ペテル・モークに憑依転生!   作:ハチミツりんご

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決着、森林戦

 

 

 

「ガァっ!!!!」

 

「っ!!フッ!!」

 

 

 

妖巨人の剛腕をペテルが斜めに構えた斧槍で流し、柄の先端を腹に打ち込む。しかし、亜人種特有の分厚い皮膚に加え、でっぷりとした腹によって衝撃は吸収されてしまい大したダメージにはならない。それすらも再生能力によって即座に回復されるのだから、堪ったものでは無い。

 

 

 

「〈即応反射〉〈流水加速〉〈剛撃〉!!」

 

 

 

さらにペテルを押しつぶさんがために追撃を仕掛ける妖巨人。ペテルは武技を三つ同時に発動させ、不安定な体勢から紙一重で攻撃を回避、その場で加速しながら一回転、勢いをつけたソバットを妖巨人の腹に叩き込み、相手を押すと共に自身は後方に下がって距離をとる。

 

 

 

 

「………フゥゥゥーッ……….!!」

 

 

 

一旦距離を取れたペテルは大きく息を吐き、戦況を見渡す。

 

どれくらいの時がたったのだろうか。かなり長時間攻防していた気もするが、まだ数分も経っていないかもしれない。陽も差し込みにくいこの森の中では、全く以って時間の感覚は意味をなさないし、時計などは高価であるため駆け出しの彼が持っているはずもない。

 

 

 

ペテルと妖巨人との戦闘は、傍から見たら彼が一方的に攻撃を当て、妖巨人を翻弄しているようにも見える。しかし、実際は魔法と武技によって身体能力を底上げしているペテルがどれだけ攻撃を加えても妖巨人の再生能力を上回る事が出来ない状態。追い詰めているように見えて、追い詰められているのは彼なのだ。

 

 

 

 

「……グッ!?」

 

「マルムヴィスト!!《軽傷治癒(ライト・ヒーリング)》ッ!!」

 

「オラッ!下がれクソオーガ!!」

 

 

 

大鬼の指揮官(オーガコマンダー)と戦っている3人の方は、何とか五分に持ち込めている雰囲気だ。だが、次第にマルムヴィストの攻撃に慣れ始めたのか、オーガが手傷を負うよりもマルムヴィストが徐々に攻撃を受け始めている。即座にルクルットが矢でフォローし、ダインの魔法が飛ぶ故に持ちこたえてはいるが、そのどちらかが尽きれば戦況は確実に傾く。

 

 

 

「待ってロ、アニキ!!すグに行ク!!」

 

 

そして何よりも不味いのは、3つ目の戦闘―――ペテルの召喚した天使と、魔法詠唱者の戦いの方だ。既に2体のうち一体が消滅し、残った方も満身創痍。そう遠くないうちにそちらも消滅してしまうだろう。

 

 

 

「くっ……《軽傷治癒(ライト・ヒーリング)》!!」

 

 

 

―――いや、本来なら既に消滅してもおかしくは無い。天使がギリギリ残っているのは、ダインがマルムヴィストの回復と並行して天使に回復魔法を掛けているからだ。

 

しかし、ダインの魔力量はそう多くは無い。

 

彼自身も気がついていないことなのだが、ダインは森司祭としての職業(クラス)を持っている。しかし、それ以外にも彼は戦士職である『重戦士(ヘビーファイター)』を取得している。なので同レベルの純粋な森司祭に対して幾分が魔力量が少ないのだ。

 

 

 

勿論、その差は僅かなもの。僅かなものだが、この極限の状況ではその差が響く。通常よりも魔力切れが早く近づいてきたダインは、倦怠感に包まれる体を無理やり奮い立たせて味方のサポートをしているのだが、それもあと少しで尽きる。

 

 

 

 

「ダイン!大丈夫ですか!?」

 

「も、問題無い!!私のことは気にしなくていいのである!!」

 

 

 

ペテルが声を掛けると、ダインは彼に向けてドンッ!と強く胸を叩いて健在をアピールする。本来なら限界近い彼だが、強大な敵を一人で相手するペテルに心配をかけまいと振舞った。

 

 

 

 

「くそっ、もう矢が……!!」

 

 

 

しかし限界なのは彼だけでは無い。マルムヴィストの手助けの為に先程から連続で矢を射掛け続けているルクルットの矢筒には、既に数える程しか矢が入っていなかった。

さらに、彼自身の指先も小刻みに震え、感覚も曖昧になって来ている。集中のしすぎで意識も少しモヤが掛かったようになってきており、どうにか保っている状態で戦い続けている。

 

 

 

さらにもう1人、コマンダーと切り結んでいるマルムヴィストにも色濃く疲労が出ており、荒い呼吸で息を整えている。初撃の後、ダインが再び使用した《植物の絡みつき(トワイン・プラント)》との連携攻撃によって下にいた『森の狼(フォレスト・ウルフ)』の息の根は止めたものの、肝心のコマンダーの方には大したダメージを与えられていない。

 

 

 

 

「(強化魔法もそろそろ切れるし、状況は正直最悪だな………まだか、エド……!!)」

 

 

 

唯一ここにいない、先に逃げさせた仲間のことを思う。彼女が後続の上位冒険者を連れてきてくれれば―――具体的には、炎、もしくは酸属性の魔法が使える魔法詠唱者を連れてきてくれれば勝ち目も見えてくる。

 

が、現状ではやはり勝ち目が見えない。余力があるうちにどうにかオーガの片方だけでも始末しておけばよかったかとも思うが、後の祭りだ。

 

 

 

「おいペテル!!」

 

 

 

そんな時、コマンダーから飛び退いて大きく距離をとったマルムヴィストがペテルに声をかける。

 

 

 

「お前の強化魔法、あとどれくらい持つ!?」

 

「《闇視(ダーク・ヴィジョン)》なら大丈夫だがそれ以外はもうすぐ切れる!!具体的には、あと一、二回切り結ぶのが限界だ!!」

 

 

 

腕力に限って上昇させる《熊の剛力(マッスルベアー)》、脚力を強化し回避率を上げる《獣の健脚(ガゼルフット)》、武技の〈外皮強化〉には劣るが、皮膚を硬化させる《甲虫の外皮(ビートルスキン)》。これらの効果はそろそろ切れてしまう。これら込みでギリギリだったことを考えると、正直勝てなくなるだろう。

 

それを聞いたマルムヴィストはやっぱりか、と1人呟いて大きく息を吐く。そしてレイピアを構えると、バックステップで後ろのルクルット、ダインに近寄り、耳打ちする。

 

 

 

 

「……はあ!?正気かお前!?」

 

「マジだよ、そうしねぇとジリ貧だろうが。頼むぜダイン」

 

「っ、しかしペテルに伝える暇は無いである!バレれば向こうだって対応してくるに……!!」

 

 

マルムヴィストの策を聞き、目を見開く2人。この場にいる3人は作戦を共有出来るが、離れた位置にいる自分たちのリーダーはそれを聞くことは出来ない。なにか策を練っていることは向こうからでも分かっているようだが、彼の作戦は瞬間的なタイミングが要求される。特にマルムヴィスト自身と、ペテルは重要な役割を担わなければならず、失敗すればほぼほぼ死に直結する。

 

 

 

「アイツが察してくれるのを祈るしかねぇよ。いざとなれば俺が突っ込んだ後、バレるの覚悟でルクルットから伝えてくれ。………やるしかねぇんだよ!」

 

「あぁっクソ!!やるよ、やってやる!!!死ぬなよお前!!」

 

「ハッ、こんなとこで俺が死ぬかよ!!!」

 

 

 

ルクルットが破れかぶれといった様子で承諾すると、残り少ない矢を一気に5本、弓につがえる。それを発射すると同時に、マルムヴィストは懐からエドストレームに投げ渡された暗器―――投げナイフ数本を取り出して左手で一気に投げ、それと同時に踏み込む。

 

 

「〈速度向上〉………」

 

「っ!」

 

 

武技によってスピードを上げながら走るマルムヴィスト。コマンダーはそれを視認し、飛んでくる矢と投げナイフをその鍛えられた腕によって打ち落としていく。

 

そして、近寄ってきた彼の攻撃を甘んじて受け入れ、拘束してから潰してやろう、と両手を広げた―――その時。

 

 

 

 

「______〈即時転換〉ッ!!!」

 

 

 

マルムヴィストはそのままのスピードで、彼の目の前で進路を直角に曲げる。

 

 

〈即時転換〉。あまり知られていない武技だが、移動系の武技で、スピードを落とさずに任意の向きに90度方向を曲げることが出来る。ただし使い所が限られる上に使用者が少なく、見掛けることの無いその武技。

 

しかしこの場において、マルムヴィストの作戦においては必要不可欠な切り札だった。コマンダーの意表を突き、方向転換して向かう先―――それは、天使を処理しようと杖を構える魔法詠唱者の方だ。

 

 

 

「《植物の絡みつき(トワイン・プラント)》ォッ!!!」

 

「っ!!?クソっ、《衝撃波(ショック・ウェーブ)》!!」

 

 

 

さらにダインが魔力をかき集めて魔法詠唱者の足元に植物による罠を発動。足を取られ、動けなくなった魔法詠唱者は衝撃をぶつける第二位階魔法を発動し、ダメージを与えつつ吹き飛ばしてやろうと画作した。

 

 

 

 

「____________守れ、天使(エンジェル)!!」

 

 

 

が、それを阻むもの。マルムヴィストの作戦を、魔法詠唱者の方を始末するその意図を察したペテルが召喚した天使に命令を下したことで、身を呈して衝撃波からマルムヴィストを守る。まともに受けたことで天使は限界を迎え、光とともに消滅してしまうが、ここまで来ればもはや関係ない。

 

 

 

 

「〈急所感知〉______〈突穿撃〉!!!」

 

 

 

精神力をギリギリまで使い、敵の急所を探る武技、そして〈穿撃〉の上位版である一撃を使用。

 

 

 

ギリギリで放たれた一撃は、疲労困憊のマルムヴィストから放たれたとは思わざるほどの一撃。正確に魔法詠唱者の急所―――喉を、貫いた。

 

 

 

「………ゴッ……!?」

 

「終わりだ………死ねやクソオーガぁ!!!」

 

 

 

苦悶の表情を浮かべる魔法詠唱者のオーガに向けて吐き捨てながら横に振り抜く。喉元の半分近くを切り裂かれたオーガは、鮮血を噴き上げながらその濁った瞳から光を失っていく。

 

 

 

 

 

「ギザマァ!!!!トロールゥ!!!『そいツを殺セェ!!!』」

 

 

 

弟を殺された怒りで、兄であるコマンダーがスキルを使用しながら妖巨人に命令を下す。淡い不思議な光に包まれながらその速度を上げた妖巨人は、その巨大な体躯を活かして一挙にマルムヴィストとの距離を詰めると、その剛腕を振り上げる。攻撃によって体勢を崩したマルムヴィストに、避ける術は無かった。

 

 

 

 

「………ほんっと、頼むぜ………!!!」

 

 

そう呟いた彼に妖巨人の拳が叩き込まれる。肉がへしゃげ、骨が砕け、肺に骨が刺さったことによって口から血を吐きながら飛んでいった彼は、少し離れた大木にぶつかってズルズルと倒れ伏した。動く気配は無い。

 

 

 

「マルムヴィストォ!!!」

 

「マダだ!!ドドメを______ッ!?」

 

 

 

ダインの悲痛な叫びが響く。弟を殺された恨みの残ったコマンダーは、さらに命令を下してマルムヴィストにトドメを刺そうとするが、そんな彼に差す影が、1つ。

 

 

 

 

「〈能力向上〉、〈剛撃〉、〈斬撃〉…………!!!!」

 

 

 

 

―――ペテルだ。

 

 

 

マルムヴィストの作戦。それは、隙をついて魔法詠唱者を殺すだけでは無く。それによってマルムヴィスト自身に気を取られるであろうオーガは妖巨人に司令を下しマルムヴィストを狙う、と予想したのだ。

 

仮にそうでなくても、魔法詠唱者を殺しきったら妖巨人をマルムヴィストが止めて、ペテルがコマンダーと戦闘に。

 

もし釣れたなら、それによって生まれたスキをついて、チーム内でも最高の火力を持つペテルが強襲をかける、というものだったのだ。

 

 

 

その後の回避を考えず、とにかく火力のみを追求して武技を発動。この一撃で確実に仕留める為に、両手で愛用している斧槍を振りかぶる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

振りかぶった瞬間、ペテルに違和感が発生する。力が抜けるような、虚脱感というか―――いや、正しくは『元に戻った』のだろう。

 

 

 

 

「(切れた…!!このタイミングで、補助魔法が!!!)」

 

 

 

そう、この瞬間に掛けていた補助魔法が時間を迎えて解除。腕力向上効果のある、《熊の剛力(マッスルベアー)》の効果が無くなってしまったのだ。

 

 

だが関係無い。ここまできて攻撃しないのは愚策。こうなったら力の限り振り下ろして、補助魔法無しで殺し切るしかない。

 

 

 

 

 

「____________[兜割り]っ!!!!」

 

 

 

斧槍闘士の攻撃スキルを同時発動。文字通り、ペテルの持ちうる全身全霊必殺の一撃。

 

もちろんコマンダーの方も攻撃を躱そうと全ての力を避けることにのみ集中。僅かな時間に数多の攻防。そして、ペテルの渾身の一撃は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――見事、コマンダーの肩から腹の辺りまでを深々と抉り斬った。

 

 

 

 

会心の手応え。確実に生命を絶った。殺し切った。ペテルはそう確信を持った。

 

 

 

そんな彼の腹部に、突如として焼けるような痛みが走る。

 

 

ゆっくり、ゆっくりそちらに視線をやれば、彼の腹部から何かが生えている。

 

 

 

よくよく見れば、それは剣だった。コマンダーが振り回していた直剣、それが、彼の母と友人が作ってくれた革鎧の僅かな解れを押し広げるようにして、突き刺さっていた。

 

 

 

 

「………っ、かハッ……!?」

 

「お、オレ、は、じな、じなねぇ……!!」

 

「ペテル!!!おおおおおおっ!!!」

 

「っらァァァァァァァ!!!!」

 

 

 

込み上げてきた赤黒い血を口から吐き出すペテル。最後まで生きようと足掻いたオーガだったが、ダインがメイスで彼の膝を強打。ひしゃげ、体勢の崩れたオーガの首に予備武器のショートソードを抜いたルクルットが斬りかかり、僅かに残っていた『大鬼の指揮官(オーガコマンダー)』の生命の灯火を消し去った。

 

 

 

「おいペテル!!しっかりしろ!!」

 

「っ…ぐっ、ま、まだ、大丈夫……!!」

 

「待っていろ、今回復魔法を掛け―――」

 

 

 

斧槍を杖にして体勢を保つペテルに、ダインが回復魔法を使おうと魔力を手に込める。まだギリギリだが、第一位階なら2回は使える。それでペテルとマルムヴィストを回復させようと考えた時、ダインは大きく吹き飛んだ。

 

 

 

 

「ゴッはァ……!?」

 

「っ!しまっ、ダイン!!!」

 

 

 

吹き飛んでいったダインはゴムまりのように何度か跳ねてから動きを止める。ぴくぴくと動いてはいるので生きてはいるようだが、動けるほどの余力はないようだ。

 

 

 

当然、ダインを殴りつけたのはマルムヴィストに攻撃した妖巨人。自分の主を殺された怒りで―――ではなく。ただ単に、命令してくるウザイのが死んでスッキリした。ちょうどよく餌もあるし、腹を満たしてどこかへ行こうと考えているだけ。ダインを殴り飛ばしたのも、逃げられないように痛め付けるのと、後は気まぐれだ。

 

 

 

動けないペテルは、腹の直剣を抜こうにもこの大きな剣を抜けば確実に失血死してしまう故に何も出来ない。唯一傷のないルクルットは、震える手でショートソードを構えながらペテルを庇うように妖巨人の前に立つ。

 

 

 

 

「ルクルット、何を…!辞めろ、勝てる相手じゃ、無い……!!」

 

 

 

ペテルが無謀なルクルットを止めようと必死に声を絞り出す。

 

 

妖巨人のレベルは13。ルクルットは森に入った時から一つ上がってレベル8。しかもルクルットの職業は『野伏(レンジャー)』と『弓兵(アーチャー)』の2種のみであり、剣の扱いに関してはそこいらの【銅級(カッパー)】とそう大きく変わらない。

 

魔法職もあるとはいえ、同じくレベル13で補助魔法も使ったペテルで防戦一方になった相手だ。ルクルットでは勝ち目なんて皆無だった。

 

 

 

 

「うるせぇ!!!お、俺だってやってやる!!傷だらけの仲間を護って、トロールをぶっ倒すなんて、も、もも物語の序章には持って来いってもんだ!!」

 

 

「そんなこと言ってる場合じゃない!!逃げろ!俺が少しでも足止めすれば、お前の足なら森の外まで―――」

 

 

「嫌だ!!!」

 

 

 

ペテルの言葉を聞いてもルクルットは動かない。目の前でヨダレをダラダラと垂れ流す妖巨人を見据えながらも、彼は震える身体とは反対にその目には強い意志を宿していた。

 

 

 

「ペテル達があんなに頑張ったのに、俺だけ逃げるなんて出来ねぇだろ!!そりゃ付き合いはまだ短いけど、俺だってお前の仲間なんだ!!!」

 

 

 

 

 

少し、昔の話。

 

 

 

 

ルクルットは英雄に憧れた。祖父と2人で暮らしていた彼は、幼い頃から祖父の手ほどきを受けて野伏としても才覚をメキメキと伸ばしていた。

 

そんな中、昔冒険者だったという祖父の私物の中から一冊の本を見つけた。読み書きもある程度習っていたルクルットは問題なくそれを読むことが出来、彼は英雄というものを知った。

 

 

人と人が手を取り合って強大な敵に立ち向かい、ドラゴンなどの強大な種族を討ち倒す、どこにでもある単純な話。しかし幼いルクルットの心にはそれが楔のように根付いた。

 

 

それから彼は冒険者に憧れた。目標である祖父の職であり、物語の英雄になるには最も近道に思えたから。

 

 

 

 

しかしまぁ、当然ながら祖父は猛反対。かつて冒険者だった彼は、当たり前だがその危険性を十分に理解していた。冒険者になるなんて抜かすなら村から出さないとまで言われ、この村で村の野伏としてみんなと生きていけばいい、と祖父から告げられた時は本気の喧嘩もした。

 

それからは祖父の言いつけを破って彼の手記を読んで学んだり、野伏としてだけでなく弓兵としての訓練もこっそり続けていた。

 

 

 

村でも最も信頼されていた祖父に反抗している、そんなルクルットは村でも一番の変わり者として扱われ、次第に村人達との溝も深まっていった。

そしてしばらくして、祖父が急死。狩りに出ていた時に、持病が悪化した祖父は偶然トブの大森林から移り住んでいたトブ・ベアにそのまま殺されたのだ。

 

 

唯一の肉親だった祖父が死に、悲しみにくれるルクルットは祖父の部屋で遺品を整理しているとき、机に丁寧に磨かれ、糸の張られたた合成長弓が置いてあるのに気がついた。昔、祖父が冒険者だった頃に使っていたと話してくれたものだった。

 

良く確認してみれば、糸の張り方が微妙に異なっていた。自分よりも小柄だった祖父に合うようにではなく、長身の自分に合うように微調整が施されていた。近くを漁れば、旅に出るために必要なローブやナイフ、バッグ等まで用意されていた。

 

 

なんてことは無い。結局祖父は、ルクルットが冒険者になる時に必要なものを纏めていてくれたのだ。それを理解したルクルットは泣いた。祖父の不器用な優しさに、そしてその感謝を告げる相手がこの世にいないことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

だからこそ、ルクルットはもう失いたくない。

 

 

 

 

祖父以外誰も応援してくれなかった道を、勧誘目的であったとはいえ見ず知らずの自分を助けチームに誘ってくれた相手を。

 

ここに至るまでに、祖父の手記でしか知らなかった冒険者の知識を教え、補完してくれた相手を。

 

 

 

 

 

「コイツらは死なせねぇ!!!かかってこいやァ!!!!」

 

 

 

友を守る為、叫ぶルクルット。震えるその背だったが、ペテルには十分彼が英雄に思える程、立派なものだった。

 

 

 

 

しかし、現実は甘くは無く、残酷で。

 

 

その叫び声を皮切りに、妖巨人は待ちきれないと言わんばかりの勢いで、目の前の餌に向けて拳を振り上げて―――

 

 

 

 

 

 

「《酸の弓(アシッドアロー)》!!」

 

 

「ギャガァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!?!!?」

 

 

「………へ?」

 

 

 

唐突にもがき、苦しみ始めた。よくよく見れば、妖巨人の後頭部の辺りからプスプスと煙が上がっている。当然の痛みに暴れる妖巨人だったが、その足元に素早く動く影が一つあった。その影は器用に剣で妖巨人の足を切り裂き体勢を崩すと、ロープで足元を拘束し、すっ転ばせた。

 

 

 

 

 

 

「な、何だこれ!?お、俺の眠れるルクルットパワーが暴走を!?」

 

「なーに言ってんだカッパーの癖して。生意気叩けるってこたァてめーは平気だな」

 

 

 

狼狽えるルクルットの目の前に現れた影の正体―――腰にショートソードを差した、黒髪で目つきの悪い男はペテルに近づくとしゃがみこんで傷を確認する。

 

 

 

 

「おーおーおー、こりゃ深く刺さってんなぁ。まっ、生意気なクソガキにゃお似合いだな。生きてっか?」

 

「……え、えぇ。大丈夫です……」

 

「んならポーションは要らねぇな。あと2人は………ダインもだが、赤髪のクソガキのがやべぇな。ったく、てめぇらこのポーション代はきっちり請求するからな?」

 

 

 

そう言って男が立ち上がる。妖巨人は彼の背後に現れた3人組が手際良く攻撃していき、再生能力を発動させずに討伐していく。妖巨人の断末魔が響く中、ペテルは見覚えのある人影を見つける。

 

 

 

 

「ペテル!!!」

 

「エド!………っぐぇ!」

 

「良かったぁ………生きてた、生きてたァ………間に合ったァ…………!!」

 

「エド、エド……死ぬ、私死にますから………」

 

 

 

抱きついてきたのは、先に送り出した銀髪に褐色肌の少女。ペテルと一番付き合いの長い、エドストレーム。全速力で森を駆け抜けた彼女は、ペテル達との約束通り助けを呼んで戻ってきたのだ。

 

 

 

「ケッ、そのガキが必死の形相だったんだ。間に合ったのも、フォレストストーカーであるこの俺がいたからこそ!!感謝しろよクソガキ」

 

 

 

目の前でお熱い光景を見せられて面白くなさそうな顔をするその男。胸に輝く金色のプレートを見せながら、かつて()()()()()()()()()クソガキことペテルに向けてそう言った。

 

 

 

 

 

「………はい、本当に、助かりました」

 

 

「礼は良いからポーション代とか返せよ。アレ、バレアレ商店のやつだかんな?」

 

 

「了解しました。何時になるかわかりませんが、キッチリお返ししますよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________イグヴァルジさん」

 

 

 

 

目の前に立つ男。エ・ランテル所属の金級冒険者チーム、クラルグラのリーダーに向けて、そう言った。

 

 

 

 

「おーいイグヴァルジ!!終わったぞー!!」

 

「あん?イヤに早えぇな」

 

「コイツ、かなり体力消耗してたみたいでな。再生も遅かったから余裕だったぜ」

 

「なるほどな…………よし!!ならリオ、向こうに転がってる2人を回復してくれ。んで叩き起してとっとと戻るぞ!!」

 

 

 

イグヴァルジの指示を受け、チームメンバーは手早く動き始める。ダインのものよりも強力な回復魔法によって救われたマルムヴィストとダインも連れて、ペテル達はクラルグラと共に森を脱出する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《銅級冒険者昇格試験》

・参加冒険者→10チーム50名

・生存者→6チーム22名

 

討伐実績(ペテル達の討伐)

 

・ゴブリン68匹(28匹)

・オーガ14匹(7匹)

・大鬼の指揮官1匹(1匹)

・大鬼の術士1匹(1匹)

・妖巨人1匹(0匹)

 

 

 

以上


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