「フラン!手入れ終わったか?」
「・・・いや、もう少し待ってくれ。予備武器も点検しておきたい。」
「分かった。じゃあ、俺達は村長さんに出発することを伝えてくるから、ロックを連れて村の入口で待っててくれ。」
「?ロックは、一緒じゃないのか?」
「ほら、あの子だよ。また訓練してるんじゃないか?」
「あの子?・・・あぁ、エドストレームちゃんだったか?」
「そうそう。とにかく、頼んだぞ。」
「了解。」
俺が答えると、ボリスは部屋から出ていった。今からヨーランとルンドを呼びに行くのだろう。そう思いながら鎧の点検を終える。次は、予備武器の点検だ。持ち歩くカバンの中から、通常のものよりも一回り小さい
「確認しといてよかったな・・・。」
「何がよかったんだ?」
後ろを振り向くと、先程までいなかったはずのロックが立っていた。今戻ったのだろうか。それならボリス達に会っているはずだが。
「なんだ、ロックか。ボリス達には会わなかったのか?」
「ボリス?いや、会ってねぇけど?」
「そうか。そろそろ出発するようだ。準備をして、村の入口に待機するようにとの事だ。」
「あー・・・了解。なら、手早く終わらせるか。」
「・・・そういえば、訓練は終わったのか?」
「いや、あいつがへばったからな。水を取りに来たんだよ。んじゃ、俺もすぐに準備終わらせるから、お前は先にいっててくれ。」
そう言うと、手をひらひらと振りながらロックが部屋を出ていく。わざわざ訓練をつけるうえに、世話まで焼いてやるとは。相変わらず面倒見がいいな。
・・・そういえば、俺もペテル君から特訓してくれと言われていたな。丁重にお断りしたが。俺の戦い方はかなり特殊で、
それを彼には伝えたが、ならば模擬戦をしてくれと頼まれ、ここ数日で何度か戦っている。流石に子供に負けることはないが、彼は子供に有るまじき力を持っている。あの年で、鉄級冒険者レベル、下手したら下位の銀級冒険者レベルはあるかもしれない。冒険者になると言っていたし、ヨーランの言う通り将来有望だ。
「・・・しかし、やっぱりおかしいな。」
先程の話し合いの場で、彼は
通常、ゴブリンの難度は1桁だ。トブの大森林から出てきたことを考えると、およそ難度6程度だろう。そして、
だが、ペテル君が倒したという
つまり、ペテル君は自分と同等の実力を持つ相手に加え、彼の手に余る量のゴブリンと対峙して生き残ったということだ。
「・・・ありえないよなぁ。」
これが同程度の実力の
・・・模擬戦では手を抜いていて、本当はもっと強い?
いや、これは無いだろう。それをすることによるメリットが彼にはないし、そもそも模擬戦とはいえ、剣を交えた相手の実力を測り間違えることなんて無い。
・・・弓矢が使えて、遠距離からの攻撃で数を減らした?
たしかに、
・・・誰かと協力して戦った?
一番ありえそうだが、協力したやつが名乗り出ないのがおかしい。それに、当時戦えるやつは全員東側で戦っていたらしいし、これも可能性としては低いだろう。
「・・・魔法が使えるのか?」
いや、流石にないか。あの年で、鉄級冒険者レベルの戦士であり、魔法まで使えるなんてことはないだろう。村のなかでも彼が魔法の勉強をしているとは言っていたが、魔法が使えないとも言っていたし。それよりも、実は
「おい、何さっきからブツブツ言ってんだ?気持ち悪ぃぞ?」
顔を上げると、目の前にロックが立っていた。先程来ていた普段着ではなく、足音を消してくれる
「いや、すまない。少し考え事をな。」
「お前が考え事?・・・まぁいいや。とっとと準備しろ。もうボリス達は村の入口で待ってるぞ?」
「うお、まじか。すぐに用意する。」
慌てて
「すまない。待たせたな。」
「おう。早くいこーぜ。」
「今日は、どこを探索をするんだ?いきなり深部まで行くのか?」
「いや、まずは浅いとこを探していって、痕跡が見つかればそれを辿っていく。既に金級が2組、白金級が1組犠牲になってる。しかも全滅だ。慎重に行かねぇとな。」
「そうだな。森の中なら、視界が悪い。頼りにしてるぞ、ロック。」
「任しとけ。そっちも頼むぜ、四刀流?」
そんな軽口を叩きながら村の入口へ向かうと、ボリス達3人が待っていた。全員が完全装備で、上位冒険者に相応しい風格だ。
「すまない、遅くなった。」
「いや、構わないさ。もう準備はいいのか?」
「おう、こっちも大丈夫だ。行こうぜ、リーダー。」
「そうだな。ただ、その前に依頼内容の確認だ。今回の依頼は、トブの大森林西部の調査。しかし、今までに銀級チーム複数と、金級2組、白金級1組がトブの大森林で行方不明になっている。その為、強力なモンスターが住み着いたと考えられる。目標はそのモンスターの撃破だ。十分注意していこう。」
「「「「了解!」」」」
「よし!【守護の聖剣】、出るぞ!!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
モンスター襲来から三日後、現在
戦いの際に自警団に所属していた男性陣が犠牲になったことで、現在村には人手が足りていない。その為、子供でも村の片付けを手伝ったり、畑仕事をしたりしている状況だ。
俺?ギグから「ペテルは力持ちだからな!!」とか言われて柵を作る仕事に回されたんだよ!!!この仕事、杭を突き立てるのが面倒な上、板を付けなければならないので非常に疲れるのだ。だから誰もやりたがらない。人手不足なのも相まって、一人の担当範囲が広い。辛い。めんどい。
ちなみに、俺をここに送り込んだ張本人は「俺はもう歳だから!」などといって別の仕事をしている。オーガと戦えるんだ、まだまだ現役だろうが、あのクソジジイ・・・。
「よう、ペテル!なんか不満そうな顔だな?」
そう言いながら、ギランが俺に声をかけてくる。彼は、この誰もやりたがらない仕事を率先してやってくれるイケメンだ。そして村では俺とギグに次いで3番目の実力の持ち主でもある。
「ああ、ギランさん。そりゃそうでしょ、こんなめんどくさい仕事やらされれば。」
「ははっ!まぁそう言うなよ。これも大事な仕事だぜ?三日前の戦いではこれのおかげでかなり戦いやすかったからな。みんなを守ることにも繋がるし、丁寧にやろうぜ!」
・・・うむ、やっぱりイケメンだ。ちなみに、彼といっつも一緒にいるルッチもイケメンだ。ギランの方が野性味溢れる肉食系イケメンで、ルッチの方が大人しい印象を受ける草食系イケメンだ。どっちも村の女の子からモテモテだ。爆ぜろリア充。
「・・・なんか、目が怖いぞ?」
「そうですか?気のせいですよ。」
「そうか?まぁいいや・・・。そういや、お前冒険者の人と戦ったんだろ!?どうだったんだ!?」
「ふつーに惨敗しました。マジでものの数秒ももたなかったです。」
そう、俺はつい昨日、【守護の聖剣】の戦士であるフランセーンに稽古をつけてもらうように頼んだのだ。何回か断られたが、模擬戦だったら了承してくれたので、数回戦った。
結果は、数秒もたずにぼろ負けした。武器は一振りしかつかっておらず、武技も使っていなかったのに、全くもって勝てなかった。
ちなみに、模擬戦後にみたフランセーンのステータスは・・・
〜〜ステータス〜〜
名前【フランセーン】
性別【男】 年齢【26】
総合Lv【16】
▼
▼
▼
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
とまぁ、こんな感じだ。勝てるわけない。レベル差が9もあるのだ。願わくば、彼にはエドストレームに剣を一振り譲って欲しいが、まぁ無理だろう。自分の主装備をやすやすと譲るやつなんかいないし。
・・・ただ、何も出来なかったのは本当に悔しい。なんだかんだ言って、少しくらい戦えるのでは、と思っていたのだ。
「あーあ、せめて武技が使えたらなぁ。ギランさーん、実は武技使えたりしなーい?」
杭を打ち込みながらそう問う。
「おーう、1個だけならなー。」
「ですよねー。・・・は?」
驚いてギランを見ると、彼はそれがどうした?と言わんばかりに首を傾げていた。
「ちょちょちょ、え、マジで!?本気で言ってます、ギランさん!!」
「うぉぉぉ!!いや、まぁ使えるけど?」
「教えてください!!今すぐに!!!ぷりーず!てぃーち!みー!!なう!!!」
「おい、何言ってんのか分かんねぇよ!!わかった、わかったから!!落ち着け!!」
ギランがそういうので、少し呼吸を整える。危ない危ない、取り乱してしまった。まぁ、武技を覚えられるかもだったら、仕方ないよね!
「あー、びっくりした・・・。とりあえず、ちょっと待ってろ。必要なもん取ってくるから。」
そう言いながら、彼は武器庫の方に歩いていく。しばらく待っていると、二枚の盾をもって戻ってきた。狩りで取ってきた動物の革をなめして作った、普通サイズの盾だ。
うちの村にも盾はあるのだが、使いこなせる人が少ないため、めったに使われないのだ。
彼は一枚を俺に渡すと、杭を地面に突き立てる。
「んじゃ、まずは武技を使わなかった時な。これをこーやって殴ると・・・」
と言いながら、彼は盾を右手に持って、全力で杭を殴りつける。普通の人間では考えられない威力だが、杭は地面から外れかかるだけで、目に見えての損傷はない。
彼は杭を突き立て直すと、再び盾を構える。
「次は、武技を使うから、よく見とけよ。
・・・【盾強打】!!」
2回目の攻撃は、最初とは比べ物にならない威力だった。バガンッ!!という音が辺りに響き、突き立ていた杭が粉々に砕け散る。
彼はこちらを振り返り、ドヤ顔をしながら俺に語りかける。
「どーだ、ペテル!これが武技、【盾強打】だ!!」
「すっげぇ!!どうやってやんの、それ!」
「えっとな、こう、腹の下に力を込める感じで・・・」
そう言いながら、彼は俺にやり方を教えてくれる。俺もそれに習って杭を殴りつけるが、武技が発動することはない。ーーーまぁ、素の威力でギランの【盾強打】使用時くらいはあるのだが。何度か練習しているうちに、ふと疑問が湧いてきたので、ギランに聞く。
「ねぇ、ギランさん。なんで武技使えるのに、盾を使わないの?」
彼は戦いの時には剣を一振り持って戦う。その際、盾は持っていかないのだ。武技が使えるなら、盾持ちで戦った方が強いように思うのだが。そう聞くと、彼がいうには
「あーそれな。俺、うまく盾を扱えないんだよ。むしろ苦手なんだ。だから普段使ってねぇんだ。スケルトン相手じゃあるまいし、打撃よりも斬撃の方がいいだろ?」
との事だ。まぁ、上手く使えないなら無理に使う必要も無いのだろう。そう思いながらギランとともに練習しているが、全くもって上手くいかない。
「くっそ、上手くいかないなぁ・・・。」
「だーいじょぶだって、ペテルなら出来るさ!俺に出来たんだからな!!さ、もう1回頑張ろうぜ!俺もとことん付き合うよ!」
「ギランさん・・・!!うん、俺頑張るよ!!」
「よっしゃぁ!ならもう1発だぁ!」
「うぉぉぉ!!【盾強打】ぁ!!」
そうして、俺達は与えられた仕事をすっかり忘れて、武技の特訓に明け暮れるのであった・・・。
もちろん、その後リリアラームさんとカノンさんにすこぶる叱られたが。
・・・あ、【盾強打】はだいたい1週間くらいで習得できた。やったね!!!