食卓の聖騎士(ターフェル・パラディン)   作:紗代

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九皿目 月の宴~やや灰色風味~

紅葉狩り会を発端として起こった食戟三連戦に勝って休む間もなく我が校の一大イベントである学園祭―――月饗祭が始まろうとしていた。

 

かくいう私はというと――――――

 

「司一席、今日の予定は○○社新商品の試食、十一時半から料亭□□の秋の新作の味見役を。午後には―――」

「……はい」

 

十傑の業務に追われている。山の手エリアにある自分の出店する店の準備をしながら。…自分個人の時間がシャワーを浴びる時間だけってどういうこと?

十傑の仕事を終わらせて予約の受付や準備を進めていく。

 

「去年より予約者が多いな…ホールは多分大丈夫だけど調理が追い付くかな…」

 

私は厨房にあまり人をいれたくない。やむを得ない場合は仕方ないがそれでも十傑と寧々ちゃんと慧君以外をいれたくない。理由は単純に他人を信用できないからだ。中等部一年の初期はそうでもなかった。普通に小学校の調理実習と似たようなノリでペアで調理していた。

 

しかしある実習のペアでの調理の時に事件は起こる。その時の担当講師が太っ腹な人で実習がちょうど昼休みの手前なので食材を多めに用意し賄いを作っていいと言ってくれたのだ。私はその頃には既にストーカー被害に遭っており、私物が無くなるというのも日常茶飯事で弁当が無くなり代わりにだれが作ったのか分からない弁当が入っていたりしてお昼抜きなんてこともあったので素直に嬉しかった。

もう提出用の料理も私の賄いも出来て全て皿に盛り付け終わり、私が料理を提出しようと席を外した時、背後で大声が聞こえた。振り返ると私たちの調理台のところに人が集まっているし、周りのクラスメイトたちも顔を真っ青にして震えている。ただ事ではないと私と担当講師は調理台に駆けつけた。

そこには、今回ペアになった生徒が指先から流れ出る血液を私の賄いにたらし混ぜるという奇行を行う光景があった。

 

――――――異物混入ダメ絶対。

 

それ以来、私は厨房にあまり人を入れなくなった。俗に言うトラウマ、というやつである。

 

「どうしようかな…」

 

でも出店の申請した時点でどっと予約がきちゃったし、提携を組んでる企業の人とかも来ることになってるから今更調整なんてできないし…助っ人、とか?でもリンドウ以外はみんな出店するだろうし、となったら十傑のみんなには頼れないから…

 

「そうだ!」

 

思いついた私は早速打診するためにある場所へと急いだのだった。

 

――――――

そして月饗祭当日。

 

「あの、予約していた紗々原です。」

「―――紗々原様ですね。お待ちしておりました。ご案内いたします。」

「あ、え、ええ!お願いします」

 

予約していた女性のお客様は声をかけられて頬を朱に染めながら返事をする。

 

「席はこちらになります。ご用の際はテーブルの上にある呼び鈴を鳴らしてお呼びください。では」

「は、はいぃぃ~」

 

女性客のハートをがっちり鷲掴みにして彼は厨房へ戻ってくる。

 

「紗々原様到着しました!」

「了解!」

 

私は早速調理を再開しコースを仕上げていく。彼もウェイターの服の上からエプロンを身に付け調理に移った。

おかげで料理は順調に捌けている。この分なら今日は間に合うだろう。

協力を要請しておきながら結局彼に厨房だけでなくホールの方にも出てもらっていることにやや罪悪感を感じるが今はそういったことにかまけている暇はない。とにかく、素早く正確に手を動かす!

 

私も頼ってばかりいては不味いので料理を給仕する。と声をかけられた。たしか…前に一席としての仕事でロスに行った時に私の料理を食べていた美食家の一人、だったっけ。

 

「やあ!久しぶりだね」

「―――お久しぶりです。ウィリアムス・アスクル氏」

「そんなに畏まらなくていいよ、私とキミの仲じゃないか!」

 

―――需要()供給(料理人)の関係です(しかも二回くらいだったはず)。

 

「にしても学校の敷地内にこんな建物を建設してしまうなんてさすが遠月!」

「山の手エリアは大体このような個人経営の店舗が多いですし、他の十傑もほとんどこちらに構えていますからお食事がお済みになられましたらどうぞ他も回ってみてください」

「いやあしかし、キミ以上の料理なんて食べられないだろう?なんたってキミは一席なのだから!」

「――――――」

 

まただ。

 

ギリ

 

思わず拳を強く握る。やっぱり食べにきたのは司瑛璃(わたし)の料理じゃなくて―――遠月十傑のブランドか。

 

「それにしても前回もだが今回も素晴らしい!次も期待しているよ第一席!」

「…ありがとうございます」

「ああ、大分長く引き止めてしまったね」

「いえ、それではごゆっくりおくつろぎください。」

 

やっとこさ解放された私は走らないように気を付けながら厨房に戻って行った。

 

「……」

 

そんな私の姿を彼がじっと見ていたことにも気付かずに。

 

 

 

 

 

 

今日の分の食材を捌き終わり、山の手エリアとしてはやや早めの閉店となった。まあ今日の分の予約は全部消化できたのでよかったよかった。

 

「今日はお疲れ様。ありがとうね一色」

「いえいえ、こちらこそ僕を指名してくれてありがとう」

 

そう、私が協力を仰いだのは慧君だった。本当は寧々ちゃんも誘ったのだが既に出店を申請した後だったので引き抜けなかった。しょぼくれて帰る私に思うところがあったのかその時慧君を紹介されたのだ。「一色ならきっと全面的に協力してくれるでしょうから、馬車馬のようにこき使ってやってください」寧々ちゃん…。元々慧君のところには行こうと思っていたので私は極星寮に電話を入れて向かったのだった。

極星寮には相変わらず気が強くて優しいふみ緒さんと慧君がいた。どうやら慧君は帰ってきたばかりだったらしく着替えたかったのかネクタイが歪んでた…なんかごめん。ふみ緒さんもそんな慧君を見て溜息吐いてるし。とにかくこれ以上長居して迷惑になってしまう前に用件を話そう。私も自分の店の内装とかも確認しに行かないといけないし。

そして用件を話すと慧君は快諾してくれた!ああ、やっぱり持つべきものは友とはよく言ったものだ!名言を遺した人に感謝する。「多少思い違いはあるようだが…まあよかったじゃないか。司、なんかあったらいいなよ。あんたも元とはいえこの極星寮の一員なんだから」と言ってくれたふみ緒さんにじーんときてしまったのは不可抗力だ。

 

「なにかお礼がしたいんだけど何がいい?」

「別にいいよこれくらい。」

「私がしたいんだよ」

 

私が引く気がないことを察してくれたのか慧君は考え込む。

 

「そうだなあ…一番ほしいもの…いや今はいいか…!じゃあ月饗祭の最終日、ちょっとお店早めに閉めてくれる?」

「今日みたいに早めに在庫が無くなればできるだろうけどなんかあるの?」

「最終日は一緒に回りたいんだ…だめかな?」

 

そういえばこれ学園祭だった。自分の店の切り盛りですっかり忘れてたけど。

そうだね、私たちも学生でいられるうちに今を満喫しないとね。

 

「―――ううん、楽しみにしてる」




主人公が人を厨房に立たせることができない理由と一色先輩のターン。そして原作の司先輩的な良くないフラグが建ち始めました(といっても一部ですが)。

ちなみにふみ緒さんは主人公が寮に来ると連絡もらって一色先輩に服を着せた功労者。そしてセリフからも分かるように色々把握してます。
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