バーテックス及び、ナマリの襲撃から一週間が経過した。
今のところ、バーテックスが訪れる気配は無いらしく、それに呼応してか、ナマリも襲って来ない。俺としては嬉しい限りだがね。
「さて───と、行きますか」
「はい。行ってらっしゃい。坊っちゃん」
マッキーに見送られてながら、家を出る。その手に白と黒、二つの水筒が入ったビニール袋を持って───
「・・・・快晴だな」
雲一つ無い青空を仰ぎ見る。
五年前のあの日も、こんな感じの天気だったな・・・・
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少しだけ、昔の話をしよう。
物心付く頃まで、俺はずっと病室にいた。
いや、あれは病室というよりも、実験室と呼んだ方がしっくりくるだろう。
目が痛くなるほどに、真っ白な部屋。
大きな鏡(多分、マジックミラー)とベッドしか存在せず、他には何も無い。
そんな部屋で、俺は育った。
時折来る、カウンセラーを名乗る男に体調を訊かれ、身体中にコードで何かの計測器に繋がれた電極を貼り付けられる日々。
そんな退屈な日々から、俺を救いだしてくれた人がいた。
その人こそ、俺の"ばっちゃ"───白鳥
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「やぁ、ばっちゃ。去年ぶりだね」
電車で半時ほど揺られた後、少し歩いた先にある白鳥家の墓場。
ここに、ばっちゃも眠っている。
「あれから色々あったな・・・・・どれもこれも、全部ばっちゃが俺を拾ってくれたお陰だ」
ビニール袋の中から白い水筒を取り出し、中身を墓碑にぶちまける。
「今年の出来栄えはどうだい?なかなかだと思うんだ。未成年だから味見なんてしてないけど」
中身は俺お手製の梅酒。製造には許可が必要らしいけど、マッキー曰く「バレなきゃ犯罪では無いのです」だそうだ。その時のマッキーのイタズラ小僧の様な笑みは、今でも覚えている。教職員がそれで良いのか。
「それにしても、今日はやけに静か───」
遠くから、誰かの悲鳴が聞こえてきた。
「────だと思ったよ。まったく・・・」
荷物を置いて、悲鳴が聞こえた方角へと走る。
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ばっちゃに引き取られ、その娘一家であり、ばっちゃと一緒に暮らしていた『煌月家』に養子として戸籍を入れてもらった日。ばっちゃにより"輝夜"と名付けられた。
名付けられてからは、いろんな事を教えられた。
料理、洗濯、掃除、農業───
様々な技術をばっちゃから学んだ。
やがて、大概の事は出来るようになったころ、ばっちゃは俺を連れて讃州市に引っ越した。
ばっちゃ曰く、「元よりあの家はあの子たちにプレゼントする予定だったし、丁度良い機会だったのよ」とのこと。本当かどうかは知らない。
そこそこ大きめの家に、裏庭に畑まで備え付けられている新しい生活スペース。
そこで、俺にとっての全てが変わる出会いがあった。
つまり────
「こんにちはー!」
友奈との、出会いである。
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案の定だった。
声の聞こえた場所まで来ると、そこには、真っ黒い大型犬に睨まれて縮こまっている少女がいた。
いつものことなので、いつものように───
「ギャンッ!!!」
犬を蹴り飛ばす。
黒犬は自分を蹴り飛ばしたのが俺であることを理解すると、「あ、やべ」と言いたげな顔で固まった。
「
「・・・・・・くぅん」
「悲しそうに鳴いてんじゃねえ。その毛根こそぎ刈り取るぞコラ」
墓守犬は渋々と墓場の見回りに戻って行った。
「さて、悪かったな。あいつ、可愛い女の子が好きで・・・・さ・・・・」
「あ・・・・いえ。こちらこそ、助けていただいて・・・・・・あ」
会話が止まる。目の前の、先ほどまで墓守犬に睨まれて縮こまっていた少女に目が離せない。
どこかで聞いたことのある声だとは思っていた。
どこかで見たことのある少女だとは思っていた。
でもまさか───
「なんでこんな所にいるの?樹」
「あ・・・・あはは・・・・・」
乾いた笑みを浮かべて、少女──犬吠埼樹は、さっき俺に蹴られた後の墓守犬みたいな顔をしていた。
墓守犬について──
白鳥文野が埋葬された日。輝夜を女の子と勘違いして「ヘーイ彼女~。ちょっとお茶でもどう?」とナンパしたら、フルボッコにされた上に舎弟として使い魔契約させられた。
可愛い女の子が大好き。
実は犬ではなく、彼女が居ないまま死んでしまった哀れな男たちの怨念が神樹の霊気を浴びて、犬の形になったもの。そこに輝夜が墓守犬という役割を契約の際に当てはめた。
友奈に『クロ』という名前を貰ったが、輝夜は一向にその名前で呼んでくれない。なんでだろーねー?(棒)