最近学園でえりなの姿を見かけない。思えばあの緊急会議の時、私よりも顔色を悪くしていたのはえりなだった。たしか総帥に立候補していた薙切薊はえりなの実の父親だったはずだ。薙切家で、いやあの親子間でなにかあるのだろうか。
「人の家のことに口を出す筋合いはないのだろうけど」
―――なにか引っ掛かるな。
そう思った私は新戸さんのところに行くことにした。
「えりな様の居場所、ですか」
「うん、この頃見かけないし、この間の緊急の会議の時なんだか様子がおかしかったから…どうしたのかなって思って」
「…ですがこれは、司一席に言っていいものなのでしょうか…」
「…なにか、あるの?」
「あらあ、誰かと思えば秘書子チャンじゃない!」
新戸さんが後ろを振り返るのと一緒に私も声のした方を見ると、そこには薙切アリスと黒木場リョウがいた。
「だ、だれが秘書子だ!私は緋沙子だ!!」
「ハイハイ、司先輩もお久しぶりですわ」
「久しぶり、薙切さん、黒木場君」
「それで、お話は聞かせていただきました!えりなは今、薙切邸のある部屋に閉じ込められていますわ。そうでしょう、秘書子チャン」
「っ…そうです。えりな様は今、薊様によって部屋に閉じ込められ外部との接触を禁じられています。かく言う私も、それと同時にえりな様の秘書から外されてしまって…」
そういうことだったのか…私の小さい時の父親以上に過干渉なのだろうか。いや、ひょっとしたら私たち評議会で総帥就任を見送ってしまったのが一番まずかったのかもしれない。
何か私にできることはないだろうか…と思っていると黒木場君が持っているものに目が行く。
「あの…なんで黒木場君はロープなんて持ってるの?」
「お嬢が使うからって…」
「使う?なにに?」
「それはもちろん、えりなの脱走にです!!あの子のことだから自分から薊おじ様に反発したりはできないでしょうし、ならこちらからほう助してしまえばいいと、そう考えました!!」
おお!なるほどね!!さすが薙切さん、大胆だ。
「司先輩も如何ですか?」
「あ、アリスお嬢!司一席まで巻き込んではえりな様が…」
「あら、そのえりなは今一世一代のピンチなのよ?それにえりなだって頼れる先輩の一人や二人、居てくれた方が安心するでしょう?」
「そ、それはそうですが…」
「うん、私も一緒に行くよ」
「!よろしいのですか」
「ひょっとしたら今回の総帥就任見送りのことも関わってるだろうし、それに―――素直ないい子でしょ、えりなは」
―――理由なんて、それで十分すぎるでしょ。
そして私たちは授業が終わると同時に合流し薙切邸へ向かった。
――――――
薙切邸には新戸さん、薙切さん、黒木場君が忍び込み私は外で待機する。しばらくするとバタバタと慌ただしい複数の足音が近づいてきた。
「お姉様!?」
「よし、全員揃ったね。悪いけど雨も降ってるし説明は後でするから急いで!」
「で、でもここ以外に行く当てなんて…」
「いや、ある。学園の中で権力がいくらか届きにくい場所が、ひとつだけ」
ただもう私も退寮した身で、ある意味渦中の人間だから素直に受け入れてもらえるかどうかも怪しい、一種の賭けのようなものだけど。
「とにかく、ここに居続けたらまずい。案内するから走って!!」
全員が頷いたのを確認し、私は学園の奥へと走る。息を切らしながら鬱蒼と生い茂る森を抜けてたどり着いたのは―――
「着いた―――極星寮」
かつての私の居場所、極星寮だった。