りっくんとみーちゃんのなれそめ物語。
どうぞ、お納めください
うたのんが連れてきた彼は、諏訪に来てから今日までの二週間、与えられた部屋から一歩も出ずにいた。
「・・・・・・・・・」
「あら?どうしたの、みーちゃん」
「あ・・・・・・うたのん・・・」
彼の部屋の前で固まっていたら、うたのんに呼び掛けられた。
「もしかして、彼に用事?」
「・・・・・・んと、そういうのじゃないんだけど・・・・・・そういううたのんは?」
「私の用事はこれ!」
そういって掲げたのはクワ。どうやら農作業のお誘いに来たみたい。
「・・・・・・・・・出てくるかな?」
「無理矢理でも出させてみせるわ!」
「無理矢理はちょっと・・・・・・」
「ハロー!気分はどう?ちょっと失礼するわ!」
うたのんはドアをノックして部屋に入っていった。
しばらくして―――
「ダメだったわ・・・・・・」
「お・・・お疲れうたのん・・・」
見るからにしょんぼりしたうたのんだけが部屋から出てきた。これで通算十一敗目。
「・・・・・・うたのん」
「バぁぁぁぁぁぁぁぁット!私は諦めないわ!今日はおとなしく引き下がるけど、明日こそは引きずりだしてやるんだから!!」
「うたのんセリフが悪役っぽいよ・・・」
そのままうたのんは畑へと向かっていった。
その背中を見送りながら、彼に初めて会ったときのことを思い返す。
―――――――――――†――――――――――
「ハロー!調子はどう?」
うたのんが部屋に入っていく。私はその後ろに、隠れるようにしてついてく。
「・・・・・・・・・ん、とりあえず、ありがと」
「大丈夫なのね。なによりだわ。お礼とかはいいから!当然のことをしたまでなのでっ!」
「―――――――」
彼はぼーっとうたのんを――――違う、
「―――――――そこにいるの、だぁれ?」
「っ!!」
「あら?人の気配に敏感なの?ほらみーちゃん、出てきて挨拶しましょ♪」
「う・・・・・・うん」
うたのんに引っ張り出されて前にでる。
「えと・・・藤森水都、で・・・す・・・?」
「?どうかした・・・の・・・」
「―――――――――――――――――ぁんで」
わたしの姿を見た瞬間、彼の様子は一変した。
顔を真っ青にして、ガタガタと体を震わせて、まるで、恐ろしいものを見たみたいに、はっきりと怯えていた。
「え?・・・えと・・・あの、大丈――」
「ひっ」
近付こうとしたわたしに反応して、彼は後退った。そのまま壁までさがって、なにかうわごとのように呟く。
「――――りえないそんなわけ―――ってあのとき―――でもそれ――――――だれたにんのそら―?―としても―――て」
「だ・・・大丈夫ですか?どうかしましたか?」
「こないでっ!!」
絞りだすような、それでいて、はっきりとした拒絶。
涙を両目いっぱいにためながら、彼はわたしをにらんで言う。
「なんだよ・・・なんなんだよ!あんた!」
「ひっ」
「くるなよ・・・くるんじゃないよっ!なんだって・・・こんなところまで・・・もうやだ・・・やだよぉ・・・」
この時、わたしが怯んだりしなければ、こんなことにはならなかったのかな?
だって、あの時の彼、怖がっていた。
わたしを通して、誰かを見て、それに怯えていた。
このあと彼は、うたのんが呼んだお医者さんが来るまで、そのまま部屋の隅で膝を抱えて震え続けてた。
―――――――――――†――――――――――
それから、しばらく経って今、わたしは彼の部屋の前にいる。
「・・・・・・今日こそは、ちゃんと話さないと」
意を決してドアをノックしようとしたとき、
がっしゃぁぁぁぁぁぁん!!
部屋から、ガラスが割れる音が聞こえた。
「な・・・何?――――まさかっ!?」
嫌な予感のしたわたしは、急いでドアを開けて中に入る。
予感は半分的中。
彼は洗面所の鏡を素手で壊して、そのまま鏡のあった壁をなにか呟きながら殴り続けていた。
「死ね―――死ね―――死ね―――死ね―――死ね―――死ね―――」
「―――――っ」
明らかに異常だった。
まるで狂ったみたいに壁を殴り続けている。
ん?
そこでわたしは、あのとき彼を診たお医者さんが言っていたことを思い出した。
『彼は、
うたのんの話だと、諏訪に来たばかりのころはそんな様子は見られなかった、とのこと。なら、原因は一つ。
わたしだ。
わたしが彼の心の傷に触れてしまったから、こんなことになった。
だったら、どうする?
「(そんなの・・・決まってる・・・!)」
いまだに壁を殴り続ける彼の左手をとり、話しかける。
「だ・・・ダメだよ。それ以上やったら、手がダメになっちゃう・・・」
わたしの言葉に、彼は壁を殴る手を止めた。でも、
「―――――――――――――――さい」
「―――――!」
いつの間に装備したのか、右手にカギ爪付きの手甲を着けて、その切っ先をわたしに向けた。
「――――――――――――じゃま、しないで」
正直に言って、すごく、怖かった。でもそれ以上に、
わたしは、この人を助けたいって、思っていた。
「――――大丈夫、ここには、あなたを傷つける人なんて、いないから。だから、安心して・・・ね?」
なだめるみたいに、彼の手を両手で包む。
「――――――――――違う」
「え?」
震える声で、彼は言った。
「―――――――違うんだ・・・怖いんじゃない・・・
「――――――――――――どういう、こと?」
―――――――――――†――――――――――
それからわたしは、彼―――輪廻さんの話を聞いた。
悪魔と契約して、故郷を守っていたけど、一年もせずに壊滅。たった一人の家族すらも守れなかった・・・と。
「そんな僕に・・・・・・生きる資格は・・・・・・無い。だから、化け物と戦って・・・・・・死ねれば・・・よかった・・・なのに・・・」
そんなとき、うたのんが輪廻さんを助けて、そして、わたしと会った。
「――――もしかして、わたし、その、あなたの家族に・・・?」
輪廻さんはこくり、とうなずく。
「責められてる・・・気がした・・・・・・『なんで、まだ生きているんだ』・・・・・・って」
「―――――――」
「その後も、何度も夢に見た。はっきりと、責められている夢」
「声も、聞こえてきた。『なんで助けてくれなかった』『お前のせいだ』『お前が殺した』って」
「気がつくと、鏡の前にいた。疲れきった顔が、あった。そのくせ、
「―――――それが、許せなかった?」
いまだ繋いだままの彼の手が強ばった。
「だって―――そうでしょ?だれも救えなかった。みんな死んだ!命に代えても守るって約束したのに!
巫女都さん―――と、いうらしい。話を聞くに、妹さんなのかもしれない。
「こんなやつが、なんでまだ生きたがってる!?そんなの!!許せるわけがない!!!」
「なら!わたしが許すよ!!」
「―――――――――――――え」
言ってからすごく恥ずかしくなってきた。でももう言っちゃった。だから、後には引けない。もとより、引くつもりもない。
だって、このままじゃ、可哀想だ。
輪廻さんも、巫女都さんも、輪廻さんに守ってもらった人たちも。
「輪廻さん、これは、わたしの想像だよ。多分、みんなはあなたを恨んだりしてない。あなたが、勝手にそう思い込んでいるだけ。だから」
「それは―――分かってる。でもだからこそ!僕は自分が許せない!!」
「うん。それで、いいと思う」
「―――――――――――――え?」
わたしは、笑って輪廻さんに伝える。
「輪廻さんは、責任感が強すぎるんだよ。だから、自分を責め過ぎちゃう。そんなあなたには『自分を責めないで』なんて、無責任なこと言えないよ。でも、『死にたい』て思うくらい責める必要なんて、ないんだよ」
「―――――――――――――でも、ぼくは、守るために、生きて、きて、守るものがない、僕には、価値なんて、なくて」
なんとなく、わかった気がする。
わたしと今の輪廻さんには、共通していることがある。
ずばり、『自分に価値を見出だせない』
でも輪廻さんはまだ良い方だ。
わたしと違って、『自分の価値』を見出だせた。
なら、わたしがするべきは――――
「なら、輪廻さん。うたのんたちを・・・この諏訪を守って」
「!!」
「輪廻さんも知ってると思うけど、今、諏訪を守っているのはうたのん一人だけ。でも、輪廻さんも一緒に戦ってくれるなら、希望が持てるから・・・だから・・・」
輪廻さんは、じっ・・・とわたしを見つめて、それから―――わたしを抱き締めた。
「ふぇ!?え?ちょっ」
「―――――――――――ありがと」
「!――――――――」
恥ずかしかったけど、わたしも輪廻さんを抱き締め返した。
どうか、輪廻さんの心の傷が癒えるころには、世界に平和が戻ってますように、そう祈りながら。
―――――――――――†――――――――――
「―――――――名前」
「え?」
「―――そういえば、聞くの忘れてたって・・・思って」
恥ずかしそうに顔を伏せる輪廻さんがちょっとかわいいと思いながら、名前を教える。
「水都だよ。藤森水都」
「ふぅ・・・ん。名前の響きまで巫女都にそっくり」
「そうかなぁ?『巫女都』って名前の方が、良い響きだよ?」
「そうかぁ?」
「そうだよ」
ほとんど同時に、二人で笑った。
輪廻さんの笑った顔は、無邪気な子供みたいで、やっぱり、かわいいと思ってしまった。・・・失礼、かな?
と、その時だった。
ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・・
「何の音!?」
「サイレン・・・バーテックスが来たっ!!」
「そういうこと・・・っ!」
サイレンの意味を知るや否や、部屋を飛び出そうとして―――
「おっと、ねえ!みぃ!」
「――――――――――え?わたし?」
「うん。『水都』だから、『みぃ』ね。猫っぽくて良いでしょ?」
「えと、輪廻さんが良いな「それと!」ふぁい!?」
「僕のことは『りっくん』と呼んで欲しいな」
「りっくん・・・?」
「親しい人はみんなそう呼ぶ。じゃ、行ってくる!」
ダッシュで行ってしまった輪廻さん――――りっくんを見送って、少し思う。
「(本当に、これで、よかったのかな・・・?)」
もっと別のやり方があったのかもしれない。
でも、わたしにはこれしか方法がなかった。
「(―――自分が、嫌になるなぁ)」
りっくんが増えたところで、平和が戻るよりも先に諏訪が墜ちるのが早いだろう。
それを分かっていて、りっくんに守って欲しいと言った。
つまるところ、りっくんを利用したのだ。
「(いつか、その時が来たら、りっくんだけでも・・・)」
そう、心に決めた。
なのに―――
―――――――――――†――――――――――
「(まさか、こんなことになるなんて――――っ!)」
「ん、どぉしたの?みぃ」
「な・・・・・・なんでもないでひゅ」
今、わたしはりっくんのお腹枕を堪能している。
りっくんがニックさんやわたしたちにジェラートを奢ってから、少ししたある日、りっくんが
「歌野ってさ、僕のお腹、枕にして寝るのが好きみたいなんよ」
「へぇー」
「みぃも、試す?」
「へぇー・・・・・・・・・・・・え?」
結局、ベッドに横たわるりっくんの誘惑に耐えきれず、こんなことになってる。
「―――――――――――ぅう」
「ん?寝づらい?」
「いいえ!全然!ぐっすり眠れそうです!」
「よかった~」
「(わたしは全然よくない~!)」
りっくんの匂いと体温を感じながら、呼吸と一緒に上下する少し硬い筋肉に頭を乗せる、これだけでも顔から火が出そうなのに、りっくんがわたしの頭を優しく撫でてくるから、もう、恥ずかしくて死にそう。
「みぃ、ありがとな」
「・・・・・・・・・え」
「僕に生きる理由を与えてくれたこと。今でも、感謝してる」
「・・・・・・・・・・・・それは」
素直に喜べない。だって、わたしは―――
「分かってる。みぃが僕を利用しようとしてたの」
「っ!そんな、気付いて・・・!」
あわてて起き上がろうとしたわたしを優しく押さえつけて、りっくんは話を続ける。
「それでも、みぃは最後には生かそうとしてくれたし、僕としてはこれ以上ないくらい感謝しかしてないから、みぃはもう、僕に縛られなくても、いいんだよ?」
「―――――わたし、は」
「みぃ」
優しくわたしの名前を呼んで、りっくんはわたしを抱き寄せた。あのときみたいに。
「もし、みぃが罪を感じているなら・・・僕に守らせて?」
「――――――わたしを?」
「そう」
弱みにつけこむみたいなその告白に、なぜだかわたしの心は高鳴っていた。だから―――
「――――――うん。わかった」
その告白に、OKしてしまった。
「――――――――――よかった。断られたら、どうしようかと思ってた」
「そうなんだ。なんか、ちょっと意外」
「これでも僕は臆病なんだよ?」
「知ってる」
あのときと同じように、二人で笑う。
いつか、遠い未来でも、こうやって笑い合えたらいいな、なんて虫のいいことを思いながら。
共依存って・・・良いよね・・・・・・