食卓の聖騎士(ターフェル・パラディン)   作:紗代

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これにて名探偵コナンとのクロスオーバーは終わりです。


一口目 3真相と後日談

厨房に着くと一色は辺りを物色し始めた。俺も疑われるわけにはいかないので写真を撮っていく。

厨房や近場の冷蔵庫にはこれといって手掛かりになるようなものはなかった。やはり死因が死因なだけに決定的な証拠は見つけづらいな……

そう思いながら奥へと歩いていくと不自然に盛り上がったゴミ箱が視界に入った。

 

「(どういうことだ?)」

 

今まで歩いてきた厨房のゴミ箱は全て中身が空だったのにも関わらず、ここのゴミ箱の中身だけ捨てられていないなんておかしい。しかもゴミ箱の内容物が見えないようになのかやや乱雑に紙やボール紙、キッチンペーパーなどで蓋がされていた。

 

「(とにかく開けてみない事には分からないからな)」

 

案外呆気なく外れたそれの中身を見て俺は自分でも気づかないうちに声を上げていた。

 

「一色さん、これ見て!!」

「どうしたんだい――それは」

 

俺の大声に振り向いた一色は俺の開けたゴミ箱の中身を見て絶句した。無理もない。本来ならばそこにないはずのものが入っていたのだから。

 

ゴミ箱の中に入っていたのは――おそらく本来出されるはずだったもの。永倉さんの命を奪ったものと全く同じ料理が見るも無残な姿に変わり果てていたのだから。

 

「奥の方にあったゴミ箱の中身が盛り上がってたから蓋になってた紙を剥がしてみたんだ。それにこの蓋にされてた紙……」

「これは……司先輩のレシピ」

 

ぐしゃぐしゃになっていたそれを見やすいように伸ばして調理台の上に広げた。

 

「ここ、黒く塗りつぶされて米って書いてあるよ」

 

これだけ見れば司さんがわざとしたようにも見せられるだろうが、わざわざ一緒にまとめておく必要はない。ひょっとしたら司さんが犯人になるように仕向けられているのだろうか?

 

「司さんが料理してるとき一緒にいた人とかっていないのかな?」

 

そう聞くと一色はなんとも言えない顔になった。

 

「たぶんそれはないんじゃないかな」

「どうして?料理っていろんな人たちが一緒の厨房使ってるんでしょ?」

「司先輩は過去に調理実習のパートナーに嫌がらせされたり他にも色々あって極力誰かと一緒に調理しないようにしているんだ。一緒に料理しても問題ないのは僕ら十傑のメンバーか彼女に認められた一部の生徒だけなんだ」

 

マジかよ。そんな難儀な人だったのかあの人。

 

「あの、前々から気になってたんだけど一色さんたちのいう『十傑』ってなんなの?」

「ああそうか、ごめん。説明し忘れてたね。十傑っていうのは――」

 

十傑とは遠月茶寮料理学園の生徒の中から選ばれた成績上位者十名で構成される委員会で正式な名前は『遠月十傑評議会』。

十傑は学園の最高決定機関であり、学園の持つ権力と財力の一部を手中にしている存在で、十傑の発言は教師よりも強い権限を持っている。

料理の研鑽のためならば学園の――ひいては遠月の国家予算並みの予算を使う事を許され、さらに言うなら学園の運営方針や、学園長を交代させる事も十傑メンバーの過半数が賛成すれば可能だという。まさに学園の最高決定機関であり財力と権力を掌握する実質的な支配者たち、らしい。

 

「『料理が全て』な学園において、行使出来る権限はかなり大きいんだ。席次が上になればなる程増大していく仕組みだよ」

「……凄いんだねお兄さんたちって」

「僕なんかまだまだだよ。本当に凄いのは司先輩さ」

「司さんが?」

「そう。彼女は現第一席だからね」

「ええ!?」

 

っていう事は実質学園のトップじゃねーか!!

 

「僕ら十傑は学園の顔としてよくこういう場で腕を振るったり、コンクールの審査員だったり様々な仕事をこなしているのだけれど。今回のことはいきなりだったものだから司先輩もさすがに参ってたなあ。『レシピの印刷ちゃんとしてる暇ないから全部私の手書きのをその場で印刷してもらうしかないんだけど大丈夫かな……もし読みにくいとかでちゃんとレシピ通り作ってもらえなかったらどうしよう……』ってね」

「あ、あはははは……そ、そうなんだ」

「うん、彼女は完璧主義者だから特にね」

 

恐ろしい真実ばかりが一色の口から明かされていくのに対して俺は呆けて笑いながら同意するしかなかった。

おっちゃんも俺も、無知は罪だと痛感せざる負えない。

 

「――だから彼女が永倉さんを料理で殺したとは思えないんだ」

「え」

「彼女は自分らしさを乗せない究極の料理を追及しているんだ。常に食材への気遣いを忘れずに寄り添って食材を、命を尊ぶ彼女はそれが台無しになることを誰より嫌がるから。そんなことを自分からやるような人じゃないんだよ。ましてや命を生かすための食事で殺すなんて」

「……」

 

信条と完璧主義……一色の言い分を信じるのなら確かにこの犯行は司さんがしたものとは到底思えないものだ。予定が狂ったとしてもそれをちゃんとやり切ろうとしていた節もある。なら一体だれが……?

 

「そうだ、司先輩なら何か手掛かりになるものを知っているかもしれない!」

「え、それってどういうこと」

 

俺が言い切る前に一色は携帯を取り出すとある番号に掛け始めた。

 

≪こちらりんどー先輩だぞー≫

「竜胆先輩、今どこにいますか?」

≪おー、一色。あたしたちは会場の隅っこで椅子借りて休んでるところ。警察とか探偵とかはちょっと離れたところにいる≫

「……何かあったんですか?」

≪いや、特にこれと言って進展はねーんだけどあのなんて言ったっけウェイターのやつ。アイツが待ちくたびれて警察と司に当たり散らしたんだよ。そんでここの料理人を中心に益々司が悪いみたいな空気になってさ。ちょっと司も精神的にあんまりよくないから一旦引き上げたんだ≫

「……そうですか」

≪で、そっちは?≫

「僕の方は厨房で司先輩のレシピのコピーと捨てられた料理を発見しました。あの、確認したいことがあるので司先輩に聞いてもらってもいいですか?」

≪ん、ああ。司ー≫

≪代わったよ≫

「司先輩!?大丈夫なんですか」

≪大丈夫とまではいえないけど、こうして質問に答えるくらいならね。それで聞きたいことって?≫

「――はい。司先輩は今日盗聴器と録画カメラ、持って来てますか?」

≪あ、ああうん。念のために持って来てたと思うけど。でも何も映ってないと思うよ。今日も基本的に私一人で作業してたし≫

「それでもいいんです。設置した場所を教えてもらえませんか?手掛かりになるかもしれないので」

≪……そっか。それならたしか――≫

 

 

 

 

 

 

「ねえねえ目暮警部」

「なんだね?」

「謎が解けたから被疑者の三人とすぐに厨房に集まってほしいっておじさんが」

「そ、それは本当かね!?」

「うん。でもあんまり大事になっても困るかもしれないから刑事さんたちと被疑者の人たちだけでいいって」

「わかった今すぐ向かおう」

 

 

 

 

 

そしてところ変わって厨房には既に麻酔銃を受けて眠っているおっちゃんと目暮警部をはじめとした警察関係者、被疑者の戸田さんと間崎さん。そして最後に一色に付き添われてきた司さんがやって来た。――これで全員揃ったな。

 

「それで毛利君。真犯人が分かったというのは本当かね」

『もちろんです警部殿』

「はいはい、どうせそこの女でしょ?」

「君!口を慎みなさい!!」

「ちっ……はーい」

『さて皆さんに集まっていただいたのは他でもない。永倉さん殺害の件についてです。司さん戸田さん間崎さん、あなた方にはそれぞれに大なり小なり動機がある。料理に触れる機会もね。実際、司さんに至ってはその料理に関して全てを一任されていたようですし。そうですよね、司さん』

「は、はい。レシピも手書きではありましたけどコピーして全員に配りましたし、コースの構成も殆ど私が考えました。それで今日万全を期して厨房に入ったんです」

『貴方が担当していた料理は難易度が高く並大抵の料理人には手に余る代物だったのだとか。だから他人と一緒に料理が出来ないあなたがその一品を全員分作っていたというのは間違いありませんね』

「……はい」

「ちょ、ちょっと待ってください毛利さん」

『どうされました、高木刑事』

「他人と一緒に料理が出来ないってどういうことですか?」

『司さん、話していただけますね』

「…………はい。私は中等部の時に嫌がらせで料理に異物を混入されて以降、親しい人間としか共同での調理が出来なくなったんです。ですから今回もそうさせてほしいと永倉さんにお願いしたんです」

「そんな……」

『しかしそれを黙っていなかったのは他の配置換えに納得していなかった料理人たちだ。そうですね、戸田さん』

「はい。司さんの事情を知らなかったものですから……それに無理な配置換えで手が回らなくなることも考えてよく永倉さんに掛け合っていたんです。……尤も、最後まで聞き入れてはもらえませんでしたが」

『そう、そして戸田さんの予想は当たってしまった』

「ええ、メインの方が予定より遅れてしまい……魚料理を担当していた司さんが盛り付けを終わったのを機に頼み込んでメインの方に加わってもらったんです」

『そしてそうしている間に司さんが作った魚料理が運ばれて行き米アレルギーだった永倉さんはショック症状を引き起こした……この時間帯、あなた方はどこに居ましたか?』

「メインの方に追われてたので厨房のオーブンのところにいましたけど……」

「私もです。お互いが証人に成り得ます」

『ではその時間帯、あなた方は例の料理の前にはいなかったと』

「「はい」」

『間崎さん、あなたはどうなんです?』

「は?だからウェイターとして配膳……」

『おかしいですねえ、あなたは人手が足りないときの補欠で基本的には会場の飲み物の給仕と食べ終わった食器の回収の仕事だとシフト表ではなっているのですが』

「か、関係ないだろ!あの時は厨房も何もかも忙しくて猫の手も借りたいくらいだったんだよ!」

『なるほど、ではあなたは魚料理には関わっていないと』

「だからそう言って――」

『分かりました。ではここに居る皆さんに見ていただきたいものがあります。コナン』

「はーい」

 

厨房の奥から取って来た盗聴器と録画されたカメラのデータを機材にセットし起動させる。

そこには、間崎さんが誰も居ない司さんが使っていた厨房へ入ってきた映像から、薄手の手袋を付けて米粉を料理のソースに混ぜ合わせ配膳台に乗せて去って行く姿が映っていた。その途中で一つ崩してしまったらしくコピーされたレシピを塗りつぶして訂正しそれで蓋をする形でゴミ箱に捨てている姿も鮮明に映っていた。

 

『間崎さん犯人はあなただ』

「なぜ、こんな犯行に?」

「なぜって?ムカつくからだよ!あの偉ぶった永倉のやつもこの女も!人より才能も地位もあるからって見下してきやがって!!だからやったんだ、一瞬で俺らみたいな、俺らより底辺になるように。あんたがあのまま間違えたままこの女を警察に突き出せば完璧だったのに。途中で変えやがってこの役立たず!!」

「なっ」

「あなたは本当に見下されていたんですか?」

 

その場にいる全員が間崎さんに対してなにか言おうとしていた――のだが。

それは一色の声で霧散した。

 

「はあ?よくあるフォローかよ、バカじゃねえの「いえ違います」……は」

 

最初は全員が犯人と同じように司さんのフォローなのかと思って聞いていた。しかし一色は違うという。

 

「真崎さん、本当に司先輩はあなたのことを見下して……いえ見ていたんですか?」

「どういう、意味だよ」

「そのままの意味です」

「一色ー司ーもう終わったかー」

「あ、リンドウ」

「帰ろうぜー私もう腹へった」

「分かりました、先に行っててください」

「おーいこうぜ司」

「う、うん。じゃあ先行ってるね」

「はい」

 

そして二人を見送ると一色は真崎さんへ視線を戻した。

 

「なぜあなたは司先輩に見下されていると思ったんですか?あなたが前に言っていたようにウェイターのあなたと料理人の司先輩の関わりは薄いはずなのに」

「それ、は……」

 

真崎さんは言葉に詰まった。しかし冷たい表情の一色はそれを見て呆れを含ませた表情になった。

 

「なるほど。確かにあなたのような人は過去に何度か司先輩は遭遇しています。ストーカー行為や傷害沙汰などなど、ありとあらゆることに遭っています。ですが、誰一人として彼女の記憶には残っていません。真崎さん、司先輩はあなたに話しかけてきましたか?あなたと目を合わせましたか?彼女は――あなたを認識していたんですか?」

「――っ!」

「真崎さん、司先輩は料理と食材を考えて調理しますが――他人を考えて調理なんてしていません。それどころか視界にすら入れていない事がほとんどなんです。評議会の席次を懸けた食戟……料理対決の場でさえ彼女は対戦者どころか審査員のことさえ考えていない。彼女の中にあるのは料理のことだけなんですよ」

「そ、んな」

 

間崎さんだけでなくその場にいる一色以外の全員が息を呑んだ。

それではまるで……

 

「ひ、ひとでなし……」

 

誰かが呟いた。すると一色は穏やかに微笑んだ。

 

「では、言うべきことも言いましたし僕もこれで失礼しますね」

 

そう言っておっちゃんと警察、間崎さんを見る目はさっきの穏やかな表情とは裏腹に氷のように冷たいものだった。

 

――――――

一週間後の一席執務室

 

「そういえば司先輩この間の事件、どうなったんですか?」

「んー?解決したよ」

「でも昨日警察の人に呼び出されてましたよね」

「ああ、なんか捕まった人が私と面会したいって言ったらしくて」

「それで、ですか……大丈夫でしたか?」

「うん。なんか話してるうちに相手の口数が減っていって半ばに差し掛かる頃には既に声出してくれなくなってね、どう会話を成立させたらいいのか分からない状態になっちゃって。結局面会時間の八割くらいを残してそのまま帰ってきた。――あ、そういえば一色、あの後あげた私のレシピ本ってどうしたの?」

 

初心者向けの段階的に難易度が高くなっていくタイプの本だ。幾分か改造はしたけど中身は一、二ページくらい付け足しただけで大して内容は変わっていない。たしか慧君も一冊持っていたはずなので今回渡したそれを持つ必要はないと思うのだけれど。

 

「あれなら然るべき人に渡しましたよ」

「え、でもあれってあの時のレシピも――」

「でも月饗祭も終わった今、僕らが出来るお礼はこういうことぐらいしかありませんし、大丈夫だと思いますよ。娘さんは料理をする人らしいですしきっと無駄にはなりません」

「そ、そう?でも私手紙書いてないよ」

「その辺も僕名義で出したので大丈夫です」

「さ、さすがだね」

 

流石慧君。仕事が早い。

 

「ねえ司先輩」

「何?」

「司先輩は、いざとなったら人を殺しますか?」

 

慧君からきたのはなんとも哲学的な質問だった。でも答えは決まっている。

 

「殺さないよ」

「何故?」

「だって人間は食べれないでしょう。倫理的に。自分の身になるわけでもないものを殺す必要なんてないよ」

 

そう、食べる必要のないものは。食べられないものは殺す必要はない。殺す時間労力後始末どれも無駄な消費だ殺してそれを食べられるわけでもないのに。得られるものがないというのに。

 

「なら倫理的にそれを許されたなら?」

「許されたら?――――――そうだね、私だったら……」




一色先輩のいう「然るべき人」とは毛利探偵のことです。物品として送れば形あるものなので絶対に今回のことを忘れないだろうという意趣返しから。蘭は使いやすいのでそのうち重宝するようになってお気に入りの本になり、瑛璃ちゃんと一色先輩の株が上がりますが、父親とコナンからしてみればたまったもんじゃないでしょう。

警察の方での瑛璃ちゃんも人でなし具合を発揮したことや今までのストーカーや精神的被害の経験談から容疑者と監視していた人たち、録画・録音していたデータを見た人々のSAN値をガッツリ削っていると思います。

遠月って基本的にお金持ちの子ばっかりっていう事なので被害に遭ったとしても警察とか圧力でちゃんと捜査してくれなさそうって思ったので特に。
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