朝目が覚めてやることと言ったらやっぱり―――
そう、朝食づくりである。
昨日の夜寝る前にふみ緒さんに言って厨房を使わせてもらえることになり、みんなが起きてくる前に朝ご飯の支度を始める。
「はよっす、司先輩」
「おはよう幸平」
「その量…ひょっとして朝メシっすか?」
「そ、無理言って泊まらせてもらったんだしこのくらいはね」
「俺も手伝いますよ」
「ええ?でも…」
「一席の料理、もう一度味わいたいんすよ。それに―――二人でやった方が早く終わるっしょ」
ニヤリと笑う幸平。どうしようかな…
いや、今までの彼を見る限りそういう警戒をする必要もないのかもしれない。
「あ、すいません。司先輩ってそういうのだめなんでしたっけ?」
「…いや、じゃあ下ごしらえからこなしてもらおうかな」
「!―――合点!!」
さあ、とびきりの朝食をつくるとしよう!!
――――――
「うひゃー、朝からご馳走だー!!」
「わがまま聞いてもらったからそのお礼。って言っても、途中から幸平に手伝ってもらったんだけどね」
「マジで!?」
「おう、マジマジ。俺がやったのはあくまで下ごしらえだけどな」
「みんな席に着いて」
今回は普通に朝食なので形式を意識せずに朝から食べやすいものを作ったつもりだ。
「ん~、おいしー!!」
「まさか朝から第一席の料理が食べられるなんて…」
「ふふ、おかわりもあるから」
「じゃあおかわりお願いしてもいいですか?」
「一色先輩食べるの早っ!?」
空になった慧君の皿を見てみんなが驚く。ああ、お気に召すものを作れたようでよかった。
にしても幸平の手際、技術…どれもよかったな。…やっぱり欲しいなあ。
みんなが朝食を食べ終わって片付け終わった後、幸平に声をかけた。
「ねえ幸平、ちょっと話があるんだけど…いいかな?」
「はい?なんすか?」
「私と食戟してほしいんだ」
「!」
「今日一緒に料理してて、手際もスピードも技術もよかった…物凄くやりやすかったんだ。だから幸平には私の懐刀…助手になってほしいと思って」
「…その食戟を受けてなんか俺に得はあるんすか?」
「うーん、そうだね。…ああ!ならこうしよう。もし幸平がこの食戟を受けて私に勝ったら私の席次―――第一席を幸平に譲ろう。それなら引き受けてくれる?」
「……上等!受けて立ちますよ、司先輩!!」
―――そう言ってくれると思ったよ、幸平。
「よし、なら食戟成立だね。メインテーマと食材はどうする?必要であれば私の方から手配するけど…そうなるとものによっては二、三日後かな」
「いや、今からやりましょうよ。食戟。テーマはフレンチで!!食材は…ふみ緒さーん!なんか余ってる食材とかないっすかー?」
幸平に呼ばれて渋々といった表情で食堂にやって来る。みんないなくなったのを確認してから出て行ったから、ついさっき出たばかりなのに…呼び戻してごめんなさい。やっぱりまた今度にすべきだったかな…。
「なんだい朝あれだけ豪華だったってのにまだ食べるのかい?」
「いやー、これから司先輩と食戟するんでなんか食材もらえないかなーって」
「!食戟…あんたと司がかい?」
「ええ、私が勝ったら幸平には私の助手になってもらおうと思いまして…テーマはフレンチなんですけどなにかありますか?」
「そういう事ならいいのがあるよ!ちょっと待ってな」
ふみ緒さんは食堂を出ていくと大きい包みを抱えて戻って来た。
「そら!昨日知り合いから届いた鹿肉だよ!!」
包みを開けるとそこには美しい赤色の鹿肉があった。痛んでるところもない。さすがだ。
「じゃあメイン食材は
「うん。あ、そういえば審査員。ふみ緒さんは決まりだとしても後二人…」
「ああ、それならテキトーに声かけてきます」
そして食堂から出て行った幸平が引っ張ってきたのは田所さんと慧君だった。
「え、ええ?な、何々?どうしたの創真くん」
「面白そうな匂いがしたからついてきたんだけど…何をするのかな?」
事情を話し、なんとか審査員になってもらった(慧君は笑顔のままだったけど、田所さんはかなり混乱していたので必死になだめた)。…これで条件は揃った。
「それでは…調理開始!」
ふみ緒さんの声で私はまず鹿の背肉から一番いい所を切り出す。
切り出した肉は脂と分けて脂のほうを刻んでフライパンに敷き、その上に肉を乗せて焼いていく。
この時肉が乾燥しないように溶けだした脂を回しかけながら焼く。
―――よしよし、おいで。そう、こっちだよ。
―――いい子ね。
―――どうか私の皿に宿っておくれ―――
そういえば幸平の方はどうなってるんだろう?チラッと見ると何かを探していた。なんかスルメとか苺ジャムとかいろんなものが飛んでくる。
「あった!『甘栗むいちゃいました』!!」
え、『甘栗むいちゃいました』?
するとどこから持ってきたのか七輪で鹿のもも肉を炙る。
なるほど、もも肉か。いい部位を選ぶじゃないか。
さて、私の方も仕上げだ。
―――さあ、勝負だ。幸平。
結果、食戟は私が勝った。―――のだが。
「やっぱり、私の条件は取り下げてもらっていい?」
「え、なんでっすか?」
「幸平、君のことははっきりいうと今でも助手にほしいと思ってる。でもね、私が最も君に惹かれたのは囚われない自由な料理をする姿。私に合わせてその長所を潰してしまうことほど勿体無いことはないと思ったんだ。だからこの食戟の条件は取り下げ。よって非公式の食戟としてなかったことにする。炭火焼き美味しかったよ…また作ってね、幸平」
「!…あざっした、瑛璃先輩!!」
「!!」
い、今幸平が…幸平が名前呼んでくれた!?
「い、今名前…」
「え?瑛璃先輩でいいんすよね?司先輩の名前」
「うん、合ってる…覚えててくれたの?」
「まああれだけ有名なら」
「」
「だめでした?」
「ううん!全然。よかったらこれからもそう呼んで」
「あ、はい。分かりました」
「…一色、司にも幸平にも他意はないと思うよ」
「何のことですか、ふみ緒さん。別に僕は気にしてなんかいませんよ」
「だったら今にも曲がりそうなくらいフォークを握りしめるのはやめるんだね」
「……おっと、僕としたことが」
「はわわわわわっ」
こうして慌ただしい朝は過ぎていくのであった…。
今回の味見役にえりながいなかったのはやっぱり極星寮に来て最初の宴会(という名の試食会)直後で創真くんの料理を食べることを拒否してる最中だからです(ちなみに主人公は宴会に参加してません)。