うたのんとの出会いのお話です。
それでは、どうぞ、お納めください
「これで・・・フィニッシュ!」
歌野の鞭が最後のバーテックスを打ち、今日の戦闘は終了した。
「や、お疲れ様だね。歌野」
「りっくんもお疲れ!さあ!今日もレッツ農作業!」
「やれやれ、歌野は疲れ知らずだねぇ」
諏訪に流れ着いてはや二年、もう少しで三年になる。
最初は僕を快く思っていなかった諏訪の人々も、今では軽口を言い合えるような仲になった。
歌野とみぃは成長して、かわいらしくなった。
僕はというと、あの頃となんら変わりないように思う。
特に、身長。
なんだって160超えたくらいでストップするかね。親父だって170はちゃんと超えていたぞ。じいちゃんは知らない。僕も今年で18になったというのに平均すら下回るとはどういう了見なんだ。
「まあまあ、私はそんなりっくんもナイスで好きよ」
「僕は嫌いなの。というか、心を読まないでよ」
「だってりっくん、フェイスに出やすいんだもの」
なんだそれは。顔に出やすいだろーが。
「うたのーん。りっくーん」
「あ!みーちゃん!」
「やっほ、みぃ。今日の襲撃も乗りきれたよ」
そうこう話しているうちに、みぃが僕らの下に走り寄ってきた。
歌野とみぃ、二人には言葉で表し尽くせないくらいにお世話になった。
「(だから、二人のこともこの諏訪も、僕が守るんだ。今度こそ・・・!)」
再度、決意を固めていると・・・
「・・・・・・オイ輪廻!」
「うぉっ!びっくりしたぁー・・・」
いきなり後ろから声をかけられた。
黒いシャツとジーンズ、赤いフード付きパーカーをラフに着こなしてるこの男の名前は『ニック』。
僕と契約した悪魔だ。
人間の姿をしているが本人いわく、「その方が都合が良い」からだとか。
「出たわねデビルマン!相変わらず神出鬼没なやつ・・・!」
「黙ってろ土女」
「つちっ・・・!」
「ハイハイ、ステイだよステイ。歌野もニックもケンカしなーいの」
まったく、顔を合わせればすぐこれだ・・・。
やっぱ神サマ(の加護を受けた人間)と悪魔だから水と油みたいな関係なのかな?
みぃなんか萎縮しちゃって僕の後ろに隠れてるし。
「で、何の用?僕はこれから歌野と一緒に畑に・・・」
「オマエ、いつまで此処にいるつもりだ?」
「!!」
みぃの身体が強ばったのを背中越しに感じた。
しかし、気付かないフリをして、ニックに問いかける。
「・・・・・・・・・どういう意味?」
ニックは鼻で笑って続ける。
「ハッ・・・分かってんだろ?此処はもう持たない」
「―――――」
「今ならまだ間に合う。とっととズラかるぞ」
「やだよ」
僕が拒絶した途端、ニックが僕の胸ぐらを掴みかかってきた。
「りっくん!」
「ニック!りっくんに何してるの!」
「・・・・・・・・・離してよ」
「断わる。このまま連れていく・・・!」
「だから嫌だって!」
ニックを振り払い、その場から走り去る。
「(ふざけんな・・・!僕はもう二度と・・・二度と失う訳にはいかないんだ・・・・・・!!)」
しばらく走ると、いつの間にか蕎麦畑が一望できる高台に来ていた。
ここは僕のお気に入りの場所の一つ。
だから、いつの間にか来てしまっていたのかもしれない。
その場に座り込み、蕎麦畑を眺めながらぽつぽつと、思いだしていた。
諏訪に来たあの日のことを―――
―――――――――――†――――――――――
故郷を滅ぼされ、すべてを失った僕は、ただ呆然と生かされていた。
「オイ輪廻!いい加減自分で歩け!」
ニックに背負われて、どこかに向かっている。
食事にしたってニック任せ。
でも、それもどうでもよかった。
ただひたすらに、何もしたくなかった。
とにかくさっさと死にたかった。
「なんで僕を生かしておくのさ」
「オマエには生きていてもらわなきゃ困るんだよ!オレがこちらに存在し続ける為に!」
なるほど、それは確かに僕に死んで欲しくないよね。
でも、そんなのどうでもいい。
「どうだって良かねェんだよ!いいから来い!」
「背負われてる人間に言う?あと、なんで僕の考えてることがわかるのさ」
「うるせぇ!何もしねェなら黙ってろ!」
「・・・・・・・・・」
そうやってニックに背負われ運ばれること数日。
僕たちはバーテックスに襲われた。
「チッ―――よりにもよってこんな所でか・・・!」
ニックが悪態をつく。その背中をどうしてか、僕は踏み台にして跳躍していた。
「―――――――」
「ッ!!オイ輪廻!」
両腕に僕の武器たるカギ爪付きの小手を装着し、バーテックスを切り裂いていく。
ああ、なんだって僕はこんな無駄なことをやっているのかな。
死にたかったならこんなに抵抗なんてしなければいいのに。
なんで―――
なんでこんなに、身体中が熱いんだ。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
叫び、跳び、切り裂く。
自分のことなんてお構い無しの無茶苦茶な戦法。
今、この身体を動かしているのは、きっと、僕じゃない誰かなんだろうな・・・なんて、まるで他人事の様に考えながらも、バーテックスを惨殺していく。
そんなだったから、僕は背後から近づくバーテックスに気付かなかった。
「輪廻!後ろだ!」
「っ!」
ニックの声に振り向くが、時すでに遅し。
バーテックスの体当たりをまともに喰らい、吹き飛ばされる。
「ガッ!」
たったの一撃で僕の身体はズタズタにされた。
「(あ、これは死んだな・・・)」
やはり他人事の様に考えている。自分のことなのに。
でも、これで全部終わりにできる。
そう思って成り行きに身を任せていたら―――
「ハアアアアアアアアアアアアア!!!!」
風を斬る音と共に目の前のバーテックスが朽ちる様に消失していった。
「・・・・・・なに・・・が・・・?」
「キミ!大丈夫?」
いつの間にか、鞭を持った少女が僕の目の前にしゃがみ込んでいた。
心配そうにこちらを見る彼女の瞳を見ていると、少しだけ、穏やかな気持ちになったのを今でも覚えている。
僕が少女に何か言おうとしたその時、
「輪廻テメェ!」
突如として現れたニックに頭をおもいっきり蹴飛ばされた。
「ごふっ」
「!?!?!?!?」
あまりのことに少女は目を白黒させて、ぽかーん、としている。
そんな彼女のことを無視して、ニックは僕の首根っこを掴んでがっくがく揺らしながら叫ぶ。
「死ぬなっつってんだろうが!テメェが死んだらオレがこの世に現界し続けらんねェんだよ!」
「あ・・・・・・ま・・・・・・ちょ・・・・・・」
さっきの戦闘でのダメージ+ニックに蹴飛ばされたダメージ+揺さぶりにより、大真面目に死にかける僕。
それを見かねたのか、それともようやく思考が現実に追い付いたのか、(多分、後者)少女があわててニックを止めた。
「ストップ!ストーップ!それ以上やったら彼、本当に死んじゃうから!」
「・・・・・・あ」
「―――――――――」
ちなみにこの時点で僕の意識は、ほとんど吹っ飛びかけていた。
「早くこっちに!安全な場所で治療しましょう!」
「・・・・・・チッ、一理あるな」
少女に導かれつつ、ニックは僕を運ぶ。
その背に揺られる僕は、今までギリギリ保っていた意識を、ようやく手放すことにしたのだった。
これが、僕と歌野のファーストコンタクト。
今だから思うけど、なかなか刺激的な出会い形をしたと思う。
―――――――――――†――――――――――
「りっくーん、どこにいるのー?」
みぃの呼び声で我に帰る。
どうも少し寝ていたみたいだ。
「みぃ、ここだよ」
「あ、りっくん。よかった、やっと見つけた」
とてとて、と走りながら僕の隣にやってくる。
息を整えて僕の隣に座るみぃを眺めていたら
「な・・・なにかな?私の顔になにかついてる?」
顔を赤くして、しどろもどろしてるみぃはかわいいと思う。
歌野なら多分、同意してくれるかもしれない。
「別に?ただ・・・二年もすれば、人ってこんなにも変わるモンなんだなぁって思ってね」
「???」
「みぃはかわいいな、って話」
僕がそう言うと、みぃは顔を真っ赤にして大慌て。
うん、やっぱりかわいい。
「かわっ!!そ・・・そんなことっ!そんなことないって!私なんか別に・・・」
「僕は本気だよ?」
「っ!―――――」
さらに顔を赤くしたみぃが、ふと、半眼になって僕をにらむ。
「りっくん、それ、うたのんにも言ってるでしょ?」
「あ、バレた?」
「むうううう!!やっぱりからかってる!りっくんのいじわる!」
頬を膨らませて、みぃが両手でぽかぽか叩いてくる。かわいい。
「あはは♪ごめんごめん。でも、僕はホントに本気だよ?」
「・・・・・・うたのんのことも?」
「とーぜん」
「・・・・・・・・・『二兎を追う者は一兎をも得ず』ってことわざ、知ってる?」
「僕の脳内辞書には無いねぇ」
「それ、絶対壊れてる」
「あれ?知らないの?」
おもむろに立ち上がり、みぃの方を振り返りつつ、告げる。
「僕はもう、ずっと前から壊れてるよ。大事なモノをなくした、あの日から・・・ね」
その時のみぃの表情は、とても、悲しそうだった。
―――――――――――†――――――――――
これは、諏訪が崩壊する前の記憶。
今の僕を形作る上で必要不可欠な、大事なモノの一つ。
ニックについて
CV・三浦涼介(あくまでも個人的なイメージ)
身長・176㎝
輪廻と契約した悪魔。
口が悪く、性格も少しひねくれている。
が、契約した相手にはそれなりに敬意をはらう。
悪魔は普段、別次元に存在しているが『契約の書』を使って契約した人間を通して、此方の世界に自身を投影している。
その為、契約を切られると悪魔は存在を保てなくなり、消滅してしまう。
(本体は別次元に存在しているので死ぬ訳ではない)
好物はアイス。
冬だろうとお構い無しによく食べている。