あと、パルパトラおじいちゃんがかっこよかったです。
まだ日が昇り始めたばかりの頃、俺は目を覚まし、借りている部屋の質素なベットから身を起こす。周りを見ると、ダインは既に準備をしていたが、ルクルットとマルムヴィストや他の冒険者達はイビキをかいて寝ていた。
ちなみに、エドストレームは別室だ。女性冒険者だけの部屋があったので入れてもらった。
俺が起きた事に気づくと、ダインは申し訳なさそうに笑いながら、こちらに小声で話しかける。
「すまない、起こしてしまったであるか?」
「いえ、もう起きるつもりでしたので。それにしても、ダインは早起きですね。」
「ハハハ、今までは仲間のいない、ダメ冒険者だったであるからな。早起きしないと仕事が取れなかったので、その習慣が身にしみているだけであるよ。」
「そうなんですか。でも、これからは私たちは仲間なんですから、遠慮なく頼ってくださいね?私も頼りにしていますから。」
俺がそういうと、ダインは嬉しそうにうなづいた。仲間がいる、という事実が嬉しいのだろう。
あ、そうそう、俺たち3人に、昨日新たにダインと、先日の喧嘩の男ことマルムヴィストが仲間になった。ぶっちゃけ嬉しすぎる誤算である。いつかダインはチームに加えようと思っていたが、こんなに早く加入してくれるとは思ってなかった。
そんなこんなで、俺はダインと談笑をしつつ準備を終える。ちょうどその頃、ルクルットとマルムヴィストが目を覚ましたので、準備するように促す。
マルムヴィストは寝ぼけながらも手早く準備を終えたが、ルクルットは少しもたついていた。それを見かねたダインが手伝い、他の冒険者が起きるより早く、俺達は準備を終えた。
そのまま静かに部屋を出て、一階に下りると、既に起きて部屋の掃除をしていた宿の親父がこちらに気づく。
「おう、おはようさん。随分と早いな。ま、ダインはいつもの事だがな。」
「おはようございます、親父さん。新人ですからね。頑張って仕事貰わないと。」
「冗談はよせよ。そこの
なんなら、俺ともやるかい?と、獰猛な笑みを浮かべる親父さん。・・・こっわいわぁ。この人、元白金冒険者らしいから、勝負することになったら魔法使わないと厳しいかも。
そんな話をしていると、店のドアが開き、外からエドストレームが入ってきた。そんな彼女にルクルットは疑問を浮かべる。
「あれ?なんでエドストレームが外から入ってきたんだ?」
「ん?んー・・・訓練?」
「はぁ?こんな朝っぱらからかよ?」
「うん。寝てる人達が起きないように屋根の上を飛び回るって感じ。」
そんな彼女の言葉に、ルクルットとマルムヴィストは呆れていた。ダインも苦笑していたが、訓練することは大切である、と言っていた。優しい男だ。
「ってゆーか全員起きてるなら都合がいいや。今から組合いこ。」
「ええ、私達もそのつもりでしたよ。早く行かないと割のいい依頼はなくなりますからね。」
「いやいや、そーじゃなくて」
ブンブンと腕を振って俺の言ったことを否定した彼女は、勝ち誇ったような表情で口を開いた。
「名指しの依頼、取ってきたよ?」
彼女からは、さぁ褒めろ、といわんばかりのオーラが漂っていた・・・。
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「ペテル様、エドストレーム様、ルクルット様、ダイン様、マルムヴィスト様ですね。
はい、確かにご指名の依頼が来てますよ。」
組合に確認したところ、事実だった為即座に受理し、現在依頼主の自宅まで向かっている。報酬もこちらが5人ということを考えても
依頼主は【ルーメイ防具店】。エ・ランテルでは主に中級冒険者に向けた防具を販売している、そこそこ人気の店だ。
何故そんなところの依頼を受けれたのか、と聞いてみると
「朝の訓練の時に、鎧の下敷きになってる人がいたからさ。助けて話を聞くと引越しの準備だって言うから、なら依頼ちょーだいっていったのさ。」
と言っていた。なんでも下敷きになってたのは旦那さんらしく、子供も娘一人で男手がなかったらしい。それでは引越しができないので、急遽エドストレームに依頼した、ということだ。
そんな話を聞きながら歩いていると、こちらに向かって手を振っている夫婦が見えた。エドストレームが振り返しているので、あれが今回の依頼人だろう。
俺は夫婦に近づいて、挨拶をする。第一印象は大事だ。
「はじめまして、今回依頼をいただきました、チームリーダーのペテル・モークと申します。後ろにいるのが、メンバーのルクルット、エドストレーム、ダイン、マルムヴィストです。」
「ああ、こりゃどうも丁寧に。私が今回依頼させていただいた、ルーメイ・イヨロです。こちらが、妻のカチューです。」
「それで、今回は引越しの手伝いだとお伺いしておりますが・・・。」
「はい。家財と、倉庫の防具を運んで欲しくて・・・。」
イヨロさんが言うには、家財はそこまでないが、防具がとにかく多いとのこと。荷車はあるが、何往復かしなければならないとのこと。
「私と妻もなるべく手伝いますが、お役に立てるかは・・・。」
「いえいえ、御二方は休んでいてください。私達だけで済ませますから。」
ギョッとしている夫婦をよそに、俺は荷車に向かってこの数年で覚えた魔法を使う。
「《
すると、荷車が淡い光に包まれ、耐久力が上昇する。俺の行為に、エドストレーム以外の人が驚いていた。
「はぁ!?魔法!?」
「ペテル氏は、魔法まで使いこなすのであるか!?」
「あんだけ強くて魔法まで・・・おもしれぇ!!」
「凄い!貴方、本物の魔法よ!」
「《
そんな感じで驚く面々を引き連れ、倉庫の中に入る。そこに山積みになっている防具の入った箱に、《
「私が魔法をかけた箱を、どんどん荷車に積んでいってください。かなりの量を運べると思いますので、結構早く終わると思いますよ?」
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「ハッハッハッハッハ!!!!さいっこうだぜあんた!!気に入ったよ!!」
バシバシと背中を叩くイヨロさんに苦笑しながら、目の前に置かれたシチューを口に運ぶ。野菜がふんだんに使われたそれは、優しい味わいが体に染みて、失った活力が戻ってくるかのようだった。
ちなみに、イヨロさんのキャラがさっきまでと違うのは、これが素だからだ。先程までのが接客用らしい。ついでに、酒を飲んでいるのが原因でもある。
「いやー、今日中に終わるか心配してたんだが、まさか昼前に終わるとはな!!あんた、どこであんな魔法を覚えたんだ?」
「本を読んで、後は独学ですね。」
「かぁーー!!独学!!才能に溢れてるねぇ!!」
ガッハッハッ、と笑うイヨロさんを見て、俺達は苦笑を浮かべることしか出来なかった。そんな夫を見て、妻は申し訳なさそうに言う。
「ごめんなさいね、この人、普段は大人しいんだけど、お酒を飲むと・・・。」
「あぁ、いえいえ、平気ですので。」
「・・・おっ!!そうだ、ペテル!!お前、好きな色はなんだ!?」
「好きな色ですか?・・・黒、ですかね?」
頭に漆黒の剣のことを思い浮かべながらそう答えると、「ちょっと待ってろ」といってイヨロは俺達が運んだ箱の中を漁り出す。
数個ほど漁ったところで目的のものが出たのか、それを抱えてこちらに戻ってくる。
「おう、これやるよ。早く終わらせてくれた追加報酬だ。」
そう言って彼が差し出してきたのは、黒塗りのガントレットと胸当てだった。見事な造りのそれは、とても
「こ、こんなの頂けませんよ!!」
「あぁ?だいじょぶだいじょぶ、バックラーならここにはめ込めるようになってるから使えるぜ?」
「いえ、そういうことではなく!!」
「いいから貰っとけっての。ほら、あれだ。先行投資ってやつだよ。お前らは上に登りそうだからな。そいつが俺の防具を使ってたらい〜い宣伝になるだろ?」
だから貰っとけ、と笑いながらイヨロさんは言った。
・・・ここまで言われて貰わない方が失礼か、などと考え、それを受け取る。普通のものよりも重量があるが、動きを阻害しない程度で、耐久力もかなりありそうだった。
「ありがとう、ございます。大切に使わせていただきます。」
俺がそうお礼を言うと、イヨロさんは嬉しそうな表情でうなづいてくれた。
そんななか、沈黙を保っていたルクルットが叫ぶ。
「いいなー!!なぁイヨロさん!俺の分は、俺の分はないの!?」
「バーカ!お前らの分は金稼いで買えや!!あ、エドストレームちゃんはこの
「わー、ありがとイヨロさん。」
「ちょっと、ズルくない!?2人だけずるくない!?なぁ、お前ら!!」
「いや、別に?」
「依頼をとってきたのはエドストレーム女史で、今回最も活躍したのはペテル氏である。ならば、この報酬も妥当である!」
2人からの追い打ちに、「なんでだよー!」と叫ぶルクルット。そんな笑いに包まれながら、俺たちの昼食会は過ぎていった・・・。
「えっ!?もう終わらせたんですか!?」
報告の時、受付嬢は信じられないような目で俺たちを見ていたことは余談だ。
オーバーロードのスマホゲーには、ペテル達って出てくれるんですかね。出てくれたらリセマラしまくります。あと六腕も揃えます。