まず、1番手前のやつの頭に直剣を叩きつける。悲鳴をあげたそいつの腹に蹴りを入れ、後ろのやつを巻き込んで転倒させる。左側から新手が来たので、そいつの右手を切り落とす。スキができたそいつの首をはねると、今度は後ろから1匹襲ってくる。後ろを見ずにバク宙をして、空中で顔を切りつける。着地と同時に、そのがら空きの背中に剣を叩きつけ、真っ二つにする。・・・つもりが、半分ほど切ったところで剣が止まってしまう。そのスキをついて、
「
魔法行使と同時に、俺と
「
そう指示を出すと、
「ぐっ!くっそが!!」
切りつけてきたやつを蹴り飛ばし、近くの1匹の胸に直剣を突き刺す。予備の鉈を取り出し、もう1匹を力任せに叩き切る。蹴り飛ばしやつに駆け寄り、全力で鉈を振り下ろし頭を叩き割る。・・・これで残りは
「クソ!ツカエナイヤツラダ!」
「・・・命懸けで戦った手下に大して、随分ないいようだな?」
「ヨワイカラシンダ!!オレハツヨイカライキノコッタ!ソシテオマエモモウジキシヌ!」
「死なねぇよ。死ぬのはお前だ。」
「ナンダトォ!」
だが、傷を負った左腕に力が入らず、いなすどころか体勢を崩しながら剣を手放してしまう。
「しまっ・・・!」
そんな隙をやつが見逃すはずがなく、がら空きの腹に蹴りを受けてしまう。とんでもなく重く、俺は吹き飛ばされ、近くの倉庫の壁に激突する。
「がっ!くっ・・・そ!ちくしょう!」
とんでもない痛みだった。さらに、今の衝撃で左腕の痛いがより大きくなった。これではまともに構えることも出来ない。そのうえ、やつはさびた直剣を捨てて、俺の直剣を拾っている。最悪だ。あちらはより良い武器になった上、こちらにはもう鉈しか残っていない。そのうえ、やつの方が力は上だ。攻撃力が違いすぎる。
死にたくないとは常々思っていた。しかし、それをどこか他人事のように思っていた。こころの何処かで死ぬはずがないと思っていた。ゴブリンなんて俺の成長の糧だ、経験値だとしか思っていなかった。
俺は、今、明確に死の恐怖を感じてしまった。心の底から死にたくないと思ったのだ。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!クソ!クソ!クソォォォォォォォォ!!!!」
「死にたくない!!!死にたくない!!!俺はまだ、死にたくない、死ねないんだ!!!」
「お前なんかに・・・たかだかゴブリンごときに殺されてたまるかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
そうだ。俺はまだ死ねない。ここで俺が殺されれば、村は終わりだ。ただでさえオーガが5匹もいるのだ。ここで死ねば、自警団が全滅するのは時間の問題だ。そうすれば、村はなくなってしまう。隠れているみんなも殺されてしまう。
・・・あの子も、殺されてしまう。
それだけはさせない。絶対、絶対に!!!
「
そうして、直剣と盾持ちの天使を呼び出す。
「
そして、天使から武器を奪い取る。俺が使っていたものよりも、さらに大きい直剣。その分重く、このままでは振り回すことも出来ないだろう。
「《
武器に軽量化の魔法をかける。本来は重いものを持てるようにするための魔法なのだが、まさか戦闘中に使うとは思わなかった。
そうして、
「何やってんだ、役立たず!!俺を守れよ!!!クソが!!!」
これでいい、これでいいんだ。相手を騙せ。余裕が無い振りをするんだ。
敵の攻撃が天使にあたる。ここで天使は退場だ。体が淡く光り始める。
「ーー!くそっ!くそっ!ちくしょうっ!!!!」
剣が消滅してしまう前に、やぶれかぶれの突撃をする。片手で剣を振り下ろそうとする。それを受け止めるために頭上で剣を横に構えるゴブリン。その顔はニヤついている。こちらを舐めている。完全に勝ったと思い込んでいる。
まだだ、まだだ、もう少し、もう少し、もう少し・・・ここだ。
剣と剣がぶつかる瞬間に、
「・・・ギッ?」
武器を手から離した瞬間、鉈を引き抜きながら勢いよくしゃがむ。予想通り、相手は面食らっている。あの状況で武器を手放すとは思わなかったのだろう。
鉈の切っ先を
外れても負け、防がれても負け、殺しきれなくても俺の負け。
もっと強く、もっと鋭く!!
全身の筋肉を使え!神経を研ぎ澄ませろ!
1秒でも速く、1ミリでも深く!!
そうして放たれた俺の渾身の突きは・・・
狙い通りに
ゆっくりと後ろに倒れていく
「やった・・・」
どっと疲れが押し寄せ、思わず地面に座り込む。やばいやばいやばいやばい、今更ながら蹴られた腹がいてぇ!!!死ぬ!死んじまう!
まさかあんなにゴブリンが強かったとは!!これオーガと戦ったらどうなるんだよ!!・・・とりあえず今は、勝てたことを喜ぼう。それに、色々嬉しいこともあるしな。
まず、経験値はどうなるのかだ。感覚でだが、経験値的な何かがあるのが分かり、それをこちらの都合通りに振り分けることが出来る。つまり、モンスターを倒すとストック経験値が手に入るのだ。
早速その経験値を使い、Lvをあげる。
・・・レベルアップしても怪我は治らないし、体力も戻らないみたいだな。依然として動けないまんまだ。あーキッツイ!これオーガまで持つか?でも急がないとなぁ。
「ペテル君!!!!」
彼女の声がしたので、そちらを見ると、避難したはずのエドストレームがいた。なんでこっちにいるんだ?もしかして、もうギグたちが全滅させたのか?それなら楽でいいんだけどなぁ。そんなわけないか。
「ペテル君!!!!後ろぉ!!!!!」
後ろ?彼女がそう叫ぶので、後ろを振り返る。すると、
ゆっくりと俺の直剣を持ち上げ、上段の構えをとる。
「・・・俺の、負けだったか。」
ちくしょう。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
彼を探して走る。自分の恩人であり、大切な人である彼を探して。
村長の家で、彼の叫び声を聞いてしまった。聞こえてしまったのだ。みんなは気のせいだと言った。彼がゴブリンごときに負けるはずがないと。そもそも彼が北側にいるのかと。
それでも、もし彼が助けを求めていたら?私が向かうことで、彼を助けることが出来るのなら?
そう考えてしまうと、もう止められなかった。村長やモーゼ君が止めるのも聞かずに飛び出してしまった。
倉庫の方へと走って向かう。そして、ゴブリンの死体を見つける。初めて近くで見るモンスターの死体に、思わず吐き気を催す。しかし、それを気合いでこらえる。こんなことをしている場合じゃない。早く彼を見つけないと。
ゴブリンの死体によってあたり一面は血だらけなのだが、不自然に奥の方へと伸びている。そして、その先に、彼はいた。
先程のゴブリンよりも一回り大きい、強そうなゴブリンが倒れており、そのすぐ側に彼が座っている。
良かった。無事だった。自分の勘違いだった。ゴブリンなんかに負ける彼ではなかったのだ。
そう思い、声をかけようとした瞬間、倒れていたゴブリンがゆっくりと起き上がる。
「ペテル君!!!!」
すぐに彼に声をかけるが、彼は後ろのゴブリンに気づかずにこちらを見る。いつも元気な彼と違って、ひどく疲れたような目をしていた。手には何も持っていない。
「ペテル君!!!!後ろぉ!!!!!」
再び彼に声をかける。彼はゆっくりと後ろを振り返り、立ち上がったゴブリンを視界に収める。その場から飛び退くわけでもなく、回避しようと身構えるわけでもなく、ただただそれを見ていた。彼の背中は、まるですべてをあきらめてしまったかのようだった。
ゴブリンがゆっくりと剣を構える。このままだと、彼はあの剣で切られて、死んでしまうのだろう。
・・・死ぬ?彼が、ペテルが、死んでしまう?
ダメだ、ダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだ絶対にダメだ!!!!
この村に来た時に、重い荷物を持っていた自分を気遣ってくれた彼。
私は私なのだと言ってくれた彼。
村のみんなと馴染めなかった私のために、積極的に誘ってくれた彼。
たくさんのものをくれた。母以外にも、私に優しさを向けてくれる人がいると教えてくれた彼。
そんな彼が死ぬ?そんなの許せない。許せるわけがない。
私はまだ何も返せていない。なにも出来ていないのだ。彼がくれた優しさのお返しを、まだ何もしていないのだ!!!
どうする!?どうすれば彼は助かる!?
ここから声をかけて、避けるように言う?・・・ダメだ。彼は反応しないだろう。
走っていって、彼を庇う?・・・無理だ。間に合うわけがない。
結局何も出来ない。彼が死ぬのを眺めることしか出来ない。あぁ、なんて弱いのだろう。なんて無力なのだろう。大切な人1人救えない、そんな自分が心底憎かった。私には、彼を救うことは出来ない・・・
・・・いや、ある。一つだけ、本当に低い確率だが、私が彼を救う方法が。そして、彼から渡されたナイフを鞘から抜く。
これしか方法はない。ほかの方法なんて考えてる暇はない。ナイフを持つ手に力を込め、全力でゴブリンに向かって
単純な事だ。あのゴブリンが彼を殺そうとしているなら、先にあのゴブリンが死ねばいい。
母が言っていた。生き物は大抵頭に攻撃を加えれば死ぬと。ならばあのゴブリンも、頭にナイフが刺されば死ぬはずだ。
「お願い、当たってぇ!!!!」
おおよそ子供が投げたとは思えない勢いで、空中を駆けていくナイフ。そんな彼女の思いがこもった一投は。
頭ではなく、ゴブリンの脇腹近くに刺さった。
・・・失敗した。助けることが出来なかった。殺すことが出来なかった。あれではゴブリンは死なない。ゴブリンはそのまま剣を振り下ろし、彼の命を刈り取るのだろう。
やっぱり私では、彼を助けることなんて無理だったのだ。
「ごめん、ごめんなさい、ペテル君・・・」
そうして、ゴブリンは彼にその剣を振り下ろす・・・ことはなく、剣を手放した。
「・・・え?」
そのゴブリンは、まるで糸が切れた人形の様に地面に倒れ込む。そして、そのままピクリとも動かなくなった。
「どうなってるの?」
失敗したと思った。助けられなかったと思った。だけど、違ったのだろうか?助けることが出来たのだろうか?
ふと彼を見ると、驚いたような顔をして、私を見ていた。・・・彼は生きている。私は、彼を助けることが出来たのだ。泣きながら、彼に向かって走り寄り、抱きつく。
「ペテル君!!良かった・・・ほんとうによかったよぅ・・・」
「・・・エド、なんで、ここにいるの?」
「ペテル君の叫び声がしたから、何かあったのかと思って、飛び出してきたの。」
「そう、なんだ。ありがとう、エド。」
そうして、私に笑顔を向けてくれる彼。私は彼に少しでも恩を返すことが出来ただろうか?私が受けた恩に比べれば、ほんの少しだけしか返せていないだろう。それでも、少しずつ、少しずつ返していこう。
そして、ひとつ決心をした。彼について行こう。彼は村を出て冒険者になると言っていた。ならば、私もついて行こう。彼の隣に立って、共に戦おう。
憧れにとどめておくなんて出来ない。才能が違うだなんて関係ない。もっと相応しい人がいたとしても、身を引くことなんでしたくない。私は、彼の隣にたちたい。誰かに譲るなんて嫌だ。
彼の隣は、私のものだ。
次回は、自警団側のお話です。
見ていただき、ありがとうございました。