*から竜胆先輩視点。
月饗祭最終日。初日から慧君のおかげで集客も料理の提供や回転率がスムーズだったためか連日山の手エリア売り上げ第一位を獲得し、残すは今日のみである。予約者と飛び入り両方込みでかなり多めに発注をかけておいたのでラストスパートをかけるにはちょうどいいかもしれない。余ったりしたらちょっとした料理を作ってこの間一目惚れして買ったランチボックスに詰めて、極星寮でつまんでもいいだろうし。
と少し考えてリンドウの顔が浮かぶ…余る、かな?余るよね?
見た目に合わず大食いチャンピオンも真っ青な顎と消化器官を持っている友人に、去年の店のフルコースを十周させられるという暴挙に出られている(ちなみにフルコースの料理を十個ずつ食べたばかりであるというのに「じゃ、あたし他にも回ってないとこあるから」と軽快に去って行った。)前例があるので油断はできない。
「(まあ、リンドウに食べてもらえるのはとっても嬉しいんだけど)」
リンドウは美味しそうに食べてくれるのだ。そのうえ味の感想や次は何が食べたいとかこっちの方が好みだとか、そういった我儘も言ってくれる。みんなや寧々ちゃんや慧君も、我ながら友達には恵まれていると思う。
――――――あんな、味わいもしない人間たちと違って。
「(考えても仕方ないけど)」
そう、考えても仕方ないのだ。人の価値観なんてそう簡単に変えられるわけもないのだし。
もうこの考え事やめよう。まだ料理を作っている途中なんだから、萎えてしまってはダメだ。
「司先輩」
「何?一色」
「竜胆先輩が来ましたよ」
「もう?今年はちょっと早いね」
今の時間帯は昼より早めなので客足もバラつきがあり、予約者もほとんどいないのでちょうどいいのかもしれない。
「じゃあ余裕も出てきたし、一緒にリンドウのところに行きましょうか」
「はい」
――――――
「おー、司ー!今日のコースも美味かった!!」
「ありがとう。あ、でも…リンドウがいるならもうちょっと室温調節した方がよかった?大丈夫?寒くない?」
「はは!だいじょーぶだよ、じゅーぶん快適快適♪そんじゃコースもう一回りくれ!」
「はいはい、あ、一色。まだ昼前で客入りまばらだから休憩入っていいよ。そうだな…ランチタイムの始まる十一時半までに戻ってきてくれればいいから」
「はい、わかりました。」
にっこりと笑顔で手を振る慧君とにんまりと次の獲物を待ち構えるリンドウを背に私は厨房へと戻って行った。
******
「一色」
「なんですか竜胆先輩」
「司の料理来るまでのあいだ、暇だから話し相手になってくれよーいいだろー?」
「いいですよ、ちょうど僕も暇なので」
「よーし、立ったままってのもあれだし、ほーら、すわれすわれー♪」
「ありがとうございます」
ガタガタとあたしが自分の向かいにあった椅子を引き促すとそこに一色が座った。
「ここに来る前に寧々のやってる蕎麦屋に行ってきてさ、なんで寧々は出店してておまえは出してねーんだろ?って思ってたら『司の店に行けば分かる』って言われてなー面白そうだからすっ飛んできたんだよ。」
「そうだったんですか」
「ああ、寧々、すっげー悔しそうにしてた。『私だってお姉ちゃんの店手伝いたい…なんですぐに申請書類提出したんだろう』ってぼやいてたぜ?おまえら司のこと好きすぎだろ!!」
ははははは!とあたしが笑うと一色も穏やかな、悪く言うとやや胡散臭げな笑顔を浮かべる。
「そうですね、僕らはいつも彼女にくっついてあちこち遊びまわってましたから、それはもう実の姉弟のように…「けど、おまえはそれだけじゃない。そうだろ?」!」
一色にとっては寧々も含めてのことに聞こえたんだろう。ま、実際あたしの聞き方もそんなふうに聞こえるだろうしな。
だから言い切る前にはっきりと、でも声を低めて一色にだけ聞こえるように言うと、反応した。いつも何考えてるか分からない分こんなふうに分かりやすく反応するとか、おもしれ―なこいつ。
「…知ってたんですか」
「ああ、司の奴とか寧々以外の他の奴らはたぶん気付いてない。けどさ、司と話すとき一番優しい顔してるよ、おまえ。それに今回手伝うのだって満更でもなかっただろ?」
「ええ、これでも抑えてたつもりだったんですけど」
「ばーか、りんどー先輩を甘く見んじゃねーよ。分かりにくそうに見えて分かりやすいぜおまえ?司のことに関して、だけどな」
「参ったなあ、さすが竜胆先輩ですね」
「へへーん、もっと褒め称えてくれてもいいんだぜ?」
困ったような笑顔を浮かべる一色と得意げに腕を組むあたし…おっと、流されて肝心なこと言うの忘れてた。
「一色、おまえ二年に進級したら絶対十傑に入れよ」
「そんな、まだ月饗祭の途中で、進級試験に受かってすらいないのに気が早いですよ。」
「いや、おまえや寧々は確実に進級するってあたしも司も確信してる。まあ十傑については寧々は必ず入るだろうけど、こうやって釘でも刺しておかないときっと誘いがあっても断るだろー、おまえ。「僕は青春を謳歌したいだけで学校の仕事なんてやっている暇はありません」みたいなふうにさー」
「…たしかに、そうですね。正直言って、僕は料理を楽しめればそれでいいので」
「あー、それ司も。あいつの場合は必要に迫られてとかキレてとか、そういうどうしてもって時しか今のところしてないしな」
それでもここぞって時にはちゃんと決めるし、負けなしだから大したもんだよな。さすがあたしの司。そんなことを言ったら目の前の奴や寧々に警戒されるかもしれないけど。
「あたしは別におまえが嫌だっていうなら強制はしない。けどこれからも司の傍にいるんだったら入っとけよ。今や望まない形だったとしてもあいつは一席だ。今まで以上に付きまとわれることになるし、求められることも多く高くなる。そんなときにタダの一般生徒だったりした日には、きっとおまえは司を守れない。それでも、後悔しないって断言できるか?」
あたしが言い終わる頃にはもう余裕のあるいつもの笑顔はなくて、ただただ言葉を吟味し理解している真剣な顔つきの一色がいた。
「――――――竜胆先輩は、なぜ僕にこの話を?」
「んー、司やあたしの味方は多い方がいいと思ってさ。特に司のやつ溜め込みやすいから、そんなときに寄りかかれる奴がいてくれると助かるなって。あ、心配しなくてもおまえの恋路の邪魔なんてしないからなー。むしろ応援する!!」
「ありがとうございます」
「おう、どんどん頼れ!!」
その後あたしの料理が来た後も一色と話は続き、結局一色の休憩時間が終わるまで続いた。悪いことしたかなーとほんのちょっと罪悪感があったが、一色本人は司に呼ばれて機嫌よさげに厨房に消えていったので大丈夫だろう。
なあ一色、正直言ってあたしはおまえになら司をやってもいいと思ってるんだよ。
だからこそ強くなれ。それこそ、あいつを守れるくらいに、な。
竜胆先輩は鋭いから一色先輩が恋心隠してるようでも看破しちゃってるよっていう話を書きたかった。あと主人公の闇もちょっと書きました。
ちなみに分かりやすいっていってもそれは竜胆先輩だからこそで普通の人たちには仲のいい幼なじみとしてしか映ってないです。