佳南が風邪をひいた。
両親が死んでからは、人一倍健康に気を使うようになった佳南が、だ。
「──────佳南」
「あにさま。佳南を気遣って遠足を休むだなどと言った日には、その舌の根、切り落としやがりますよ?」
「37度5分の熱が出ていて、よくもまあそんな口が効ける─────分かった、行ってくる。ミカ、佳南の面倒を見ていてくれる?」
『うん』
返事をしたのは、足元のドラム缶。
これは、おれがとある映画を見て思い付いたオートボットで、普段は端末内にいるか、人型になっておれの近くにいるミカヅキが、おれから離れた場所でも自由に動けるようにと製作した物だ。
本来、悪魔は契約を行った後ならば、契約者から離れて行動可能らしいが、ミカの場合は諸事情につき、おれから10m圏内から遠くへは行く事が出来ない。
しかし、このオートボットがあれば、何処へでも行き来できるようになるのだ。
今回は試運転も兼ねて、佳南の面倒を見て貰う事にしよう。
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「────なんて事があった」
「かなみン、元気になると良いねぇ」
「・・・・ちょっと、心配」
バス車内にて、アスカと山伏と会話する。
別クラスである園子たちとはバスも別であるが、公園では同じ班で行動できるように、先生方が取り計らってくれている。
「ま!何はともあれ、かなみンの分も目一杯楽しもうよ!」
「・・・・・・そうだな」
「ん!」
そうこう話している内に、バスは目的地に到着した。
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「わわわっ!?揺れる揺れる~~!?」
合流したおれたちは今、アスレチックコースを攻略中。
まあ、園子も楽しんでいるようでなによりだ。アイツらしい独特な楽しみ方をしているが。
「──────上里、どうしたの?」
「何が?」
「さっきから、なんというか・・・・・んと・・・・」
「あー、確かに。カズヤ「一正だ」・・・・こほん。さっきからなんか、行動が慎重過ぎってゆーか、なんというか・・・もしかしてだけど・・・・
そう言ってアスカは、右手の人差し指と親指で輪を作り、そこに左手人差し指を抜き差し抜き差し────
「止めい。見えてるから」
「?」
アスカの行動の意味がわからないようで、山伏はキョトンとしている。うん、お前はそのままでいてくれ・・・
「・・・・・・ま、良いや」
とりあえずその場は納得してくれたようで、両手の動きを止めてくれた。
─────その内、話さなくちゃ・・・かな。
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アスレチックコースもいよいよラスト。
アスカと山伏に怪しまれつつも、騙し騙しここまで来れた。
「ふふん♪この程度、銀さんならヨユーヨユー♪」
「ちょっと銀!危ないわよ!」
銀が片手だけでロープを登っていく。あれは・・・・不味いな。と思った傍から────
「痛っ─────あっ!?」
「銀っ!!」
「わわっ!?ミノさん!!」
「っ!!!」
手を滑らせて(?)銀が落ちる。ダッシュで銀の落下地点を予測しつつ、そこに飛び込む。
「ぐえ」
「あた!?・・・・・・うわっ!カズマ!?」
「二人とも大丈夫!?」
「かずくんナイス飛び込み~」
「───────本当は上手い事キャッチしたかったんだがな」
銀がおれの上から退いた後、ゆっくりと立ち上がる。うん、銀にはどこも怪我は無いな。
「・・・・・・ごめん、カズマ。アタシのせいで───」
「ん?何がだ?」
「え?」
「おれなら無事だ。そしてお前も無事だ。なら、今回の事を反省すれば、それだけで良い」
「──────カズマ」
「駄目よ」
須美の奴がピシャリと言い放つ。あーあ、相当ご立腹なようで・・・・
「もう!危ないって言ったじゃない!!はしゃぐのは結構だけど、もうちょっと慎重に行動して!!」
「うぅ・・・・・ごめんなさい・・・・」
「まあまあ、ミノさんも反省してるみたいだし・・・・ね?」
「むー・・・・」
園子が須美を宥め、銀は俯く。
「うん・・・・反省してるよ・・・・・これからは──────口数を減らします♪」
テヘペロ♪なんて言いそうな顔で銀は宣言した。
「──────反省してない」
「・・・・・・・・・・・・」
「?アスカ・・・・?」
「ふぇ?」
山伏の声に、何か思案していたアスカが山伏の方を見る。
「──────大丈夫?」
「え・・・あ・・・あー、うん。ボクはへーき!それよりずっく。みんなと一緒にアレ、行って来なよ」
「アレ?・・・・どれ?」
「やだなぁ~。アレって言ったら、アレじゃん」
そう言って、アスカはゴールの向こうにあるものを指差した。
―――――――――――†――――――――――
アスレチックコース全制覇の鐘が鳴り響く中、おれはアスカと共に先に展望台に来ていた。
「───────んで、何について聞きたいんだ?」
「ありゃ、バレバレ?」
「露骨に山伏追い払っておいてよく言う。アイツは、このメンバーで
「えー?ボクはー?」
「
「────────そっちも、バレバレなのね」
薄く笑うとアスカは、
髪色こそ異なれど、その容姿はまさしく────
「なら、ここから先は枢木アスカとしてではなく、"私"として喋らせてもらうわね」
「─────────お前・・・いや、貴方は」
名前を言おうとしたおれだったが、その前に、"彼女"が人差し指を唇に当て、『静かに』とジェスチャーを送ってきた。
「迂闊に名前を呼んでは駄目。ここにいる私は、あくまで枢木アスカなんだから」
「───────失礼しました」
よろしい、と静かに微笑む"彼女"は、やはり、普段のアスカとは似ても似つかない。
「私の事は別にいいの。本題はあなたの事よ」
「───────何が、聞きたいので?」
「単刀直入に聞くわ。あなた・・・・・・
その問い方は、事情をよく知る者でないと理解できない問い方。
それに対し、おれは────
「・・・・・・・これを」
「眼鏡?」
掛けていた眼鏡を外して、"彼女"に手渡す。
"彼女"はそれを掛け、そして把握した。
「・・・・この眼鏡。物体との距離が表示されるようになってるのね」
「はい。造るのには結構、苦心しました」
「・・・・・でしょうね。なんたって、
そう。
おれは物体との距離感覚が把握出来ない。これこそが、おれがミカと契約した際に支払われた対価。今のおれは、本来ならば歩く事すら困難な状態なのだ。
「それを科学力で補ってみせるなんて・・・・・・馬鹿と天才は紙一重とは、よく言ったものね」
「称賛の言葉と受け取らせてもらいます。で?」
「え?」
「こんな事を聞いて、どうするつもりです?」
「──────別に」
抑揚無く、呟くようにそう返した"彼女"の横顔は、どこか哀しげだった。
そして、運命の時が来る─────
一正の眼鏡に表示される情報は、端末内のミカヅキが調整している。
その為、状況の変化に即座に対応できる。