「・・・・勇者にならないのか?」
「ハッ。必要ないわよ」
俺の言葉に、夏凜は鼻で笑って答える。
・・・・・・なるほど。そういうつもりならば
「────わかった。居場所を教えるよ」
「・・・・・・なによ。随分あっさりじゃない。怖じ気付いたの?」
「お前が、他人を気遣えるヤツじゃなかったら、徹底抗戦を唱えていたが・・・・・流石、勇者に選ばれるヤツは違うな」
「─────────なんか、すっごい拍子抜けしたんだけど」
「なんでさ」
「あんた、ちゃんと他人のこと見れる人なんだ・・・・って思って・・・・」
「ばっちゃがそういう事、五月蝿かったからなぁ・・・・」
「ふぅん・・・」
夏凜はそれ以上追及してこなかった。
―――――――――――†――――――――――
夏凜と共に、"嵐ヶ丘"に向かう。
その道すがら、俺は、春さんとの馴れ初めを夏凜に話していた。
「今から五年ほど前だ。俺は、自分の力を御しきれず、"自壊"を起こした」
「"自壊"───魔力の暴走によって、自分の身体が膨張し、限界を越えた瞬間、爆発するっていう・・・?」
「それ。ただまぁ、俺の場合は、どうにか大惨事になる前に抑え込んだから、両足と左腕だけで済んだけどな。代わりに内臓のほとんどが修復不可能な程にズタズタになっちまったけど」
「──────────」
「そんな俺を助けてくれたのが春さん───三好春信さんだった」
「────────わかってると思うけど、その三好春信って人は・・・」
「・・・・・・・・お前の、兄弟・・・か?」
「兄貴から、聞いたの?」
「ちらっと、ね」
「・・・・・・・・そう」
沈黙が流れる。
その沈黙を、夏凜が破る。
「兄貴は、最初からなんでも出来た」
「・・・・・・万能の天才って、やつ?」
「そんなところ。だから、家族はいつも、兄貴中心に動いていた。両親は兄貴に期待していた。反対に、私のことなんて、見てくれなかった。兄貴のことは誉めるけど、私のことは誉めてくれなかった。兄貴の絵は飾るけど、私の絵は飾ってくれなかった・・・・」
「─────悔しかった?」
「─────そうね。悔しかった。兄貴の背中に追い付きたくて、沢山、努力して・・・・でも、追い付けなくて・・・・」
「────────────」
「そんな私を見て、兄貴もきっと、呆れて見放したんだと・・・・そう、思っていた・・・・なのに・・・・・」
ぎゅ・・・と両手を強く握りしめる。
夏凜の瞳には、はっきりと解るほどに、"怒り"が滲み出ていた。
「あいつは───
夏凜の怒気を孕んだ声が響く。
俺は、そんな夏凜に、なにも声をかけられない。
そんなことをしている内に、"嵐ヶ丘"にたどり着いた。
―――――――――――†――――――――――
"嵐ヶ丘"は閉店していた。
構わず、中に入る。
「──────いらっしゃい。そろそろ来ると思っていたよ」
「──────兄貴」
カウンターの中。
コーヒーを煎れながら、春さんは俺たちの来訪を待っていた。
「──────春さん。『錬獄』のこと、本当なんスか?」
「───────」
「──────答えてよ、兄貴!」
夏凜が、春さんに掴みかかる勢いで問い詰める。
その肩を掴んで抑え、春さんの返答を待つ。
そして───
「───────ああ、本当だよ」
無慈悲にも、春さんは肯定してしまった。
「───────そっか」
「輝夜くん、済まない。君を騙そうとしていた訳ではないんだ・・・・」
「理解は出来るッスよ。納得は出来ねェッスけど」
「・・・・・だろうね。君らしいな」
「───────なんでよ」
夏凜が、肩を戦慄かせ、呟くように言う。
「────お父さんも、お母さんも、みんなが、あんたに期待してた・・・・なのに、なんでよ・・・・!」
「────────」
「ねえ、なんで何も言わないの?なんとか言ってみなさいよ!」
「────────話はそれで終わり?なら、さっさと要件を済ませてお帰り」
「ッ!!!!」
再度、夏凜が掴みかかる。今度は止めない。
自分の目線の高さにある、春さんの襟首を掴んで引き摺り下ろす。結果、春さんは夏凜の頭突きをモロに食らった。
「ぐおっ!?」
「───────フン!」
夏凜の鋭い一撃を食らった春さんは、その場に倒れた。その様を見た夏凜は、鼻で笑ってその場を去って行った。
「・・・・・・・・春さん、もうちょい、なんか無かったのかよ。あんたさぁ・・・」
―――――――――――†――――――――――
「・・・・はぁ」
「ため息つく位なら、もうちょい上手く立ち回れよ天才」
「如何に"万能の天才"と呼ばれていようとも、妹の微妙な乙女心を理解することは、難しいんだよ・・・」
「いやぁ・・・・アレは結構、分かりやすいと思うけど?」
「マジで?」という顔でこっちをみる春さん。
こっちのほうが「マジで?」だよ・・・・
「さて、と・・・夏凜も居なくなったことだし、本題に入ろうや」
「・・・・うん。そうだね。君にはちゃんと話さないとだね」
『錬獄』
反大赦組織の名前ではあるが、その実態は"御社"の暴挙に堪えきれなくなった元大赦職員たちの集団。
彼らはほぼ全員が、家族を"御社"の人間に殺されている。その理由は様々だが、どれも正当性の欠片もない、理不尽極まりない理由で殺された。
「・・・・・・やっぱ、そういう事だったか」
「うん。僕の場合は、僕自身が殺されそうになったんだけどね」
「・・・・・・もしかして、杏子さんとマルさんも?」
「あの二人は少し違うかな・・・どちらかと言えば、僕と同じ理由だよ」
「・・・・・・成る程ねぇ」
春さんの淹れたコーヒーを飲みながら、思考する。
"御社"
大赦の暗部組織。
それがなぜ、バーテックスとの戦いに手を出してきた?
「・・・・・・・あー!もう!!わからん!!!」
「・・・・・・・相手は大赦が創設されたときから存在していて、しかも表だっての行動は全くしてこなかった連中だよ?僕にもわからないのに、君に解るわけないでしょ」
「言い方が腹立つけど、実際その通りなんだよなぁ」
「とりあえず、僕から話せるのはここまで。これ以上のことは、僕も知らない」
「・・・・・・・・・で、夏凜のこと、どうするんスか?」
「─────────」
春さんは、寂しげな表情を浮かべて、そのまま黙ってしまった。
『錬獄』について
反大赦を掲げる秘密組織。
その実態は御社によって、親族を理不尽に殺された元大赦職員たちによって、作られた組織。
大赦の組織改革を目標に日夜行動している。
現在も、大赦内部にスパイを送り込み、様々な情報を得ている。
"嵐ヶ丘"はカモフラージュのための拠点。