そんな訳で、どうぞ、お納めください。
その日、おれの下にとある情報が届いた。
これを見たおれは、真っ先に禊の場に向かった。
―――――――――――†――――――――――
禊の場―――
神樹様から流れる湧水が滝となって流れる場所で、ここから四国中に、神樹様の加護が行き渡っている。
本来ここには、おれのような部外者は入れない。が、そんなことは知らない。
「邪魔だ・・・!」
「いけません、一正さま!此処より先は・・・」
「おれには!いかなくてはならない理由がある!!」
警護の神官を押し退け、禊の場に一直線に向かう。
その途中―――
「あれぇ?かずくんだ~」
いた。園子だ。
どうやら禊は終わったようで、大赦の神事服を纏っていた。
園子の手に握られたスマホを一瞥したおれは、右手を園子に差し出す。
「園子、
「・・・・・・・・・」
園子は何も言わず、こちらを見つめる。
「おまえには荷が重い。おれが代わりを務める。だから―――」
「かずくん」
園子はゆっくりと、首を左右に振った。拒絶の意だ。
「・・・・・・なぜだ?おまえが背負う必要なんて、どこにもない。『乃木家』に生まれたからと言って、おまえが勇者になる必要はどこにもないんだよ」
「・・・それでも、わたしは勇者になるよ」
「だからっ!!その必要なんて無いんだって!!」
「かずくん!」
「っ!!」
園子が吼えた。こんなこと、今まであまりなかったから、思わず怯んでしまった。
「かずくん。わたしが勇者になるのは、神樹様に選ばれたからじゃなくて、
ふにゃり、と笑って、園子は言った。
分からない。命を睹しての戦いなんて、園子には似合わない。そもそも、園子が自らそんなことを進んで受けるだなんて、あいつの性格を鑑みてもあり得ない。
「なんでさ・・・なんだって・・・そんな・・・」
「・・・・・・かずくんが、
「――――――――――――――――――は?」
訳が分からない。おれが頑張っているから?それがどう関係している?
「わたしはね、いっつもかずくんのこと見てたんだ~。かずくん、気付いてなかったでしょ?」
確かに、気付いてなかった。なにせおれにはやることがあったから。佳南のことを見ながら、上里家当主としての責務を全うしなくてはならなかったから。
「あ~、かずくんのこと、責めてるとかじゃあないんよ?かずくん、忙しそうだったし、邪魔したりしたくなかったんよ~」
よく言う。「気分転換なんよ~!」とか言って、外へおれたちを連れだしたりしてたクセに。
まあ、嫌いなんかじゃ、なかったけど。
「同い年なのに、すっごいがんばってるかずくんのお手伝いがしたかったんだけど、わたしじゃ無理だから・・・」
んな訳あるか。おまえ、おれと同じくらい頭良いだろうが。
「だからね。わたしが勇者の御役目に選ばれたって聞いて、ピッカーンときたんよ。『
「――――――――――――それが・・・理由・・・?」
「うん」
膝から、崩れ落ちた。
そんな理由で?
理解できない。
おれなんかに、そこまでの価値は無い。
おまえに、そこまでされる必要は無い。
ただ―――
「あ―――」
ああ、そうか。ようやく気付いた。
結局のところおれは、あの時と何も変わっちゃいないんだ。
両親が死ぬ前のころと何も変わらない。甘ったれのガキ。
そのくせ、粋がって独りでも平気だなんて顔してる。
「――――――――ようやく、分かったよ」
「かずくん?」
「園子、おまえが勇者になるって言うなら・・・・・・」
「おれは、
「・・・・・・・・・え?」
「じゃ、またな園子。後で会おう」
覚悟を決めたおれは、園子の声に耳を傾けることもせず、その場から走り去った。
―――――――――――†――――――――――
その場所は、大赦本庁の一角、普段使われない第二会議室にある。
壁の黒板を押す。ギィ・・・と軋む音を響かせながら、倒れるようにして、隠し扉が開く。
その先には薄暗い廊下が延々と続いている。
「・・・・・・この先、か」
意を決して隠し扉の先を行く。
「何の用だ」
行こうとして、誰かに呼び止められた。
いつの間にか、後ろに青年が立っていた。
黒いシャツとジーンズ、赤いフード付きパーカーをラフに着こなしてる。
「・・・・・・・・・あなたは、『お社』の人間ですか?」
「ホウ、ガキのクセに良く知ってる」
お社―――
六花と同じく、大赦創設の頃より存在する組織で、常に大赦の影となり暗躍してきた。
その構成員は全員、『人成らざる存在』であると言われている。
が、真偽の程は定かではない。
そもそも、お社という組織の存在すら定かではなかったのだ。
おとぎ話の存在として民草に語り継がれてはいたが、誰もその姿を見たことがなかった。
だが、上里家だけは違った。
そもそもお社を創設したのは上里家なのだ。
故におれも、お社の存在を知っていた。
知ってはいたが、来るのは今日が初めてだ。
「ア?――――オマエ、上里のガキか。なんでこんなところに居やがる」
「お―――わたしのことをご存知で?」
「ガキが猫被ってンじゃねぇよ。来い」
青年はスタスタと奥に進んで行く。その後ろをあわてて追いかけた。
―――――――――――†――――――――――
しばらく歩くと、講堂のような広い部屋に出た。
良く見ると壁が本棚になっているようで、まばらではあるが本が仕舞われている。
「―――オイ輪廻、客だ」
「あだっ」
青年が床で寝ていた少年を足蹴にしていた。
ん?今、輪廻・・・て、言った?
「痛いよニック。起こすならちゃんと起こしてよもう!」
「うるせえ、いいから客だ。相手しろ」
「えぇ・・・ニックがやってよ・・・」
「上里のガキだぞ?」
「やあ!良く来たね。歓迎するよ」
おれの名前を聞いた途端、輪廻と呼ばれた少年がこちらに笑顔を向けた。
「―――――――色々、言いたいことはあるけど、とりあえず、置いておこう」
「はっはっはー。さて、何の用事かな?」
憮然としないけど、今はどうでも良い。本題に入る。
「おれに、『悪魔の力』をください」
「・・・・・・それ、どこで聞いたの?」
輪廻さんの表情が一変し、険しくなった。
「開かずの間です」
「あー、なるほど、ね。じゃあ、
「はい」
迷うことなく答えた。
「そっかぁ。んじゃ、OK。ニックー、呂の三番から一冊ちょーだい」
ばさり、と輪廻さんの頭に一冊の本が落ちてきた。
革表紙の分厚い本だ。かなり痛そう。というか、首の骨、折れるだろ今の。
「―――――ニックさあ、僕が何かした?」
「何度もやらかして来ただろうが」
「今更になってその精算でもしようっての!?」
「だとしたらどうする?」
「焼き鳥にして喰ったろかぁ!?」
「ハッ!面白い・・・やれるモンならやってみやがれ!!」
炎を撒き散らしながら、上空に飛んでいった二人。
よく燃えないなあ・・・。というか、ここの天井高過ぎじゃない?
「――――――――」
ふと見ると、さっきの本が落ちている。
拾い上げて表示を見る。
「『契約の書』・・・かな。多分これ、ギリシャ語だよね」
本を開く。
所々読めないが要約すると、この本の魔方陣を使えば
「これを使えば―――」
早速、契約の儀式を試すことにした。
―――――――view,change:輪廻―――――――
「―――まさか、上里のガキが契約者になるとはな」
「そうだねぇ」
今、僕のはるか下の方では、ヒナの子孫が悪魔を呼び、契約を交わしていた。
え?ニックとケンカしてたんじゃないのかって?
まさかぁ!今更ケンカなんかしないよ~。
「―――――次の世代か・・・なんだかしみじみするねぇ」
「ガキを死地に送り出すのがか?」
「―――――――――今まで聞いた嫌みの中で、一番の出来映えだね、それ」
「―――――――――そりゃ良かったな」
眼下では、契約が終了したみたいで、悪魔が少年の姿で顕現していた。
「―――僕らの時代はとうに終わりを迎えた。後のことは、彼らに任せようよ」
「――――――そうか」
新たな契約者の誕生に
願わくば、彼らの行く末に光多からんことを・・・。
お社について―――
神世紀の時代、あらゆる荒事を秘密裏に処理してきた大赦直属の暗部。
代表取締役の名は、『戸塚輪廻』
西暦の時代、人々を護るために悪魔と契約した少年と同じ名だが、その関係は不明。
他にも数名、構成員が存在するが、詳細は全くの不明。
本拠地は大赦本庁内、第二会議室の黒板の奥、『秘密の書架』と呼ばれている場所がそうである。