食卓の聖騎士(ターフェル・パラディン)   作:紗代

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今回は作者の好物ということで結構味の感想がくどくなってるかもしれません。

一色先輩が可哀想な回。


二十皿目 所詮幼馴染みということで

今日も予約を消化して閉店すると他の店に繰り出す。初日は久我と幸平のところに行ったので、二日目からは他の十傑の店に顔を出している。

 

「うん、やっぱり寧々の打つ蕎麦美味しい」

「ありがとうございます。…おかわりは?」

「!ありがとう、いただきます!」

 

しばらくして寧々ちゃんの持って来てくれた蕎麦のおかわりに手を付ける。うーん、やっぱり蕎麦って言ったら寧々ちゃんの打つのが一番に出てくる辺りが贅沢なんだよね、私。

再び蕎麦を口に運ぶ。まずは何も付けずに蕎麦単体を食べる。蕎麦独特の香りがいい。次は蕎麦の先だけ付けて、その次は全部付ける。あ、ワサビと葱入れとかないと、こうするとより美味しくなるんだよね。

 

「…初日は驚きました」

「ああうん…まさか私も巻き込まれるとは思ってなかったからさ…」

 

あれから幸平の店は初日の赤字を回避したらしいけど、二日目は少し売り上げが落ち込んだ。うーん…でもこれ以上私が立ち入れば贔屓になるし、そもそも幸平の店ではなくなる。この局面をどう挽回するのか…それも興味あるなあ…。

 

「ふふ…あ、そうだ寧々」

「なんですか?」

「この後一色の店に予約入れてるんだけど、一緒に行かない?」

「すみません、この後も予約が入っていて店から離れられないんです。」

「あー…そっか、ごめんね。」

「いいえ、今度必ず埋め合わせしますから。また誘って下さい」

「うん」

 

寧々ちゃんはキリッと、でも嬉しそうに言葉を返してくれた。それに釣られて私も口角が上がった。

月饗祭もあと二日。私の学生生活もあとわずかだ。だからこそ楽しませてくれよ―――

 

――――――

十傑の店では最後になる慧君の店・芋煮会に着いた。出店場所が極星寮なので下手すると私の店より遠いのだけれど…慧君が先生をしている料理教室の生徒さん(ほとんどがご婦人)でほぼ満席である。マダムの追っかけパワーって凄いなあ…見た感じ私の席があるのかどうかは分からないが、そろそろ夕飯の時間だし、ここまで来たのだ。何としても食べなければ!!

意を決して極星寮前の看板が掛かった仮設テントに歩み寄る。

 

「あの」

「はいはーい、今うかが…え」

 

シニヨンの子が明るく駆け寄って来てくれたけど、私と目が合った瞬間固まって予約表(?)らしきものを落とした。

 

「どうしたの、悠姫。一体何が…」

「りょ、涼子!涼子!!だ、第一席が!!私たち極星寮の模擬店にー!!」

「!!?」

 

シニヨンの子は怯えながら心配して駆けつけてきた同じスタッフの子のところに戻って行った。駆けつけてきた子も私を見て顔色を変える。

…あのー、別に君らを食べるわけじゃないんだからその化け物を見るような形相するのやめない?他の人たちの視線も気になるし………ショック、だし。

…もしかして予約に入ってなかったんだろうか、たしかに正式な手順を踏まずに慧君に「一色の店に行くから」ってしか言ってなかったけど…ああああああ!!どうしよう、きっとそれが原因なんだ!!…ここなら他の十傑のみんなの店と一緒で落ち着いて食べられるとおもったんだけどな…

 

「あの…」

「は、はいいい!!」

 

すっごい反応された。そんなに嫌なのか…

 

「予約、したんだけど…一色呼んでもらえるかな」

「はい、只今!!」

 

物凄い速さで二人とも去って行った。いたたまれない…

 

しばらくすると慧君がやって来た。

 

「司先輩!」

「…一色」

「ようこそ!我らが極星寮の芋煮会へ!席までご案内します」

「…うん」

 

なんとなく、泣きたい。

 

 

 

 

 

慧君に連れられてきたのは川に近いが水はねが来ない程度の距離にある席で、極星寮の周りの景色も相まって眺めが良い所だった。あれ、ここってひょっとして一番いい席なんじゃないのだろうか?

 

「どうぞ」

「ありがとう―――いただきます」

 

さっそく芋煮に手を付ける。おお、牛肉に濃いめの醤油、まさに芋煮だ。けど宮城や山形の庄内地方なんかだと豚肉に味噌で色々論争も起こってるらしいけど、美味しければどっちでもいいと思う。ちなみに私は牛肉に醤油派だ。慧君が覚えててくれたのかもしれない。

―――あ、この芋煮の汁飲める。いくら基本的なレシピは一緒だと言っても家庭によって具材や味付けの濃さは違う。特に河原で作るときなんかは目分量も良い所なので必然的に濃くなって飲めなくなることもある。でもこれは違う。ちゃんと飲めるし味も滲みている。じっくりにこんだのか葱は形を保ちつつも柔らかくて甘いし、牛肉の脂が融け込んだ汁にマッチしている。気になる里芋も柔らかくてホクホク。がそがそいっていない。

美味しい~!!

 

「おいし…」

「それはよかった」

 

ニコニコと慧君が見守る中、私は芋煮を食べきった。

 

 

「今年の極星寮も選り取り見取りだね」

「はい、自慢の後輩です」

「そっか―――で、一色の好きな子はどの子?」

「は?」

 

間の抜けた返事が返ってくる。え?

 

「いや、去年『友達より近い距離で気付いてもらえない』って言ってたから」

「だからってなぜ寮生なんです?」

「消去法。あ、それともリンドウ?」

「違いますよ」

「そっか…せっかくだし一色の恋に協力しようと思ったんだけど」

 

うーん、じゃあだれだ?心無しか慧君の笑顔が若干ひきつってる気がしないでもない。

 

「…そういう先輩も最近随分うちの寮生に御執心ですね」

 

寮生―――幸平のことか。

 

「そうだね、面白いとは思ってるよ。今回巻き込まれるとは思ってなかったけど…まだ何か考えがあるみたいだったし最低でも退学にはならないでしょ」

「ひょっとしたら売り上げ一位になるかもしれませんね」

「…それは久我が負けるってこと?」

「いいえ、そこまでは言ってません。大体久我君だって今年こそ月饗祭で五日間売り上げトップになったら司先輩にリベンジの食戟を申し込もうと躍起になってますし」

「そんな制約作らなくても久我だったらいつだって受けて立つけど」

「そこはやっぱり意地なんでしょうね」

「ふうん」

 

よく分からないが料理人としてのプライドを賭けるのであれば私も納得する答えだった。というか幸平の話題に移ってから慧君は笑顔なのに目が笑っていない。

 

「もし、創真くんが久我くんに勝ったら。司先輩はどうしますか?」

「そうだね…まだはっきりとは考えてないけど、ますますほしくなるかな」

「…そうですか」

 

一瞬、慧君が整った顔を寂しげにしていたように見えた、でもすぐに元の笑顔になったのできっと慧君にとっていい返答だったのだろう。幸平には慧君も一目置いてるみたいだし。

 

「まあ、月饗祭も今日で3日目。ちょうど折り返しの時だ。今日、もしくは明日までのうちにある程度の成果が出せなければ周りや中華研のラストスパートに巻き込まれて終わる」

「それはどうでしょう」

「…ふふ、やっぱり一色もそう思う?私も、彼が―――幸平がただで転ぶようなやつではないと、そう思うんだ」

 

久我と幸平、面白い組み合わせになった。ああ見えて久我はある程度相手を認めると世話焼きなところがあったりするから、どっちが勝って負けても決してマイナスにはならないだろう。

 

「それじゃあ、私ももう帰るよ」

「はい。出口まで送りますよ」

「いや、いいよ。これ以上一色の時間を独占したらお客様に悪いし―――あとそれから、幸平の事気にしてるみたいだけど・・・心配しなくても私の弟分は一色だけだから」

 

それだけ言い残すと私はその場を後にした。―――さて、私も明日に備えないと!




物陰でやり取りの一部始終を見てた人たち

「ねえ涼子。あれってさ、絶対一色先輩一席の先輩のこと好きだよね」
「けど完全に弟扱いだったわね…」
「一色先輩ファイト!!」
「…おまえら隠れてないで仕事しろ」
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