ペテル・モークに憑依転生!   作:ハチミツりんご

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すみません、リアルの用事で更新が遅れました!!これからも更新ペースは落ちると思いますが、頑張って投稿は続けます!!


戦いの後 2

「フラン!手入れ終わったか?」

 

「・・・いや、もう少し待ってくれ。予備武器も点検しておきたい。」

 

「分かった。じゃあ、俺達は村長さんに出発することを伝えてくるから、ロックを連れて村の入口で待っててくれ。」

 

「?ロックは、一緒じゃないのか?」

 

「ほら、あの子だよ。また訓練してるんじゃないか?」

 

「あの子?・・・あぁ、エドストレームちゃんだったか?」

 

「そうそう。とにかく、頼んだぞ。」

 

「了解。」

 

俺が答えると、ボリスは部屋から出ていった。今からヨーランとルンドを呼びに行くのだろう。そう思いながら鎧の点検を終える。次は、予備武器の点検だ。持ち歩くカバンの中から、通常のものよりも一回り小さい鎚矛(メイス)と盾、それに短槍(ショート・スピア)を取り出し、点検していく。あまり使う機会はないので、大した傷はついていないが、まぁ念の為だ。軽く確認していくと、鎚矛(メイス)は問題なかったが、盾に少しばかり凹みがあった。すぐにそこを直していく。冒険者にとって、武器や防具は命を預けるものであり、相棒だ。点検を怠ったせいで死んだやつの話なんてごまんとある。そんなことにならないために、たとえ予備武器だろうと細心の注意で点検をしなければならない。

 

「確認しといてよかったな・・・。」

 

「何がよかったんだ?」

 

後ろを振り向くと、先程までいなかったはずのロックが立っていた。今戻ったのだろうか。それならボリス達に会っているはずだが。

 

「なんだ、ロックか。ボリス達には会わなかったのか?」

 

「ボリス?いや、会ってねぇけど?」

 

「そうか。そろそろ出発するようだ。準備をして、村の入口に待機するようにとの事だ。」

 

「あー・・・了解。なら、手早く終わらせるか。」

 

「・・・そういえば、訓練は終わったのか?」

 

「いや、あいつがへばったからな。水を取りに来たんだよ。んじゃ、俺もすぐに準備終わらせるから、お前は先にいっててくれ。」

 

そう言うと、手をひらひらと振りながらロックが部屋を出ていく。わざわざ訓練をつけるうえに、世話まで焼いてやるとは。相変わらず面倒見がいいな。

・・・そういえば、俺もペテル君から特訓してくれと言われていたな。丁重にお断りしたが。俺の戦い方はかなり特殊で、舞踊(ダンス)の魔法付与がされた剣を使った四刀流なのだ。舞踊(ダンス)が付与された武器をうまく扱える人物なんてそうはいないし、ペテル君は正統派な戦士だ。俺が教えれることなんてほとんどない。ボリスやヨーランの方が基礎はしっかりしているだろう。

それを彼には伝えたが、ならば模擬戦をしてくれと頼まれ、ここ数日で何度か戦っている。流石に子供に負けることはないが、彼は子供に有るまじき力を持っている。あの年で、鉄級冒険者レベル、下手したら下位の銀級冒険者レベルはあるかもしれない。冒険者になると言っていたし、ヨーランの言う通り将来有望だ。

 

「・・・しかし、やっぱりおかしいな。」

 

先程の話し合いの場で、彼は小鬼の兵士(ゴブリン・ソルジャー)を含めた10匹のゴブリンを倒したと言った。これは、死体を片付ける時に確認しているため、事実だ。

通常、ゴブリンの難度は1桁だ。トブの大森林から出てきたことを考えると、およそ難度6程度だろう。そして、小鬼の兵士(ゴブリン・ソルジャー)は難度10前後だ。鉄級なりたての冒険者でも、苦戦はするが倒せないことはないだろう。

だが、ペテル君が倒したという小鬼の兵士(ゴブリン・ソルジャー)は通常の個体よりも上背があり、錆びていたが剣を装備していた。おそらく、難度は10台後半、下手したら20はあったかもしれない。ペテル君と同等、あるいはそれ以上の実力だったということだ。さらに、通常のゴブリンも9匹いたとのことだ。これだけの量を鉄級レベルの戦士で捌ききるのは不可能だ。魔法詠唱者(マジック・キャスター)の強化魔法を付与されても、せいぜい6匹が限界だ。

つまり、ペテル君は自分と同等の実力を持つ相手に加え、彼の手に余る量のゴブリンと対峙して生き残ったということだ。

 

「・・・ありえないよなぁ。」

 

これが同程度の実力の魔法詠唱者(マジック・キャスター)ならまだ分かる。逃げ回りながら魔法で攻撃していけば、多くの敵を倒すことも可能だろう。弓兵(アーチャー)でも出来ないことはないだろう。しかし、ペテル君は戦士だ。その上、間合いが長い槍ではなく直剣だ。囲まれて袋叩きにされるのが普通だろう。それでも、彼は生き残った。

 

・・・模擬戦では手を抜いていて、本当はもっと強い?

 

いや、これは無いだろう。それをすることによるメリットが彼にはないし、そもそも模擬戦とはいえ、剣を交えた相手の実力を測り間違えることなんて無い。

 

 

・・・弓矢が使えて、遠距離からの攻撃で数を減らした?

 

たしかに、野伏(レンジャー)の母を持つ彼が弓矢を扱えてもおかしくないが、死体には弓矢による攻撃の跡がなかった。これもないだろう。

 

 

・・・誰かと協力して戦った?

 

一番ありえそうだが、協力したやつが名乗り出ないのがおかしい。それに、当時戦えるやつは全員東側で戦っていたらしいし、これも可能性としては低いだろう。

 

 

「・・・魔法が使えるのか?」

 

いや、流石にないか。あの年で、鉄級冒険者レベルの戦士であり、魔法まで使えるなんてことはないだろう。村のなかでも彼が魔法の勉強をしているとは言っていたが、魔法が使えないとも言っていたし。それよりも、実は生まれながらの異能(タレント)を持っていたとかの方が・・・

 

「おい、何さっきからブツブツ言ってんだ?気持ち悪ぃぞ?」

 

顔を上げると、目の前にロックが立っていた。先程来ていた普段着ではなく、足音を消してくれる無音の靴(ブーツ・オブ・サイレント)や、索敵範囲を広げる索敵の首飾り(ネックレス・オブ・サーチ・エネミー)、刺さった相手に自動で毒を注入する蛇毒の投擲短剣(スローイング・ナイフ・オブ・サーペント)などの完全装備だ。

 

「いや、すまない。少し考え事をな。」

 

「お前が考え事?・・・まぁいいや。とっとと準備しろ。もうボリス達は村の入口で待ってるぞ?」

 

「うお、まじか。すぐに用意する。」

 

慌てて短槍(ショート・スピア)の点検を終わらせ、軽量化の魔法がかかった鎧を着る。早足の脚鎧(グリーブ・オブ・クイックマーチ)剛力の籠手(ガントレット・オブ・ストレングス)を付け、舞踊(ダンス)の魔法付与がされた剣を左右の腰に一振りずつ、残り二振りを背中に交差させるかたちで背負う。ポーションをすぐに取り出せる位置に付けておき、カバンから取り出しやすい位置に予備武器を付ける。最後に、防御力を上昇させる守護の首飾り(ネックレス・オブ・プロテクション)を付け、準備完了だ。

 

「すまない。待たせたな。」

 

「おう。早くいこーぜ。」

 

「今日は、どこを探索をするんだ?いきなり深部まで行くのか?」

 

「いや、まずは浅いとこを探していって、痕跡が見つかればそれを辿っていく。既に金級が2組、白金級が1組犠牲になってる。しかも全滅だ。慎重に行かねぇとな。」

 

「そうだな。森の中なら、視界が悪い。頼りにしてるぞ、ロック。」

 

「任しとけ。そっちも頼むぜ、四刀流?」

 

そんな軽口を叩きながら村の入口へ向かうと、ボリス達3人が待っていた。全員が完全装備で、上位冒険者に相応しい風格だ。

 

「すまない、遅くなった。」

 

「いや、構わないさ。もう準備はいいのか?」

 

「おう、こっちも大丈夫だ。行こうぜ、リーダー。」

 

「そうだな。ただ、その前に依頼内容の確認だ。今回の依頼は、トブの大森林西部の調査。しかし、今までに銀級チーム複数と、金級2組、白金級1組がトブの大森林で行方不明になっている。その為、強力なモンスターが住み着いたと考えられる。目標はそのモンスターの撃破だ。十分注意していこう。」

 

「「「「了解!」」」」

 

「よし!【守護の聖剣】、出るぞ!!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

モンスター襲来から三日後、現在ペテル(おれ)は壊れて使い物にならなくなった防護柵の修理をしている。杭を等間隔に地面に突き立てていき、杭と杭の間に板を付けて作る簡単な柵だ。前の戦いでは、オーガには意味がなかったが、ゴブリン達には十分な効果があったようだ。既に【守護の聖剣】はトブの大森林へと行ってしまったので、いつモンスターが来てもいいように急いで修理することになったのだ。

戦いの際に自警団に所属していた男性陣が犠牲になったことで、現在村には人手が足りていない。その為、子供でも村の片付けを手伝ったり、畑仕事をしたりしている状況だ。

 

俺?ギグから「ペテルは力持ちだからな!!」とか言われて柵を作る仕事に回されたんだよ!!!この仕事、杭を突き立てるのが面倒な上、板を付けなければならないので非常に疲れるのだ。だから誰もやりたがらない。人手不足なのも相まって、一人の担当範囲が広い。辛い。めんどい。

ちなみに、俺をここに送り込んだ張本人は「俺はもう歳だから!」などといって別の仕事をしている。オーガと戦えるんだ、まだまだ現役だろうが、あのクソジジイ・・・。

 

「よう、ペテル!なんか不満そうな顔だな?」

 

そう言いながら、ギランが俺に声をかけてくる。彼は、この誰もやりたがらない仕事を率先してやってくれるイケメンだ。そして村では俺とギグに次いで3番目の実力の持ち主でもある。

 

「ああ、ギランさん。そりゃそうでしょ、こんなめんどくさい仕事やらされれば。」

 

「ははっ!まぁそう言うなよ。これも大事な仕事だぜ?三日前の戦いではこれのおかげでかなり戦いやすかったからな。みんなを守ることにも繋がるし、丁寧にやろうぜ!」

 

・・・うむ、やっぱりイケメンだ。ちなみに、彼といっつも一緒にいるルッチもイケメンだ。ギランの方が野性味溢れる肉食系イケメンで、ルッチの方が大人しい印象を受ける草食系イケメンだ。どっちも村の女の子からモテモテだ。爆ぜろリア充。

 

「・・・なんか、目が怖いぞ?」

 

「そうですか?気のせいですよ。」

 

「そうか?まぁいいや・・・。そういや、お前冒険者の人と戦ったんだろ!?どうだったんだ!?」

 

「ふつーに惨敗しました。マジでものの数秒ももたなかったです。」

 

そう、俺はつい昨日、【守護の聖剣】の戦士であるフランセーンに稽古をつけてもらうように頼んだのだ。何回か断られたが、模擬戦だったら了承してくれたので、数回戦った。

 

結果は、数秒もたずにぼろ負けした。武器は一振りしかつかっておらず、武技も使っていなかったのに、全くもって勝てなかった。

 

ちなみに、模擬戦後にみたフランセーンのステータスは・・・

 

〜〜ステータス〜〜

名前【フランセーン】

性別【男】 年齢【26】

総合Lv【16】

戦士(ファイター) Lv8

曲芸士(テンブラー) Lv5

剣の達人(ソードマスター) Lv3

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

とまぁ、こんな感じだ。勝てるわけない。レベル差が9もあるのだ。願わくば、彼にはエドストレームに剣を一振り譲って欲しいが、まぁ無理だろう。自分の主装備をやすやすと譲るやつなんかいないし。

・・・ただ、何も出来なかったのは本当に悔しい。なんだかんだ言って、少しくらい戦えるのでは、と思っていたのだ。

 

「あーあ、せめて武技が使えたらなぁ。ギランさーん、実は武技使えたりしなーい?」

 

杭を打ち込みながらそう問う。

 

「おーう、1個だけならなー。」

 

「ですよねー。・・・は?」

 

驚いてギランを見ると、彼はそれがどうした?と言わんばかりに首を傾げていた。

 

 

 

 

 

 

「ちょちょちょ、え、マジで!?本気で言ってます、ギランさん!!」

 

「うぉぉぉ!!いや、まぁ使えるけど?」

 

「教えてください!!今すぐに!!!ぷりーず!てぃーち!みー!!なう!!!」

 

「おい、何言ってんのか分かんねぇよ!!わかった、わかったから!!落ち着け!!」

 

ギランがそういうので、少し呼吸を整える。危ない危ない、取り乱してしまった。まぁ、武技を覚えられるかもだったら、仕方ないよね!

 

「あー、びっくりした・・・。とりあえず、ちょっと待ってろ。必要なもん取ってくるから。」

 

そう言いながら、彼は武器庫の方に歩いていく。しばらく待っていると、二枚の盾をもって戻ってきた。狩りで取ってきた動物の革をなめして作った、普通サイズの盾だ。

うちの村にも盾はあるのだが、使いこなせる人が少ないため、めったに使われないのだ。

 

彼は一枚を俺に渡すと、杭を地面に突き立てる。

 

「んじゃ、まずは武技を使わなかった時な。これをこーやって殴ると・・・」

 

と言いながら、彼は盾を右手に持って、全力で杭を殴りつける。普通の人間では考えられない威力だが、杭は地面から外れかかるだけで、目に見えての損傷はない。

 

彼は杭を突き立て直すと、再び盾を構える。

 

「次は、武技を使うから、よく見とけよ。

・・・【盾強打】!!」

 

2回目の攻撃は、最初とは比べ物にならない威力だった。バガンッ!!という音が辺りに響き、突き立ていた杭が粉々に砕け散る。

彼はこちらを振り返り、ドヤ顔をしながら俺に語りかける。

 

「どーだ、ペテル!これが武技、【盾強打】だ!!」

 

「すっげぇ!!どうやってやんの、それ!」

 

「えっとな、こう、腹の下に力を込める感じで・・・」

 

 

そう言いながら、彼は俺にやり方を教えてくれる。俺もそれに習って杭を殴りつけるが、武技が発動することはない。ーーーまぁ、素の威力でギランの【盾強打】使用時くらいはあるのだが。何度か練習しているうちに、ふと疑問が湧いてきたので、ギランに聞く。

 

 

「ねぇ、ギランさん。なんで武技使えるのに、盾を使わないの?」

 

彼は戦いの時には剣を一振り持って戦う。その際、盾は持っていかないのだ。武技が使えるなら、盾持ちで戦った方が強いように思うのだが。そう聞くと、彼がいうには

 

「あーそれな。俺、うまく盾を扱えないんだよ。むしろ苦手なんだ。だから普段使ってねぇんだ。スケルトン相手じゃあるまいし、打撃よりも斬撃の方がいいだろ?」

 

との事だ。まぁ、上手く使えないなら無理に使う必要も無いのだろう。そう思いながらギランとともに練習しているが、全くもって上手くいかない。

 

 

「くっそ、上手くいかないなぁ・・・。」

 

「だーいじょぶだって、ペテルなら出来るさ!俺に出来たんだからな!!さ、もう1回頑張ろうぜ!俺もとことん付き合うよ!」

 

「ギランさん・・・!!うん、俺頑張るよ!!」

 

「よっしゃぁ!ならもう1発だぁ!」

 

「うぉぉぉ!!【盾強打】ぁ!!」

 

 

 

そうして、俺達は与えられた仕事をすっかり忘れて、武技の特訓に明け暮れるのであった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

もちろん、その後リリアラームさんとカノンさんにすこぶる叱られたが。

 

 

 

 

 

 

・・・あ、【盾強打】はだいたい1週間くらいで習得できた。やったね!!!

 

 

 


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