*からりんどー先輩視点です。
月饗祭最終日。あーあ、今日で月饗祭も終わりか…
確か今日の予約にリンドウが入ってたな。とりあえず去年と一昨年の教訓から少なくとも20人分は用意しておく。余ったら私がもらって試作に使えばいいし。と思っていると私の携帯が鳴った。着信は…リンドウからだ。
「はい?」
《おう、司。今日のあたしの予約のことなんだけど》
「ああうん。テーブル一つ取ってあるけど」
《あー、そのことなんだけどな。連れて行きたいやついるから二人分席追加してくれ》
「できるけど…連れて行きたいやつって?」
《ゆきひらそーまと田所ちゃん》
「…いいけどその分リンドウの取り分減るからね」
《えー》
「だって去年と一昨年食べた分でしか想定してないし」
《うー…わかった。じゃ、今日の夜な》
「ご来店お待ちしております」
そして電話を切り気合いを入れ直す。
よし、最後まで駆け抜けますか!
*****
「いらっしゃいませ。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「小林竜胆!」
「小林竜胆様ですね、お席にご案内させて頂きます」
「はーい、よろしくー」
ホール担当のスタッフが予約表を確認して先導するのに着いていく。あたしはもういろんなところに行ったし、司の店だって毎年通ってるからこーゆーのに慣れてるけど、連れてきた二人はやっぱり慣れてないのか幸平は時々キョロキョロしてるし、田所ちゃんなんかは可哀想なくらい挙動不審になってる。気持ちは分からなくもないけど、ここは外のちゃんとした店じゃなくて司の店なんだからそんなガチガチに緊張しなくていいのに。
案内された席について料理が来るのを待つ。
「あの、りんどー先輩。質問いいっすか?」
「んー?どーしたゆきひら、あたしで答えられることならいいぞー」
「第一席の司先輩ってどんな人なんすか?」
「あれ、おまえ司と何回か会ってんだろ?」
「たしかにあの紅葉狩り会の後も出店の出店場所とか一日目の時とかでアドバイスもらったりはしましたけど、それでもいまいち掴めない印象なんすよ。」
あーなるほど。
「掴めない、かー…そうは言うけどあんなもんだぜ?気弱で情緒不安定、料理しか取り柄がないって嘆いてる、苦労性で心配性なあたしたちのトップ。それがこの学園の頂点―――十傑評議会第一席、司瑛璃だ」
ま、仲間と認めたやつしか認識しないのは玉に瑕だけどな
「あ、そういえばアドバイスってどんなのだったんだ?」
「どんなって…普通に場所取りのときと模擬店の久我先輩に対抗するための秘策とかですけど」
「ふーん、司が二回もねえ、はは!やっぱすげーよおまえら」
「?どういうことすか」
「どうもなにも、ここだけの話司は滅多に人の顔覚えなくてな。酷い時は食戟に集中するあまり対戦相手を覚えてねーなんてこともあるんだぜ?そんなあいつが名前覚えてるうえにアドバイスとか、よっぽど気に入られてんだな幸平!!」
「「(対戦相手を忘れる!?)」」
「ああ。って言ってもあいつ作った料理の方の事は覚えてるから、その料理と照らし合わせればある程度思い出すんだけどな…と、料理来たぜ。とりあえず話は食べ終わってからな」
運ばれてきた料理に手を付ける。んー、やっぱり司の作る料理はうめーよなあ!!幸平と田所ちゃんも味わってるし、連れてきた甲斐があった。
コースを全て食べ終え、食後のコーヒーが出された。えーっと、去年と一昨年ので計算されててそこから幸平たちの分と今食べてる分を引いたら…
「そういえば…司先輩のお店ってなんだか本当に隠れ家的っていうか、結構落ち着いててこじんまりとした印象なんですね。よく見るとテーブルの数も少なめだし…」
「たしか初日のランキングでも山の手エリアでは5位だったしな」
「んーなんていうかそれにはちょっと事情があってなー、司は基本厨房に人を入れたがらないんだ。だからホールは任せられても調理は自分一人で回してるから客に出せる数に限りがあるんだよ」
「人を入れたがらない?」
「秘密主義ってことすか?」
「いーや?単純にトラウマだよ、トラウマ」
「トラウマ?」
「そ、あれはたしか中等部の時だったっけか。あいつこの料理の腕にあの見た目だろ?十傑に入る前から色々有名だったんだよ。それで追っかけとかファンのやつらも凄くてな、中にはストーカーじみた陰湿なやつもいてさ。ある調理実習の時に運悪くペアになったのがそういう類のやつだったらしくて、司が料理提出に行ってる隙を狙って司の賄いに自分の血混ぜ込んでたんだと」
「血!?」
「そのせいで益々人間不信になってそれ以来十傑以外のやつとペア組まなくなったんだよ、あいつ。去年は一色が手伝ってたから予約なしでも受け入れてたんだけど、今年は一色のやつも出店するっていうから事前予約分しか受け入れなかったんだ」
二人ともなんとも言えない顔になってた。まあそうだよなー。いきなりこんな話されたら。よし、ここは話題を変えてみるか。
「それよりも、うめーだろ?司の作る料理」
「あ、はい!食材の魅力を最大限に引き出しているというか…本当に「命」を感じるような、そんな料理でした」
「おう、いいこと言うなあ田所ちゃん♪」
幸平も言葉にならないって感じだな。よし、ここはあたしが解説してやるかー。
「田所ちゃんの言う通り、司は『食材を見極めそれを最大限に引き出す』ことが得意なんだ。最初に出てきた桜エビなんかもあいつの目利きだからかなりいいもんだったし。さすがだよなー。
…ゆえに、世界の食通たちからは食材に傅きその身と誇りを奉じる者「
お、噂をすれば…ってやつか。司があたしたちに気付いて近づいてきたのを見計らい会話を切り上げた。
「よう司!今日のも美味かった!」
「ありがとう、リンドウ。次のも作るから待ってて」
「おう!!」
「まだ食べるんですか!?」
「?そーだけど」
「リンドウは基本私の店でコースを10周くらいしてから帰るんだよ」
「いーじゃんか、うまいんだからー」
「はいはい…幸平と田所さんもいらっしゃい。大してもてなせないけどゆっくりしていってね」
「あざっす、司先輩」
「は、はい!!」
「ど、どうしたのあんまり顔色良くないけど…!も、もしかして空調効きすぎてる!?それとも暗い所ダメだった!?」
急にわたわた慌て始める司を見て小さく溜息を吐く。あーあ、せっかくの見せ場なのによー。
「ほーら、あんまり構いすぎると逆に引かれるぜ」
「え、えええええ!?で、でも顔色悪いし…っわ、私はどうすれば…」
「だから堂々としてろって言ってるだろー、それに二人の顔色悪いのはここのせいじゃない」
「そ、そうなの?…じゃあなんで?」
「あー…話しちゃった、おまえの「調理実習事件」」
「!!そ、そんな…」
「悪かったって!!もう大丈夫だから、な!な!!」
「う、うう~…わかった、もう、もどるよ…じゃあ三人とも、またね…」
よろよろとその場を去る司に内心謝った。悪いな司ー、後でちゃんと書類整理するからゆるせー。
「…田所、気が付いたか」
「え?」
「あんな気弱そうな人なのに、味に関しては何も聞かないし言ってなかった」
―――さっすが幸平。やっぱり気が付いたか。
「ま、聞くまでもないってことなんだろうな」
―――でも、うまかっただろ?
その言葉を飲み込んで、あたしはしばらくしてから幸平たちを見送り司の店のコースをまた味わうのだった。
ちなみにオリジナルの「白き聖女」はフランス語で名付けてます。フランスで一番有名な聖女はジャンヌダルク。なので陰口では「魔女」と呼ばれている設定。
ちなみに主人公も独裁者的側面持ってます(今後出すかは別として)。