契約者たちへの鎮魂歌   作:渚のグレイズ

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7月10日 -序-

佳南が風邪をひいた。

両親が死んでからは、人一倍健康に気を使うようになった佳南が、だ。

 

「──────佳南」

「あにさま。佳南を気遣って遠足を休むだなどと言った日には、その舌の根、切り落としやがりますよ?」

「37度5分の熱が出ていて、よくもまあそんな口が効ける─────分かった、行ってくる。ミカ、佳南の面倒を見ていてくれる?」

『うん』

 

返事をしたのは、足元のドラム缶。

これは、おれがとある映画を見て思い付いたオートボットで、普段は端末内にいるか、人型になっておれの近くにいるミカヅキが、おれから離れた場所でも自由に動けるようにと製作した物だ。

本来、悪魔は契約を行った後ならば、契約者から離れて行動可能らしいが、ミカの場合は諸事情につき、おれから10m圏内から遠くへは行く事が出来ない。

しかし、このオートボットがあれば、何処へでも行き来できるようになるのだ。

今回は試運転も兼ねて、佳南の面倒を見て貰う事にしよう。

 

―――――――――――†――――――――――

 

「────なんて事があった」

「かなみン、元気になると良いねぇ」

「・・・・ちょっと、心配」

 

バス車内にて、アスカと山伏と会話する。

別クラスである園子たちとはバスも別であるが、公園では同じ班で行動できるように、先生方が取り計らってくれている。

 

「ま!何はともあれ、かなみンの分も目一杯楽しもうよ!」

「・・・・・・そうだな」

「ん!」

 

そうこう話している内に、バスは目的地に到着した。

 

―――――――――――†――――――――――

 

「わわわっ!?揺れる揺れる~~!?」

 

合流したおれたちは今、アスレチックコースを攻略中。

まあ、園子も楽しんでいるようでなによりだ。アイツらしい独特な楽しみ方をしているが。

 

「──────上里、どうしたの?」

「何が?」

「さっきから、なんというか・・・・・んと・・・・」

「あー、確かに。カズヤ「一正だ」・・・・こほん。さっきからなんか、行動が慎重過ぎってゆーか、なんというか・・・もしかしてだけど・・・・()()()()()()()()?これ見える?」

 

そう言ってアスカは、右手の人差し指と親指で輪を作り、そこに左手人差し指を抜き差し抜き差し────

 

「止めい。見えてるから」

「?」

 

アスカの行動の意味がわからないようで、山伏はキョトンとしている。うん、お前はそのままでいてくれ・・・

 

「・・・・・・ま、良いや」

 

とりあえずその場は納得してくれたようで、両手の動きを止めてくれた。

─────その内、話さなくちゃ・・・かな。

 

―――――――――――†――――――――――

 

アスレチックコースもいよいよラスト。

アスカと山伏に怪しまれつつも、騙し騙しここまで来れた。

 

「ふふん♪この程度、銀さんならヨユーヨユー♪」

「ちょっと銀!危ないわよ!」

 

銀が片手だけでロープを登っていく。あれは・・・・不味いな。と思った傍から────

 

「痛っ─────あっ!?」

「銀っ!!」

「わわっ!?ミノさん!!」

「っ!!!」

 

手を滑らせて(?)銀が落ちる。ダッシュで銀の落下地点を予測しつつ、そこに飛び込む。

 

「ぐえ」

「あた!?・・・・・・うわっ!カズマ!?」

「二人とも大丈夫!?」

「かずくんナイス飛び込み~」

「───────本当は上手い事キャッチしたかったんだがな」

 

銀がおれの上から退いた後、ゆっくりと立ち上がる。うん、銀にはどこも怪我は無いな。

 

「・・・・・・ごめん、カズマ。アタシのせいで───」

「ん?何がだ?」

「え?」

「おれなら無事だ。そしてお前も無事だ。なら、今回の事を反省すれば、それだけで良い」

「──────カズマ」

「駄目よ」

 

須美の奴がピシャリと言い放つ。あーあ、相当ご立腹なようで・・・・

 

「もう!危ないって言ったじゃない!!はしゃぐのは結構だけど、もうちょっと慎重に行動して!!」

「うぅ・・・・・ごめんなさい・・・・」

「まあまあ、ミノさんも反省してるみたいだし・・・・ね?」

「むー・・・・」

 

園子が須美を宥め、銀は俯く。

 

「うん・・・・反省してるよ・・・・・これからは──────口数を減らします♪」

 

テヘペロ♪なんて言いそうな顔で銀は宣言した。

 

「──────反省してない」

「・・・・・・・・・・・・」

「?アスカ・・・・?」

「ふぇ?」

 

山伏の声に、何か思案していたアスカが山伏の方を見る。

 

「──────大丈夫?」

「え・・・あ・・・あー、うん。ボクはへーき!それよりずっく。みんなと一緒にアレ、行って来なよ」

「アレ?・・・・どれ?」

「やだなぁ~。アレって言ったら、アレじゃん」

 

そう言って、アスカはゴールの向こうにあるものを指差した。

 

―――――――――――†――――――――――

 

アスレチックコース全制覇の鐘が鳴り響く中、おれはアスカと共に先に展望台に来ていた。

 

「───────んで、何について聞きたいんだ?」

「ありゃ、バレバレ?」

「露骨に山伏追い払っておいてよく言う。アイツは、このメンバーで()()()()()()()()()()()()()()()・・・・」

「えー?ボクはー?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「────────そっちも、バレバレなのね」

 

薄く笑うとアスカは、自身の髪型(シニヨン)をほどき、左側頭部でサイドアップを作る。

髪色こそ異なれど、その容姿はまさしく────

 

「なら、ここから先は枢木アスカとしてではなく、"私"として喋らせてもらうわね」

「─────────お前・・・いや、貴方は」

 

名前を言おうとしたおれだったが、その前に、"彼女"が人差し指を唇に当て、『静かに』とジェスチャーを送ってきた。

 

「迂闊に名前を呼んでは駄目。ここにいる私は、あくまで枢木アスカなんだから」

「───────失礼しました」

 

よろしい、と静かに微笑む"彼女"は、やはり、普段のアスカとは似ても似つかない。

 

「私の事は別にいいの。本題はあなたの事よ」

「───────何が、聞きたいので?」

「単刀直入に聞くわ。あなた・・・・・・()()()()()()()()?」

 

その問い方は、事情をよく知る者でないと理解できない問い方。

それに対し、おれは────

 

「・・・・・・・これを」

「眼鏡?」

 

掛けていた眼鏡を外して、"彼女"に手渡す。

"彼女"はそれを掛け、そして把握した。

 

「・・・・この眼鏡。物体との距離が表示されるようになってるのね」

「はい。造るのには結構、苦心しました」

「・・・・・でしょうね。なんたって、()()()()()()()()()()()()()()

 

そう。

おれは物体との距離感覚が把握出来ない。これこそが、おれがミカと契約した際に支払われた対価。今のおれは、本来ならば歩く事すら困難な状態なのだ。

 

「それを科学力で補ってみせるなんて・・・・・・馬鹿と天才は紙一重とは、よく言ったものね」

「称賛の言葉と受け取らせてもらいます。で?」

「え?」

「こんな事を聞いて、どうするつもりです?」

「──────別に」

 

抑揚無く、呟くようにそう返した"彼女"の横顔は、どこか哀しげだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、運命の時が来る─────




一正の眼鏡に表示される情報は、端末内のミカヅキが調整している。
その為、状況の変化に即座に対応できる。
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