という質問を受付嬢にしていたのだ。その時は信用が足りなかったため、組合側は保留していたのだが、これを機に2人がチームを組んでくれれば、より上位に進んでくれるのでは、と考えたのだ。

 

 

・・・実際のところ、問題児(このおとこ)しっかり者(ダイン)に押し付けているだけである。

 

 

そんなことは露とも知らず、手際良く手当をしていくダイン。回復魔法は使わず、彼のお手製の薬草をすり込んだ包帯をペテルに蹴られたところに巻いていく。

 

 

 

「・・・んぁ?」

 

「気が付いたであるか。気分はどうであるか?」

 

 

男が目を覚まし、ホッと息をつくダイン。男はしばらく虚空をじっと見ていたが、近くにいたダインを見て怪訝そうな目を向ける。

 

 

「・・・だれだ、おっさん?」

 

 

またおっさん・・・などと思いながら、ダインは自己紹介と、組合から頼まれて手当てをしていた旨を伝える。すると、男は起き上がり、彼に向かって頭を下げる。

 

「すまない、恩に着る。」

 

「いやいや、組合から頼まれてやっただけで、感謝されるほどのことではないのである。」

 

「それでもだ。見ず知らずの俺を手当してくれたんだろう?なら、せめて礼だけでも言わせてくれ。」

 

 

ダインは内心、男の評価を改めた。無謀にも格上相手に喧嘩をする問題児かと思ったが、相手に対し礼を言える、冒険者にはあまり居ない人物だ、と。

 

ふと、男は手当された部分を見て、鼻を動かしながら呟く。

 

 

「・・・これ、薬草か?」

 

「分かるであるか。これは薬草をすり込んだ包帯である。効果は薄いが、ないよりはマシであろう。」

 

「薬草を扱えるってことは・・・野伏(レンジャー)には見えねぇし、まさか森司祭(ドルイド)か?」

 

「その通りである!・・・まぁ、どこのチームにも入れてもらえない落ちこぼれであるがな。」

 

 

どこのチームにも入れてもらえない、と言った瞬間、男は目を見開き、次いで笑顔でダインの肩をガシッと掴む。

 

 

「なら、俺とチーム組まないか?!」

 

「貴方と・・・であるか?」

 

「ああ!流石に上位冒険者程じゃないが、あのいけ好かない金級(ゴールド)の野郎ぐらいの実力はあるつもりだ!回復や支援をこなせる森司祭(ドルイド)のあんたがいれば、すぐにでも上位を目指せる!どうだ!?」

 

 

男の勢いにダインは面を食らうが、自分をこんなに評価してくれる人物に初めてあった彼は、照れくさそうな表情を浮かべながら答えた。

 

 

「・・・こちらこそ、よろしく頼むのである。」

 

「よっしゃ!帝国からこっちに来たから、誰も頼れなかったんだ、助かるぜ!」

 

「帝国から、わざわざエ・ランテルに?」

 

「いや、家業を継ぎたくなかったってのもあるが、向こうは冒険者の地位が低いからな。

よし!とっとと出かけようぜ。」

 

 

突然立ち上がり、そのまま入口の方まで歩いていく男を見て、慌てて追いかけるダイン。

 

 

「ま、待って欲しいのである!どこに行くつもりであるか!?」

 

「決まってんだろ、次の仲間だよ!俺をぶん殴ったアイツをチームに入れるんだ!」

 

「ペテル氏達のことであるか?彼は既にチームを組んでいるのである!」

 

「ん?でも、まだ登録してなかっただろ?どんなチームだよ?」

 

「戦士のペテル氏、盗賊のエドストレーム女史、野伏のルクルット氏である。」

 

「なら、3人まとめてチームに入れりゃいいだろ。そのメンツなら、俺らが入った方がバランスが良くなるしな。」

 

 

そう答えると、男は唐突に立ち止まり、振り返る。

 

「・・・そういや、名前聞いてなかったな。あんた、名前は?」

 

「・・・ダイン・ウッドワンダーである。」

 

 

なるほど、と言いながら、こちらを振り向いていたその赤い髪の美しい男は薄く笑った。腰に下げたレイピアに手にかけながら、彼は自分の名前を口にした。

 

 

 

 

「俺はマルムヴィスト。よろしく頼むぜ、

ダイン。」

 

 

 

 

 

 


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