一色家と紀ノ国家にお世話になり、やがて幼稚園を卒園し小学校に上がると同時に元の家に戻ることになった。
『泣かないで、寧々』
『な、ないで、ないっ、もん!!』
『慧』
『ねえ、瑛璃ちゃんはまだ料理続けるの?』
『うん。お父さんとお母さんにはまだ言ってないけど、料理人になりたいんだ、私』
『そっか…ならいつか会えるよね?』
『ふふ、その時にはフランス料理も和食も今以上にレベルアップしておくから』
『うん、楽しみにしてるよ!』
あれから、約6年――――――
「え、あれ…次の実習の調理棟ってこっちじゃなかったっけ?」
私は学校の広い広い敷地で迷っています。
ここは遠月茶寮料理学園中等部。あれから私への態度が軟化した両親に料理人になりたいことを話し、ならばと勧められたのが遠月だった。
料理の勉強で学生生活を送れることはとてもうれしい。しかし私は元々高級レストランとかの出自ではないのでそれを言うと一部の人間は無理難題を押し付けて食戟に持ち込もうとする。最初は断ろうとしても部下?取り巻き?みたいなのものも加勢して逃げ道を無くそうとしてくるのだ。見せしめの意味合いもあるのかも…
ああああああ、想像しただけで胃がマッハでやられていく!そのうえ私は寮生であり…というか唯一の寮生なのだが。その採算が取れてないとか因縁を付けられて寮に立ち退きという名の襲撃にくるのもやめてほしい。
元々細い神経がガリガリ音を立てながら削られていっている気がしてならない。追い返してくれるふみ緒さんありがとうございます。
でも懲りずにやってくる人たちに辟易としていた私の胃は既に限界を迎えていたので食戟をすることにした。その時相手がどんなことを言っていたとかさっぱり覚えてない。相手の要求も聞いてなかった。私の条件は「今後一切私と私の周りに関与しないこと」。とにかくそれが一番だったのでそれ以上の要求はしなかった。そのときもなにか言ってた気がするけど料理のことじゃなかったから覚えてない。
それで勝ってからというものの、食戟の申し込みが増えた。なんでだ。痛いよもう胃薬が手放せない毎日が続いているんだ。
それでも食戟の申し込みは減らないので片っ端から受けることにした。そして食がすべてのこの学園で生き残っていくにはどうしたらいいのか悩んで、悩んだ末に―――私は一から学び直し講師の人々に試食を頼んで毎日試作品を振舞った。
講師の人々にはA判定や太鼓判をもらっているが私は納得できない。中等部はまだ本格的な篩い落としはないらしいが、高等部に上がると激化し最終的に無事卒業できるのは十傑以外に二十人いないくらいが良い方だと聞いたのだ。それがデマではないことは同じ敷地にある高等部の先輩たちの数の減りようを見ていれば一目瞭然である。両親や寧々ちゃんや慧君に宣言してしまった以上、後に引けない私はとにかく作って作って作って作って作り続けた。
「おーいそんなとこに一人でなにしてんだー?」
「え」
声のした方を見ると赤毛に八重歯が目立つ少女が立っていた。
「って、おまえもしかして司瑛璃?」
「な、なんで私のこと知ってるの?」
「なんでもなにも有名だぜー、食戟の負けなしで講師をノイローゼに追い込む「講師潰し」!」
「え゛!?」
たしかに私の試作に携わった講師の人たちは一度付き合ってもらったらその日以降二度と会わなかったけど、まさかそんなことになってたなんて…
「どうしよう…」
「ま、いいんじゃねーの?もう終わったことなんだし。と、そんでそんな司がこんなとこで何してんの?」
「え、っと。その、道に迷って…」
「ふは!なんだよそれ!いいよ、ここで会ったのもなんかの縁だし一緒についてく」
「あ、ありがとう…」
「あ、そーいやあたし、まだ名乗ってなかったっけな―――あたしはりんどー。小林竜胆!あんたと同じ一年生!!よろしくなー司!!」
「―――うん、よろしくリンドウ」
これが私と後に第二席になる相棒のような少女―――小林竜胆との出会いである。
「で、行きたいのってどこ」
「次のイタリア料理の実習の調理棟」
「それなら反対方向だぜ?ちなみにあたしも取ってる!」
「ええ!?それってまずいんじゃ…」
「一緒に怒られようぜー司ー♪」
「…うん、そうだね…」