ひぐらしのなく頃に 儚   作:車輪軸

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夢中10

 サイレンの音が鳴り響く。一体全体この何もない村にどこから集まってきたのかと思える程の数のパトカーが集まっていた。

視線の先にはいつもなら放課後の部活道の笑い声が聞こえてくるはずの校舎、今は誰もどこからも楽しそうな笑い声は聞こえない。その校舎を取り囲むパトカーと警察、さらにその後ろにオレを含めた野次馬達。

 なぜこんなことになったのか、ここに来て日は浅いけれど彼女達のことはよく分かっていたつもりだった、それなのにどうしてこんなことになったのか。

 

 「ちょっとよろしいですかな」

 「えっ、あぁはい…」

 

 呆然と校舎に向けて視線をやっていると、急に声を掛けられてはっとなった。おそらく刑事であろう、声を掛けて来た男は太り気味でどこか信用し難い笑みを浮かべていた。

 

 「いえね、ここらじゃあんまり見ない顔だったもので、こんなお若い方がこの村にいらっしゃたかと思いましてねぇ。 見たところ腕を怪我されているみたいですし、こんな事態ですんで不審な方でもいらしたら何かと困りますんで」

 

 刑事の人の言い分ももっともだと思う、ただでさえこんな事件の最中に部外者が何か厄介事でも起こしたら面倒だろう。

 

 「観光で一週間ほど前からこの村に滞在していました」

 「おやまあ、こんなところに観光にくるなんてなかなか物好きですなぁ。 念の為に何か証明できるものはありますか?」

 「この腕はここに着いてから怪我したものです。治療の為にいままで診療所のほうでお世話になっていたのでそちらにでも確認してもらえば」

 「分かりました、それじゃあ後で確認しときますんで。ああいい忘れておりましたが、私は興宮の警察署のほうに勤めている大石蔵人といいます」

 「オレは…四月一日君尋です」

 

 大石さんは不審者の確認といったがそんなことは建前なのだろう、身元の確認をすると言っておきながらなかなか連絡を取ろうとしない。

 

 「ほぉなかなか珍しいお名前ですな。ところで四月一日さんは彼女のことはご存知で?」

 

 思った通り、こちらの…彼女に関する話がきっと本命だろう。警察側としてもこうなった原因を探って少しでも穏便に事を進めたいのだろう。

 

 「はい…なんどか話したりもしました…」

 「そうですか、それじゃあこの際、単刀直入に聞いちゃいますけど彼女が、竜宮礼奈さんがこんな事件を起こしたことに何か心当たりとかはありませんかねぇ?」

 「いいえ…まさかこんな事が起きるなんて思ってもみなかったです」

 

 事の発端は警察署に掛かって来た一通の電話だったそうだ。少女の声で掛かった電話の内容は学校を占拠しただの細菌テロだの宇宙人の襲撃など無茶苦茶なものだったそうだ。対応した警官も初めは悪戯電話だと思ったそうだが、電話の声はだんだんと鬼気迫るものになっていきとても演技とは思えないような声を上げ始めたので、何か薬物でもやっているいるのかと疑い始め念の為にその占拠されたという学校に様子を見に行くと、血の着いた鉈を所持した少女がいたそうだ。その後は少女が学校中にガソリンを撒いた、中には人質がいると片手にライターを持ってそういうので慌てて応援を呼んで今に至る。

 

 「そうですかそれは残念ですなぁ。それとこちらは未確認の情報なんですがね…園崎魅音さん、前原圭一さん、北条沙都子さんの三人の行方が分からなくなっているとの情報がありまして…」

 「それって…」

 

 一瞬、最悪の考えが頭をよぎる。

 

 「なんでも初めに竜宮さんの対応をした者がですね、竜宮さんがその三人は逃げたという発言を聞いていましてね。 それで念の為に彼女達の自宅なんかに確認を取りにいったら、園崎さんと前原さんはまだ帰っていないとの事で、北条さんに至っては留守で誰もいなかったそうで。 竜宮さんの言う通り、どこかに避難したか、もしくは彼女が何らかの理由で嘘を吐いていて実はあの中にいるか、ああ実は共犯だったなんてことも考えれるかもしれませんな」

 

 まあ私としては彼女達があそこにいないのは偶然だろうと思いますが、と大石さんは続けたが、オレはそうとは思えない。この世に偶然なんて無い、全ては必然なんだ。だから彼女達がここにいなかったことも何か意味があるはずなんだ。

 

 「どうして…オレにそんな事を教えてくれるんですか?」

 

 確かにオレは侑子さんに言われて不可思議な方法でここにやってきている。でもそのことを目の前の大石さんが知っているはずもない、この人からしてみれば彼女達とすこしばかり親しくなった単なる観光客のはずだ。だからそんなオレにここまで教えてくれるのか不思議に思った。

 

 「…そうですなぁ、刑事の勘、とでもいいましょうか。 正直に言うと自分でも不思議でねぇ、どうしてあなたにここまで話したのか。 ただね、なんとなく、そうなんとなくあなたに話しておく必要があると、そう思いましてね。 長い事刑事なんてやってますとね、そりゃあもういろんな現場に遭遇するもので、悲惨な事故や陰湿な事件、遺体だって何度も目にしてきました。 もうね、慣れたもんです。 ただね、最近になってそういうことに慣れてしまった自分が一瞬恐ろしくなることがあるんですな。それでそんな拍子にふと、自分が刑事になったばかりの若い頃を思い出すんですよ、あの頃は悲惨な事件が起きたりすると目を背けたくなるのを必死に堪えて、確かな正義感を持って喰らい付くようにして我武者羅に事件を追っていたことを。 それで気がつくんですな、今の自分があの頃とはうって変わっていることに、自分が機械のようになってしまったことに、それに気が着いて恐ろしく感じるんですよ。 四月一日さん、私も久しぶりに人間に戻りたい思いまして、機械のような単調なものじゃなく、目の前で起こりうる惨劇を回避したいと心の底からそう思える人間に。 だから少しでもいいんです、何かあったら教えて下さい!」

 

 そう語る大石さんの顔からどこか信用できない笑みは消えていた、代わりにその瞳から確かな意思が感じられた。その熱心な姿は確かに人間のものだと思えた。

 

 「…少し前ですけど前原君に会いました、その時…少しの間だけまるで何かに憑かれたように錯乱していました」

 

 大石さんの意思に答える為に少し様子がおかしかった前原君の事を伝える。それを聞いて目を細めた大石さんはその時の前原君の様子を詳しく聞くと、礼を言ってパトカーの群れのほうに向かって歩きだした。

 

 「大石さんは確かに人間です。機械はそもそも人間に戻りたいなんて考えないでしょうし、何よりも今のあなたの姿が人間らしくないなんてことは絶対にありません!!」

 

 大石さんの背中に向かってそう伝えると、大石さんは顔だけをこちらに向けた。

 

 「どうも私の勘は冴え渡っているみたいですな。あなたと話せてよかった。後は我々に任せてもらいますよ」

 

 その大石さんの表情はとても気分がよさそうな笑顔だった。そのままパトカーの群れに突っ込んでいくと大声でなにやら部下であろう人に指示を出し始めた。

 これなら安心できるかな、とそう思いほっとして警察や校舎の方を眺める。なんとなく解決してしまった感覚があって気を緩める。

 

 ―――漂うガソリン臭

 

 きっとなんとかなるだろう、行方不明の皆もそのうちひょっこり出てくるだろう。

 

 ―――騒ぎ出す警察

 

 そういえばお祭りがあるんだったな。彼女達と一緒に周らせてもらうのも楽しいかもしれない。

 

 ―――服の中で何かモゾモゾと動いている

 

 そうだ、無月を皆に紹介するのも面白いかもしれないな。

 

 ―――大声で野次馬に何かを叫ぶ警官達

 

 でも、沙都子ちゃんあたりに紹介すると不思議生物として弄られそうだな。

 

 ―――袖からするりと何かが抜ける

 

 本当に楽しくなりそうだな。

 

 ―――唐突に光が弾ける

 

 唐突に光が弾ける

 

 

 「無月!!」

 

 

 無月がバッと細い管のような形態から九本の尾を持つ立派な狐の姿に変わる。そのままオレの前に立ち前方に狐火を吐く。そこでやっと校舎が爆発したことに気がついた。無月はその爆風や火の粉からオレを守るようにして火を吐き続けている。

 幸いにもオレのいた位置から後ろはさほど被害は出ていないようだが、オレ達よりも校舎の近くにいた警察の人たちは怪我を負っているように見える人が何人かいる。

 近くに建物を無かったので、校舎だったものから立ち上る火の手は他に移ることなく、予め待機していた消防によって消しとめられていく。

 どうして、こんなことになったのか。これからはきっと楽しいことが待っていたはずなのに、そう思って握り拳を強くし、歯を食いしばってみても目に前の現実は変わらない。

 無月のほうはいまだ狐の形態を維持しており、火が収まりつつあるはずの校舎だった物のほうを今だに睨みつけている。

 

 「無月?」

 

 不思議に思って無月の様子を窺っている、ううと唸り声を上げると突然虚空に向かって火を吐き出す。いったい何を燃やそうとしているのかと思ってその火の先を見ると、そこの空間が何もない真っ暗な状態になっていた。

 その事に驚いているとさらに無月は四方八方に火を撒き散らし始めた。

 

 ―――そうだ

 

 空間が消えていく、まるで絵の具を洗い流すかのように。

 

 ―――思い出した…

 

 パトカーのサイレンの音も、人々も騒ぎ立てる声も消えていく。

 

 ―――ここは…

 

 飴細工のようにどろどろと溶けていく世界、音も匂いを色も全てが溶けてあとに残るのは何も無い空間。

 

 ―――この世界は…

 

 頭痛がする。いつのまにか無月も消えて、ここにいるのはオレ独り。

 

 ―――夢だ…

 

 頭痛がする。そうだ夢なのだ、早く目覚めないといけない。

 

 待っ……く…い……

 

 頭痛がする。オレを引き止める誰かの声がする。

 

 僕は…諦め………せん

 

 頭痛がする。やめてくれ、オレはもう起きなくちゃいけないんだ。

 

 だ…か……せめて…こ…を

 

 頭痛がする。誰かから何かを受け取ったような気がする。

 

 沙都子を……皆を…おね…し…

 

 頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする頭痛がする

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あら、おはよう四月一日」

 

 

 

 

 

 

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