食卓の聖騎士(ターフェル・パラディン)   作:紗代

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立地とかは毎度のごとく捏造です。


二十九皿目 まだ、皿に乗らない味

あの約束以来、慧君と一緒にいることが多くなった。私と一緒に居たら慧君の好きな子が勘違いすると思うんだけど…でもそのおかげで尾行とか視線とかそういうのは気にならなくなったし、盗撮とかも頻度が下がったのでこっちとしては大助かりだ。私ばっかり得してごめんね慧君…

 

「いいんですよ。先輩が無事ならそれで」

 

イケメンオーラ全開の笑顔で言われた。だめだってそんなイケメンの無駄遣いしたら、私が慧君の想い人に勘違いされるんだよ!?

 

「でもほとんど付きっきりでいてもらってるし…やっぱり悪いよ。慧君のおかげで盗撮とか盗難とかも減ったしもう大丈夫だよ、ありがとう」

「でもゼロではないんですよね?」

「それは…そうだけど」

「ならゼロになるまで付き添いますよ」

「うう……お願いします…」

 

結局最後まで付き合ってもらうことになってしまった。弱い自分が情けない…

 

――――――

授業や移動にはリンドウたちに付き合ってもらって何事もなく過ごしている。こんなにすがすがしいのはいつぶりだろう―――と帰る準備をしていると忘れ物に気付いた。

 

「栄養学の教科書がない…」

 

でも記憶が確かなら次の移動の時に鞄に入れたはずだったんだけどな…

 

「忘れ物として届けられてることを願うか…」

 

尤もそれで戻ってきたことは皆無だけど。それでも試しに行っておくべきだろう。

 

「ん?司どこ行くんだー?」

「栄養学の教科書がなくてさ…一応遺失物として届けられてないか見に行こうと思って…まあそれで見つかった試しないけど」

「ふーん、じゃ、あたしも一緒行くー!!」

「ありがと」

 

 

 

 

 

「ああ、栄養学の教科書ですか?ありますよ」

「本当ですか!?」

「はい、少々お待ちください」

 

今回は運よく届いていたらしい。これでまた新しい教科書を買わなくていいので大助かりである。私は手元に教科書が戻って来たので上機嫌になったが、それとは反対にリンドウは何とも言えない顔になった。が、普段通りのひ飄々とした態度に戻った。

 

「……まあ見つかってよかったな、司!」

「うん、本当に…あれ?なんか挟まってる?」

 

教科書のページの間に挟まっていたものを取り出す…とそれは手紙だった。

 

「《今日放課後第3調理室で待ってます》…呼び出しかな?」

「でもこれ文字全部新聞の切り抜きだぜ?どっちかっていうとサスペンスとかである脅迫状だろ」

「私もそう思うけど…名前も宛先も書かれてないから、調理室に返してくる。ホワイトボードにでも貼っておけば誰か気付くでしょ」

「…それもそーか、けどよりによって第3調理室とか結構遠いところに呼び出すなこの送り主」

「…やっぱりサスペンスの王道で人があんまり寄り付かないところってことなのかな?でも一階だし、いざとなったらフルスイングか感電させるから」

「ばーか、相手が何かしてこなきゃ過剰防衛になるだろーが」

「あ、それもそうだね。じゃあホワイトボードに貼り付けるだけにしてすぐに調理室出るよ」

「おい、ほんとにそれだいじょーぶか?」

「たぶん?まあ、スタンガン持ってるしね…それじゃあいってきます」

「おー」

 

そして私はリンドウに見送られて調理室へと急いだ。

 

 

 

 

 

「……おー、一色。今暇かー?実は司がさー…」

 

――――――

手紙にあった第3調理室に入るとそこには一人の男子生徒がいた。

 

「来てくれたんだ…っ嬉しいよ」

「あーえっと、この送り主の人かな?なら返しますね…どうぞ」

 

しかし相手は受け取らない。

 

「そんな他人行儀…いつもみたいに名前で呼んでくれよ」

「は?」

 

何言ってるんだこの人?私がいつも一緒にいるのはリンドウと慧君だけど。というかこの人記憶にない、ということは初対面で間違いないと思うんだけど。

 

「あの、あなたとどこかで会いました?」

「な、なにを言ってるんだ?!君は毎日僕に笑いかけてくれて、僕のために毎日弁当だって作って来てくれた!だから僕はずっと君を見ていたんだ。君を守るために!」

 

あ、この人やばい人だ。というか毎日感じる複数の視線のうちの一人だった。笑いかけてた?私あなたと初対面だよ?そんなあなたのために弁当を作る?私のお昼を勝手に食べてただけじゃないか。=ストーカーの回答にたどり着いた。一歩下がる。

 

「なのにどうして一色なんかと一緒にいるんだ?僕がいるのに、あんなやつといるなんて…許せない」

「は?」

 

あなた(と他何人か)がストーカーなんてするからわざわざ慧君に守ってもらってるんだよ。また一歩下がる。

 

「だからあいつと今後関わらないでほしいと思って、君は聞き分けのいい子だから分かるよね?」

「一色はあなたと違ってちゃんと正面から向き合ってくれるし、そんな独り善がりみたいなことしない。―――その前にあなたは一体誰?」

「ま、まだ僕をからかって…「からかってなんかない。本当に誰?同じ学年の人なの?…私なんかを狙って付け回して一体何があるっていうの?」

 

私がそう言うと相手は酷くショックを受けたような顔になった後、目付きと表情が変わった。微かに体と声が震えている。

…いや、震えたいのはストーカーと真正面から対峙してるこっちなんだけど……

 

「……悪い子だなあ…僕を捨てて一色の方にいこうとするなんて」

「っ…」

 

まずいかもしれない。じりじりと後退るがよろよろと光のない目でこちらを捉えて近づく相手の手には―――包丁!!!

 

「何怯えてるの?一色のところに行けないようにするだけなんだからちょっと痛いけど我慢だよ」

 

いやいやいやいや!!明らかにちょっとで済む雰囲気じゃないよこれ。こっちもスタンガンを構える。これで安心はできないけど対抗することはできるかもしれない。…対抗なんて言っても私が相手の懐に潜り込んで感電させるのが先か、相手の包丁が私に刺さるのが先か、というくらいでしかないが。

でも相手には効果があったらしい。私が抵抗するどころかまさかこうして武装しているなんて思わなかったのだろう。明らかに動揺して―――

 

「う、うああぁぁぁぁ!!」

 

向かってきたぁぁぁ!?まずい。どうやら私は膠着状態に持ち込むのではなく相手を逆上させてしまったらしい。

 

相手のテンポに付いて行けず反応が遅れる。どう考えても私の小型スタンガンよりリーチの長い包丁に死を覚悟しきつく目を瞑って腕で意味のない防御をする。

 

みんな、慧君。守ってくれたのにごめん―――

 

そう思いながら身構えたが痛みは一向に来ない。

 

「……?」

 

ゆっくりと目を開けるとそこにいたのは――――――

 

「無事ですか、司先輩」

「さ、」

 

慧君だった。

私を安心させるように優しい笑顔を浮かべ、私に刺さっていたであろう包丁は慧君が片手で受け止めている。

 

「大、丈夫…」

「それはよかった。さて―――」

「一色、慧…っは、放せ!!」

 

慧君が相手に向き直ると相手は怯えながら包丁を振り回そうとするが、慧君の方が力があるのかほとんど動いていない。

 

「料理人の命とも言うべき包丁を食材ではなく人に…それも司先輩に向けるなんて、ね」

 

慧君はそのまま手刀を決めて落ちた包丁を相手が拾わないように軽く蹴って調理室の隅に飛ばした。

 

「ひ!」

「先輩、あなたは勘違いしています。あなたは司先輩を❝守ろう❞としていたとおっしゃっていましたが、実際に行っていたのはストーキング、ハッキング、盗撮、盗難、そして今回の脅迫…司先輩を追い詰めていただけです」

「う、うそだ!だって彼女は僕に微笑んで…」

「先輩にとっての理想の司先輩ならそうでしょうね、でも実際は違います。司先輩はあなたにストーカー行為をされている間ずっと碌に休めていません。そのうえ足に怪我をしながら極星寮まで来たんです。…これのどこが守っていると?」

「あ、あ…ち、ちがう僕は、僕は…」

 

そのままへたり込んで相手は動かなくなった。私もスタンガンの電源を切る、と慧君が私のところにやって来た。

 

「もう大丈夫ですよ、先輩。――――――よく頑張りましたね」

 

《よく頑張った》なんて、こういう状況になることは初めてではないがそんな労いの言葉を掛けてもらうのなんて初めてで

 

「う、ぐす……うえぇぇん」

 

思わず慧君に抱き着いて号泣してしまった。――――――これじゃあどっちが年上なんだか分からないなあ……

 

 

 

 

 

 

 

――――――

あれから、二日が経って色々落ち着いてきたので纏めてみようと思う。

あの件の男子生徒はどうやら私の同級生だったらしい。どこで私に興味を抱いたのかは不明だが、私が評議会会議後につけられているのを見てつい便乗したうえに悪化していったらしい(彼の部屋からは大量の私の盗撮写真や盗品が見つかった。でも使いたくもない代物なので静かに全て火葬させてもらった)。この事を受けて私のマンションと一席の執務室のセキュリティは一新された。これでまた安心して生活できる。

ちなみに慧君がなぜ駆けつけてくれたのかと言うと、リンドウが私と別れた直後に慧君に連絡してくれたらしい。ありがとう本当に助かった!!なのでお礼に昼のデザートをちょっと豪華にした。結局おかずの一部も持っていかれたけど…

 

「ねえ一色、もう解決したからわざわざ一緒にいなくても大丈夫だよ?」

「司先輩は僕と一緒にいるのは嫌なんですか?」

「嫌じゃないけど…」

 

慧君はストーカーが無くなった(まだ複数人の視線は感じるが実害はあれ以来ない)後もこうして私と一緒にいてくれる。…そのうちファンに殺されるんじゃないかな、私。

 

「けど?」

「やっぱりやめようよこういうの。一色が好きな子が勘違いして振られちゃうよ?」

 

尤もその前後に裸エプロンという難関が待ち構えているのだが。

ただでさえ「落ちこぼれ」のレッテルを貼られる原因になったのだ。ここまで至れり尽くせりにしてもらっておきながら、慧君が私の世話だけに一生を費やすのは昔から知る身としては良くないと思うのだ。

……私も弟離れの時期かあ。

 

「……あんまり頼りなくて年上っぽくないから、構ってくれてるのかもしれないけど…もう他の子のところに行って大丈夫だよ」

「いいえ、離れませんよ。絶対に」

「え?」

 

なんか今とんでもないこと言わなかった?シスコン?師弟愛?

 

「僕の言っている好きな人は――――――司先輩ですから」

「」

「返事はそうですね一週間後までにはほしいかな。というわけで――――――覚悟してくださいね、先輩」

 

一つ減ったところに、それ以上の悩みが追加された 瞬間。




今回のテーマは「恋」、ってことになるのでしょうか?
一応前者は歪んだ、後者は純愛をイメージしているつもりです。
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