私は死にました。享年がいくつだったとか、死因とかはわかりません。ただ「死んだ」という事実だけは把握しています。
【転生しますか?】
☞はい いいえ
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なんていう選択肢があったことと、そのコマンドを「はい」にしたことだけは覚えている。
「瑛璃、起きなさい。保育園に遅れるわよ?」
「はーい……」
まだ寝ていたいと思いつつも仕方なくふわふわな寝心地のいい天蓋付きベッド(ちなみに私ではなく母親の趣味だ)から抜け出し姿見の鏡の前に立つ。
そこには、おおよそ日本人らしくない銀色の髪と真っ白な肌の色をした、眠そうにしている幼女が映っていた。
――――――司 瑛璃(つかさ えいり)、現在2歳。
まさか本当にもう一度人生を体験することになるなんて思っていなかった。
要約すると、現在、非常に混乱中である。
生まれた今世の生家は結構な金持ちで両親は両方とも日本人。ではなぜ私がこんな見た目をしているのかというと、それは母親の血筋が関係している。実は母方のご先祖(直系ではあるが祖母とかそういう近しい血縁ではない)に北欧の人がいたらしく、私の見た目はその隔世遺伝らしい。俗っぽい言い方をすれば先祖返りというやつだった。両親は普通に接してくれるが、当然、他の子どもたちから見たら私は毛色の違う子どもだった。そのせいか父親は特に私に対して厳しかった。甘やかすのと愛情は違うということだろうか。それとも実力をつけて他の子どもたちを見返してやれということだろうか。それとも、自分の血に非はないのに私のせいで嫌でも目立ってしまう我が家の世間からの風当たりからなのか、それはわからない。しかし
「他人のものを奪ってでも頂点に立て、いいな⁉」
それが父親の私に対する口癖のようなものだった。
「……はい」
思えばこの時、私は幼くして疲れてしまっていたのだろう。
そして、事件が起こった。
保育園の工作で好きなものを描くことになった時、私は空の絵を描くことにした。絵を描くことそのものに抵抗感はない。家柄的に英才教育のようなものの一環として絵画やピアノ、バイオリン、声楽、社交ダンス、バレエ、茶道や華道など和洋関係なく習い事を詰め込められているからだ(ちなみにそれらを一定以上こなせなければ講師や両親に怒られる)。この身体は滅法ストレスやプレッシャーに弱いけど耐えなくてはならない。他に生きる術なんてないんだし。
そして絵を描いていて思った。―――あの綺麗な青が表現し切れていないようななんとなく物足りない気がする。
隣には「きれいな青ができた」と得意気に自慢している子のパレットがあった。―――ああ、たしかに綺麗な色だ。
いいな。
魔が差した。
「びゃああああん!!えいりちゃんがわたしの絵の具とったー!!」
「ちょ‥‥ちょっと瑛璃ちゃん!?駄目でしょ!!どうしてそんなことしたの!?」
先生が私に問いかけてくる。なんで?父親は「奪え」って言ってたし、先生だってこの時間が始まった時「みんな仲良く足りないところは分け合って良いところは真似してねー」って言ってたのに。
「え?だって……その色があったらわたしの絵がもっとよくなると思ったから」
それからお迎えの時間になって両親が保育園に呼ばれさすがに大事になってしまった。先生から事の概要を聞いた両親、特に父親は底冷えするような声で真顔になりながら静かに怒っていたが私が先生に言ったことをそのまま伝えると表情を変えた。父親のやや斜め後ろにいた母親も蒼白になりながら両手で口元を隠して驚愕に目を見開いている。
「瑛璃…まさかあなたお父さんの言いつけを守って…?」
「?うん、それに先生も『足りないところは分け合って良いところは真似してね』って言ってたから」
ますます顔色が悪くなっていく二人。私はそのままお手伝いさんによって別室に移され、習い事の中でも一番好きな料理教室へ両親と顔を合わせることなく出向くのだった。