ペテル・モークに憑依転生!   作:ハチミツりんご

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すみません、リアルでの用事があって投稿がかなり遅れてしまいました。これからはもっと早めに投稿できるよう努力します。
また、誤字報告ありがとうございます!!


戦いは終盤へ

「これでどうだ!」

 

ギグの剣がオーガの右腕に突き刺さる。オーガは叫び声を上げながら、左腕をギグに向けて振るう。すぐに剣から手を離し、しゃがんで攻撃をかわす。後ろに下がってオーガから距離を取り、予備の直剣を鞘から抜く。

 

(クソっ!さっきから何度も攻撃してるってのに、一向に倒れる様子がねぇ!)

 

ギグは焦っていた。目の前のオーガは何時倒せるのか分からない上に、先程から狩猟組からの援護射撃は奥の2体に集中しており、こちらには飛んでこない。さらに、オーガ相手に自分と同等以上に戦えるであろう息子は戻ってくる気配がない。現在、前線にいるオーガは3体。このままでは、1体のオーガが戦いなれていない村人たちの方に向かってしまう。それを阻止するために目の前のオーガを早く倒してしまいたいのだが、耐久力に優れるオーガを倒すのにはどうしても時間がかかる。

 

(ギランとルッチの2人じゃ、抑えることは出来ても倒すのは難しい。だから、俺がこいつを倒さないと不味いんだ。集中しろ、集中!)

 

「おらよっ!」

 

再びオーガを剣で斬りつける。しかし、上手く斬ることが出来ず、オーガの肌を傷つけるだけでダメージを与えられない。オーガが腕を振るう。ギグは上体を逸らして躱し、がら空きの腹に剣を突き刺し、引き抜く。穴が空いたオーガの腹から赤黒い血がドバドバと溢れ出て、足元に血だまりを作る。オーガは悲鳴を上げながら腹をおさえ、がむしゃらに腕を振り回した。

 

「っと!危ねぇな!」

 

後ろに下がりながら剣を振るい、血を落とす。かなりの手応えがあった。もう1、2発攻撃を当てればこのオーガは倒れるだろう。しかし、ギグは油断せずに相手を観察する。今までの戦闘経験から、手負いの獣がもっとも恐ろしいと知っているからだ。一か八か、オーガはギグに突撃する。目の前の人間を叩き潰そうと、両腕に力を込めて振り回す。

しかし、これまで10年以上自警団団長として戦ってきたギグにそんな破れかぶれの攻撃が通用するはずもなく、ギグはオーガの両腕をかいくぐり、左足を切り落とす。片足を失ったオーガはバランスを崩し、地面に倒れ込む。

そして、ギグは無防備にされされた首に向かって、上段の構えから全力の一撃を振り下ろす。肉が切れ、骨が砕ける感触が伝わる。オーガの首が宙を舞い、鮮血が飛び散る。頭部を失ったオーガの肉体は、それ以降動くことは無かった。

 

「よっしゃ!まず1匹!」

 

ギグは自分が単独でオーガを倒したことに興奮しながら戦場を見渡す。自警団の村人たちは、懸命にゴブリンと戦っていた。訓練では防御の方法を中心にしていたことと、ギグやギラン、ルッチが戦いのはじめにある程度ゴブリンを倒していたおかげで予想以上に被害が少なかった。しかし、それでも死者は出ているし、四肢の欠損などこれからの生活に支障をきたすような怪我を負っているものも少なくない。五体満足の村人も、大なり小なり怪我を負っている。このまま戦いを長引かせてはまずいだろう。

ギランとルッチの2人は、近づいてきたオーガを抑えていた。オーガの猛攻を躱し、隙を見て攻撃しているが、2人の力では決定打を加えることが出来ていない。そのうえ、攻撃を躱し続ける疲労と、こちらの攻撃は効いていないのに相手の攻撃を受ければ致命傷という緊張感から、かなり動きが鈍っている。

 

(ゴブリンを相手にしている奴らの方に行く余裕は無いな・・・。ギランとルッチの手助けをして、もう1匹を早めに潰すのが最善か?あーくそ、この場にペテルが戻ってきてくれたら・・・)

 

「って、何考えてんだ俺!あの子はまだ8歳だぞ?なんでそんな子をあてにしているんだ?むしろここでオーガたちを全滅させて、父親の威厳ってものを見せるべきだろ!そうと決まれば、とっととギランたちを助けに・・・」

 

「ギグさん!!」

 

呼ばれた方を振り返ると、矢倉からカノンがこちらに向かって叫んでいた。

 

「不味いです!もう矢がほとんどありません!オーガ2匹と、魔法を使うゴブリンを抑えることが出来なくなります!」

 

「なんだと!?小鬼の術者(ゴブリン・メイジ)までいるのかよ・・・!くそっ!狩猟組は攻撃をやめて、隠れている女子供や老人を連れて逃げろ!!俺達が時間を稼ぐ!!」

 

「はぁ!?何言ってんだいギグ!ここから近くのエ・レエブルまでどんだけかかると思ってんのさ!それに、あんた達を置いていけるわけないでしょう!?」

 

「ここで全員死ぬよりはマシだろうが!!それに、狩猟組にペテルがいればモンスター相手でも戦える!もしかしたらエ・レエブルまでたどり着けるかもしれないだろ!!」

 

「でも・・・!!!」

 

「いいから早く行け!!!俺たちを無駄死にさせる気か!!」

 

「・・・!!くそっ!くそっ!ごめん、ごめんよギグ!!じゃあね、愛してるよ!!」

 

「あぁ、俺も愛してるぜ、レイラ!!ペテルのこと、頼んだぞ!!」

 

そうして、レイラ達狩猟組が戦場から離脱しはじめる。ギグはオーガの死体から刺していた直剣を抜き取り、血を落として鞘に収める。そして、ギランたちの方へ走り出す。

 

「ギラン、ルッチ!今の聞いてたよな!?死ぬ気で抑えるぞ!!」

 

「はいはい、了解!!あーあ、こんなことなら自警団なんて入らなきゃよかったぜ!」

 

「なんだよ、ギラン!!なら、お前はにげるか?!」

 

「馬鹿言え、ルッチ!!お前やギグさん置いていけるわけないだろーが!!」

 

「ハッハ!!お前ら、そんなに元気があるなら大丈夫だな!!それに、まだ死ぬと決まったわけじゃない。案外、3人で行けば勝てるかもしれないぞ!」

 

「それもそうっすね!!っしゃぁ!やってやるぞおらぁ!!」

 

「俺らが抑えますんで、ギグさんは攻撃を!!」

 

「了解!!」

 

ギグはギラン、ルッチと共に剣を構えて、オーガと対峙する。村のみんなを、愛する妻や子供を助けるためにモンスターと戦う。それは彼が昔憧れた物語にそっくりだった。彼は大きく息を吸い込み、こう叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ザリア村自警団団長、ギグ・モークだ!!命にかえても、この先には行かせねぇ!!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

彼女、カノンは走る。怪我をしているレイラに代わり、先行して村長の家に向かっていた。なるべく早く情報を伝え、逃げるのを早くするためだ。

 

(悔しい、悔しい、悔しい!!)

 

彼女はレイラに憧れていた。女性なのに、村で1番野伏(レンジャー)として優れていたからだ。そんな彼女は、今回の戦いでレイラやみんなの役に立とうと張り切っていた。しかし、結果は負け。ギグたち自警団のみんなを置いて逃げることしか出来ない上に、自分のせいで憧れのレイラに怪我をさせてしまった。

別に、彼女のせいではない。今回の戦いは元々こちら側が負ける確率が高かった。それに、魔法の存在を知っているだけのカノンでは、追尾してくる魔法の矢(マジック・アロー)を防ぐこともできないし、ほかの狩猟組の面々でも同じだろう。

しかし、彼女は自分を責めた。

 

自分がもっと弓の扱いが上手ければ、こんなことにはならなかったのではないか?

 

レイラが自分を庇わなければ、もっと戦況は良かったのではないか?

 

そう考えると、彼女は自分が情けなくなってしまう。しかし、今は後悔している時ではない。早く逃げないと、ギグ達が必死に稼いでくれている時間が無駄になるのだ。

そうこうしているうちに、村長の家が見えてきた。何故か、隠れているはずの村長が外に出ている。

 

「村長!!なんで隠れていないんですか!?」

 

「おお!カノンか!!それが、エドストレームが出ていって、戻っていないのだ。」

 

「そんな!?こんな時に限って・・・」

 

「何かあったのか?」

 

「っ!そうだ。こんなことしてる場合じゃない。村長!!今から隠れているみんなと、狩猟組はエ・レエブルに向かって逃げます!すぐに出発の準備を!!」

 

「なんじゃと!?・・・自警団は時間稼ぎか。」

 

「・・・はい。ギグさんたちが命懸けで稼いでくれています。」

 

「わかった。私から皆に伝えよう。カノンはペテルとエドストレームを探してくれ。たしか、北の倉庫の方に・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、あんたら。一体何があったんだ?」

 

カノンが短剣を抜きながら素早く声のした方に振り向く。そこには、見知らぬ男が立っていた。金髪黒目であり、細身でかなり身軽そうな格好をしている。そして、首の辺りに緑色に輝く金属のプレートをつけていた。

 

「・・・もしかして、冒険者?」

 

冒険者。それは、レイラの息子であるペテルが憧れている者達であり、村長やレイラが言うには、「未知を探索すると言うと聞こえはいいが、実際は対モンスター用の傭兵であり、大半はならず者の集まりである」らしい。しかし、上位冒険者ともなると、自分達の想像もつかないような強さだとも。

 

「あぁ、冒険者だ。用事があってこの村に来たんだが?」

 

「っ!!すみません!村がモンスターに襲われているんです!助けてもらえませんか!?報酬なら後で必ず支払います!!」

 

「カノン!!勝手に決めては・・・」

 

「でも、自警団の人達を助けるためには、こうするしかないじゃないですか!!」

 

「それはそうだが・・・!!」

 

これしかない。このまま逃げても、エ・レエブルまでたどり着く確率は低いのだ。ここで彼を雇い、オーガたちを倒してもらった方がいいだろう。近くには見えないが、流石に1人ではないだろう。

 

「・・・わかった。その依頼、引き受けよう。敵の数は?」

 

「っ!!ありがとう、ありがとうございます!!!敵は、オーガが4体に、ゴブリンが十数体残っています。それに、魔法を使うゴブリンが1匹!!!今は、自警団のみんなが戦っています!」

 

「了解。今すぐ向かった方がいいな。なら、あんたはここから走って俺の仲間を呼んできてくれ。そこをまっすぐ行けば4人組がいるはずだ。俺は先に行って、自警団の人たちを手助けしてくる。」

 

「わ、わかりました!!ありがとうございます!!」

 

そういうと、彼はすぐにモンスターたちの方へ走っていった。あまりの速さにカノンは彼が走っていった方を見る。人間では到底出せないような速さで走る彼を見て、あの人ならばギグさんたちを救えるかもしれない、と思い、喜びが込み上げてくる。すると、レイラたち残りの狩猟組が近くまで来ていた。

 

「カノン!!今、向こうに誰か走っていったけど?!」

 

「大丈夫です、レイラさん!!彼は冒険者で、ギグさんたちを助けに行ってくれたんです!!」

 

「なんだって!?1人で!?」

 

「いえ、お仲間がいるそうなので、今から私が呼びに行ってきます!!」

 

「わ、分かった。気をつけていきなよ!」

 

はい!と返事をして、彼女は村の外に向かって走り出す。そして、カノンに代わり、村長がレイラたちに状況を説明する。

 

「とりあえず、レイラはここで休んでいなさい。他の者は、倉庫の方へ行ってくれ。ペテルとエドストレームがそちらにいるらしい。」

 

「ペテルが、倉庫の方に!?なら、あたしも行くよ!!」

 

「ダメだ!もしペテルがモンスターと戦っていたらどうする!?怪我をしているお前さんでは足でまといになるだろう!」

 

「で、でも!!」

 

「でももなんでもない!!それに、ペテルならモンスターに襲われても大丈夫だろう。お前は大人しくしなさい!!」

 

「わ、わかったよ・・・。ごめん、みんな。ペテルのことよろしくね。」

 

「任せといてよ。レイラもしっかり休みなよ?」

 

そう言って、リリアラームたちは倉庫の方へ向かった。残されたレイラには、祈ることしか出来ない。

 

「ペテル、ギグ、エドちゃん、みんな。お願い、無事でいて・・・。」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「がはっ・・・!!!」

 

「ギラン!!!大丈夫か!?」

 

「気にしている場合じゃないぞ、ルッチ!!前を見ろ!!」

 

「ぐっ!?クソっ!!」

 

一体のオーガの攻撃がルッチを襲う。とっさに間に剣を挟んで防御したが、剣は砕け、ルッチ自身も少なくないダメージを受けてしまう。

 

「おい、大丈夫か!?」

 

「な、なんとか・・・。」

 

「なら、ギラン連れていったん下がれ!!」

 

「でも、ギグさん大丈夫なんですか!?」

 

「大丈夫だ!!オーガ2体抑えるぐらいならいける!!てか、その状態で戦われても足でまといだ!!」

 

「っ!すみません、なら下がります・・・。どうか、ご無事で!!」

 

「おう!心配すんな!!ギランが起きたら、ゴブリンを抑えてる奴らの手助けをしろ!」

 

「はいっ!!」

 

そう言って、ルッチはギランを連れて下がっていく。ギグは深呼吸をしながらオーガに向けて剣を構える。目の前には2体のオーガ。防御に専念すれば何とかなるかもしれないが、すぐ近くに棍棒持ちのオーガ2体に小鬼の術者(ゴブリン・メイジ)が来ている。そんな数を相手にできるわけが無い。なす術なく殺されるだろう。

 

(大した時間も稼げなかったな。だがまぁ俺が死ぬ時には村から出てるだろう。全員助かってほしいが・・・無理だろうな。せめて、ペテルとレイラだけでも助かってほしいもんだ。)

 

そう考えながら、オーガの攻撃を躱していく。隙があったらオーガの足に切りかかり、少しでも機動力を削いでいく。無茶をせずに、堅実に戦っていく。

しかし、いくら防御に専念して戦っていても、2体を相手取ることは難しかった。ギグはオーガの攻撃をモロに食らってしまう。

 

「ごっ・・・はぁ!!」

 

血を吐きながら、後ろに吹き飛ばされる。

 

「ギグさん!!」

 

「だい・・・じょうぶ!!!まだ、まだ行けるさ・・・!!」

 

そう言いながら、フラフラと立ち上がるギグ。再びオーガに向けて剣を構える。

 

「おいおい、おっさん。無理は禁物だぜ?」

 

誰かがギグの肩をポンと触る。そちらを見ると、ギグの知らない男が立っていた。金髪黒目で長身。身軽そうな格好をしており、細身の身体だが、それは鍛え上げられた細さであることがギグには分かった。

そして、何よりギグを驚かせたのは、男の首に下げられた緑色に輝く金属のプレートだった。それは、魔法金属であり、上位冒険者の証であるミスリルだった。

 

「ミスリル級の、冒険者・・・!!」

 

「あぁそうだ。用事があってこの村に来てな。助けに来たぜ。さてと、選手交代だ。あんたはこれ飲んで休んでな。」

 

そう言って、彼は青い液体の入った小瓶を投げ渡す。慌ててそれを受け取り、中の液体を飲み干すと、徐々にギグの傷が治っていき、体が楽になる。それは、ギグたちのような普通の村人がお目にかかる機会のない高価なポーションだった。

 

「・・・これ、高いんじゃないか?」

 

「いいよ、別に。命の方が大事だしな。」

 

「済まない、ありがとう。この恩は絶対に返す。・・・あんた、名前は?」

 

「ん?名前?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺はエ・レエブルのミスリル級冒険者チーム【守護の聖剣】の盗賊、ロックマイアーだ。」




今回出てきた冒険者チームの名前は捏造です。
それではまた次回。

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