バーテックスが消えた。
が、嫌な気配は欠片も無くならない。
案の定、向こうで何かが起きた。多分、戦闘。
「いったい、何が・・・」
「―――――――――――悪い、東郷。ちょっと俺の靴下持っててくれ」
靴を脱ぎ、靴下を東郷に投げ渡す。
「え?ちょっ、輝夜く・・・ん・・・?」
「それ――――
東郷が俺の両足を見て、言葉を失う。まあ、そうなるよな。
「心配すんな。ちょっち友奈たち助けに行くだけだから」
「あ―――――違、私・・・」
「東郷」
右手で東郷の頭を撫でる。
「任せとけって。な?」
「――――――――――――」
沈黙したままの東郷を置いて、懐から小さな鍵を取り出すと、ベルトのバックルにそれを挿す。そして回す。
ドゥルルルルルルン―――!
けたたましい音と振動を感じながら、両足がドライブモードに移行したことを確認。
「よし!行ってくるぜ!」
背を向け、東郷に軽く手を振り、跳躍。
両足の裏から放たれた空気が、それをサポートし、普通では考えられないくらいの高さまで、ジャンプしてみせたのだった。
『エレクトリックスチームエンジン』
俺の両足に搭載された特殊機構の名称だ。
俺の霊力を電気エネルギーに変換して動く代物で、衝撃吸収装置にエアクッションを使用している。
「――――――あの野郎」
高い場所に登り、戦場を見れば、友奈が赤服のガキに攻め立てられていた。
「全速力でブン殴る・・・!!」
バックル上部に備え付けられた三つのボタンの内、右側のボタンを押す。
バックルに『JET』と表示され、義足の形状が少しだけ変化する。
クラウチングスタートの姿勢を取り、真ん中のボタンを押す。
「よーい・・・」
エネルギーがチャージされて行く。
向こうでは風さんと友奈が蹴飛ばされ、その上、友奈が赤服に捕まっている。
しかし、ここで焦ってはいけない。
視界の右端に映るメーターが上昇していく。残り、10%。
風さんは動かない。気絶でもしてるのか?流石に死んでは・・・いないよな?残り、8%。
樹はそんな風さんのそばでオロオロしているばかり。こればっかりは仕方ない。アイツは今まで平和に普通に暮らしていたんだ。本来なら、こんな場所に居るべき人間じゃあ無い。残り、5%。
「――――――そろそろ、だな」
一番左のボタンに手をかける。残り、4%。
3
2
1
ピーーーーー!
チャージ完了の合図と共に、大地を蹴り、ボタンを押す。
溜め込まれたエネルギーが一気に解放され、圧縮された空気が足裏のノズルから噴射され、推進材となって俺は加速した。
その後も大地を蹴る度に空気を噴射し、どんどん加速していく。
ものの数秒もしない内に戦闘領域に到着した。
そのままの速度で上体をひねり、左腕を引き絞る。
赤服との距離、およそ5メートルの地点まで走った俺は、ノズルを噴かしながらおもいっきりジャンプし、そして―――
渾身の左ストレートで、赤服をブン殴った。
その衝撃は尋常ではなく、左腕がひしゃげて使い物にならなくなった。
神経接続式じゃなくて良かった、と心の底からほっとしながらも、殴り飛ばした赤服を睨む。
「よお。よくも俺の仲間を痛め付けてくれたな・・・」
「――――――――お前・・・は・・・」
「この借りは倍にして返さなけりゃなあ・・・と、その前に」
背中を反らして友奈を見る。
明らかに落ち込んでる様子の友奈がこっちを見て、なにか呟いていた。
「友奈ぁ!無事だな?」
「――――――かぐやちゃん」
だいぶ堪えてるな・・・・・・まあ、仕方ないか。
あいつ、俺がケンカするの、嫌がってるみたいなんだよな。そりゃもう、俺のことを殴ってでも止めようとするレベルで。
多分、友奈のことだし、俺がケンカする理由も分かっててやってるんだろうな。「かぐやちゃんがつらい思いをする必要なんて無い」とか考えてさ。
辛いと思ったことなんざ、欠片もない。それよりも、目の前で苦しんでる奴を放っておく方が、よっぽど、辛い。それが、大事な友人なら。なおさら。
だから、俺は――――
「心配すんなって」
背中越しにそう言って、左手でガッツポーズ。
――――――を、取ろうとして、壊れていることに気付いて、慌てて右手でガッツポーズを取る。
「こっから先は、俺の担当だ」
―――――――――――†――――――――――
赤服で黒い仮面を被っているこいつは、俺がさっき放った渾身の左ストレートを寸での所でガードした。死角からの攻撃にも関わらず、だ。
「(つー事は、アイツはかなりの猛者ってワケだ。それも相当の修羅場を超えてきた・・・・・・)」
そんなん相手にケンカ吹っ掛けちゃって、どーすんのよ、俺。しかも今、左腕もげてるし。
「ええい!ままよ!」
先手必勝、ブーストをかけた右足で蹴りを繰り出す。
が、あっさりと受け止められる。
「そう来るよなぁ!」
真ん中のボタンを押してから、右足をパージ。
「―――ッ!!」
赤服が何かに気付き、咄嗟に俺の右足を放り投げるが、時既に遅し!
ドガァァァァァン!!!!
大爆発が赤服を襲う。ついでに俺も。
「ぬおぉぉぉぉ!!威力調整間違えたぁぁぁぁぁ!!!」
「かぐやちゃんっ!!」
吹っ飛ばされた俺を友奈が抱き止める。
ナイスキャッチだ。後で梅干しをあげよう。
「・・・っと、そうだ!アイツは!?」
爆心地を見る。そこには、誰も居なかった。
しばらく周囲を警戒するも、襲ってくる気配はない。どうも撤退したようだ。アレで?
「調整間違えたのが良かったな!」
「かぐやちゃんのバカ!」
友奈がおもいっきり頭をはたく。
「また・・・そんな無茶して・・・」
「―――――――――ケガは?」
「―――――――――ない」
「―――――――――ん、なにより」
右手で友奈の頬に触れる。その手に、友奈が手を重ねる。
「――――また、あの時みたいになるかと思った」
「―――――――――悪い」
「だめ、許さない」
「そんなぁ・・・」
「―――――――――今日も」
「ん?」
「―――――――――待ってるから、ちゃんと来て。ね?」
「―――――――――しょーがないなぁ」
そうこうしていると、風さんと樹がこっちにやってきた。
と同時に、世界がホワイトアウトしていく。
「疲れたぁ」
「そーだねえ」
友奈に抱き抱えられながら、崩れゆく樹海を眺めていたのだった。
煌月輝夜について―――
とある事情により、身体の7割が機械に置き換えられている。
今回使用した『ESE』は、彼の知り合いの技師が考案した代物。
左腕は発泡金属製で、表面に人工皮膚を被せてあるため、パッと見では見分けがつかないようになっている。
『ESE』の操作はベルトのバックルに偽造したパネルの上部にある3つのボタンを使用する。