慧君とのことが落ち着いてから、極星寮に行くことが増えた。
「こんにちは」
「あ、司せんぱーい!!」
寮の子たちはもう私が来ることになれたのか普通に当たり前のように扱ってくれる。えりなも戸惑いながらだけど寮に馴染んできているようなので何よりだ。
「あの、聞きたかったんですけど、なんで司先輩は極星寮を出たんですか?」
ギクッ
「あ、それ俺も気になってた。一時期寮生だったっていうならふみ緒さんの腕試し合格したんすよね?なら学校の試験とか課題だって大丈夫だったはずっしょ?なんでそのまま居続けなかったんすか?」
ギクギクッ
よ、よりによってそれを聞いてくるのか……
「えっと、食戟し続けたからかなー…」
「?どういうことですか」
「いやー単純に私が弱かったというか…」
「弱いって、りんどー先輩に負け無しだって聞いたんすけど」
「な、なんて言ったらいいかなー…」
冷や汗だらだらで目を逸らすがいつの間にかみんな集まってきてしまった。に、逃げられない。
「そのお…「もうそういう輩はここに来てないんだし言ったらどうだい司」…ふみ緒さん」
「あの頃と違ってあんたの味方も増えたんだ。いい機会じゃないか」
「……それもそうですね。一色にも大体のことしか言ってないし」
正直すべての始まりとも言える思い出したくない日々だったりもするけどね。
「私はね、中等部一年の一年間だけ極星寮に住んでたんだ。だから一色とは入れ違いでみんなとの面識もなかった…まあ何事もなければそのまま居座ってたけど…」
「何かあったんですか?」
「有り体にいうと……襲撃された?」
「ええ!?しゅ、襲撃!?」
「私は田所さんとかとは違って旅館とか料理店の出身だったわけじゃなくて一般家庭の出だし、それにこの隔世遺伝の髪色とかで悪目立ちしてたらしくて。入学式の次の日から食戟挑まれてさ…最初は断ったんだけど、それから毎日ここに部下とか黒服引き連れて食戟受けるように脅迫されて……ふみ緒さんが追い払ってくれてたんだけど、屈強なゴリゴリした人が来るようになって…それでなくても授業中に嫌がらせされてたからついに限界がきて受けたの。でもそしたら今度は食戟の果たし状がひっきりなしに届くようになってよく分からない手紙とか荷物とか…私の観察日記的なものも同封されてて……うう、思い出したら気持ち悪くなってきた…」
「食戟で勝つたびにファンが殺到してねえ…風呂を覗こうとするような不届き者もいたもんだから当時の風呂場の窓には鉄格子と窓ガラスフィルムを貼ってたもんさ」
「うわぁー……」
みんな引いてる!!えりなも新戸さんも震えてる!!
「そういえば自分のまかないに血混ぜられて食えなかったって…」
「ご、ごめんなさい司先輩!そうとは知らずに聞いてしまって」
「いいんだよ、どうせいつか分かることだから……一色?」
いつもだったらこういう時フォローをいれてくれるはずの慧君が何も言ってこない……と思ったら裸エプロンでヘルメットにゲバ棒とツルハシ?
「あ、あの、一色?一体何の装備?」
「ああ、気にしないで。用事が出来たからちょっと出てくるよ…ふみ緒さん、当時押し掛けてきていた生徒の名簿はありますか?」
「ほとんど押しの強い顔ぶれは変わらなかったから要注意人物ってことで作ってた気がするよ。ちょっと待ってな」
「ありがとうございます」
「いやいやいや!本当にどうするつもり!?」
「大丈夫ですよ、司先輩に累の及ぶ事はありませんから」
いやあるよ!名簿の話が出た時点で嫌な予感しかしないよ!!
「ほら、一色。これだよ」
「はい、じゃあいってきます」
「待ってやめて!その人たちのところに行く前に一色が捕まるから!!」
私の筋力じゃ引きずられていくだけなのでここはみんなで止めた。さすがの慧君も寮のかわいい後輩たちに懇願されたのが効いたのか大人しくなってくれた。よかった、いや本当に。
「……そんな感じで私は中等部の一年だけをここで過ごしてセキュリティの万全なマンションに引っ越して今に至るんだ……まあ、それもこの間破られて一新したんだけど」
「なら司先輩も極星寮に戻ってくればいいじゃないですか」
「あ、一色先輩ナイス!」
「たしかに先輩の時と違って人数もそれなりにいるし、どうですか?」
みんな進めてくれるのは嬉しいんだけどねー…
「まだちょっと解決してないことがあって、それさえ終われば…って言っても私が学園に居れる期間なんてもうほとんどないけど」
それでも、と受け入れてくれるみんなに満更でもない私だった。
*****
「それで、司瑛璃の身辺調査は?」
「は、変わらずあのマンションを住居としていますが、どうやら例の寮に出入りしているようです」
「…極星寮か、なるほど。あそこには逃げ出したえりな、彼女の眼鏡に適った幸平創真、そして幼馴染である一色慧がいるからね。そのうえ彼女自身も元は寮生だ」
十傑以外の拠り所というわけだ。えりなと彼女が目を掛けている少年はどうとでもなるとして、問題は一色慧の方か。叡山君に聞いてもあまり情報を掴ませず真意の見えない人物として嫌悪されていたようだし…そうだな。
「―――至急、叡山君に繋いでくれ。話したいことがある」
主人公の言う解決してない事はもちろん残りのストーカーのことです。
そしてそのストーカー側が何やら怪しい動きを…
5/28一部修正しました。