楽しかった遠足も終わり、おれたちは帰路に着く。
アスカと山伏とは自宅が別方向なので、ここには園子たち三人とおれしか居ない。
夕焼けに照らされる帰り道、遠足の楽しかった思い出を語り合うおれたち。
しかし、そんな平穏は、音を立てずに崩れ去る。
「・・・・?」
最初に気付いたのは銀だった。
少し遅れておれたちも気付く。空を飛ぶ鳥が、風に揺れる木々が、まるで一時停止をかけられた映像の如く停止していた。
「────お役目の時間!?」
「あーあ、どうせならバーテックスももうちょっと空気を読んで欲しかったなぁ~」
「遠足中に来なかっただけ恩情だろう」
「あはは、カズマの言う通りかも」
端末を取り出して変身する。
その内に樹海化が発生し、世界は変容する。
久方ぶりに動かす覆式波動機関の調子を確かめる。うん、問題無し。メンテナンスは欠かさずやっていて良かった。
「よぉ~し!銀さん暴れちゃうぞー!」
「もう銀!調子に乗らないの!!」
「そうだ。馴れた頃こそ油断大敵だ」
「おっと、まさかの挟み撃ちだ」
「園子もいるんだぜ~~」
普段の調子で大橋へと向かう。
この四人なら、どんな奴が相手でも勝てる。
そんな自信が、今のおれにはあった。
だからこそ、こんな事になってしまったのだろうか………
「はぁ・・・・・はぁ・・・・・畜生・・・・!ちくしょう・・・・・!!」
全身傷だらけで息も絶え絶えの園子を抱え、おれは大橋傍の死角へと走る。
須美は銀に任せているが、あっちもボロボロのはず────
援護したいが、目覚めない園子の方が心配だ。
「しっかりしてくれ・・・・・おれがぜったい助けるから・・・・・!!」
なんで、こんな事に・・・・
何度目になるかわからない、答えの返って来ない問いを投げ掛けながら、冷静になるためにも先の戦闘時の事を思い返す。
―――――――――――†――――――――――
今回、バーテックスは二体同時に現れた。
三人は驚いていたが、この程度おれには十分に予測できていた。
奴らは知恵を持っている。そして、おれたちとの闘いを経て学習しているのだ。今まで一体ずつで追い返されてきたのだから、二体同時に出撃させればどちらかが神樹にたどり着けるだろう・・・・なんて策を思い付くのも当然だ。
だから冷静に、二手に別れてバーテックスに対処していた。
蠍の針に毒が仕込まれている事も、蟹の装甲が硬い事も、文献に書かれていて知っていたおれは、それにも対応できるように作戦を練り、バーテックスを着実に追い詰めていっていた。
だが、それを嘲笑うかの如く、空から絶望が降り注いだ。
園子が傘を広げ、その中に全員で入りやり過ごす。降ってきたのは針の雨だった。
そして、おれたちは無防備にも針の雨の中で立ち止まっていた。
その瞬間を待っていたと言わんばかりに、蠍が尾を振り払い攻撃してきたのだった。
再生力に物を言わせた捨て身の一撃は、咄嗟に作り出した壁を破壊して、おれたちを凪ぎ払った。
おれと銀は、それぞれの武器でガードした為に致命傷は避けられた。
が、問題は傘を広げていた園子と、後衛故に盾を持たない須美だった。
尾の一振りに吹き飛ばされる二人を、おれは只、呆然と見ているしか出来ずにいた。
「──────そ、の」
「カズマぁ!!!!!!」
「ッ!?」
銀の叫び声で正気に戻ったおれは、背後から迫り来る矢弾を間一髪で弾き、それにより、奇襲を掛けてきた相手が
「銀っ!!
「りょーかい!!」
それだけ叫ぶと、樹海の木を少しだけ拝借し、武器用のエネルギーパックに変換すると、それをバーテックスへ向かって投げつけた。
「ぉらあっ!!!」
それに合わせるように、銀が自身の武器を投擲。
見事エネルギーパックに斧が命中すると、目映く辺りを照らし出した。只の光ではない。圧縮された魔力が起こした爆発の光だ。当然ダメージもある。とは言っても、表面を少し溶かすくらいしか出来ないだろうが・・・
「今!!散開!!!」
だが、撤退する隙は作る事ができた。
それだけで十分に役目は果たされたと言えるだろう。
「園子・・・・」
地面に倒れ伏す園子に近寄り声をかける。が、返事が無い。呼吸は小さいが脈はある。大丈夫、ちゃんと生きてる。
「・・・・・・畜生」
なんで、こんな事に・・・・
―――――――――――†――――――――――
「────ふぅ・・・・で、どうする?」
「───────────────────ぇ」
安全地帯にどうにか逃げ込めたおれたちは、須美と園子に応急措置を施した。しばらく安静にすれば、歩くくらいはできるだろう。しかし、それだけでは駄目だ。
「アタシとカズマであの三バカ、どうにかしなくちゃだろ?なんか一発逆転の作戦ないの?」
「────────────────────」
しばらく思案して、「ある」と頷く。
「あるの!?さっすがー♪で?アタシはどうすれば良い?」
「・・・・・・・・・ああ。うん、そうだな・・・銀は──────」
ゆっくりと、右手の電極を銀の額に当て────
「しばらく、寝てろ」
バチンッ!!!
覆式波動を撃ち込まれた銀は、『信じられない』と言わんばかりに目を見開いて、仰向けに倒れた。
「か・・・・ず・・・・・・・・・・・」
「ごめん。今回ばかりはどう考えても犠牲が出てしまう。なら、その人数は少ない方が良いだろう?」
「・・・・・・・や・・・・・・・・・・め」
「平気だ。死ぬつもりは無いよ。只、おれは────」
「お前たちの未来を、守りに行くだけだ」
「じゃ・・・・・・行ってきます」
銀から返事は無かった。
それで良い。三人が起きる頃には、全部終わっているはずだ。
後ろを振り向かず、バーテックスの下へ向かう。
本当は・・・・・少し怖い。
アスカともっとバカ騒ぎしたかった。
山伏にもっと話をしたかった。
シズクにもっと話を聞きたかった。
銀ともっと遊びたかった。
須美ともっと歴史議論をしたかった。
園子と、ずっと一緒にいたかった。
「でも・・・・・!」
ここでおれが頑張らなければ、あいつらが生きる未来が消える。
それだけは・・・・・・絶対に阻止しなければならない。
「─────────」
バーテックスの前に立ち、端末を取り出す。
かなり進行されていた。だがもう、これ以上は進ませない!!
「悪いけど、此処から先は一方通行なんだ。引き返してくれ」
バーテックスは応えず、臨戦体制を取る。
「そちらがその気なら、仕方ない──────」
端末を操作し、もしもの時の『切り札』を呼び出す。
「擬似精霊システム────起動!!」
「呑み干せ・・・・・『フェンリル』!!」