契約者たちへの鎮魂歌   作:渚のグレイズ

89 / 89
HAPPY BIRTHDAY!!風先輩!!

元号変わって最初のエクストラ回!
今回は輝夜が風先輩を"風さん"と呼ぶきっかけのお話。


どうぞ、御堪能ください………


EXTRA.3 勇者部副部長

───これは、勇者部が発足して間もない頃の話───

 

 

 

 

「おい友奈。ここ、計算間違えてね?」

「ふぇ?────ほんとだ。ごめーん」

「ったくもう・・・・・あ、東郷。これ、昨日頼まれたやつな」

「あら、もう?流石輝夜くんね」

「─────────────」

 

三人の様子を、風はぼんやりと眺めていた。

ふと、手元の端末を見る。そこには一通のメールが表示されていた。送り主は大赦だ。

 

 

『煌月輝夜は勇者にとって、危険人物に成り得る。監視下に置き、その動向を報告せよ』

 

 

等と書かれている。

 

「(大赦は、あいつのどの辺を危険だって判断したのかしら・・・・?)」

 

輝夜の噂を知らない訳では無い。

しかし、風と接する時の輝夜は、大赦が危惧するような人物などではなく、本当に、普通の少年だった─────若干、喧嘩っ早いが。

 

「──────部長。なにしてんスか」

「ふぇ?」

 

輝夜の呼ぶ声に顔をそちらに向けると、呆れ顔の輝夜が風の事を見ていた。

 

「ああ・・・・ゴメンゴメン。今日の晩御飯何にしようかなぁーって・・・・・」

「そういえば、妹さんと二人暮らしなんでしたっけ?」

「料理ができるなんて・・・・風先輩はすごいよね!かぐやちゃん♪」

「───────ま、良いッスけど」

 

とりあえず、その場は誤魔化せたようで、風はそっと、安堵のため息を吐くのであった。

 

―――――――――――†――――――――――

 

翌日の夕方

 

「あら、事故?いやねぇ・・・・・」

 

買い出し帰りの風が、帰り道のとある橋にて人だかりを見つけた。付近にはトラックと救急車、パトカーが停まっている事から事故だろうと推測したのだ。

 

(この辺り、昔から事故が多いって聞くけど・・・・・本当なのねぇ・・・・・怖いわー)

 

なんて他人事のように考えながら、現場を横切ろうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その中心に、見知った顔がいる事に気付くまでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え!?ちょ・・・・煌月じゃない!?」

「────────────」

 

事故にあったのは輝夜だったらしい。

流石に放っておく事が出来なかった風は、道端で踞る輝夜に近寄る。

すると、輝夜の側にいた警官が風に声をかけた。

 

「あー・・・・君、彼の知り合い?」

「あ、はい。部活の後輩で───」

「そうか・・・彼、こちらの声に反応はするみたいだけど、全然質問とかには答えてくれなくて・・・・」

「ええっと・・・・・煌月が、何かしたんですか?」

「いや、実は──────」

 

警官の話によると、輝夜は青信号を進行中だったトラックの前に、急に飛び出してきたのだと言う。引かれるよりも早く、輝夜が対向車線に転がり出た為、軽症で済んだらしいが・・・・

 

「─────煌月、あんたなんでそんな事・・・・あら?」

 

その時、風が輝夜の抱き抱えているものに気付く。

 

「─────────()()?」

「え?あ・・・本当だ。まさか、()()()()()()()()?」

「すみません!ちょっと!」

 

と、警官が別の警官に呼ばれ、その場から立ち去る。

 

「煌月、なんでそんな無茶を─────」

「────────────────────違う」

「え?」

 

掠れた声で、輝夜は言う。

 

「俺は・・・・・・本当は・・・・・・」

「あー、ちょっといいかな?」

「え?はい」

 

警官が風に声をかけてきた。

案内されるまま見せられたのは─────

 

「あ・・・・・・」

「多分、あの子猫の・・・・・・」

 

車に引かれてしまった、親猫の亡骸だった。

 

「・・・・確かに猫には可哀想だとは思うけど、自分がトラックに引かれる事を考えないなんて・・・・まったく」

「──────────」

 

警官の言葉に、風は言葉なく俯く。

 

―――――――――――†――――――――――

 

いくつかの事情聴取の後、その場は解散となった。

猫の亡骸も片付けられて、道路にはその痕跡が残るだけ。

 

「───────────助けられるって・・・・・思っていた」

「え?」

 

ふと、それまで沈黙していた輝夜が口を開いた。

 

「いや・・・・・少し、違う。助けたかったんだ───こいつも、こいつの親も・・・・みんな」

「煌月・・・・・」

「ばっちゃが、去年死んだ。あのとき、凄く・・・・・悲しかったんだ・・・・・・あんな思いは、もう、したくないし、誰にも、させたく・・・・なかっ・・・・」

 

静かに、涙を流す輝夜に、思わず風はその頭を抱き締めていた。

 

「だからといって、無茶な事をするんじゃないわよ・・・・」

「でも!!」

「でももへったくれもないわよ!!死んじゃったら・・・・何にもならないのよ・・・・!?」

「────────でも、こいつ・・・・俺のせいで、一人ぼっちに・・・・・・」

「──────なら、言い方を変えてあげる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

「・・・・・・え」

 

そこで初めて、輝夜は風の顔を見た。

 

「明日、勇者部でその子の飼い主になってくれる人を探しましょ。そうすれば、その子は一人じゃない」

「────────────」

「よし!じゃ、そろそろ帰りましょ。今日のところはその子、あんたの家で預かってもらえる?」

 

うなずく輝夜に、風は満面の笑みを浮かべる。

 

「大丈夫よ。ちゃんと、見つかるって。じゃね♪」

「あ・・・・・あの!」

「ん?」

「────────ありがとう、部長・・・・・ううん、風さん」

「!─────ふふっ♪気にしないの!困った時はお互い様よ!それより!あんたは無茶しないよう、気をつけて帰りなさい!いいわね?」

「ああ─────!」

 

風につられて、輝夜も笑う。

そうして二人は、帰路についた。

 

―――――――――――†――――――――――

 

「─────という訳で、今日はこの子猫の飼い主になってくれる人を探すわよ!」

「はーい!─────かぐやちゃんは後でお仕置きね」

「柱に吊るしておくわ」

「勘弁してくれぇ・・・・・」

「はいはい、それは後にしてちょーだい。今はこの子が先!」

 

風の音頭に、友奈と東郷が返事をする。

と、そこに───

 

「風さん」

「ん?どうしたの」

 

輝夜が近寄り、話しかける。

 

「俺、昨日考えたんだ」

「ほう、何を?」

「風さんは勇者部の部長だろう?だからさ、俺は副部長をやろうと思うんだ」

「副部長ぉ?」

「かぐやちゃんがー?」

「・・・・・・必要なのかしら?」

「そこ、うっさい」

 

茶化す二人をあしらって、輝夜は続ける。

 

「俺はね、風さん。ヒーロー願望があるワケじゃないけど・・・・・それでも、誰かを助けられる人に────昨日の風さんみたいな人に、なれたらって思ってるんだ」

「あー・・・・面と向かって言われると、ちょっと恥ずかしいわね///」

「だから、とりあえず・・・だ。とりあえず今は、風さんのサポートを頑張ってみようと思う」

「それが副部長?」

「何か変かい?」

「────────良いんじゃない」

「だろう?『"大切なのは結果ではなく、そこに向かおうとする意志である"』ってね」

「は?どういうこと?」

「小さな事からコツコツと。それがいつか、大きな影響をもたらすかもしれないってコト」

「ふーん・・・・よくわかんないけど、それも"ばっちゃ"の言葉?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「そうなんだ・・・・・でも、その言葉、なかなか良い言葉じゃない」

「フッ・・・・だろう?」(キリッ

 

格好付ける輝夜。

それを見て、風が笑う。

 

 

 

 

 

その日、風は大赦への報告書に、こう書いた。

 

煌月輝夜は、少し喧嘩っ早いだけの普通の少年です。

私達に危害を加える可能性は、限り無く零に近いでしょう。

 

と。




この日を境に、輝夜は格好付けた態度をとるようになりました。という話でもある。

尚、今回のメール及び、()()()()()()()により、輝夜は大赦から"は"マークされる事はなくなった。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。