「ねえ、男子って、裸エプロン好きなの?」
「はあ?」
「……どういうこと?」
リンドウとももに話を振ったらわけがないと言わんばかりの反応をされた。地味に傷付く。
「いや…単に思っただけで深い意味はないんだけど」
嘘だ。本当は幼馴染の性癖?体質?…とにかくそういう結構ハードな内容なのだが、ストーカーの事について語った後なので本当のことを言うのは気が引ける。というかお昼を食べながらそんな話をすべきではないと思う。
「んー、たしかに彼女にしてほしいコスプレでよく話題にあがるらしーぜ?」
「……でもあれってほんとにコスプレ?アニメとか制服とかそういうのじゃないの?」
「彼女、彼女か……あのさ、もし男子がそれをする場合って一体どういう状況にあると思う?」
「「は?」」
「…………なんでもない」
やっぱり昼にする話じゃなかった……というかそうだよね。男子がしてるのなんて見たことないもんね。うん。私もつい最近まで見たことも想像したこともなかったよ。
昼休みが終わってそれぞれの教科に別れた後、今回取っている教科は座学で誰ともペアを組む必要がないことから私は一番目立たない、というか人気のない上の端の席に座って考える。
慧君は一体いつからあーいう風な恰好をするようになったんだろう?少なくとも私が幼馴染として一緒にいた時は普通だった。私がいなくなった後?なら寧々ちゃん……いや、もし寧々ちゃんも知らなかったらそれこそ慧君の名誉とか二人の関係性とかが色々粉々になる。よって却下。
そういえば当たり前だけど評議会会議とか式典とかではちゃんと制服着てるんだよね…ただ学園内であんまり会ったことないな…なんでだろう?
あれ?今考えてみて思ったけどこの前の一面といい今回の…は、裸エプロン、といい結構私慧君の事知らなくないか?寧々ちゃんと一緒にいることはあっても慧君と一緒にいるってあんまりない気がする。となるともう私の記憶は頼りにできないから…極星寮に行ってみるか。
――――――
というわけで放課後、極星寮にやってきて寮生の吉野さん、榊さん、田所さんに話を聞くことにした。
「一色先輩が裸エプロンを始めた理由…ですか?」
「って言っても私たちが寮に入った時点で既にあんな感じだったよねー」
「ええ、いきなりあの姿で出てこられたので一瞬本当に寮に入るべきか迷いましたけど…」
あ、よかった。私だけじゃなかったんだ。
にしても寮生まで知らないとは…じゃあ中等部一年の時までのうちになにかあったと考えるべきなんだろうか…
「でもなんでそんなことを?」
「もしかして先輩、一色先輩のこと気になってたりします~?」
「気になっているというか…まあ気が気でない事は確かだよね。」
「あー…なんていうか結構初見の破壊力ありますから」
「先輩も結局倒れた後回復してからあんまり一色先輩の方に近づきませんでしたし…」
「いざとなるとふみ緒さんの後ろに隠れながらやり取りしてたし」
「うーん、なんていうか…威嚇し慣れてないチワワとかウサギが無理に威嚇しようとして失敗しても一生懸命強がってる感じ?」
「チワワ…ウサギ…」
もっと強そうな例えはいなかったのだろうか…でも結局慧君に圧されて気味だったのは事実だ。先輩としてどうなんだろう…
「にしても司先輩って一色先輩と仲いいですよね」
「ねー、この前の先輩が怪我してた時もだけどえりなっちが家出してきた時も普段からじゃ想像できないくらいの剣幕で止めてたし」
「そういえば司先輩は月饗祭で一色先輩の芋煮会に来てたんですよね?」
「うんうん如何にも気の置けない仲ーって感じで親し気だった!」
この手のノリは恋バナ…かな?
「あのさ、期待させて申し訳ないんだけど…私と一色は幼馴染だから」
「ええ!?一色先輩と司先輩が幼馴染!?」
「なにそれ初めて知った!?」
「ああー、なるほど…あの確認させてもらいたいんですけどうちの寮の幸平くんのことどう思ってます?」
「涼子?!」
「ああ、幸平ね。面白いよね、都合つくときだけでいいからまた助手やってもらいたいなあ」
「じゃ、じゃあ十傑の男の人たちは?」
「女木島と斎藤はいい友達だよ、たまに料理食べさせてくれるし、私が不安定になっても引かないで一緒にいてくれるし。久我は仲間って感じかな、あと第二の弟みたいな…うん、かわいい後輩。叡山君は…正直あんまり関わり合いがなくて、でも彼のコンサルティング能力は凄いよね」
「…最後に、一色先輩は?」
「んー、一色はなんていうかやっぱり大事な「幼馴染」で「家族」で「弟」かな…うん、やっぱりこうして全部言ってみるとなんだか恥ずかしいね」
「つまりそれって…」
「?みんな大好きだよ」
私が答えるとみんな何とも言えない苦い顔になった。
「(ねえこれって…)」
「(うん…みんな友達、家族以上に見てない感じ)」
「(ええっ、でも一色先輩は目に見えて創真くんに嫉妬してたのに!?)」
「(でも芋煮会に来た時弟の立場を幸平くんに取られるのを危惧してるって司先輩は思ってるわよ)」
「あの、どうしたの?」
三人が身を寄せ合って小声で話しているため聞き取れない。
「あ、ああいえいえ!そういえばなんで司先輩は今回の裸エプロンについて聞きに来たんですか?」
「小さい頃一緒にいた時はちゃんと服着てたから、いつからああなのかなって思って…もしかして今まで抑えこんでたものが一気に解放されてあんな奇行に走ったのかな?でも寧々に聞くのもさすがに不味いと思って八方塞がりで…っそれで中等部の頃から寮にいるから一緒に生活してるみんなならわかるかなって…ただの性癖とかならほら、そういうので片付けられるし…一色のファンとか彼女になる子には頑張ってってしか言えないけど…私も人の事言えないけど将来が心配で」
「「「(やっぱりあくまでお姉ちゃん目線だー!!)」」」
「あ、あの司先輩は一色先輩のことを異性としてみたりしないんですか?」
「異性…一色が…うーん、客観的に見たらあの裸エプロンを除けば穏やかでムードメーカーだし、結構色々頼りになるし、小さい頃と違って身長も伸びて顔もイケメンになったから…うん、みんなの理想の王子様象だなーっては思う。でも今までそういうふうに見たことないし、何より私自身かなり面倒くさい性格してるから、一生独身で料理を極めようと思ってて恋愛とか考えようとも思わなかったからなあ」
「「「(ダメだこの人ー!!)」」」
「なんかさすがに一色先輩が不憫に思えてきたよ…」
「私も…」
みんなげんなりしたような目でこっちを見てくる。え、なんで?聞かれた通りに答えただけだよ私!?
「じゃ、じゃあもし一色先輩に好きな人が出来たら先輩はどうしますか?」
「うん?普通にお祝いするよ?もし料理とか接客が分からないなら私も協力するし。裸エプロンについては...うんなるべくフォローするけど...やっぱり早々に慣れてもらうしか...」
するとみんなが絶望したような表情になってしまった。何も間違ったこと言ってないと思うけど...
「そうじゃない、いやそうなんですけどそうじゃないんです先輩!!」
「一色先輩前途多難ね…」
「やあ、みんな集まって何の話をしてるのかな?」
「い、一色先輩!?」
「!!」
「あ!司先輩また隠れちゃダメです!!」
「うぇ?!」
隠れようとしたら三人に前に出された。ひ、ひどい...
「一色...」
「なんですか?司先輩」
「大丈夫、もう少ししたら私も慣れるから!!応援するから頑張って!!」
「はい?」
「好きな人と一緒になれることほどいいことはないし、前にも言ったけど協力は惜しまないから!」
「えっと、何か勘違いしてませんか?」
「?なにも」
何も間違ってなんかいないよ私。
答えると慧君は少し間が空いた後、私の手を取ってニッコリと笑顔に戻った。
「…じゃあその好きな人のことを守りたいのでまたストーカーや嫌なことがあったら逐一僕に言ってくださいね、司先輩」
「?うん?」
そこでなんで私が出てくるんだろう?もしかしてその好きな子もそういう目に遭いそうになってるんだろうか、それともまさか私のストーカー(?)と関係があるんだろうか...
考えるのやめよう...