契約者たちへの鎮魂歌   作:渚のグレイズ

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さて、こっちも動かすとしよう。

そんな訳で、どうぞ、お納めください。


時計の針が、動きだす

その日、おれの下にとある情報が届いた。

 

 

 

今代の勇者を選定。その結果を記す。

 

乃木園子

 

三ノ輪銀

 

鷲尾須美

 

以上、三名を勇者の御役目に任命する。

 

 

 

これを見たおれは、真っ先に禊の場に向かった。

 

―――――――――――†――――――――――

 

禊の場―――

 

神樹様から流れる湧水が滝となって流れる場所で、ここから四国中に、神樹様の加護が行き渡っている。

本来ここには、おれのような部外者は入れない。が、そんなことは知らない。

 

「邪魔だ・・・!」

 

「いけません、一正さま!此処より先は・・・」

 

「おれには!いかなくてはならない理由がある!!」

 

警護の神官を押し退け、禊の場に一直線に向かう。

その途中―――

 

「あれぇ?かずくんだ~」

 

いた。園子だ。

どうやら禊は終わったようで、大赦の神事服を纏っていた。

園子の手に握られたスマホを一瞥したおれは、右手を園子に差し出す。

 

「園子、()()を渡せ」

 

「・・・・・・・・・」

 

園子は何も言わず、こちらを見つめる。

 

「おまえには荷が重い。おれが代わりを務める。だから―――」

 

「かずくん」

 

園子はゆっくりと、首を左右に振った。拒絶の意だ。

 

「・・・・・・なぜだ?おまえが背負う必要なんて、どこにもない。『乃木家』に生まれたからと言って、おまえが勇者になる必要はどこにもないんだよ」

 

「・・・それでも、わたしは勇者になるよ」

 

「だからっ!!その必要なんて無いんだって!!」

 

「かずくん!」

 

「っ!!」

 

園子が吼えた。こんなこと、今まであまりなかったから、思わず怯んでしまった。

 

「かずくん。わたしが勇者になるのは、神樹様に選ばれたからじゃなくて、()()()()()()()()()()()()なんよ~」

 

ふにゃり、と笑って、園子は言った。

分からない。命を睹しての戦いなんて、園子には似合わない。そもそも、園子が自らそんなことを進んで受けるだなんて、あいつの性格を鑑みてもあり得ない。

 

「なんでさ・・・なんだって・・・そんな・・・

 

「・・・・・・かずくんが、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「――――――――――――――――――は?」

 

訳が分からない。おれが頑張っているから?それがどう関係している?

 

「わたしはね、いっつもかずくんのこと見てたんだ~。かずくん、気付いてなかったでしょ?」

 

確かに、気付いてなかった。なにせおれにはやることがあったから。佳南のことを見ながら、上里家当主としての責務を全うしなくてはならなかったから。

 

「あ~、かずくんのこと、責めてるとかじゃあないんよ?かずくん、忙しそうだったし、邪魔したりしたくなかったんよ~」

 

よく言う。「気分転換なんよ~!」とか言って、外へおれたちを連れだしたりしてたクセに。

まあ、嫌いなんかじゃ、なかったけど。

 

「同い年なのに、すっごいがんばってるかずくんのお手伝いがしたかったんだけど、わたしじゃ無理だから・・・」

 

んな訳あるか。おまえ、おれと同じくらい頭良いだろうが。

 

「だからね。わたしが勇者の御役目に選ばれたって聞いて、ピッカーンときたんよ。『()()()()()()()()()()()()()()()』って」

 

「――――――――――――それが・・・理由・・・?」

 

「うん」

 

膝から、崩れ落ちた。

そんな理由で?

理解できない。

おれなんかに、そこまでの価値は無い。

おまえに、そこまでされる必要は無い。

ただ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ―――」

 

ああ、そうか。ようやく気付いた。

結局のところおれは、あの時と何も変わっちゃいないんだ。

両親が死ぬ前のころと何も変わらない。甘ったれのガキ。

そのくせ、粋がって独りでも平気だなんて顔してる。

 

「――――――――ようやく、分かったよ」

 

「かずくん?」

 

「園子、おまえが勇者になるって言うなら・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おれは、()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・え?」

 

「じゃ、またな園子。後で会おう」

 

覚悟を決めたおれは、園子の声に耳を傾けることもせず、その場から走り去った。

 

―――――――――――†――――――――――

 

その場所は、大赦本庁の一角、普段使われない第二会議室にある。

壁の黒板を押す。ギィ・・・と軋む音を響かせながら、倒れるようにして、隠し扉が開く。

その先には薄暗い廊下が延々と続いている。

 

「・・・・・・この先、か」

 

意を決して隠し扉の先を行く。

 

「何の用だ」

 

行こうとして、誰かに呼び止められた。

いつの間にか、後ろに青年が立っていた。

黒いシャツとジーンズ、赤いフード付きパーカーをラフに着こなしてる。

 

「・・・・・・・・・あなたは、『お社』の人間ですか?」

 

「ホウ、ガキのクセに良く知ってる」

 

お社―――

 

六花と同じく、大赦創設の頃より存在する組織で、常に大赦の影となり暗躍してきた。

その構成員は全員、『人成らざる存在』であると言われている。

が、真偽の程は定かではない。

そもそも、お社という組織の存在すら定かではなかったのだ。

おとぎ話の存在として民草に語り継がれてはいたが、誰もその姿を見たことがなかった。

 

だが、上里家だけは違った。 

 

そもそもお社を創設したのは上里家なのだ。

故におれも、お社の存在を知っていた。

知ってはいたが、来るのは今日が初めてだ。

 

「ア?――――オマエ、上里のガキか。なんでこんなところに居やがる」

 

「お―――わたしのことをご存知で?」

 

「ガキが猫被ってンじゃねぇよ。来い」

 

青年はスタスタと奥に進んで行く。その後ろをあわてて追いかけた。

 

―――――――――――†――――――――――

 

しばらく歩くと、講堂のような広い部屋に出た。

良く見ると壁が本棚になっているようで、まばらではあるが本が仕舞われている。

 

「―――オイ輪廻、客だ」

 

「あだっ」

 

青年が床で寝ていた少年を足蹴にしていた。

ん?今、輪廻・・・て、言った?

 

「痛いよニック。起こすならちゃんと起こしてよもう!」

 

「うるせえ、いいから客だ。相手しろ」

 

「えぇ・・・ニックがやってよ・・・」

 

「上里のガキだぞ?」

 

「やあ!良く来たね。歓迎するよ」

 

おれの名前を聞いた途端、輪廻と呼ばれた少年がこちらに笑顔を向けた。

 

「―――――――色々、言いたいことはあるけど、とりあえず、置いておこう」

 

「はっはっはー。さて、何の用事かな?」

 

憮然としないけど、今はどうでも良い。本題に入る。

 

 

 

 

 

「おれに、『悪魔の力』をください」

 

 

 

 

 

「・・・・・・それ、どこで聞いたの?」

 

輪廻さんの表情が一変し、険しくなった。

 

「開かずの間です」

 

「あー、なるほど、ね。じゃあ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「はい」

 

迷うことなく答えた。

 

「そっかぁ。んじゃ、OK。ニックー、呂の三番から一冊ちょーだい」

 

ばさり、と輪廻さんの頭に一冊の本が落ちてきた。

革表紙の分厚い本だ。かなり痛そう。というか、首の骨、折れるだろ今の。

 

「―――――ニックさあ、僕が何かした?」

 

「何度もやらかして来ただろうが」

 

「今更になってその精算でもしようっての!?」

 

「だとしたらどうする?」

 

「焼き鳥にして喰ったろかぁ!?」

 

「ハッ!面白い・・・やれるモンならやってみやがれ!!」

 

炎を撒き散らしながら、上空に飛んでいった二人。

よく燃えないなあ・・・。というか、ここの天井高過ぎじゃない?

 

「――――――――」

 

ふと見ると、さっきの本が落ちている。

拾い上げて表示を見る。

 

「『契約の書』・・・かな。多分これ、ギリシャ語だよね」

 

本を開く。

所々読めないが要約すると、この本の魔方陣を使えば()()()()()()()()()()()()()()()()、とのこと。

 

「これを使えば―――」

 

早速、契約の儀式を試すことにした。

 

―――――――view,change:輪廻―――――――

 

「―――まさか、上里のガキが契約者になるとはな」

 

「そうだねぇ」

 

今、僕のはるか下の方では、ヒナの子孫が悪魔を呼び、契約を交わしていた。

え?ニックとケンカしてたんじゃないのかって?

まさかぁ!今更ケンカなんかしないよ~。

 

「―――――次の世代か・・・なんだかしみじみするねぇ」

 

「ガキを死地に送り出すのがか?」

 

「―――――――――今まで聞いた嫌みの中で、一番の出来映えだね、それ」

 

「―――――――――そりゃ良かったな」

 

眼下では、契約が終了したみたいで、悪魔が少年の姿で顕現していた。

 

「―――僕らの時代はとうに終わりを迎えた。後のことは、彼らに任せようよ」

 

「――――――そうか」

 

新たな契約者の誕生に呪詛(しゅくふく)を。

 

願わくば、彼らの行く末に光多からんことを・・・。




お社について―――

神世紀の時代、あらゆる荒事を秘密裏に処理してきた大赦直属の暗部。

代表取締役の名は、『戸塚輪廻』

西暦の時代、人々を護るために悪魔と契約した少年と同じ名だが、その関係は不明。

他にも数名、構成員が存在するが、詳細は全くの不明。

本拠地は大赦本庁内、第二会議室の黒板の奥、『秘密の書架』と呼ばれている場所がそうである。
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