こんな小生を許してくださる心の広いお方は、どうぞ、お納めください。
じりりりりり・・・・・・
バン!かち・・・
もぞもぞ・・・
「んぅ・・・なんだ、もう朝か」
「うん。そうだよ」
「っ!!・・・・・・て、なんだ。あんたか」
上体を起こしながら、おれに話しかけてきた少年を見る。
短髪の黒髪はボサボサで、あまり手入れはされていない。
着ている服も、半ズボンにノースリーブのシャツというラフさ加減。
正直、少しは身だしなみに気を使って欲しい。
と、この前言ったのだが―――
「んー・・・・・・考えとく」
なんて言って、この有り様。
正直、そろそろ佳南が黙っていないころだから言う通りにして欲しい。
「おはようカズマ。カナミが呼んでる」
「・・・・・・おはようミカヅキ」
彼の名はミカヅキ。おれと契約した『悪魔』だ。
―――――――――――†――――――――――
「ミカぁ!!いい加減にしやがって下さい!!食べたら磨く!身だしなみはしっかりと!!いつも言っておるでしょうが!!」
朝食後、やはり佳南が黙っていなかった。
そもそもミカヅキは自分のことにルーズすぎる。
これを期にちゃんと身だしなみにも気を使えるようになって欲しいものだ。
「それより時間。良いの?」
「む・・・確かにもうこんな時間・・・」
「佳南、おれは先に行くから」
「あー!あにさま待つですよ!ミカぁ!外出の際は戸締まり、ちゃんとするですよ!良いですね?」
「うん。いってらっしゃい」
ミカヅキに見送られておれたちは家を出る。
あいつがうちに来てしばらく経つが、やっぱり、こうやって、誰かに『いってらっしゃい』を言われるのは、ずいぶんと久しぶりに思う。
「いってきます」
「いってきまーっす!」
だから、おれたちの『いってきます』が、少し弾んだものに聞こえるのも、仕方のないことかも知れない。
―――――――――――†――――――――――
学校へ向かう前に、乃木家に寄る。
理由は明白。寝坊助園子を叩き起こす為だ。
「おーい、園子ー。朝だぞ起きろー」
ふすまをスパァーンと勢いよく開き、園子の寝室に入る。
布団で愛用のネコ型枕―サンチョさんを抱き締めて眠る園子に近寄り、ゆする。
「おーきーろー」
「zzz・・・」
起きない。が、ここまでは想定内。必殺の起床術をお見せしよう。
「サンチョさんに嫌われるぞー?」
園子の耳元でネガティブなことを囁く。
こうすることで想像力豊かな園子は、一瞬で悪夢を見る。これぞ、秘技『園子起こし』
「んー・・・サンチョさんが・・・あ、まってよ・・・おいてかないで・・・」
「・・・・・・・・・」
園子が悪夢にうなされている。ものすごい罪悪感にさいなまれるが、心を鬼にして、耐える。
「まって!サンチョさぁぁぁぁぁぁんん!!―――――――――あれ?」
「おはよ。やっと起きたか」
「・・・・・・・かーずーくーんー?」
「怒るならさっさと起きること。ほら、準備して」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
園子が黙ってばんざいしたまま動かない。
これは、まさか―――――
「お着替え手伝って~?」
「・・・・・・おまえ、それでいいのか?」
「??かずくんになら、なにされても平気だよ~?」
ぽわぽわした笑顔で、そんなことを言う。
やめろ。そんな無邪気な笑顔をこちらに向けるな!
変なこと考えたおれがやらしいみたいじゃないか!
「つーか、誰かに聞かれでもしたら―――」
ふと、後ろを振り返れば、園子のお母さんと、目が合った。
「―――――」ニコッ
「―――――」(白目)
すごく、しにたい。
―――――――――――†――――――――――
朝のひと悶着をなんとか収め、学校へ向かう。
園子とはクラスが別な為、教室の前でお別れだ。
そこでも園子のやつがゴネるが、なんとか説き伏せ、
「おはよう」
挨拶は大事。たとえ、返事が返ってこなくとも・・・
なんだよ。泣いてねーよ。悲しいとも思ってねーよ!
「・・・・・・・・・おはよう」
「おっはよーう!しょくん!今日も元気かーい!」
おれの後から、二人の少女がやってくる。
物静かな方は、山伏しずく
やかましい方は、枢木アスカ
この二人はよく一緒にいる。というか、山伏は枢木の家に厄介になっているそうだ。理由は知らない。多分、知らない方が良い類いのやつだ。
「へいへいへーい!カズヤ!おっはようさん!」
両手を広げてこちらに突きだしてくる。ハイタッチをご所望のようだ。
「・・・・・・・・・・一正だ」ペチン
「元気が無いなー!そんなんじゃボクの友達第二号としてなさけないぞー!」
うるせえ、そんなもんになった覚えは無い。
と、言おうと思ったが、やめた。こいつに理屈は通じない。
「・・・・・・・・・・・はぁー」
「・・・・・・・・・・・上里」
ため息をついていたら、山伏が話しかけてきた。珍しい。
「いつもありがとう。アスカの相手、してくれて」
「・・・・・あいつ曰く、おれたちは友達らしいからな」
「ん」
穏やかに微笑む山伏を見て、
こいつ、こんな顔もできるのか・・・
と思ったのはしゃべらないでおこう。
「おっ?ずっくがカズヤとなんかいーふいんき!」
「一正だ。いい加減、名前間違えんな」
ほんとにこいつは空気を台無しにする天才か。
そうこうしているうちに、担任の先生がやってきた。
「ヤバイ遅刻するー!」
廊下からそんな声が聞こえてきたが、無視して号令をかける。
「起立」
「礼」
「神樹様に、拝」
これが、神世紀における号令。いつも我々を見守ってくださり、ありがとうございます。と感謝の念を捧げてから、朝の学活に入る。
はずだった
―――――――――――†――――――――――
それは、唐突に訪れた。
「ん・・・?」
これから担任の高嶋先生による、
しかし――――
「時間が・・・・・・止まってる・・・・・・?」
そう、周囲の時間が停止していた。つまりこれは―――
「園子たちと合流するべきだな」
そう思い、教室から出ようとした時、大橋の方角から、目映い光が周囲を包んだ。
あまりの眩しさに目を閉じる。
光が収まった時、景色は一変していた。
「これが・・・・・・樹海化・・・・・・」
資料を読んでいて、知識としては知っていても、実際に体験すると、やはり、思うものがある。
「あ~。かずくんだ~♪」
ふと、後ろから園子の声が聞こえてきた。
振り返れば、園子ともう二人、――たしか、鷲尾須美と三ノ輪銀、だったか――がいた。
「お~い」
こっちに向かって手を振る園子に手を振り返し、大橋の方を見る。
青い異形が、悠然と、大橋を進んでいた。
「あいつが、バーテックスか」
バーテックス―――
この世界を滅ぼすモノ。
アレが神樹様にたどり着いた瞬間、四国に張られた結界が解け、人類は滅ぶ。
「させるかよ・・・」
決意と共に端末を握る。
「変・・・身っ!!」
右手首に巻いたリストバンドに端末を装着。
すると、端末から光が溢れ出し、全身を包み込んだ。
弾けるようにして光が消えた時、おれの纏う衣服は、制服から右腕だけ袖の無い左右非対称な白い勇者服になっていた。
その後、リストバンドから無数のコードが伸び、右腕を被う。その上に無骨な装甲が被さっていく。
赤と青の肩アーマーが装着された後、右手にも装甲が装着される。
五本の指には鋭利な爪、手のひらには電極、そして、手の甲には煌々と輝く光が封じ込まれた宝玉が、それぞれ嵌め込まれた。
「ん―――準備完了!」
「おおっ!なんかちょーカッケェ!!」
「わあ~♪かずくんかっこい~!」
「あれが・・・・契約者の・・・」
三者三様の反応を余所に、おれは一人、大橋へ向かう。
「え!?ちょっと!上里くん!?」
鷲尾須美がなにか言っているが、無視だ。あいつ一体、おれ一人でなんとかしてみせる・・・!
「覚悟しろバーテックス・・・・・・テメェらはおれが滅ぼす!!」
モザイクのカケラ、一つ一つ繋ぎ合わせて描いていく。
貴女がくれた、出会いと別れを―――