「まったく、この雨の中で脱走を手伝って薙切邸からここまで来るなんて。いくらアンタでも無茶しすぎだよ、司」
「すみません、ふみ緒さん。でもここしか思い浮かばなかったもので…」
あれから私たちは極星寮の中に入れてもらい、えりなはお風呂に行き新戸さんと私はここに残って薙切さんと黒木場君は帰って行った。ちなみに他の寮生たちはひと塊になって私たちを遠巻きに見ている。あ、うん分かってるよこの場で一番場違いだっていうことは…外の豪雨でビショビショだし、いきなり「開けてくれー!!」みたいな鬼気迫った勢いで突然入ってきたのだ。…傍から見ると軽くホラーだぞこれ。
「あれ、司先輩」
「ああ、幸平。久しぶり」
「どもっす。でもなんで司先輩が極星寮に?」
「えりなの家出の手助けをね。ホテルは足がつくかもしれないから泊まれないし、総帥は十傑の会議後に仕事で海外に行ってしまったからえりなの現状を知らない。薙切家の関係者も総帥が不在の今、きっと薙切薊には逆らえないから…どうしても薙切薊の手が届かない場所がここ以外思いつかなかったんだ。道は覚えてるし寮生のみんなには申し訳ないけど、ふみ緒さんに頼んで二、三日ほどえりなを泊まらせてほしかったんだ。部屋に関しては私の部屋だったところがあると思ってさ」
「ほーって、え?私の部屋?」
「うん…あれ、言ってなかったっけ?私が元寮生だって」
幸平だけでなく周りのみんなも固まっている。え?え?どういうこと?
『えええええええええ!?』
みんな一斉にさけんだ。ひえええ!
「い、一席が元極星寮生?」
「うそ…」
いや、嘘じゃないから本当だから!!
「あー、もしかして私のいた記録、全部なくなってる?」
「いや初耳っすよ」
「ふみ緒さんと一色は知ってるはずなんだけど」
「その通りだよ!」
「うわっ!?い、一色!!びっくりしたあ」
「ふふ」
突如私の横に現れた慧君に驚いて腰が抜けそうになった。…椅子に座ってるからあんまり関係ないんだけどね。慧君は悪戯が成功した子どものような笑顔だ。でも心臓に悪いんで出来ればやめてほしい。
「一色先輩!!」
「聞いてないよ一席が極星寮だったなんて!!」
「あはは、ごめんごめん。紅葉狩り会の時にでも言おうと思ってたんだけどなかなか言い出せなかったものだから。じゃあ改めて紹介するよ。みんなも知ってると思うけど、彼女は高等部三年生の司瑛璃先輩。十傑評議会の第一席で元極星寮生だよ」
慧君に言われて席を立った。その場にいる全員を見た後、佇まいを正す。
「司瑛璃です。みんなのことは一色から聞いています。今回のことはごめんなさい、みんなには迷惑をかけるし図々しいと思うけど・・・できればえりなと仲良くしてくれると嬉しいです。―――どうかえりなをよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる。あんなに騒がしかった寮内が静まり返った。誰かの息を吞む音が聞こえる。
私は頭を上げ張り付く髪を整えると椅子に掛けておいたブレザーを持つ。
「ちょ、ちょっと、どこにいくんですか!?今外は土砂降りなんですよ!?」
「ブレザーがあるから大丈夫。実は今総帥が学園にいないから仕事の一部が一席の方まで回ってきててすぐ戻らないといけないんだ」
「待って」
ブレザーを持って外に出ようとしたら、慧君に腕を掴まれた。
「待ってください、司先輩。」
「一色」
「僕も今出ていくのは反対です。大体、あの評議会会議の後から働きづめじゃないですか」
「うーん、でも働いてた方が気がまぎれるし…いざとなったらまた宿直室借りるよ、着替えもそこにあるから大丈夫「大丈夫じゃない!!」
え
いま、慧君が、怒鳴った…?
周りのみんなも静かで、物音すらしない。
「こんな冷え切った体で一体何ができるって言うんだ、碌に休んでもないくせに無茶するんじゃない!」
「ごめ、ん…」
「……一人で抱え込んだりしないでもっと僕たちを頼ってください。少なくともここにいるみんなは先輩に対して何かするわけではありませんし、僕は先輩の味方ですから」
「…うん」
慧君が初めて声を荒げて怒った。驚いたけどでもそれは至極当たり前の事だ。真摯に怒ってくれる幼馴染、なんだか改めて慧君の一面を認識させられた。寧々ちゃんと慧君のことはこの学園の誰よりも理解してたつもりだったんだけどなあ…
「とにかく、そのままでいては風邪を引きますから、今日はもう湯船に浸かって休んでください」
「わかった…新戸さんは?」
「あ、わ、私はそろそろえりな様が上がられる頃なのでこのまま待機しています」
「そっか…じゃあ申し訳ないけど、お風呂、先にいただきます」
そしてそのまま風呂場に向かって私は歩き出した。