契約者たちへの鎮魂歌   作:渚のグレイズ

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煌月輝夜は■■■■である

バーテックスが消えた。

が、嫌な気配は欠片も無くならない。

案の定、向こうで何かが起きた。多分、戦闘。

 

「いったい、何が・・・」

 

「―――――――――――悪い、東郷。ちょっと俺の靴下持っててくれ」

 

靴を脱ぎ、靴下を東郷に投げ渡す。

 

「え?ちょっ、輝夜く・・・ん・・・?」

 

()()()()、とわざとらしく音を立てて足踏みをする。うん。問題無し。

 

「それ――――()()?」

 

東郷が俺の両足を見て、言葉を失う。まあ、そうなるよな。

 

「心配すんな。ちょっち友奈たち助けに行くだけだから」

 

「あ―――――違、私・・・」

 

「東郷」

 

右手で東郷の頭を撫でる。

 

「任せとけって。な?」

 

「――――――――――――」

 

沈黙したままの東郷を置いて、懐から小さな鍵を取り出すと、ベルトのバックルにそれを挿す。そして回す。

 

ドゥルルルルルルン―――!

 

けたたましい音と振動を感じながら、両足がドライブモードに移行したことを確認。

 

「よし!行ってくるぜ!」

 

背を向け、東郷に軽く手を振り、跳躍。

両足の裏から放たれた空気が、それをサポートし、普通では考えられないくらいの高さまで、ジャンプしてみせたのだった。

 

 

『エレクトリックスチームエンジン』

 

 

俺の両足に搭載された特殊機構の名称だ。

俺の霊力を電気エネルギーに変換して動く代物で、衝撃吸収装置にエアクッションを使用している。

 

「――――――あの野郎」

 

高い場所に登り、戦場を見れば、友奈が赤服のガキに攻め立てられていた。

 

「全速力でブン殴る・・・!!」

 

バックル上部に備え付けられた三つのボタンの内、右側のボタンを押す。

バックルに『JET』と表示され、義足の形状が少しだけ変化する。

クラウチングスタートの姿勢を取り、真ん中のボタンを押す。

 

「よーい・・・」

 

エネルギーがチャージされて行く。

向こうでは風さんと友奈が蹴飛ばされ、その上、友奈が赤服に捕まっている。

しかし、ここで焦ってはいけない。

視界の右端に映るメーターが上昇していく。残り、10%。

風さんは動かない。気絶でもしてるのか?流石に死んでは・・・いないよな?残り、8%。

樹はそんな風さんのそばでオロオロしているばかり。こればっかりは仕方ない。アイツは今まで平和に普通に暮らしていたんだ。本来なら、こんな場所に居るべき人間じゃあ無い。残り、5%。

 

「――――――そろそろ、だな」

 

一番左のボタンに手をかける。残り、4%。

 

 

 

 

ピーーーーー!

 

チャージ完了の合図と共に、大地を蹴り、ボタンを押す。

溜め込まれたエネルギーが一気に解放され、圧縮された空気が足裏のノズルから噴射され、推進材となって俺は加速した。

その後も大地を蹴る度に空気を噴射し、どんどん加速していく。

ものの数秒もしない内に戦闘領域に到着した。

そのままの速度で上体をひねり、左腕を引き絞る。

赤服との距離、およそ5メートルの地点まで走った俺は、ノズルを噴かしながらおもいっきりジャンプし、そして―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

渾身の左ストレートで、赤服をブン殴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その衝撃は尋常ではなく、左腕がひしゃげて使い物にならなくなった。

神経接続式じゃなくて良かった、と心の底からほっとしながらも、殴り飛ばした赤服を睨む。

 

「よお。よくも俺の仲間を痛め付けてくれたな・・・」

 

「――――――――お前・・・は・・・」

 

「この借りは倍にして返さなけりゃなあ・・・と、その前に」

 

背中を反らして友奈を見る。

明らかに落ち込んでる様子の友奈がこっちを見て、なにか呟いていた。

 

「友奈ぁ!無事だな?」

 

「――――――かぐやちゃん」

 

だいぶ堪えてるな・・・・・・まあ、仕方ないか。

あいつ、俺がケンカするの、嫌がってるみたいなんだよな。そりゃもう、俺のことを殴ってでも止めようとするレベルで。

多分、友奈のことだし、俺がケンカする理由も分かっててやってるんだろうな。「かぐやちゃんがつらい思いをする必要なんて無い」とか考えてさ。

辛いと思ったことなんざ、欠片もない。それよりも、目の前で苦しんでる奴を放っておく方が、よっぽど、辛い。それが、大事な友人なら。なおさら。

だから、俺は――――

 

「心配すんなって」

 

背中越しにそう言って、左手でガッツポーズ。

 

――――――を、取ろうとして、壊れていることに気付いて、慌てて右手でガッツポーズを取る。

 

「こっから先は、俺の担当だ」

 

―――――――――――†――――――――――

 

赤服で黒い仮面を被っているこいつは、俺がさっき放った渾身の左ストレートを寸での所でガードした。死角からの攻撃にも関わらず、だ。

 

「(つー事は、アイツはかなりの猛者ってワケだ。それも相当の修羅場を超えてきた・・・・・・)」

 

そんなん相手にケンカ吹っ掛けちゃって、どーすんのよ、俺。しかも今、左腕もげてるし。

 

「ええい!ままよ!」

 

先手必勝、ブーストをかけた右足で蹴りを繰り出す。

が、あっさりと受け止められる。

 

「そう来るよなぁ!」

 

真ん中のボタンを押してから、右足をパージ。

 

「―――ッ!!」

 

赤服が何かに気付き、咄嗟に俺の右足を放り投げるが、時既に遅し!

 

 

 

 

 

ドガァァァァァン!!!!

 

 

 

 

 

大爆発が赤服を襲う。ついでに俺も。

 

「ぬおぉぉぉぉ!!威力調整間違えたぁぁぁぁぁ!!!」

 

「かぐやちゃんっ!!」

 

吹っ飛ばされた俺を友奈が抱き止める。

ナイスキャッチだ。後で梅干しをあげよう。

 

「・・・っと、そうだ!アイツは!?」

 

爆心地を見る。そこには、誰も居なかった。

しばらく周囲を警戒するも、襲ってくる気配はない。どうも撤退したようだ。アレで?

 

「調整間違えたのが良かったな!」

 

「かぐやちゃんのバカ!」

 

友奈がおもいっきり頭をはたく。

 

「また・・・そんな無茶して・・・」

 

「―――――――――ケガは?」

 

「―――――――――ない」

 

「―――――――――ん、なにより」

 

右手で友奈の頬に触れる。その手に、友奈が手を重ねる。

 

「――――また、あの時みたいになるかと思った」

 

「―――――――――悪い」

 

「だめ、許さない」

 

「そんなぁ・・・」

 

「―――――――――今日も」

 

「ん?」

 

「―――――――――待ってるから、ちゃんと来て。ね?」

 

「―――――――――しょーがないなぁ」

 

そうこうしていると、風さんと樹がこっちにやってきた。

と同時に、世界がホワイトアウトしていく。

 

「疲れたぁ」

 

「そーだねえ」

 

友奈に抱き抱えられながら、崩れゆく樹海を眺めていたのだった。




煌月輝夜について―――

とある事情により、身体の7割が機械に置き換えられている。
今回使用した『ESE』は、彼の知り合いの技師が考案した代物。
左腕は発泡金属製で、表面に人工皮膚を被せてあるため、パッと見では見分けがつかないようになっている。
『ESE』の操作はベルトのバックルに偽造したパネルの上部にある3つのボタンを使用する。
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