「リンドウ…」
「あたしも他のやつらもお前の料理が好きなんだからそれならだいじょーぶだろ?」
「…うん」
「ま、好みとか食材とかにはうるさいだろうけどなー。っていうわけでこのラタトゥイユのおかわりくれ!」
「わかった」
「あと書類作成よろしく」
「わかっ…え?」
「よっしゃー!言質とったー!!」
「」
+からえりな視点です。
一色とリンドウのおかげでこの頃気分的に楽に料理できるようになった。相手の好みに合わせて料理するのってこんなに楽しかったんだ。今更気付いた。レシピ開発も苦にならないし、自分のスタイルも両立させながらできるので相手の反応とか見るのもおもしろい。
今のところ順風満帆と言っても過言ではない。もう私何も怖くない!!
…はい、思いっきりフラグですねーわかります。
「司瑛璃さん。君が皿に込めた熱量は―――会場に居た豚共の何奴にも届いてなかったよ」
▶目の前に黒服の男が現れた!
ここ私の控え室だよね?リンドウがいるのは分かるけどなんで年齢不詳っぽそうな胡散臭げな人がいるんだ?
リンドウは警戒しているし、私も突然の事でどうしたらいいか分からない。コマンドは…
➤にげる
おびえる
すたんがん
みなかったことにする
碌なのがない。え、すたんがんってスタンガン?いやたしかに持ち歩いてるけど。でもまだ話しかけられただけで何もされてないからこの場合私が悪くなりそうだし…。そんな私の葛藤をよそにえーと、便宜上黒ずくめXは話を続けてくる。
「今日君が作ったメインの皿――――――自分では100点満点だと思っていない…そうだね?」
え、なに当たり前の事言ってるのこの人。
「はあ…まあそうですね。現状に満足していては先に進めませんから」
気のない返事になってしまったのは仕方がないと思う。
「…誰かと思えばあんた、月饗祭の時司の店にいた奴じゃねーか」
「おや、気付いていたのか」
「当り前だろー。司のことずっと見てたくせして」
「え゛!?」
サァっと血の気が引いていく。え、なに。この人もストーカーなの!?ついに学生以外にもストーカーが流行り出したの!?
「どこのどなたかぞんじあげませんが、きょうのところはおひきとりねがいます。」
「そうだそうだー!!」
「今日は顔を見に来ただけだったしね、わかった。では失礼するよ」
そう言ってXは去って行った。全身黒ずくめだったし目は死んでたし、まさに死神・・・いや不審者だった。これからあんな不審者にまで命を狙われるのかと思うと急激に体調が悪化していく。
「うぇプ…リ、リンドー…」
「うお!?おい司だいじょーぶか!?真っ青だぞ!?」
「気持ち悪い…おなかいたい…は、吐く…っ」
「わー!!待て待て待て!!」
そんなこんなで、私と黒ずくめX―――薙切薊との邂逅は最悪の形で終わったのだった。
*****
あれ以来、私は学園の外に出る時は必ず小型のスタンガンか肉叩きを装備するようになった(必然的に肉叩きの素振りが日課の一つになった)。そしてそれらしい人物を見つけては隠れて撒くので、今のところあの不審者とのエンカウントはゼロである。
しかし―――
「受験生全員逃走って…」
私は今、十傑の仕事の一環として今年の編入試験の試験官をしている。
・・・はずだった。
遠月から遠い地方の方でも受けられるようにしてはどうかと評議会で提案し、日にちをずらして各地の試験会場にそれぞれ十傑や名のある講師陣を配置したのだが…結局合格者は現れなかった。
人は集まるのだが私が試験官として入室した途端に目を白黒させて全員逃げるのだ。十傑に入ってすぐに提案したことなのでもうかれこれ二回目だ。実食を楽しみにして朝ご飯をカロリーメイトで賄い、昼頃の試験に臨んだので絶賛空腹中である。今回の試験会場が学園の調理棟で助かった。物も揃ってるし、人によっては使うことになるということで最新の調理器具(遠心分離機などの機材含む)も設置したので調理に困ることはない。食材も余ったら好きにしていいと許可をもらっているので大丈夫だろう。
「(無難にポワレにでもしようかな)」
せっかくなので旬の食材が使いたい――――――あ、ヒメダイあった!ラッキー。
まずはヒメダイに塩と胡椒をふって、フライパンにサラダ油を熱してさっきのヒメダイを皮目から中火で焼いて―――
『不味いわよっ』
この聞き慣れた声は―――そういえば隣の調理室でも試験やってたんだっけ。たしか試験官は―――薙切えりなだったはずだ。にしてもあの子がこんな感情的な声を出すなんて何があったんだろう?ポワレは二人分追加して出来上がったら持って行ってみようかな。
*****
焼きあがって盛り付けし、隣の調理室まで運んでいく。するとやはりそこにはこの調理室の試験官であった薙切えりなとその秘書・新戸緋沙子がいた。…なんかえりなは調理台に突っ伏して震えてるし、新戸さんはそれをなだめようとしてるように見える。
「失礼します。」
「!司瑛璃一席」
新戸さんが私に気付くとえりなもこちらに気付いた。
「っお姉様!!」
「私のところは私が自己紹介と試験内容話終わったらすぐにみんないなくなってね。何も食べられなかったから手の付いてない食材でポワレ作ったんだけど…食べる?」
「是非!」
「新戸さんも」
「わ、私の分まで用意してくださったんですか!?」
「うん。はい、召し上がれ」
「いただきます」と二人ともポワレを口に入れる。私もそれに続いて食べた。うん、我ながら美味しくできた。二人とも感極まったように味わってくれているし良しとしよう。
「ごちそうさまでした、お姉様。今日の品も美味しかったです。」
「ごちそうさまでした。」
「二人とも味わってくれて何より。さっき声が聞こえたから何事かと思ったけど…多めに作って正解だったね」
私が食べ終わった皿を下げながら言うと二人は固まり、それからえりなの方はわなわなと震え出した。
「き、聞かれてた…?よりによってお姉様に…っあの男!!」
「ね、ねえ。なんだかえりなが燃えているように見えるんだけど…本当に何があったの?」
「そ、それが実は先程の編入試験で唯一受験した者がえりな様に対し無作法を働きまして…」
なるほど、だからか。というかあのえりなに対して料理を出せるなんて相当の実力を持っているのかそれともただの無鉄砲な子なのか…今年こそ何事もないまま終わりたいものだけど。
「無理だろうなあ…」
怒り震えるえりなを見ながら私は呟くのだった。
+++++
お姉様と緋沙子と別れ、私は誰もいない廊下を踏みしめ歩く。
何よ!何よ!!何よ!!!
思い浮かぶのはあの赤毛のへらへらしたイラつく顔の男。
「あんな偉そうな物言い…この薙切えりなに対して!」
そのうえあの不祥事の一部始終をよりによって
許せない!
代わりに壁を殴った手の痛みにしゃがみ込む。
幸平創真…君のような人間は遠月学園には必要ありません!!
そして私は電話の受話器を取り―――
「もしもしえりなです。おじい様に―――学園総帥につないで下さい。」
「本日の編入試験。合格者は―――0名です。」
えりなは主人公に懐いています。なので今回のこと(失態)を主人公に知られてしまい原作より怒っています。
そのうえ父親が主人公のストーカー(仮)をしてると知ったら・・・