村の中を少し歩き回ってみたけど、ほとんど田んぼや畑ばかりだった。まさに何も無いといった言葉が良く似合う。ただ、自然豊かでどこかのんびりした雰囲気は嫌いじゃなかった。
……それにしても暑い、山の中を歩いていた時は木の陰になっていて涼しかったからあまり気にならなかったけど、直接日光を浴びていると汗が出てくる。どこかで水を飲みたい。
そんな時、道の向こうから和服、いやあれは巫女服かな、を着た少女がやってきた、頭に鬼の角のようなものを逆さまにして着けていた。この村の子だろうか、ちょうどいいしどこか休める所はないか聞いてみよう。
「あの……」
近くまで来たところで少女の異常性に気がついて、出かけた言葉が思わず詰まる。そのまま少女は正面におれがいることに気がついていないかのようにして、道の端にあった石段を登っていった。
「今の子……」
一瞬何かの見間違いかと思って確認しようと石段の所まで走り、上を見上げてみた。
「やっぱり浮いてる!?」
少女は浮いていた。まわりに同調していないとか空気が読めないとかいった類の浮いているでは無く、正真正銘、浮遊して空を飛んでいた。地面から1メートルくらいの所を滑るように進んでいた。ふつう女の子は空を飛ばないはずだ。だからきっとあれは『普通』じゃない、おれが普段から視慣れている『アヤカシ』の類だ。実際
ここで彼女に出会ったこともきっと『必然』だ。だからおれは少女を追いかけて石段を駆け上った。あまり長い階段ではなかったけど頂上に鳥居があり、ここが神社であったことに気がついた。あの子はまさか神様なのだろうか。
少女は上へと登りながら、一瞬だけ振り向いておれのほうを驚いた顔をして見てきた、すぐに前を向くと少し登る速さを上げた。少女はおれより先に階段を登り切り鳥居の向こうに抜けて見えなくなった。おれも少し遅れて登り切った。
そこにはいたって普通のどこにでもありそうな感じの社があった。さっきの少女の姿は見当たらない。代わりに拝殿の賽銭箱が置いてある前の階段に別の女の子が座っていた。さっきの浮遊少女と同じくらいの年頃で髪が長くかわいらしい子だった。どことなく将来は侑子さんみたいな姿になりそうだと思った。少女は手すりにもたれかかってすうすうと寝息を立てていた。
少女はおれが近づくとふいに目を覚まして、ちいさなあくびをした。そしておれに気がついて物珍しそうに見てきた。
「あ、ごめん起こしちゃったかな」
少女は一度何かを探すように周りをきょろきょろと見回すと再びおれのほうに向き直した。
「みい? 見たことない人がいるのです」
「見たことないって……ああ村の人じゃないってことかな?」
「そうなのです。 ぼくは皆の顔を知っているのにあなたは見たことがないのです」
「おれは村の外から観光に来てるんだ」
「観光ですか?」
「うん、綿流しのお祭りってやつを見にきたんだけど……」
「富竹とおんなじなのです」
「富竹?」
「富竹はカメラマンさんなのです」
カメラマンみたいな人も来るってことは、この村のお祭りっておれが知らないだけで結構有名だったのかな。
「そうなんだ」
「そうなのです、あなたはなんていうお名前なのですか?」
「おれは四月一日 君尋っていうんだ、君は?」
「ぼくは古手 梨花といいます、にぱー☆」
自分で効果音をいれて微笑んでいる姿は年相応でとてもかわいらしく感じた。
「いい名前だね、梨花ちゃんって呼んでもいいかな?」
「はい、いいのですよー」
「ありがとう、ところで梨花ちゃん、さっきここに巫女さんの服をきた女の子がこなかったかな?」
ここに来ていたとしても梨花ちゃんには視えてないかもしれないけど、一応聞いてみた。
「ぼくはここでずっとお昼寝をしていたので分からないのです」
「そっか、じゃあ別にいいんだ」
「いいのですか?」
「うん、いいんだ」
きっとここで見失ったならきっとそれが『必然』なんだろう。
「みい、四月一日はおかしな人なのです」
「そうかな?」
「そうなのですよ~」
そういうと梨花ちゃんは階段から飛び降りた。
「ぼくは用事があるので、そろそろさよならなのです」
「そうなんだ、じゃあまた」
「ばいばいなのです」
梨花ちゃんは手を振りながら鳥居のほうに走っていった。
「あっ、ちょっとどこか休めるところを探しているんだけど、ここでゆっくりしていっても大丈夫かな?」
「はい、大丈夫なのですよ~」
「そう、ありがとう」
梨花ちゃんが石段を下り、その姿が見えなくなるまで手を振っていた。賽銭箱の前の階段に腰を下ろす。さてと、とりあえずはあの巫女服の女の子だな、少し休んだら探しにいってみよう。
――――――――――――――――――
……あら、あなたまた来たの?
それでどう? 少しは何か視えたかしら?
空飛ぶ女の子?
それはまだ『本当』じゃないわ。
確かに彼女は『本当』に近い場所にいるけれどね。
もっとヒントはないのかって?
私はただの傍観者、これ以上のことは言えないわ。
あなたがどこまで足掻くのか楽しみにしているわ。
ええ、さようなら、良い夢を……
――――――――――――――――――
……あれ、今何時だ?
梨花ちゃんと別れた後、少しだけ休憩しようと思っていたつもりがいつのまにか眠ってしまってたみたいだ。確かここに来た時はまだ太陽が真上に近い位置にあったと思うが、今はもうかなり傾いていて、西の空がやんわりと赤色に染まっていた。
いつまでもここにいるわけには行かないよな。暗くなる前にどこか泊まれる場所を探したほうがいいだろう。
足に力を入れて立ち上がる、寝ている間にかいていた汗のせいで服が張り付いて気持ち悪い。体が少しふらつく、熱中症にでもなったかもしれない。とりあえずどこか人のいるところにいって水を貰おう。
「あっ……」
石段に足を掛けようとしたその時、足がふらついて踏み外してしまった。そのまま体勢を崩してしまい石段を転げ落ちた。地面まであと数段という所でせめて受身を取ろうとして左腕を伸ばした。でも地面についたときに体重を支えきれずにおかしな方向へと曲がったのが見えた。
左腕から何かが砕けるような嫌な音がした。たぶん骨が折れた。地面に寝転んだまま痛みで腕を押さえる。蹲って呻いていると、数人の集団が道の向こうを横切るのが見えた。
「あっ、あの!」
必死に声を張り上げると、その中の一人、驚いた顔をして駆け寄ってきてくれた。
「大丈夫ですか!?」
その人を見た瞬間に腕の痛みを忘れるほど驚いた。いたって普通のどこにでもいそうな中学生くらいの男の子だったけど、その服装がいわゆるメイド服だった。どう考えてもこの村にそぐわない、もしかしたらただの変態なのか。それとも今がいつかはまだ分かっていないけど、メイド服が一般的な服装だと認知されているような時代なのだろうか。
「あっ、そのこの格好にはちょっとした事情がありまして……」
おれの目が服装に注目しているのに気がついたようだ。
「っと、そんなことよりどうしたんですか!?」
「い、いやちょっと階段から転げ落ちて・・・」
少し冷静になったところで再び腕の痛みが襲ってきた。体中から嫌な汗が出ている。
「っ!」
「大丈夫ですか!?」
「う、うん、あんまり大丈夫じゃないかも……腕が折れてるかも……」
この村には病院のような施設はあるのだろうか。
「あっ、いた!」
向こうからさっきまで男の子と一緒にいた人の一人がやってきた。長い髪を後ろで束ねてポニーテールにしていて、Tシャツにジーパンというラフな格好でどことなく男勝りな雰囲気のする女の子で、メイド服の子と同じくらいの年に見えた。
「圭ちゃんどうしたの? 急にいなくなるから皆驚いて……ってお兄さんどうしたんですか!?」
「ああなんでも階段から落ちて腕が折れてるらしいんだ」
「大変じゃん! とりあえず診療所に連れて行くよ」
診療所はあるみたいだ、ひとまず助かった。
「おお~い、みんな~圭ちゃんいたよ~」
女の子が声を上げると、道のむこうからまた三人やってきた。
「まったく圭一さんたら急にいなくな……ってそちらの方は具合が悪いように見えるのですが、大丈夫なんですの!?」
「だ、大丈夫なのかな? かな?」
「みい、四月一日なのです」
「あれ? 梨花ちゃん知り合い?」
「はいなのです、四月一日は観光客さんなのです」
「そうなんだ、とりあえず診療所まで連れて行くからみんな手伝って」
どうやらこのこの子達は梨花ちゃんの知り合いだったみたいだ。
おれはそのまま半分担がれるようにして診療所とやらに連れて行かれた。
やっとこさ三話です。
今回で部活メンバーが一応全員出ました。
次回は診療所で彼らの登場です。どうぞお楽しみに。
それではまた次回。