「なに・・・?ここ・・・。何処だよ・・・」
景色に見覚えは欠片も無い。
そもそも俺はさっきまで教室にいたハズだ。
「わ・・・わたし、夢でも見てるのかな・・・?」
隣に立つ友奈が自分の頬をつねる。
どうやら痛かったらしく、ちょっと涙目になっていた。
「夢じゃ・・・ないみたい・・・」
訪れる沈黙。
それを不意に東郷が破った。
「そうだ・・・端末・・・」
言われて俺も友奈もハッとなった。そうだ。事の発端はスマホが鳴らした謎のアラートだ。
三人ほぼ同時にスマホの画面を見る。
「画面が・・・変わっているね・・・」
「うん・・・」
「その上、メイン画面に戻れねぇと来た」
端末を操作しながらそんなことを言う。
む、これ、地図アプリか?友奈、東郷、俺、三人のフルネームが表示されてる。
もう一つは・・・・・・あ?なんだこれ。指輪のマーク?
なんかのボタンっぽいな、押してみよう。
ぽちっとな。
・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・何も起きねぇ!
「大丈夫、東郷さん!わたしがついてる!」
「友奈ちゃん・・・」
俺が端末と戯れている間に、友奈が東郷を元気付けていた。
ぐっとガッツポーズを取るその手が、若干震えている。
友奈はいつだってそうだ。友達のためなら自分が怖い思いをすることを躊躇わない。
だから俺は――――
「おい友奈。俺もいるってこと、忘れてねぇか?」
「え?あー。ううん!忘れてない忘れてない!」
「嘘付けお前ぜってぇ忘れてただろ!」
「わ・・・わわわ忘れてないよ~(汗)」
「・・・・・ふふふ」
ふむ、どうやら気を紛らわせることができたようだな。
よし、とりあえず周辺の探索をしよう。
と、思ったその時――
がさがさっ
俺たちの背後で物音がした。
咄嗟に振り向くと、そこには風さんと樹の姿が。
「ああ、良かった。みんな無事ね?」
「風先輩・・・・・・風せんぱぁい!」
二人の姿を見た友奈が風さんに抱き付いた。
東郷もほっとした様子。
実際、俺もちょっと安心した。
「風さん、樹、二人とも無事で何よりだよ」
「あの、風先輩。どうやってここが?」
「これのおかげよ」
東郷の問いに、風さんは自分の端末の画面を見せる。
画面には、先ほど俺が見ていた地図アプリが表示されていた。
なるほど、それを頼りにここまで来たのか。
ということは・・・・・・
「なあ風さん。つかぬことを聞くが・・・風さんは、ここが何処なのか、知ってるのか?」
「―――――――――」
「その反応、知ってるってことで良いんだな」
「風先輩・・・・・・説明、してもらえますか?」
「煌月・・・東郷・・・」
風さんは、俺、東郷、友奈、樹、全員を一瞥してから、覚悟を決めた表情で答えた。
「わかった。とりあえず、安全な場所へ行きましょう」
―――――――――――†――――――――――
しばらく歩き、少し開けた場所に出た俺たちは、そこで風さんの説明を受けていた。
「私は、大赦から派遣されてきたの」
「大赦って・・・神樹様を奉っている・・・」
「何か、大切なお役目なんですか?」
ふぅん、大赦・・・ねぇ。
「ずっと一緒にいたのに・・・・・・知らなかった・・・」
家族である樹にすら、黙っていたのか。これは、よっぽど重たいモン、背負わされたな。
「・・・・・・当たらなければ、このまま黙っているつもりだったから」
当たる?抽選でもしてんのか?だれが?
「ここは、神樹様が造った結界なの」
「じゃあ!悪いところじゃ、ないんですね」
友奈の言葉にうなずき、風さんは続ける。
「でも、私たちはここで、敵と戦わなくてはいけない」
「たたかう・・・・・・?」
「お姉ちゃん、敵って・・・?」
東郷と樹のその言葉に反応でもしたかのように、その時、地図アプリに動きがあった。
「なあ、風さん。その敵ってやつはもしかして・・・・・・これかい?」
端末に表示された俺たち以外の点。
名前は『乙女型』
「来たわね」
全員で反応のあった方角を見る。
異形の化け物が、そこにはいた。
「・・・・・・・・・なんだ、ありゃ?」
「アレがバーテックス。世界を殺す、人類の敵」
バーテックス・・・・・・世界を殺すとは、穏やかじゃないな・・・
「アレが神樹様にたどり着いた時、文字通り世界は滅ぶ」
「おいおい・・・さっきから穏やかじゃない単語が並びまくりなんだが?」
「ここには・・・・・・わたしたちだけ・・・」
「私たちに・・・アレを倒せっていうの!?」
東郷が叫ぶ。気持ちはわかる。体格差どんだけだよって話だよな。
「方法はあるわ!」
風さんが見せたのは、さっき俺が押したボタンと同じもの。あ、もしかしてそれでなんかパワー的なのもらえるパターン?
「戦う意志を示せば、アプリの機能がアンロックされて、神樹様の勇者になれる」
「よしじゃあ早速やってみよう!」
「え?ちょっと煌月!!」
風さんの静止の声を無視してボタンをタップ。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
「なんも起こらんやんけ!!(怒)」
思わずスマホを地面に叩きつけてしまった。でも俺悪くないもん。アンロックされない端末が悪いんだもん。
「ごめん。勇者になれるのは『神樹様に選ばれた無垢な少女』だけなのよ」
「え?じゃあ俺なんでここにいるの!?」
「ええっと・・・・・・(汗)」
「!?みんな・・・あれ・・・」
東郷の声に俺は風さんいじりを止めにして、バーテックスの方を見る。
下部がなんだか光って、膨らんで・・・なんだろう。チャージ中?的な?
そこから何かが放たれた。
それは真っ直ぐこちらに向かって飛んで来て―――
「ヤバい・・・全員伏せろ!!」
咄嗟に友奈をしゃがませ、東郷をかばう。
バーテックスが放った何かは、すぐ近くに落下し、爆発した。
爆風と破片が俺たちに襲いかかる。
「きゃあ!!」
誰かが叫ぶ。樹か友奈どっちかか?
「みんな!ケガは無い!?」
「ああ、なんとかな・・・」
風さんの問いに答える。
どうやら至近弾だったらしい。直撃じゃなくて安心―――
「東郷さん!?」
とはいかないようだ。
さっきの一撃で東郷が完全に怯えてしまった。
「無理よ・・・・・・できるわけない・・・・・・」
「―――――東郷さん」
やれやれ、いつもの調子は何処へやら。しかし東郷の反応はある意味正常だ。
こんな訳のわからん場所にいきなり連れてこられて、『世界を守る為に異形の怪物と戦え』だなんて、常人なら失神レベルだな。いや、失神で済むかな・・・最悪、失禁するかも?
「友奈、煌月、東郷連れて逃げなさい」
「でも風せんぱ―――」
風さんの指示に、食い下がる友奈を押し留める。
「友奈、俺たちがここにいても風さんの邪魔にしかならない」
「う・・・」
「わかったか?なら東郷連れてさっさとお行き!!」
ぱしーん!と友奈の尻をはたく。うん。良い弾力。安産型ね!
「わひゃあ!!」
目尻に涙を溜め、顔を真っ赤にしてこちらをにらんだ友奈は、そのまま東郷と共に走り去っていった。
「樹、あんたも「いやだよ!!」」
若干食い込みに樹が叫ぶ。
涙目どころか半分泣いているくせに、瞳に宿る意志は屈強で、『テコでも動いてやるものか』と言外に語っていた。
「ついて行くよ・・・・・・何があっても・・・!」
「樹・・・わかった。私に続いて!!」
「うん!!」
二人同時に端末のボタンをタップする。
瞬間、風さんからは黄色い花びらが、樹からは緑色の花びらが、嵐の如く舞い上がる。
それが止んだ時、二人の衣装は華やかなモノに変化していた。
風さんは、力強さとスタイリッシュさの中に乙女らしさをプラスした、クールな女性を連想する黄色い衣装を
樹は、キュート&ロリポップ。フリルがふんだんにあしらわれたプリティでキュアキュアな変身ヒロインチックな緑色の衣装を
それぞれ纏っていた。
「これが――――勇者の――――」
「・・・ちょっと煌月。あんたなんで地面に這いつくばってるのよ」
「パンツ見えねーかなって」
無言で顔面を踏まれた。しかし見切った!
「今日の風さんはホワイト!」
「なんてやつ!?」
なんて事やっていたら、風切り音が聞こえてきた。
ヤバいなこりゃ。死なないように退散退散。
「風さん!今のは黙ってた罰として、しっかり脳内フィルムに焼き付けさせてもらったからな!!」
「ぐぬぬ・・・!」
「嫌なら二人とも無事に帰ってくること!いいな!?」
「わぁったわよっ!!」
風さんと樹が跳躍し、俺は物陰に隠れて爆発をやり過ごす。
煙が晴れ、去って行く二人の後ろ姿を見送って、俺は友奈たちのもとへと走りだした。
―――――――――――†――――――――――
友奈たちと合流した後、俺たちは小高い丘に来た。
ここならあの乙女型とかいうバーテックスがよく見える。
「風先輩・・・・・・」
友奈のつぶやきに答えるように、友奈の端末が鳴った。
「もしもし、風先輩ですか!?今戦ってるんですか!?」
どうやら風さんからみたいだ。友奈に近づき、聞き耳をたてる。
『こっちの心配より、あんたたちの方は大丈夫なの!?』『数多すぎだよぉぉぉ!!』ドーン!ドーン!
「はい!大丈夫です」
風さん、こっちの心配より妹の心配しろよ・・・。
『・・・・・・ごめん、友奈。こんなことに巻き込んで・・・』
「風先輩・・・」
「――――――――」
「―――――風先輩は・・・ずっと一人で抱えてたんですよね?誰にも言えないで・・・」
『―――――――』
「勇者になってみんなの為にがんばる―――それって、『勇者部』の活動目的とおんなじじゃないですか!」
『っ!!』
「っ!!」
風さんと東郷が息を飲む声が聞こえた。
友奈は何時だって、他人を気遣って行動する。
その優しさに救われた人間は、少なくない。
「風先輩は、悪くない・・・!」
『友奈―――』
その時だった。
『ッ!!しまったっ!!』
ドガーン!!
「ふ、風先輩っ!?」
ドガーン!!
更にもう一つ。爆発音。
最悪の事態を連想してしまう。
おそらく、最初の爆発で風さんがやられ、それに気を取られた樹が、続く爆発でやられた。
実際、バーテックスがこちらを見ている。目が何処にあるのか知らないけど。
「こっち、見てる・・・」
その上チャージ中と来た。こいつはマズイ・・・このままだと全員揃ってあの世行きだ。
「友奈ちゃん、輝夜くん・・・私を置いて逃げて・・・!」
東郷がそんなことを言い出した。確かに今のこの状況だと、車椅子の東郷は足手まといにしかならない。だからといって、置いていくなんて出来ない。
「そんな!?友達を―――」
友奈も同じ気持ちだったらしく、東郷を説得しようとして―――何かに気付く。
「――――そうだよ」
「友奈?」
「友達を見捨てるなんて・・・そんなの・・・!」
バーテックスを真っ直ぐ見つめる。まさか―――
「そんなの・・・!!」
「待て・・・友奈行くな!!」
伸ばした右手は、走り出した友奈に届かず、虚しく空を舞う。
「勇者じゃないっ!!」
バーテックスが爆弾を放つ。
それは狙い過たず、真っ直ぐ友奈へと向かい―――
着弾した。
爆風が俺たちを叩きつける。
「ああっ!!友奈ちゃん!!」
「クソッ!友奈ぁ!!」
爆弾の直撃。助かる可能性なんて存在しない。普通なら。
「―――――――――ぁ」
煙が晴れた時、そこには、桜色に輝く手甲を装備した左手を、天高く突き出す友奈がいた。
「嫌なんだ。誰かがつらい思いをする事、嫌な思いをする事が!」
友奈はそのままファイティングポーズを取る。傍らには牛っぽいマスコットキャラが浮かんでいる。
「そんな思いをするくらいなら!!」
更に放たれた爆弾を、右の回し蹴りではじく。同時に、右足に手甲と同じ色の具足が装着された。
「私が!!」
続く三撃目を、今度は左の回し蹴りではじく。またも具足が装着された。
そのまま跳躍。四撃目はそれでかわす。
だが五撃目が友奈に迫る。
「がんばる!!」
それを友奈は避けようともせず、右手で殴り飛ばした。
当然、爆発。
爆煙を抜けて、現れた友奈はしかし、無傷だった。
どころか、友奈の衣装も風さんたちと同じく、別のものに変わっていた。
友奈らしい、可愛さと格好良さを兼ね備えた、スポーティーかつキュートな桜色の衣装へと。
「おおおおおおおおおおおお!!」
友奈が雄叫びを上げてバーテックスへと突撃していく。
「友奈ちゃん!!」
東郷が叫ぶ。
俺はただ、拳を握りしめて、それを見届けるのみ。
「勇者ぁパァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンチ!!!」
友奈の放った渾身の右ストレートは、バーテックスの身体を半分以上吹き飛ばした。
その向こうで、友奈が高らかに宣言する。
「勇者部の活動目的は、『人の為になることを勇んでやること』!」
高らかに、宣言してしまった・・・
「私は!讃州中学二年!勇者部所属、結城友奈!」
「私は・・・勇者になる!!」