やっと上げられました!
コメントでの心配ありがとうございます。
「叡山くんが極星寮に来た!?」
あの混沌とした会議の後、何かあってからでは遅いということで今日は極星寮に泊まることになった私の声は食堂に響いた。
「はい……それで退去の事とか色々話して帰って行っちゃって」
「そう……」
今日会議に来てなかったのは極星寮や研究会を潰す準備のためだったのだろうか。……たしかに私とのいざこざや十傑へのアプローチが不発に終わってしまった今、学園を掌握するのなら芽を摘むような行為を行う事で話題性を向けるというのも分からなくはないし、十傑が認めない中で出来る事は限られているのだから手段を選ぶ余地もない……でも……
「……」
「司先輩?」
「あ、ごめん。なんでもないよ」
話し掛けられて我に返った。いくらなんでも考えすぎか……?
でもこういう時の私の嫌な予感って外れたことないし……
――こういう時って、考えるより直感で動いた方が好転することもあるんだろうし、そうだな。
私はみんなの輪から外れると携帯を取り出して相手を呼び出した。
『はい、一色です』
「一色にももう情報がいっているかもしれないけど、極星寮に叡山君が来たらしいの。それで一色に頼みがあるんだ」
『なるほど、叡山君が……それで、頼みっていうのは?』
「今日の食戟で審査員をしていた三人と、出来ればここ最近叡山君と接触していた人物を特定してほしい。お願いできる?」
『……分かりました。調べてみます。ただ後者の方はひょっとしたら情報そのものにプロテクトが掛かっているかもしれないので確約できませんけど』
「出来る範囲でいいの。危ないようなら無理しないで報告してくれればいいから、薙切薊に察知されて面倒なことになってもあれだし」
『はい。じゃあ審査員の方から調べてみますね』
「ありがとう。じゃあまた後でね」
『はい』
通話はそこで途切れた。顔は割れているし、管理局の記録もあるかもしれないからそこから辿っていけばいいとして……
「私も、ちょっとは先輩っぽく動かないとね」
――――――
「やっぱりこうなったかー……」
案の定幸平は叡山君に食戟を申し込んだ。受理されたのは今朝、情報と一緒に慧君から聞いて私も準備を急いだ。
でもまあ使うまでもないのかもしれないけど。
「にしても幸平、今回はどんな料理つくるのかなあ」
また面白くて美味しそうな料理作るんだろうなあ。――食べたいなあ。
まあ今はそれどころじゃないし……後で作ってもらおう。
「俺のツレとか知り合い連中にちょっかいかけたら許さないっす。あんたらにとっちゃ俺らは格下なのかもしれないすけど舐められてるだけで過ごすつもりはないすから。売られた喧嘩なら買うし、容赦なく蹴散らしていくんで!」
かっこいいなあ幸平。
それじゃあ、私も準備は出来てるし行こうかな。……確認してから。
「中継、終わった?」
「!瑛璃先輩」
「おー、司ー」
「食戟お疲れ様、幸平。というか仕事ほっぽり出してどこ行ったのかと思えばここに来てたの、リンドウ……」
「おう、うまかったぜ幸平の手羽餃子」
「幸平、帰ったらそれ私にも作って」
「いーっすよ」
「ありがとう……私の方からこの食戟について色々言いたいことがあるから幸平は先に帰っててもらえる?」
「……分かりました。じゃあ先に行ってます」
「うん、気を付けてね」
そう言って幸平を送り出して審査員たちと対峙する。
「さて、幸平も居なくなりましたし私たちも始めましょう。皆さんにも予定が有るでしょうから手短且つ簡潔になるよう努めさせて頂きますので」
私が向き合った時点で顔色が悪かった審査員たちはますます顔をひきつらせた。
「まず前回の食戟についてですがあの後管理局と外部と私で話し合った結果、甲山鉄次二年生の退学は取り消しとなりました。食戟の記録については甲山鉄次本人の要望により記録されることとなります。ただし扱いは食戟のルール改定による例題としての非公式な形になりますが」
「ま、待ってくれ!昨日の食戟がなかったことになるなどそんな……「昨日の叡山九席の料理は美味しかったですか?」!」
そこにいる全員が黙り込んだ。そう、言えるはずがない。あの時審査員たちは全員その場にある料理に手をつけなかった。
「——私達は話し合いと食戟という手段によりありとあらゆる決まりをつくってきました。学園内の事は勿論のこと、更にいえば私達十傑評議会も例に漏れず成績と同等若しくはそれ以上の評価として食戟の戦績は重要視されています。この意味はお分かりですよね?」
「し、しかしそれではあまりにも」
「弱者にとっては厳し過ぎると?——全くそうさせているのはあなた方も含まれているのですよ?」
「な」
「あなた方は即戦力のブランドが付いた人材がほしい。私達はそのニーズに応えているのです。実際、あなた方の企業に送った学生や卒業生は実績を残しています。学園の構造に関しては私共としても幾分か改善の余地はあるでしょうが……それは私達が話し合う事であり、あなた方の問題ではないはずだ」
まあそんな善意なんてものは無いのだろうけど物は言い様である。本音を言えば私だってどうとも言えないしどうだっていいんだけど。
「食戟は食べなくては意味がないというのにそれすらすることないなんて……それは料理人に対してのリスペクトが足りない以上に料理とそれを構成する食材に対しての冒涜に他なりません」
「!!」
「いただきます」はただの挨拶ではなく作ってくれた料理人への感謝と食材になった命を頂ける事の感謝だということを忘れているのではないのだろうか。食材への冒涜は『生かしてもらっている』人間として最低最悪の行為だ。
「前回の食戟、そして今回の食戟であったとされる不正行為に関しての処遇は追って連絡させて頂きます。それまで審査員の皆様は遠月への出入り禁止、ならびに遠月傘下の権限の停止。叡山九席については約一週間の謹慎処分とします……いいですね」
だれも私に言い返すことなく、この時間は終わった。ただ、私とリンドウ以外のその場にいる全員が白を通り越した土気色の死人染みた顔色になっていたことだけはたしかだった。
その後書類や他の仕事を終えて寮に戻ると――そこは既に出来上がっていた。
食べ散らかした跡地には裸エプロンの慧君だけしかいない。もう夜だし寝てしまったんだろう。
「あ、司先輩お帰りなさい!司先輩の分もありますよ!」
「その前に一色、その、は、はだ、裸エプロン」
「はい!」
くるりと綺麗に一回転する慧君。やっぱりそうだよね、見違えじゃないんだよね……
「司先輩?」
「な、なんでもない!なんでもないから!!けどあの、その…………」
「?」
「は、恥ずかしい、っていうか。目のやり場に困る、から」
おそらく私は赤くなっている。だって恥ずかしいんだよ今の慧君に目を向けるのもこういうこと言うのも!私は変態じゃない!!
前はあんなこと言ったけど……本当に慣れられるんだろうか私……ちょっと不安になってきた。
「うーん……じゃあなるべく先輩の居るときは服を着るように……善処します」
「……うん、ありがとう」
はっきりと確約は出来ないんだ……でも、今日はまあもういいかな。
「安心したしね」
「何かいいましたか?」
「なにも」
こうして、今日は慧君の作った料理で締め括られたのであった。
翌朝
「やあ、皆おはよう!」
「一色先輩が……」
「エプロンの下に褌を履いてる……!」
「「「「レアだ!!」」」」
「そういうことじゃなーい!!」
結局根本的な解決には至らず、いつの間にか元通りに戻っていました。
※善処…「無理だけど頑張ります」的な意味。