契約者たちへの鎮魂歌   作:渚のグレイズ

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さて、ここらで最期の主人公の物語を綴るとしますか!

てなわけで、どうぞ、お納めください。


不屈の喧嘩番長の章
我が名はK -全ての“夜“道を“輝“らす者-


神世紀295年、春―――

 

その日、初めて、俺は“俺“を手に入れた。

 

―――――――――――†――――――――――

 

神世紀の時代となっても、落ちこぼれというものはやはり、存在する。

そういった若者は神樹ではなく暴力を信じ、自分よりも弱い者を食い物にして日々を生きていた。

 

讃州市内のとある公園―――

 

高校生と思われる少年数人が、中学男子を取り囲んでいた。

 

「あ・・・あの・・・今月は・・・ほんとに・・・これしかなく・・・て・・・」

 

「んなこと聞いてねーよ。足りなきゃ誰かから()れ」

 

「そ・・・そんな恐ろしいこと!」

 

「出来なきゃ痛い目、見るのてめえだぞ?」

 

「ひぃ!!」

 

俗に言うタカリ、というやつか。

男子は怯え、すくみ、身動きが取れずにいる。その有り様を面白がる不良たち。

男子が心の中で助けを求めた、その時―――

 

 

 

 

 

()~♪()()()~↑♪()~↓♪()()()()(ファ)()()()~♪

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

公園にリコーダーの音色が鳴り響く。

不良たちはざわめき、男子はなにが起きたか理解が追い付いていない。

 

「だれだ!!姿を見せろ!!」

 

恰幅のいい不良が叫ぶ。この集団のリーダーなのかも知れない。

 

「いた!あそこだ!!」

 

不良の一人が指差した先には、

 

 

 

 

 

公衆トイレの屋根の上で、ソプラノリコーダーを真横に構えて演奏する、中学男子がいた。

 

 

 

 

 

ぴ~♪ぴ♪ぴ♪ぷぴー!ぴ~♪ぷすぷぴーぴ♪ぴ♪ぴ♪ぴ♪ぷぴー!

 

 

「・・・・・・あいつ、音外してますぜ」

 

「・・・・・・なにがしたいんだ?」

 

困惑する不良たち。リコーダーを吹く少年に気を取られていた彼らは気付かなかった。

隙を見て、中学男子が逃げ出したことに。

 

「あぁ!?アイツ逃げやがった!!」

 

「なにぃ!?」

 

気付いた時にはもう遅い。男子はどこかに去ってしまっていた。

そうなると当然、不良たちの矛先は笛吹の少年に向かう。

 

「やいやい!てめえのせいでアイツ逃がしちまったじゃねぇか!どうオトシマエ付けてくれんだよぉ!!」

 

少年は答えず、ぷすぷぴリコーダーを吹くのみ。

 

「オイてめえ降りてこい!!」

 

「カッコつけてんじゃねぇぞ!!」

 

「そもそも縦笛を横向きに吹いてんじゃねぇ!!」

 

不良たちに散々文句を言われ、少年も流石に演奏を止めた。

 

「やれやれ、人の趣味にケチを付けるなんて、悪い子だ」

 

「気取ってんじゃねぇよ!!」

 

「降りてこい!!ブン殴ってやる!!」

 

「はぁ・・・血気盛んなバッドボーイズだ。OK、ちょっと待ちな。今そっちに行ってやるよ」

 

そう言って屋根から飛び降りた。

ズドン、と音を立てて着地。

 

「――――――――」

 

「――――――――」

 

「――――――――」

 

「――――――――ちょっと、まって、足が、しびれて」

 

「――――――――」

 

不良たちはげんなりしていた。

 

―――――――――――†――――――――――

 

「さぁて、悪い子はお仕置きだ」

 

しばらくしゃがみこんでいた少年が立ち上がったのは、三十分丸々経ってからだった。

 

「調子こきやがって!!」

 

「ブッ殺してやる!!」

 

「おお、怖い怖い」

 

不良五人に対して、少年は一人。

戦力的には圧倒的に少年の方が不利。

だが―――蓋を開けてみれば、終始、少年の方が有利であった。

拳打を最小限の動きで避け、お返しにエルボーを決める。

回し蹴りをかわし、足払いをかけて転ばす。

振り下ろされた鉄パイプを受け止め、そのまま投げ飛ばす。

二人同時攻撃にも怯まず、受け止め、赤子の手を捻るが如く、あっさりと倒してしまった。

 

「相手の戦闘力を過小評価しないことだよ。バッドボーイズ」

 

伸びている不良たちにそう告げて、少年は立ち去っていった。

 

公園を出てしばらくしたら、少年の後ろから何かが蒙スピードで走ってくる音が聞こえてきた。

 

 

「かーーーーーーぐーーーーーーやーーーーーーちゃーーーーーーん!!!」

 

 

「おう、ゆうんぶぅ!!」

 

 

ドッ!!

 

 

突如として現れた赤毛の少女にラリアットされて吹っ飛ぶ少年。

スピードも乗っていたせいか、数回バウンドした後にゴロゴロ転がってようやく止まった。

ボロボロにされた少年は仰向けのまま、少女と話す。

 

「いってぇ・・・・・・何しやがる、友奈ぁ!!」

 

「かぐやちゃんまたケンカしてたでしょ!そんなことしちゃダメだって、いつも言ってるでしょ!!」

 

 

両手を腰に当ててぷんすこ怒ってる少女の名は『結城友奈』

 

起き上がりながら悪態をつく少年の名は『煌月(こうづき)輝夜(かぐや)

 

「はぁ・・・で?なんか用事?」

 

「あ!そうだった!お説教はあとにして、かぐやちゃん。風先輩が呼んでたよ。なんでも猫探しの依頼が来てるんだって」

 

「猫探しか・・・フッ。俺に相応しい依頼だな」

 

輝夜がニヒルに笑う。

 

「かぐやちゃん、猫探しの“えきすぱーと“だもんねー♪」

 

それを受けて友奈がふにゃり、と笑った。

それを見て、輝夜は思う。

 

こんな日々が永遠に続けば良いな―――と

 

 

 




煌月輝夜について―――

中性的な顔立ちの少年。つまりいわゆる『男の娘』キャラ。
腰まで届く長い髪は、三つ編みで一つにまとめている。

その見た目から、たまに女子に間違われる。というか、友奈に初めて会った時に間違われ、その時に友奈がつけたアダ名が『かぐやちゃん』である。なお、輝夜本人はそのアダ名を気に入っているため修正しようとしない。
が、赤の他人に女に間違われると、キレる。

ケンカっ早く、年上相手にも怯まず果敢に挑み、そして勝利してしまうために、一時期『番長』と呼ばれ恐れられていた時期がある。

頭の良さは中くらい。運動神経は天下一。
考えるより行動するタイプ。

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