元号変わって最初のエクストラ回!
今回は輝夜が風先輩を"風さん"と呼ぶきっかけのお話。
どうぞ、御堪能ください………
───これは、勇者部が発足して間もない頃の話───
「おい友奈。ここ、計算間違えてね?」
「ふぇ?────ほんとだ。ごめーん」
「ったくもう・・・・・あ、東郷。これ、昨日頼まれたやつな」
「あら、もう?流石輝夜くんね」
「─────────────」
三人の様子を、風はぼんやりと眺めていた。
ふと、手元の端末を見る。そこには一通のメールが表示されていた。送り主は大赦だ。
『煌月輝夜は勇者にとって、危険人物に成り得る。監視下に置き、その動向を報告せよ』
等と書かれている。
「(大赦は、あいつのどの辺を危険だって判断したのかしら・・・・?)」
輝夜の噂を知らない訳では無い。
しかし、風と接する時の輝夜は、大赦が危惧するような人物などではなく、本当に、普通の少年だった─────若干、喧嘩っ早いが。
「──────部長。なにしてんスか」
「ふぇ?」
輝夜の呼ぶ声に顔をそちらに向けると、呆れ顔の輝夜が風の事を見ていた。
「ああ・・・・ゴメンゴメン。今日の晩御飯何にしようかなぁーって・・・・・」
「そういえば、妹さんと二人暮らしなんでしたっけ?」
「料理ができるなんて・・・・風先輩はすごいよね!かぐやちゃん♪」
「───────ま、良いッスけど」
とりあえず、その場は誤魔化せたようで、風はそっと、安堵のため息を吐くのであった。
―――――――――――†――――――――――
翌日の夕方
「あら、事故?いやねぇ・・・・・」
買い出し帰りの風が、帰り道のとある橋にて人だかりを見つけた。付近にはトラックと救急車、パトカーが停まっている事から事故だろうと推測したのだ。
(この辺り、昔から事故が多いって聞くけど・・・・・本当なのねぇ・・・・・怖いわー)
なんて他人事のように考えながら、現場を横切ろうとした。
その中心に、見知った顔がいる事に気付くまでは。
「え!?ちょ・・・・煌月じゃない!?」
「────────────」
事故にあったのは輝夜だったらしい。
流石に放っておく事が出来なかった風は、道端で踞る輝夜に近寄る。
すると、輝夜の側にいた警官が風に声をかけた。
「あー・・・・君、彼の知り合い?」
「あ、はい。部活の後輩で───」
「そうか・・・彼、こちらの声に反応はするみたいだけど、全然質問とかには答えてくれなくて・・・・」
「ええっと・・・・・煌月が、何かしたんですか?」
「いや、実は──────」
警官の話によると、輝夜は青信号を進行中だったトラックの前に、急に飛び出してきたのだと言う。引かれるよりも早く、輝夜が対向車線に転がり出た為、軽症で済んだらしいが・・・・
「─────煌月、あんたなんでそんな事・・・・あら?」
その時、風が輝夜の抱き抱えているものに気付く。
「─────────
「え?あ・・・本当だ。まさか、
「すみません!ちょっと!」
と、警官が別の警官に呼ばれ、その場から立ち去る。
「煌月、なんでそんな無茶を─────」
「────────────────────違う」
「え?」
掠れた声で、輝夜は言う。
「俺は・・・・・・本当は・・・・・・」
「あー、ちょっといいかな?」
「え?はい」
警官が風に声をかけてきた。
案内されるまま見せられたのは─────
「あ・・・・・・」
「多分、あの子猫の・・・・・・」
車に引かれてしまった、親猫の亡骸だった。
「・・・・確かに猫には可哀想だとは思うけど、自分がトラックに引かれる事を考えないなんて・・・・まったく」
「──────────」
警官の言葉に、風は言葉なく俯く。
―――――――――――†――――――――――
いくつかの事情聴取の後、その場は解散となった。
猫の亡骸も片付けられて、道路にはその痕跡が残るだけ。
「───────────助けられるって・・・・・思っていた」
「え?」
ふと、それまで沈黙していた輝夜が口を開いた。
「いや・・・・・少し、違う。助けたかったんだ───こいつも、こいつの親も・・・・みんな」
「煌月・・・・・」
「ばっちゃが、去年死んだ。あのとき、凄く・・・・・悲しかったんだ・・・・・・あんな思いは、もう、したくないし、誰にも、させたく・・・・なかっ・・・・」
静かに、涙を流す輝夜に、思わず風はその頭を抱き締めていた。
「だからといって、無茶な事をするんじゃないわよ・・・・」
「でも!!」
「でももへったくれもないわよ!!死んじゃったら・・・・何にもならないのよ・・・・!?」
「────────でも、こいつ・・・・俺のせいで、一人ぼっちに・・・・・・」
「──────なら、言い方を変えてあげる。
「・・・・・・え」
そこで初めて、輝夜は風の顔を見た。
「明日、勇者部でその子の飼い主になってくれる人を探しましょ。そうすれば、その子は一人じゃない」
「────────────」
「よし!じゃ、そろそろ帰りましょ。今日のところはその子、あんたの家で預かってもらえる?」
うなずく輝夜に、風は満面の笑みを浮かべる。
「大丈夫よ。ちゃんと、見つかるって。じゃね♪」
「あ・・・・・あの!」
「ん?」
「────────ありがとう、部長・・・・・ううん、風さん」
「!─────ふふっ♪気にしないの!困った時はお互い様よ!それより!あんたは無茶しないよう、気をつけて帰りなさい!いいわね?」
「ああ─────!」
風につられて、輝夜も笑う。
そうして二人は、帰路についた。
―――――――――――†――――――――――
「─────という訳で、今日はこの子猫の飼い主になってくれる人を探すわよ!」
「はーい!─────かぐやちゃんは後でお仕置きね」
「柱に吊るしておくわ」
「勘弁してくれぇ・・・・・」
「はいはい、それは後にしてちょーだい。今はこの子が先!」
風の音頭に、友奈と東郷が返事をする。
と、そこに───
「風さん」
「ん?どうしたの」
輝夜が近寄り、話しかける。
「俺、昨日考えたんだ」
「ほう、何を?」
「風さんは勇者部の部長だろう?だからさ、俺は副部長をやろうと思うんだ」
「副部長ぉ?」
「かぐやちゃんがー?」
「・・・・・・必要なのかしら?」
「そこ、うっさい」
茶化す二人をあしらって、輝夜は続ける。
「俺はね、風さん。ヒーロー願望があるワケじゃないけど・・・・・それでも、誰かを助けられる人に────昨日の風さんみたいな人に、なれたらって思ってるんだ」
「あー・・・・面と向かって言われると、ちょっと恥ずかしいわね///」
「だから、とりあえず・・・だ。とりあえず今は、風さんのサポートを頑張ってみようと思う」
「それが副部長?」
「何か変かい?」
「────────良いんじゃない」
「だろう?『"大切なのは結果ではなく、そこに向かおうとする意志である"』ってね」
「は?どういうこと?」
「小さな事からコツコツと。それがいつか、大きな影響をもたらすかもしれないってコト」
「ふーん・・・・よくわかんないけど、それも"ばっちゃ"の言葉?」
「
「そうなんだ・・・・・でも、その言葉、なかなか良い言葉じゃない」
「フッ・・・・だろう?」(キリッ
格好付ける輝夜。
それを見て、風が笑う。
その日、風は大赦への報告書に、こう書いた。
私達に危害を加える可能性は、限り無く零に近いでしょう。
と。
この日を境に、輝夜は格好付けた態度をとるようになりました。という話でもある。
尚、今回のメール及び、