「さて、全般的な事はえりなと新戸さんからの講義で賄うとして。私は今回の試験で予想される実技課題についての特訓を受け持つよ」
「ええ!?司先輩もやるの?」
「うん。今回の試験で私たちに対する妨害が無いとも限らないから、念には念をね。もし即興でなんとかなったとしても味で落とされたりしたら今までの努力が水の泡だ。せっかくえりなからもらった武器をより万全なものに仕上げる。いいね」
「はい!」
「……ということで、今からさっきのえりなの授業の復習も兼ねてじゃがいもで生地を作ってもらいます。しっかり水回ししてよく捏ねてね。ミスや制限時間内に出来なかったりしたら、そのときは制限時間内に上手く出来上がるようになるまで何度でもやり直しさせるから」
『ひぃ!!』
さっきまで意気込んでた皆の威勢はどこかにいってしまい、恐怖に取りつかれたような真っ青な顔になっていた。いや結構余裕を持って制限時間設けたと思うんだけど……。
「司先輩も薙切さん並みにスパルタなのを忘れてたわ……」
「司先輩の人でなしー!!」
「口より手を動かしなさい。じゃないと終わらないよ?」
「うわーん!」
その繰り返しでついに迎えた進級試験当日。
「じゃあ私たちはこれで。全員がこうしてまた集えることを祈ってるよ」
「はい!」
「うん、いい返事」
えりなと新戸さんと田所さんはいいんだけどね……
「わー、雪だー!!」
皆雪遊びに夢中だから、きっと聞いてないなこれ。
「……じゃあ、後ろの皆のことも、よろしくね」
「あ、あなたたち!」
まあえりなが皆をまとめてくれてるみたいだから大丈夫か。
ここからは私たちはそれぞれ別ルートになってしまうので一旦お別れである。
そして慧君……
この間の事があってから目が合わせられない。
慧君はいつもと変わらずニコニコしてるから気にしてないんだろうけど、貞操観念的にあれはまずいと思うんだよ私は。
「一色」
「司先輩」
「この間はごめん」
「いえ、僕のほう「たとえその気がなかったとしても責任取るから!!」……え?」
「もし一色がお婿に行けなかったり、行く当てがなくなったりしたら私がなんとかするから……見ちゃった私の言うことじゃないかもしれないけど抱え込まないでね」
「えーっと、司先輩?」
「うん、何かな?」
「それは「おーい司ー!もうそろそろ私たちも出発だぞー!」
「分かったー、今行くー!じゃあそういう事だから、詳しいことは後程」
言いたいことは言ったのでリンドウたちの待つ方へ走った。あとは慧君とまた一緒になった時にこれからの事について話せばなんとかなるだろう。
そんなふうに思いながら寮の皆と離れた私がすることは―――
「何してんだよ司、携帯とノート見比べて」
「将来的に三人養う事になった時の概算を割り出してる」
「は?」
こういうお金に関することは早めにしておくに限る。
――――――
私たちの進級試験は順調に進んでいき、寮の皆に対しては妨害もあったらしいけど私たちの傾向と対策講座により快進撃を続けていた。私たち十傑に対して何もなかったのはまだ私たちが実権を握っているからなのかもしれない。
自由行動になったことで私は何もすることがなかったので一人座って景色を眺めている(リンドウは寒さのせいで行動不能だ)。
この学園に来て本当にいろんな事があったな……
入学早々食戟をすることになって。
せっかく寮に入ったのに一年足らずで退寮する羽目になって。
十傑入りして。
寧々ちゃんと慧君と再会して。
幸平と出会って。
慧君に、告白、されて。
「終わりたくないな……」
あんなに憂鬱だった忙しない学園生活も終わりは刻々と迫ってきている。私は悔いなく卒業できるのかな。
「司先輩」
「はうえ!?……って一色か、どうしたの」
「司先輩が珍しく一人でいたので。よかったらどうぞ」
「ありがとう」
慧君からあったかいコーヒーを受け取る。あったかい……。
「もう終わっちゃうね」
「あっという間でしたね」
「うん。でもその分結構いろんなことあったよね。幸平のこととか」
「……先輩、創真君の話を出すのってわざとですか?」
「え?…………あ」
そういえば慧君は私に告白してくれてたんだった。男子もそういうの気になるんだろうか。
「あー、その。ごめん、ね」
「いいえ、別に気にしてませんよ……たしかに彼が来てから学園は変わりましたし」
「……うん」
気にして……るよね。うん。
「ねえ、一色」
「はい?」
「一色がもし私以外って言われたらどんな子が好み?」
「……司先輩以外、ですか。そうですね……長い髪でちょっとしたところが可愛らしくて、優しくて偏見で僕をみないでいてくれて、出来れば料理が出来る人で……すみません。やっぱりどう考えても司先輩一択です」
「そ、そっか」
「逆に司先輩は僕じゃだめですか?」
「!?」
逆に聞かれるなんて思ってなかったー!!今一番キツイ(答えにくい)質問だよそれ!!
「その、だめでも嫌でもないし、寧ろいいんだろうけど……」
「けど?」
「この間の、あの……お風呂のこと、思い出したら……恥ずかしくて目も合わせられない、から」
「!」
「も、もちろんこの間言ったみたいに責任は取るよ!一色と一色の奥さんと子どもはとりあえず一人って計算で私が人間三人を養うとしたらいくらくらいだろうとかちゃんと計算もしたし!だから心配はないよ!」
たしかにこれも伝えたかったけど、なんかあの時のことを思い出したら思考がうまく回らないというか、自分でも何て言ってるのか理解が追い付かないというか!!
「先輩、それは普通嫁入り前の先輩が男である僕に要求すべきものであって、僕が先輩に要求するものではないです」
「で、でも私どこかに嫁ぐ予定もないし!こんな面倒なやつだから、一色の方が大事かなって思って」
「~~どうしてそういう!──────先輩。先輩それわざとなんですか?」
「わざとやるために徹夜するほど私、暇じゃない」
「───!!そうだった、瑛璃ちゃんは元々こうだったんだった!」
なんだかよくわからない言い合いになってきた。あれ、よく見たら慧君もなんか顔が赤いような?
いや、あの慧君がそんなわけないか。私も目が合わせられないから一瞬しか見えてなかったし。
「と、とにかくそういうことだから!!安心して!ね」
「誤解を解かない限り僕としては納得のしようがないんですが」
「誤解も何も見ちゃったんだからさ」
「ですから」
「あのーお客様。司瑛璃様と一色慧様でよろしいでしょうか?」
「「はい?」」
「そろそろ出発の時間でして、申し訳ありませんが……」
「あ、わかりました……」
よく周りを見てみるともう制服を着た学生はほとんどいなかった。もしかして見かねて声を掛けてきてくれたのだろうか。こっちのほうが申し訳なくなってくる。これ以上待たせるのも悪いので急いで駅に向かい乗り込んだ。まではよかったんだけど……
「あれ?」
「人の気配がしない……」
他の車両も回ってみたが誰も乗っていない。どういうこと……
「もしかすると……」
「相手の罠にかかったみたいですね」
やっぱりそうだよね。慧君がいてなんとか冷静になるように自分に言い聞かせてるけど、一人だったら今ほど落ち着いてはいられなかっただろう。
『やあ、聞こえているかい。司瑛璃第一席、一色慧第七席』
「!あなたは」
車両に備え付けられたテレビに映ったのは―――薙切薊だった。