何かが変わるかもしれないと思った
何も変わることなんてなかった
期待なんてしていなかった
期待なんてしてなかったのかもしれない
始まるかもしれないと思った
始まりなんて無かった
終わるかもしれないと思った
終わりなんて無かった
どうやっても無理なんだ
さあこの世界はもう諦めましょう
次の終わりの始まりの準備をしよう
次の始まりの終わりの準備をしよう
さあ願い続けよう
あの日の向こうを……
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「今日もまた外出を?」
「はい、いろいろ気になることがあるんで」
「まあ構いませんが、自分が怪我人であることを忘れないようにしてくださいね」
この村に来て一週間、特に何事もなく平和な日々が過ぎていった。あの時に視た浮遊少女以外はこれといってアヤカシの類を視かけないおかげで、ここに来る前より快適に過ごせている。その浮遊少女もあれ以来視ていない、侑子さんに言われてやってきたのだからきっと何かあると思っていたのに拍子抜けだ。
「そんなにひどい怪我では無いとは言っても、何かあってからでは遅いので」
「大丈夫です、一応それなりには注意してます」
初日から怪我をしてしまった左腕も少々不便だったけど、特に問題無く治療を続けれている。
「ああ、そういえばもう一つ。今少々ガラの悪い、所謂ヤクザの人が村に滞在してるので、あまり関わり合いにならないように気をつけておいて下さい」
「そんな危ない人なんですか?」
「ええ、似たようなチンピラを集めて酒に酔って暴れまわったとか、愛人と共謀して美人局を行っているだとか、悪い噂ばかり流れているような人です」
何も起きないに越した事はないけど、ここまで平和だと逆に不安になってくる。
「それじゃあまあ、気をつけておきます」
入江先生の診察も終わり、診察室を出たその足で診療所を跡にする。
外は相変わらず蝉の声がうるさく蒸し暑い。涼しかった診療所から出た途端にぶわっと熱気が押し寄せて来る。
村は一通り見て周ったから、特に目的もなくぶらぶらと散策してみる。
「四月一日さん!」
相も変わらずのどかな田舎道を歩いていると、前原君が血相を変えて走ってきた。
「どうしたの?そんなに慌てて?」
「ちょっと…聞きたいことがあるんですけど…」
肩で息をしている前原君が落ち着くの待って何の事か聞いてみると、前にゴミ山の前で少しだけ話しそうになった鬼隠しのことだった。
どうして突然そんな事を聞いてきたのか、前原君の慌てた様子を見ているとただの好奇心だとは思えない。まさか誰かが本当に死んだ、あるいは行方不明になったのかとも思ったけど綿流しまではまだ日がある、仮に誰かが亡くなったとしても鬼隠しとは関係ない。
「聞いて…どうするの?」
「…知りたいんです。この村で起こった事、この村で起きる事、鬼隠しやオヤシロ様の事」
おれの方に話しかけながら前原君は時折、まるで睨みつけるかのように周りを見回している。何かを恐れ警戒しているようなその視線はどこか不安を感じさせる。
「どこから話そうか…」
「大体の粗筋は知っています、知りたいのはオヤシロ様についてです」
オヤシロ様についてはまだほとんど何も分かっていない、ただあの時見た浮遊少女のこともあるし、もしかしたらいるのかもしれないと思っている。
「おれもオヤシロ様についてはそんなに知っていることはないよ。伝承にあるとおりのことしか分からないよ」
「それなら…」
そこで一度言葉を区切ってこう聞いてきた。
―――オヤシロ様はいると思いますか?
おれや侑子さんみたいな特殊な人で無ければ空想や伝説としか捉えられない神様という存在、それを前原君の声色は冗談としてではなく本当にいるのかいないのか真剣に疑問に思っている様だった。
「念の為に聞くけど、その質問は『朝のニュースでやっている占いを信ているか』みたいな世間話じゃなくて本当に存在しているかどうかってことでいい?」
「はい、そうです」
どう答えたらいいのか、おれみたいに視えている人からすれば確かにいる可能性はあるけど、視えていなければそれは存在していないのと同じ、おれにとっては存在していても前原君にとっては存在してない。
「いる……かもしれない」
結局は曖昧な答えになってしまう。その答えを聞いて前原君は納得したようなしていないような微妙な表情をしていた。
「そうですか………―――ッ!!」
突然跳ねるようにして前原君がおれに向かって突っ込んできた、とっさに骨折している腕だけを庇う。前原君に体を捕まれ二人一緒に横向きに倒れこむ、ちょうど倒れ込む先は田んぼになっていて怪我は少なくて済みそうだなと妙に冷静になって考えていると、さっきまで自分の体があった位置を白い何かが猛スピードで通過していくのが見えた。
「………え?」
前原君と二人一緒に頭から田んぼに突っ込み泥だらけになったところで白いバンが道の向こうに走っていくのが見えた。その段階になって初めて、車に轢かれそうになったことと前原君に助けられたことに気がついた。
「…ッ大丈夫!?」
その前原君の様子を見ると大きな怪我は無さそうだったが、おれの声を聞いても反応を示さずただ走っていく車を睨みつけていた。
「…あ……ああ…あああああああ!!」
車が見えなくなると突然狂ったように叫びだした、訳も分からず宥めようとすると今度は頭を抱えて蹲ってしまった。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「ッ!!!」
その姿を見て一瞬後ずさりしてしまう。ごめんなさいという言葉が謝罪というよりも呪詛の様に聞こえるその姿ははっきり言って異様だった。
走って逃げたくなる気持ちを堪えて前原君の肩をゆすって正気になるように促す。
どのくらいそうしてたか、短い時間であったはずなのに嫌に長く感じた時間、急に前原君はぴたりと呟くのを止めた。顔を上げ周りを数回見回したあと、まるで今始めて気がついたかのようにおれの顔を見た。
「四月一日…さん…?」
「大丈夫前原君?」
「大丈夫…です…」
本当に大丈夫なのか疑いたくなるような顔色をしていたが、おれの心配を振り払うかのようにして立ち上がりもう一度辺りを見回した。
「とりあえずありがとう前原君、もう少しで轢かれる所だったよ」
「いえ……それよりも四月一日さんも気をつけたほうがいいですよ…」
確かに交通事故には気をつけないといけないな。さっきの車みたいに荒っぽい運転手もいるわけだし。
前原君はそのまま泥が体中に付いているのも厭わずに走っていってしまった。
それにしても前原君のさっきの様子はやっぱり異常だった、もしかしたら何か精神的な病を患っているのかもしれないな。今度入江先生に聞いてみよう。