ペテル・モークに憑依転生!   作:ハチミツりんご

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今回、いつもより少し長めです。


それぞれの戦い

ーーートブの大森林

 

 

王国領と帝国領を分断するアゼルリシア山脈南端を囲うかたちで広がる森林地帯であり、王国民の生活圏のおよそ2割に匹敵する広さを誇る。

 

森の内部には、「ゴブリン」やその近隣種である「バグベア」、「ボガード」をはじめ、「オーガ」、「トロール」、「ナーガ」が。

森の北側に広がる瓢箪型の池には「蜥蜴人(リザードマン)」や「トードマン」など水辺に住む亜人達が。

また地下には「マイコニド」、「鉄鼠人(アーマット)」、「洞下人(ケイブン)」など暗い場所を好む種族が住処を作っており、劣等種族たる人間が生きていける場所はどこにもない。まさに人外魔境という言葉が相応しいだろう。

 

そんな大森林は、表層部は人の手が入った森といった雰囲気である。

しかし、奥深くに進んで行くと、森は一変する。足場は悪く、頭上に茂った木々によって視界は遮られ、周囲は昼でも暗く、あちらこちらに闇がわだかまっており15メートル先が見えれば良いほうだろう。

森に住まう亜人達と遭遇する危険性も高くなる上に、「巨大蛇(ジャイアント・スネーク)」や「森林長虫(フォレスト・ワーム)」、「悪霊犬(バーゲスト)」、「跳躍する蛙(ジャンピングリーチ)」など、凶悪なモンスターが四方八方から襲いかかってくる。何時何処から襲われるか分からないため、絶えず注意しなければならず、大森林での冒険は精神的に非常に疲れる作業となる。

 

これらの理由により自分からトブの大森林に潜る者は稀であり、また無事に戻ってこれる者も少ないため、森の全容は未だ明かされていない。

 

 

そんな大森林の中を慎重に進んでいく五人組がいた。今回、エ・レエブルの冒険者組合から森林内の調査を依頼されたミスリル級冒険者チーム、【守護の聖剣】だ。白金級から昇格したばかりの彼らは、チームの目であり耳である盗賊の「ロックマイアー」を先頭に、リーダーで聖騎士の「ボリス・アクセルソン」、風神を信仰するウォープリースト「ヨーラン・ディクスゴード」、舞踏(ダンス)の武器を使いこなす四刀流の戦士「フランセーン」の3人が、第三位階魔法を行使できる、王国では珍しい黒髪黒目の魔法詠唱者(マジック・キャスター)「ルンドクヴィスト」を守る隊列で進んでいく。

 

既に大森林を探索し始めて三度目だが、有力な手がかりは見つかっていない。今までに出てきたモンスター達も、銀級なら厳しいだろうが、金級のチーム、ましてや白金級チームがやられるほどではない。

 

そんななか、不意にロックマイアーが足を止める。それと同時に、前衛職の3人が警戒心を高めながら己の武器を構える。彼らはロックマイアーの索敵能力を信頼しており、彼が何も無いところで止まることはないと知っているためだ。

 

「ロック、何があったんだ?」

 

何時でも魔法が放てるように精神力を高めながら、ルンドクヴィストが話しかける。

 

「・・・足音が聞こえたんだが、数がかなり多い。そう遠くない場所に、亜人どもの集落があるぞ。どうする?」

 

そうして、リーダーであるボリスに判断を仰ぐ。ボリスは少し考えた後、口を開く。

 

「・・・探索を始めて何日か経ってるし、今日も夜明けからかなり時間が経っている。その集落を調べたら一旦引き上げようと思う。どうだ?」

 

「いいと思うぜ?」

「構わない。」

「それで行こう。」

「探索は任せとけ。」

 

全員の意見がまとまり、ロックマイアーが示した方向へと進んでいく。しばらくして、亜人達の集落が見えてきたため、隠密が不得意な4人は待機し、ロックマイアーが単独で探索をすることとなる。

 

「んじゃ、ぱぱっと終わらせてくるわ。」

 

「待て、ロック。まだ魔法をかけてないだろう?」

 

ニヤニヤしながらそう言い放つボリス。ほかの3人も、心なしか笑いをこらえているように見える。

 

「い、いやー、なくても大丈夫じゃねぇか?それとも、俺の腕を信用出来ない?」

 

「いやいや、ロックの腕は十分信用しているとも。だが、万が一があるだろう?心配なんだよ、俺たち。」

 

「大丈夫だよ、ロック。あんな魔法でも、効果は確かだ。使った方がいいだろ?」

 

いい笑顔でそんなことを言ってくるボリスとルンドクヴィスト。ロックマイアーはため息をつきながら頭をガシガシとかく。

 

「あー、くそっ・・・。俺たちだけだぜ?『アレ』を使ってんの・・・。なんで俺ばっかり・・・。」

 

「そりゃ、お前が盗賊だからだろ?周囲の音を拾う魔法だ、盗賊や野伏(レンジャー)に使ってしかるべきだろう。それに、案外似合ってるぞ・・・ブフッ。」

 

「よしわかった。ヨーラン、てめぇは殺す。」

 

額に青筋を浮かべながら短剣を構えるロックマイアー。それに対し、ヨーランも「お?やるか?」などと言いながら相棒の槌矛(メイス)を手に取る。

 

「やめろ、2人とも。・・・危険を減らすためだ。諦めろ、ロック。」

 

「フランまで・・・。ああ、クソがっ!わかった、分かったよ!!おら、ルンド!とっととかけやがれ!」

 

「はいはい。《早足(クイック・マーチ)》、《身軽な我が身(ニンブル・ボディ)》、《静寂(サイレンス)》、《闇視(ダーク・ヴィジョン)》《感知増幅(センサーブースト)》、《鷹の目(ホークアイ)》・・・。」

 

次々に魔法を発動していくルンドクヴィスト。未だ魔力には余裕がある上に、探索はこれで最後なため大盤振る舞いだ。

 

そして、最後に『アレ』を発動する。

 

「・・・《兎の耳(ラビッツ・イヤー)》。」

 

それは、ユグドラシルにて「兎さん魔法」と呼ばれるものであり、周囲の小さな音を聞き取りやすくするという優秀な効果を持っている魔法である。

 

そして、この魔法にはひとつの特徴ーーーというか、どう見てもこっちがメインーーーがある。

 

それは、魔法の対象者の頭からうさ耳が生える、という特徴だ。つまり・・・

 

 

 

 

 

 

現在、「見えざる(ジ・アンシーイング)」の二つ名を持つ凄腕の盗賊、ロックマイアーの頭には、顔に似合わない非常に可愛らしいうさ耳が生えている、ということなのだ・・・。

 

 

「ブフッ!!」

「無理だ、やっぱ我慢出来ねぇ!ぎゃははは!!!」

「・・・・・・・・。」

「に、似合ってるぞ・・・ふふっ。」

 

「てめぇら、戻ってきたら覚えておけよ・・・?」

 

爆笑する4人にそう忠告すると、ロックマイアーは集落の方へ向かって走っていく。魔法のおかげもあってか、全く音を立てずに。心なしかその背中は哀愁が漂っているように見える・・・。

 

「あー、笑った笑った。んじゃ、俺達はここで待機するのか?」

 

「い、いや、ねんのため、私の不可視の魔法を使って隠れる・・・ブフッ!」

 

「ルンド、笑いすぎじゃねぇか・・・?」

 

「・・・・・・・・・・・。」

 

「お前もいつまでもプルップル震えてねぇで、隠れるぞフラン!!」

 

「す、すまない・・・・・。」

 

「と、とりあえず、使うぞ。・・・《不可視化(インヴィジビリティ)》。」

 

第三位階魔法である不可視の魔法を使い、近くの茂みに隠れる4人。

 

 

 

そして、しばらく経つと、ロックマイアーが焦ったような様子で戻ってくる。不可視化を見破る魔法を使っていないのに仲間の居場所にまっすぐ向かう辺り、彼の盗賊としての実力が高いのが伺える。

 

 

「よーう、ロック。うさ耳は無くなったみたいだな?何焦ってんだ?」

 

「ふざけてる場合じゃねぇぞ、ヨーラン。すぐにここを離れよう!」

 

「・・・マジみたいだな。何があった?」

 

「それは移動しながら聞くことにしよう。ルンド!ロックにも不可視化をかけてくれ!急ぐぞ!」

 

ボリスの判断に従い、ロックマイアーに魔法をかけた後、すぐに走り出す。身体能力がほかの4人に劣るルンドクヴィストは、《飛行(フライ)》の魔法を使用して追従する。

 

「それで、何があったんだ?」

 

「ゴブリンの集落を探索したんだが、殆どの個体が武装してたんだ。不審に思っていたら、「森に人間が入り込んだ」ってのが聞こえてな。調べてみると、どうも俺たちのことらしい。」

 

「なんだって!?この辺りは今日初めて探索したんだぞ?なんでゴブリン共が俺たちを知っているんだ・・・。」

 

「分からない。ただ、「インダルン様の指示」っつってたから、多分そいつが・・・っ!!ボリス!!盾構えて右!!!」

 

ロックマイアーの声に反応して、即座に盾を構えるボリス。すると、構えた方向から飛来していた火球がぶつかり、彼の体を強大な炎が包み込む。並の冒険者なら即死しているであろう威力だが、上位冒険者であり、聖騎士の職業(クラス)を修めているボリスは、魔法に対してある程度の耐性を持ち、全身を焼かれる程度ですんだ。

 

「グッ・・・!!」

 

「ボリス!!大丈夫か!《中傷治癒(ミドル・キュアウーンズ)》!!」

 

「ーー!!すまない、助かった!!」

 

即座にヨーランが回復魔法を使用し、ボリスの傷を癒す。しかし、思いのほかボリスの受けたダメージは大きく、完全に回復することは出来なかった。

 

「・・・ほう。儂の《火球(ファイヤーボール)》を受けて、生きておるのか。少しはやるようじゃの。」

 

「くそ、何者だ!!どこにいる!!」

 

「自分から姿を表すような馬鹿では無いわい。逆に、お主達の姿はまる見えじゃがの。このままなぶり殺しにしてくれよう。」

 

「・・・あんたが、インダルン様とやらかい?」

 

「・・・名前ぐらいなら構わんか。いかにも。儂がこの一帯を支配する、『リュラリュース・スペニア・アイ・インダルン』。西の魔蛇と呼ばれておる。」

 

問いに答えるリュラリュース。ロックマイアーは、トブの大森林やその周辺の強力なモンスターの情報を網羅しているが、「西の魔蛇」という名は聞いたことがなかった。今までうまく隠れていたのだろう。

その上、感覚を周りに向けると、【守護の聖剣】を囲うようにモンスター達の気配がしていた。

 

「・・・まずいぞ、ボリス。囲まれてる。」

 

「っ!そうか。どうするべきだと思う?」

 

「逃げるべきだ。こちらの不可視化が見破られている上に先程の《火球(ファイアーボール)》、俺のより威力が高い。下手したら第四位階魔法を使えるかもしれないぞ。そんなやつを相手にするのはまずい。」

 

「・・・なら、撤退戦だな。ヨーラン!フラン!ルンド!逃げ道を切り開いてくれ!ロック!どこを突破するのか、どう動くかの指示を頼む!西の魔蛇の魔法は俺が盾になって対処する!!《下位属性耐性(レッサー・プロテクション・エナジー)》!!」

 

「分かった!お前ら、一番手薄なのは向こうだ!ルンドの魔法で先制攻撃した後、フランが突撃!!ヨーランは天使を召喚して、そのままフランの援護だ!!全員、生きて帰るぞ!!」

 

「「「「おう!!」」」」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「暇だ。」

 

「いや、暇じゃなくてちゃんと仕事しなよペテル・・・。」

 

やぁやぁ、柵作りをサボった結果、柵に加えて矢まで作ることになった俺だよ!

現在、村を囲う柵を作っているのだが、なんとリリアラームさんから

「武技を練習するような元気があるなら、村全体を柵で囲うことも出来るわよね・・・?」

というお言葉を満面の笑みで頂いてしまった。いやー、あの笑顔は怖かった。フランセーンとの模擬戦の時と同等以上の威圧感だった。あれ《絶望のオーラⅠ》ぐらい出てたんじゃね?

まぁ、とにかくこんな感じで仕事量が増えた俺とギランだが、流石に量が多いからという理由でエドストレームとモーゼ、ついでにルッチの3人が手伝ってくれている。矢を作る時にはカノンも手伝ってくれるらしい。持つべきものは友だな!!

 

「ペテル君、手が止まってるよ?はやくしないと終わらないよ?」

 

「あ、はい。サーセン」

 

「なんでエドの時は反応して俺の時は無反応なんだ・・・。」

 

いや、そりゃ美幼女と小太りな少年だったら前者を選ぶでしょーよ。まぁでもモーゼはすごいと思うよ?太ってるんだもん。

いくらうちの村が他よりも余裕があるとしても、肉はたまにしか出てこないし、栄養価も偏りがちだ。それなのに太るとか、エネルギーの変換効率がすごくいいのだと思う。もはや才能じゃね?

 

「おい、今すげぇ失礼なこと考えなかったか?」

 

「気のせいだろ。細かいこと気にする男はモテない上にハゲるぞ。」

 

「やめろよ、ただでさえ父ちゃんハゲてるから気にしてんのに。」

 

「ふっ。その点うちは両方フサフサだからな!心配ないのだ。」

 

「でもじいちゃんがお前のじいちゃんはハゲだったって言ってたぞ?」

 

「なん・・・だと・・・!?」

 

「・・・二人とも、いい加減にしようね?」

 

「「サーセンした!!」」

 

エドストレームさんから《絶望のオーラⅠ》が漂い始めたので、急いで作業に戻る。杭をコンコン打ち込んで、紐を使って板を括りつけていく。この作業はかなりやりにくいので、モーゼと協力して作っていく。

 

「ペテル、そっち押さえてくれ。」

 

「ほいほい。ほら、紐。」

 

「サンキュ。」

 

俺が渡した紐を使って、モーゼは手際よく板を括りつけていく。俺はあまり手先は器用ではないので、括りつける作業はモーゼに一任している。代わりに、杭を立てたり、板を押さえるのは俺の仕事だ。

だが、エドストレームはそれを同時に行ってしまう。片手で板を押さえて、もう片方の手で紐を結んでしまうのだ。しかも綺麗に。何かコツがあるのかと思い、モーゼと2人で聞いてみたところ、

 

「?だって、手は二つあるんだよ?別々に使うだけでしょ?」

 

とのこと。試しにそれぞれの手で紐を結ばせたところ、どちらも綺麗に結んでいた。他にも、薬草をすり潰しながら怪我人に包帯を巻いたり、編み物をしながらあやとりをしたりも出来るらしい。何この子怖い。

 

前にも言った気はするが、エドストレームはずば抜けた《空間把握能力》と《両手を別々に動かす能力》を持っている。恐らくだが、これらの能力の組み合わせによって『並列思考』に近いものを身につけているのだろう。人間は普通ひとつの物事しか集中して考えられないが、エドストレームは2つ以上の物事を考えることができるかもしれない。例えば、戦闘中に相手を観察しながら退路を探したり、鍵開けしながらも周りの索敵をしたりなどなど。全力攻撃と戦略立案を同時に行えたりしたらかなり強いが、どうなんだろうか。

 

「おーい、ペテルー。とっとと杭打ってくれー。」

 

「あ、すまんすまん」

 

とりあえず杭を立てていく。

・・・めんどいなぁ。この時間を使って訓練したい。別に訓練が好きな訳では無いが、自分の能力が目に見えて上がっていく感じはとても良い。目標が目に見えるので、やる気が出るのだ。マラソンをしてる時、先が見えないと余計やる気が出なくなるが、ゴールテープが見えてると頑張れる感じだ。流石にこの数日でレベルが上がることはないが、今は武技の練習がしたい。武技はユグドラシルに無かった能力なので、多種多様な武技を覚えることでナザリック就職に大きく近づけるだろう。

 

武技についてだが、概ね戦士職が扱う魔法のようなものだ。魔力の代わりに精神力のようなものを使って発動する。

ただ、魔法との大きな違いは、魔力と違って精神力は消費されないということだ。

例えば、でっかい箱を想像してほしい。その箱いっぱいに水を入れる。それが魔力だ。魔法を使うたびに箱から水を出していく。当然、総量は減っていくので、使える量には限りがある。それが魔法だ。

対して、精神力はスイッチを想像してほしい。武技を発動すると、そのスイッチをオンにする。【盾強打】ならひとつオンにするだけで済むが、強力な武技は複数のスイッチをオンにする必要がある。その為、同時に発動出来る武技の数には限りがある。だいたいこんなイメージだ。

ちなみに、現在俺の精神力はスイッチ一つ分だ。原作から考えても、周辺諸国最強と呼ばれるガゼフも10個分ほどしか無い。なので、今のうちから武技に加えて、精神力の最大値も上昇させておきたい。

 

「・・・サボっちゃダメだよ?」

 

「なんでわかるのさ。」

 

「んー・・・特訓の成果かな?」

 

そういえば、エドストレームは今ロックマイアーから盗賊の技術を教えてもらってるんだっけか。本人も冒険者になる決心をしたらしく、頼み込んだらしい。頼み込むだけで教えてくれるロックマイアーも随分とお人好しだな。【守護の聖剣】は善人しかいないのか?

 

「なるほどね。どんなことやってるの?」

 

「えっと、暗闇に慣れるのとか、人の表情を見て考えてることを読んだり、鍵開けのやり方とか。あ、戦い方も教えてもらってるよ。」

 

「随分と本格的だね?」

 

「教えるからには手は抜かないって。」

 

「いい人だね。」

 

「うん、すごく。」

 

・・・俺もボリスやヨーランに色々聞いてみるか。特殊な武技とかを教えてもらえれば万々歳だし、冒険者としての心構えを聞いておくだけでも違うだろう。

 

「いいよな、お前らは。冒険者になるっていう目標があって。」

 

そう言いながら、モーゼがため息をつく。本人曰く、俺たちに比べて目標が無い自分が情けないらしい。

 

「いや、そんなこと考えられるだけで十分立派だと思うけど。」

 

「うん。モーゼ君しっかりしてるし、情けないことないと思うけど?」

 

それに、こんなこと言っているモーゼだが、実は農夫(ファーマー)Lv1だったりする。村を守るために自警団に入ろうと考えているらしいし、立派だ。エドストレームもそうだが、お前らほんとに年齢1桁?

 

「「いや、ペテル(君)には言われたくない。」」

 

「アッハイ。」

 

言われてみれば俺の方がおかしいわ。村の大人を差し置いて、1番強い戦士であり、魔法を使える8歳児。うん、頭おかしい。

 

「おーい、ガキンチョ共ー。終わったかー?」

 

振り返ると、ギランとルッチがこちらに来ていた。自分たちの担当部分を終わらせてきたようだ。

 

「もーちょっとー!」

 

「おーう、なら手伝うぞー。行こーぜ、ルッチ。」

 

「はいはい。モーゼ君、板を頂戴。」

 

「了解。はい、これ。」

 

「ありがとう。」

 

ギラン、ルッチ両名の手助けもあって、今日の分の柵作りは無事終了した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

次は、カノンを加えての矢作りだ。矢と言っても、矢じりがついた立派なものではなく、矢羽根をつけて先を尖らせた感じの簡単なものだ。

狩りにも使うし、戦いの時には貴重な遠距離武器になる。今回の戦いで矢が切れてしまい、なるべく多くのストックを作っておきたいらしい。

 

「それじゃ、ペテル君とルッチとギランはこの枝を削っていって。私とエドちゃん、モーゼ君で矢羽根を付けていくから。」

 

「「「「「はーい」」」」」

 

それぞれ与えられた作業を始めていく。俺たちの担当は枝を削って矢の軸の部分を作っていく。

最初は新鮮で楽しかったし、黙々と作業していたのだが・・・。

 

 

「めんどくなってきた。」

「俺も。」

 

「・・・前回それで怒られたんだろう?反省してないのか?」

 

「だって、こうも単純作業だと、ねぇ?」

 

「だよなぁ、分かるよペテル。・・・あ、そうだ。ペテル、お前って普段どんなに訓練をしてるんだ?」

 

「訓練ですか?」

 

「あ、それは俺も気になるな。何か、特別なこととかやってるのか?」

 

暇だったギランが出した話題に、意外にもルッチが食いついてきた。前回の戦いでオーガと戦ったらしいが、その時ギグの足でまといになったのが悔しいらしい。

 

「訓練って言っても、大体父さんとの一騎討ちですよ?それをずっと繰り返していくんです。」

 

「うぇ、マジかよ。ギグさんってオーガに勝つような人だぞ?そんな人と一騎討ちって・・・。」

 

「なるほど、実戦に近い形で訓練しているのか。ただ剣を振るよりもよっぽど有意義だな。俺達も今度からやってみるか?」

 

「おっ、いいねぇ。なんなら今からでもいい「仕事してからな。」・・・うぃっす。」

 

「あはは・・・何なら、僕が相手になりましょうか?」

 

「い、いやぁ、ペテルはなぁ・・・。」

 

「・・・情けないが、2人がかりでも勝てる気がしないな。」

 

そう言いながら苦笑いをする2人。まぁ、戦士(ファイター)を持っている2人でも、流石に俺の相手は厳しいだろう。ここにもう1人、誰か2人と同じくらいの実力者が入ればいい勝負になるのだろうが。

 

「そうですね、2人がかりでこられても負ける気はしませんね。」

 

「ははは、こいつめ。」

 

「・・・なら、3人ならどうだ?」

 

「3人?」

 

「カノン、聞いていただろ?俺たちのチームに入ってくれ。」

 

「え?あたし?」

 

ルッチ曰く、自分とギランは普段から一緒に訓練しているから連携が取れるが、他に前衛が入っても連携が取れないので意味が無い。しかし、弓を使う野伏(レンジャー)であるカノンならば、上手く戦えるのではと考えたとのこと。

なるほど、2人が抑えて、カノンの弓による遠距離攻撃でダメージを与える作戦か。確かに、前衛だけで戦うよりは理にかなっている。

 

 

 

「あのー・・・それ、私も混ざっちゃダメですか?」

 

「ん?エドストレームちゃんがかい?」

 

「あ、そういえばエドちゃんって今盗賊の人に色々教えてもらってるんだっけ?」

 

「はい。足でまといにはならないと思います。」

 

「本人がいいなら大丈夫だけどよ。いいのか、ペテル?4人になったぞ?」

 

「・・・まぁ、厳しいですけど。負けませんよ?」

 

「よっしゃ!ならとっとと終わらせるか!」

 

 

模擬戦の約束を取り付けたことで、やる気を取り戻したギランを筆頭に、各々自分の仕事を終わらせていく。模擬戦用に先の丸い矢も作り、ある程度矢作りが済んだところで休憩がてら模擬戦をすることとなった。

 

ちなみに、モーゼは審判だ。ついていける自信が無いらしい。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

訓練で使っている木剣を手に取り、予備武器としてもう一本腰に差しておく。そして、動物の革で作られた胸当てと盾を装備し、訓練場に向かう。

訓練場につくと、すでに5人ーーー審判のモーゼ含めーーーは装備を持ってまっていた。

 

「ペテル!準備はいいか!?」

 

「はい、大丈夫です。」

 

ギランとルッチの2人は、俺と同じくらいの木剣を手に持ち、革の胸当てを付けていた。ルッチは予備武器を持っていたが、どちらも盾は持っていない。

カノンは手に短弓(ショート・ボウ)を持ち、背中に矢筒を背負っている。中には先程作った模擬戦用の矢がたくさん入っている。

エドストレームは、身軽な格好に着替え、手には刃の潰れた短剣を持っている。これは、ロックマイアーが訓練用にと貸し出したものらしい。ただ、貸し出されたのが短剣1本だとは思えない。恐らくだが、似たような投げナイフも数本持っているだろう。

 

ここで、全員に見えないように注意しながら【能力看破の魔眼】を発動させる。

 

〜〜ステータス〜〜

名前【ギラン・グーイ】

性別【男】 年齢【18】

総合Lv【5】

農夫(ファーマー) Lv3

戦士(ファイター) Lv2

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

〜〜ステータス〜〜

名前【ルッチ・ロン】

性別【男】 年齢【18】

総合Lv【5】

農夫(ファーマー) Lv3

戦士(ファイター) Lv2

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

〜〜ステータス〜〜

名前【カノン・ビート】

性別【女】 年齢【15】

総合Lv【4】

農夫(ファーマー) Lv2

野伏(レンジャー) Lv2

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

〜〜ステータス〜〜

名前【エドストレーム】

性別【女】 年齢【9】

総合Lv【4】

▼ジーニアス/曲芸士(テンブラー) Lv2

盗賊(ローグ) Lv2

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

全員のステータスはこんな感じだ。ギランとルッチ、それにエドストレームがそれぞれ1つずつレベルを上げている。

 

うーん・・・これはちょっとばっかし厳しい。いくらこっちが戦闘職ばかりだとしても、魔法が使えないなら戦闘力は落ちる。どーしたもんか。

とりあえず、1番警戒すべきなのはエドストレームだ。俺と同じ、戦闘職でビルドが組んである彼女は、ほかの3人よりも脅威度が高い。次いで弓を使うカノンだ。

 

勝つためには、まず、後衛である2人を倒せたら俺の勝ちだ。ギランとルッチなら余裕だろう。

逆に、前衛2人を倒しても俺の勝ちだ。流石にエドストレーム1人で俺を抑えることは出来ない。

 

つまり、勝つためには前衛、または後衛を落とすことが条件だ。

 

それなら、とっととギランとルッチを落とした方が早いだろう。隙があったらカノンを狙えばいい。エドストレームを狙うのは誰か一人落としてからだ。

 

「えっと、命に関わるような行為はもちろん、大怪我に繋がるような攻撃も禁止です。

 

俺がもう戦えないと判断した時、もしくは自分はもう戦えないと自己申告した時は戦闘から外れてもらいます。

 

ペテルが4人を倒す、もしくはペテルが倒れたら模擬戦は終わりです。」

 

審判のモーゼがルールを確認していく。まぁ、ただの模擬戦だし、「オレまだ死んでないし!!」なんてわがままを言うやつもこの中にはいないだろう。

 

「あ、後、ペテルとギランさんは武技禁止です。危ないし。」

 

「えっ」

「まぁそうだろうな。・・・どした、ペテル?」

 

「い、いえ!何でもないです。」

 

これはまずい。初撃で【盾強打】を食らわせて、ギランかルッチのどちらかを早々に落とす俺の作戦が使えない。

 

てか、いくらレベル差があるとはいえ、4対1な上に魔法と武技が禁止。なかなかにハンデがでかい気がする。

 

まぁでも、あんまり魔法や武技に頼りすぎるのも良くないか。もちろんそれぞれ使いこなせるように訓練はするけど、戦士としての技量も大切だろう。今回はその訓練だと思えばいいか。

 

「それじゃ、そろそろ始めましょうか。」

 

そう言いながら俺は右手に木剣を、左手に革の盾を構える。盾で体を守りやすいように、右足を後ろに下げ、半身の構えをとる。

 

 

対する4人も、それぞれ武器を構える。

 

ギランは両手で木剣を持ち、オーソドックスな中段の構えをとる。

 

ルッチも両手で木剣を持つが、こちらは脇構えに近い構えをとっている。

 

カノンも矢筒から矢を取り出し、弓に番える。開始と同時に矢を射るつもりだろう。

 

エドストレームは短剣を逆手に持ち、低くしゃがみ込むような姿勢をとる。左手には何も持っていないが、警戒しなければ。

 

 

 

 

 

「それじゃあ、模擬戦、始め!!」

 


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