極彩色の木々を舞うように走る一つの影。
「やあ、そんなに急いでどこに行くんだい?」
その影に、天より光が射す。
光の正体は炎。
目映く輝く紅蓮の焔に包まれた輪廻だった。
「・・・・・・・・・」
影は何も語らず、
ガキィン!
「あっぶな!?なんかしゃべろうよもう!」
影の奇襲を輪廻はカギ爪で受け止める。奇襲を防がれた影は後退して距離を取るのだった。
『無駄だな。今のアイツには意識が無い』
「誰かに操られてるとか?」
『おそらく、な。次、五時方向』
「はいよっ!」
ガキン!
またも防ぐ。
「影に沈んでの奇襲。なかなかの手合いだけど気配を隠せてなければ、意味が無いんだよねー」
そう。輪廻が影の奇襲を防げている理由がこの、ニックとの連係だ。
ニックが影の気配を読み輪廻に教える。たったそれだけ。
『九時方向』
「ん!」
ガキン!
『十二時』
ガキン!
『三時』
キン!
『十時』
キン!
『二時』キン!
『九時』キン!
『十二時』キン!
『六時』キン!
『一時』キン!
『七時』キン!
「うおお!ちょーラッシュアワー!!」
都合十二度、全ての影からの奇襲を輪廻は裁ききってしまったのだった。
「ふぃー、凄いじゃんキミ。悪魔の力をここまで使いこなせるなんて」
その言葉は、輪廻にとっては心からの称賛の言葉だったのだが・・・
『オイ輪廻、お前それ煽ってンのか?』
「え゛!?そう聞こえる?」
『聞こえるな』
「oh・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
最も、影は何も答えないが。
『・・・解析終了。どうやら前回のとは別の奴だな』
「このあと出てくる可能性は?」
『無いだろうな』
「ん、じゃあ―――――――
さっさと終わらせようか」
轟・・・!と輪廻の纏う炎が勢いを増した。
影は当然、身構える。
が、
「遅いよ」
斬られた。影は確かに、そう知覚した。
なのに、身体には傷一つ無い。
そうして自らの身体を調べて、気付いた。
先程まで纏っていた影が、取り払われていることに。
「へえ・・・・・・キミ、女の子だったんだ」
影の中から現れたのは十歳くらいの子供。
着ている衣服はあちこち摩りきれてボロボロ。四肢は細く、頬も痩けていることから、まともな食事もできないような、過酷な環境下にいたことが解る。
『ホウ・・・・・・輪廻お前、アレが女だって良く判ったな』
「ん?ああ、確かに・・・なんでだろ?」
『無意識か』
「そんなことより、あの子と契約した悪魔の名前、判った?」
『ア?何故そんなことを聞く?』
「
『・・・・・・本来、悪魔の真名を契約時以外に明かすのはご法度なんだがな・・・』
「そこをなんとか!頼むよ!
ガキィン!
少女が輪廻に襲いかかる。輪廻はニックと会話しながらも、それを受ける。
細剣による乱れ突きをカギ爪で器用に受け、弾き、かわす。
「ニック!」
『チッ――――――影を纏い、影に潜る能力。即ち『
―――――序列四十位・ラウムだ』
瞬間、少女の動きがピタリ、と止まった。
「今!」
カギ爪に炎を纏わせ、少女の胸を貫く。
「最大火力でぇぇぇぇ!!」
炎の出力を上げ、少女を――否、
ニックの扱う炎は、命あるモノを癒し、命無きモノを葬る炎。
故に、少女と悪魔のつながりを燃やすことで輪廻は、
『オイ輪廻。そこまでしてこのガキ助ける意味なんざ無いだろう。何故助ける?』
「
『ハッ!オマエらしいよ。――――OK、終いだ』
炎を消し、爪を引き抜く。
細剣を手放した少女はそのまま倒れて―――
「おっと」
輪廻の胸にすっぽりと収まった。
「生きてるよね。
『ああ、問題ない。上手く契約
「そっか・・・・・・よかっ・・・た・・・」
ばたり、とその場に倒れる。
まるで死んでいるように見えるが、深く、ゆっくりと、寝息をたてていることから、眠っているだけだろう。
「まぁ・・・初回でこの程度なら、上出来か」
倒れている二人の側に座ったニックが一人、そんなことを呟いた。
―――――――――――†――――――――――
輪廻たちの上空。そこでは、六人の勇者が大型の進化体に挑もうと、巨大化旋刃盤に乗って空を飛んでいた。
「りんくんは大丈夫かな?」
「ノープロブレム!・・・とは完全に言い切れないけど、でも平気よ。だってりっくんだもの!」
なかなかのパワーワードである。
「歌野は、輪廻のことを心から信頼しているのだな」
「オフコース!」
若葉の言葉に、歌野はニカッとはにかむ。
そうこうしている内に旋刃盤はバーテックスの群れに突撃しようとしていた。
「数が多い・・・ザコはこのまま蹴散らせるけど、進化体までは・・・」
「なら、ここは私の出番だな」
そう言って、若葉が一歩前に出る。
「オーケー!そういうことなら私がサポートするわ!」
その若葉のとなりに歌野が立つ。
「歌野?」
「一人よりも二人よ!!・・・実はこれ、前にりっくんにも言ったことがあるのよね」
「そうか・・・背中は任せた!」
「オフコース、ヒーロー!」
その言葉を合図に、二人は同時に神樹へとアクセスし、旋刃盤から飛び立つ。
若葉が降ろした精霊は『源義経』人間離れした体術を持つ武人。
壇之浦の戦いにおいて、敵軍の舟を飛ぶように渡り歩いたという伝説を持つ。その名も『八艘飛び』
今、若葉は伝説の八艘飛びをバーテックスを使って再現して魅せた。すなわち、バーテックスを蹴り加速、別のバーテックスを蹴りまた加速、また別のバーテックスを蹴り更に加速・・・と、どんどん加速していき、敵とのすれ違い様に斬る。
これだけでも通常のバーテックスは一掃できる。だが、相手には進化体も複数存在している。
だからこそ、歌野がいる。
歌野が降ろした精霊は『覚』他者の心を読む妖怪。
獲得した能力は至って単純に、『戦況予測』
歌野が知覚できる範囲内限定で、
その能力故にか、覚は力が全く強化されず、戦闘に向いているとはお世辞にも言えない。その非力さを歌野は、自身のバトルセンスで補っていた。
「「ハァァァァァァァァァァ!!!!」」
二人の奮戦により、道は開かれた。
「いくぞ!突撃ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
珠子が、友奈が、千景が、杏が、大型進化体に襲いかかる。
燃やされ、殴られ、切り裂かれ、射抜かれた大型は成す術もなくその身を崩壊させていった。
誰もが勝利を確信した。
だからこそ、大型の死に際の一撃に、誰も反応出来なかった。
「っ!!若葉ちゃん!!」
放たれた弾丸は真っ直ぐ若葉の方へ飛んでいき―――
若葉には当たらず、その目の前で爆発した。
「ぅああっ!!」
「若葉!?」
「若葉ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「・・・・・・・・・え?」
爆風に巻き込まれ、地面に向かって真っ逆さまに落ちていく若葉。
勇者たちが急いだところでもう間に合わない。
そう、勇者たちでは・・・・・・
「おっしゃトラァァァァァァァァァァァァァァァイ!!!!!!」
「りっくん!?」
輪廻だ。
落ちてきた若葉を滑り込みで受け止めてみせたのだった。
「あー、超いたい」
「・・・ぅ」
「あ、起きた?おはよう若葉。僕らの勝ちだ」
「――――――そうか」
樹海化が解けていく。
視界が花の嵐に包まれて、気が付けば丸亀城側の生け垣に座り込んでいた。
「―――なあ、輪廻」
「なんだい?」
「以前、お前は言ったな・・・『独りで抱え込むな』と」
「言ったね」
「その意味、ようやく理解できたよ」
「へぇ」
「みんなのお陰だ」
「そっか、そりゃよかった」
輪廻と若葉の下にみんなが集まってくる。
それを輪廻は手を振って、若葉は微笑んで、出迎えたのだった。
後に『丸亀城の戦い』と称される戦は、こうして幕を閉じた。
―――――――――――†――――――――――
数日後―――
「・・・なあ、友奈」
夕暮れの丸亀城。普段勇者たちが教室として使用している一室にて。
「あれ?若葉ちゃんもう帰ったんじゃないの?」
「教室にお前の姿が見えたら、つい」
「そっかあ・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
二人は無言で夕日を―――否、夕日に照らされる壁と海を見ていた。
「・・・・・・・・・あの時」
「あの時?」
「私が大型の攻撃を受けそうになった時だ」
「ああ・・・」
「あの時、私に当たる筈だったあの爆弾は、
「・・・・・・・・・
「友奈も気付いていたか」
「うん。気配をね・・・感じたんだぁ」
「そう、か・・・・・・ということは、やはり?」
「たぶん、ね」
友奈が笑う。しかし、その笑顔は普段のそれよりも弱々しくて、どこか、儚げだ。
「・・・・・・・・・友悟」
「・・・・・・・・・友くん」
二人の呟きは誰もいない教室に飲み込まれて、消えた。
瀬戸内海本州側の一角―――
「――――――状況終了」
『ハァイ♪おつかれ~』
「これで・・・四国はしばらく安全だな」
『そうね~。北海道と沖縄で、勇者とオーバードが頑張ってるみたいだからね~』
「・・・・・・逝くぞ」
『会って行かないの?』
「・・・今は、いい。どうせ後で会える」
『それもそうね~。で?どこ行くの?』
「そうだな―――――」
「諏訪にしようか」