それでも笑って許してくださる優しい方々だけ、どうぞお納めください。
僕らが諏訪を出て、四国に移住してから1ヶ月くらい経った。
その間、僕はほとんど病院のベッドに縛り付けられており、歌野とみぃも参加したという勇者の慰安旅行に行くことができなかった。ちくしょうめぇぇぇ・・・・・・
そして、歌野たちが帰ってきて半月くらいした時、ついに僕ら諏訪組(というかむしろ僕)の、四国での初戦闘の日がやってきたのだった。
―――――――――――†――――――――――
「ここが樹海かぁ~・・・」
「こんなに木々が生い茂っていたら、下まで日光が届かないから、作物が育ちそうに無いわよね」
「キノコならどうかな?育ててみたいって、この前言ってたよね?」
「ナイスアイデアよ!と、言いたいけれど、こうも空気がカラッとしていると、さすがに無理でしょうね」
「テメェらこんなとこまで来て農作業の話かよ!」
ニックに突っ込まれたので会話を一旦やめる。
「ニックもこっち来れるんだ?」
「ハッ・・・諏訪の土地神に交渉の仲介させて、オレもこっちに入れるようにした。その方が都合がいいからな」
「相変わらず抜け目無いねえ」
さて、そろそろ真面目になろう。
「敵の数が、これまでの比ではありません・・・」
「そうなのかい?」
「はい・・・・・・今までの10倍以上かと・・・」
伊予島クンが僕の問に答える。
なるほど、
「確かに、この前の時よりもかなり多いわね」
「なんで歌野が知って・・・・・・あ、そっか。旅行前の戦いは歌野も参加したんだっけか?」
「ええ、あのときは杏さんの作戦勝ちだったけど・・・」
「そうだぞ!タマのあんずが大!活!躍!だったんだぞー!」
「もうっ、タマっち先輩ったら・・・」
やれやれ、二人の仲が良好なのは何よりだね。
「今回も私が先頭に立つ」
「あ、待ってください!若葉さ―――」
伊予島クンの制止も聞かずに、若葉が飛び出していった。おいおい、大丈夫かぁ?
「・・・ん?なんだか敵さんの動きが変じゃない?」
「まずいです・・・・・・若葉さんが敵に囲まれています!」
なるほど、突出してきた奴から叩く寸法ね。バーテックスも知恵が付いてきたじゃないの・・・・・・!
「なァんて!感心してる場合じゃない!」
急いで彼女の元へ向かおうとして、
「オイ輪廻!向こうだ!」
「えっ!?」
ニックの警告に、若葉の方とは別の方向を見ると、バーテックスの群れの半分が神樹様の方へ向かっていた。
「半分が一人を引き付けて、もう半分が本命を狙う・・・・・・なんだか連中、人間じみた作戦を練ってきてるなぁ」
「感心してる場合かよ!?どうする?」
「でも神樹様の方に向かっている連中は、いつもなら全員で相手をしている数よ!?」
「だからって、若葉ちゃんをほっとけないよ!」
「―――――」
こうやって、言い合いをしている合間にも、バーテックスは神樹様へ向かって刻一刻と迫っている。
なら、するべきことは、ただ一つ。
「歌野、事後処理は「イヤよ」ですよねー・・・」
「え?戸塚さん?何をする気ですか!?」
「ん?いやなに、別になんでもないよ、ただね・・・・・・」
「目には目を、歯には歯を、物量には物量をってことさ」
「???どういう意味だ?」
珠子はまだ言ってる意味を理解できていないみたいだ。
他のみんなは、なんとなく理解できたみたいで、心配そうに僕を見る。
「戸塚くん、あなた何をするつもりなの・・・・・・?」
「一人でなんてだめだよ!私も行く!」
「大丈夫大丈夫、僕の精霊は
「いっちょやったろーじゃん!『
僕が降ろした精霊『千疋狼』は、本来の伝承だと、夜間に狼の群れに襲われた人間が木の上に登り、狼たちが梯子のように肩車を組んで樹上の人間を襲おうとするが後一歩で届かず、狼が自分たちの親玉の化け物を呼びつける、というもの。
しかし、ニックとの契約によって引き出したこの力は、本来の伝承を歪め、狼についての様々ないわく、本来の生態等をミックスし、『孤独な郡狼』という偶像を造りあげて、それに当てはめた。つまり、これを降ろした僕は―――
「千人に分身できるってわけさ!」
見渡せば、樹海の至るところに僕。
その数、およそ千人。
「ええ!分身!?輪廻くんは忍者だった!?」
「・・・・・・七人御先より多い!?」
「どっひゃ~・・・・・・・ぶっタマげたなあ!!」
「凄い人数・・・・・・これなら、突破できるかも?」
みんなが驚く中、歌野は渋い顔で僕を見ていた。
「もう、りっくんは・・・・・・無理だけはしないでね?」
「ごめんね?後で畑仕事手伝うから、ね?」
「・・・・・・・・・りっくんの野菜炒めも追加」
「あいよ。野菜の用意は任せるね」
それを合図に、千人の僕が一斉に飛び出す。
半分は若葉の元へ。
もう半分は神樹様の防衛へ。
「さて、がんばるさ」
―――――――――――†――――――――――
孤軍奮闘する若葉の元へ到着した時には、すでに彼女はボロボロだった。
「大丈夫かい?」
「輪廻・・・・・・なぜ来た?」
「友達を助けるのに理由がいるかい?」
「っ!・・・・・・すまない」
「謝罪はいらないよ。代わりに、後で畑仕事を手伝うくらいで許してあげやう」
若葉に笑って答える。
さて、この状況を打開せにゃな!
意気込み、バーテックスを掃討していく。
進化体はどこにも見当たらず、通常個体だけだったから、なおのことサクサク駆逐できていた。
『このまま押しきれる・・・!』
誰もがそう思った。
だからこそ、油断していた。
「避けろ!輪廻ェ!」
ニックの叫びで、ようやく僕らは気付いた。
それは言うなれば、灼熱の津波だった。
炎の壁が、僕らめがけて迫ってきていたのだった。
「な!・・・・・・いつの間に!?」
「避けるのは間に合わない・・・ならっ!」
ここで僕は分身の自分たちで若葉たちを庇った。
炎の壁はバーテックス共々僕たち全員を巻き込み、辺り一帯を焼き払ったのだった。
――――――――view,change:歌野――――――
炎が消えた後、そこに無数のりっくんはいなかった。
代わりに・・・
「そんな・・・あの炎は、バーテックスを燃やさないというの!?」
千景さんの声が聞こえる。
辺りを見れば、樹海も同じく燃やされた痕跡が見当たらない。
「さっきのファイア、どうやら人間だけを燃やすみたいね」
「そんな・・・・・・・・・そうだ、輪廻さんは!?」
そう、りっくんの分身が全部消えた。ということは、りっくんの精霊が解除された、ということ。
「・・・・・・りっくんが危ない!」
多分、若葉のところに本体のりっくんがいるはず。急いで向かおうとしたけど、
「駄目です!まだバーテックスが残って・・・!」
「くぅ!どいて!」
バーテックスは神樹様に向かおうとはせず、全部こっちに向かってくる。これは・・・
「私たちを足止めして、若葉とりっくんをレスキューさせないつもりね・・・・・・!そうはいかないんだからっ!」
迫るバーテックスを蹴散らしながら進む。
しかし、数で勝るバーテックスの群れを突破するのは、容易なことではなかった。
「だからって!負けてらんないのよ!」
後から思えば、この時の私は、少し冷静ではなかった気がする。
だから、気が付かなかった。
「?・・・・・・高嶋さん?」
もうすでに、事態が悪い方に傾いている、ということに・・・・・・
――――――――view,change:輪廻――――――
「輪廻!しっかりしてくれ!輪廻!!」
身体が焼けるように痛い。熱いじゃない、痛い、だ。
いやはや、火傷ってひどいものだと熱いよりも痛いって感じるんだねぇ。
先ほどの炎を、僕は分身で防いだ。それにより、分身が全部消えた。
消えるまでに分身が経験したことは、本体にフィードバックされるのが、『千疋狼』の能力の一つ。
その『経験したこと』というのは、
「若葉・・・・・・・・・無事かい・・・・・・?」
開くのもやっとな口を開いて、若葉の無事を確認する。
「ああ・・・・・・ああ!お前のおかげで私は平気だ。だから輪廻、お前はもう休め。あとは私が・・・」
「・・・・・・・・・若葉」
これだけは言っておかなくちゃいけない。
そう思った僕は、痛みで悲鳴を上げている身体に鞭打って、若葉に告げる。
「ねぇ、若葉・・・・・・・・・キミ独りで・・・・・・・・・抱えちゃあ・・・・・・・・・ダメだよ・・・・・・・・・?」
「?輪廻、お前は何を言って」
「怖いことも・・・・・・苦しいこと・・・も・・・・・・・・・みんなで背負えば・・・・・・・・・重くない・・・・・・から」
ああ、まずい。意識が遠退く。歌野に野菜炒め作ってあげる約束、したのになぁ。
みぃなんか、めちゃくちゃ泣くだろうし、やばいなぁ。
というか、今現在進行形でヤバいのか。バーテックスに囲まれているし、若葉は僕を抱えて戦っているから、いつものように戦えない。早いとこ、僕を捨ててしまえと言おうとした、その時、
視界の端に桜色の流星が見えた。
ああ、うん。これなら大丈夫、かな?
しばらくすれば歌野たちも来るだろうし。
問題は、それまで僕の意識が持つかどうか。
あ、違う。持たないのはむしろ生命の方だ。
いやはや、まさかマンガにあるような「オレはもう持たない・・・」ていうの、アレを体験することになるとはなぁ。
まあ、以前とは違って今回は意味のある死だ。
それにみんなならきっと、僕の屍も乗り越えて、進んでいってくれるさ。
自己満足に満たされて、僕は意識を手放した。
『オイ輪廻、テメェ何やってやがる』
否、修正しよう。手放そうとしていた。に。
『前にも言ったはずだ。お前に死なれたら困るんだよ。だから――――』
やれやれ、今回も僕は死ねないのかい?
困ったなぁ、後でまた歌野とみぃに怒られるじゃないか。
『知るか。自業自得だろうが』
へいへい、でもまあ、みんなを悲しませるよりかは、はるかにマシか。
暖かい暗闇に意識を揺蕩わせて、僕は静かに眠りについた。
戸塚輪廻についてその二
得意料理は野菜炒め
むしろ野菜炒めしか作れない。
他のものを作ると、何故か暗黒物質になる。
しかし、彼の作る野菜炒めのレパートリーがかなり豊富なため、事情を知らない人々からは「料理上手」として扱われてしまう。
しかし、輪廻本人はその事を特に気にしてはいないようだ。