ガールズ&パンツァー 黒森峰の白うさぎ   作:綾春

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連続投稿です。まだの方は前話『地吹雪』からどうぞ。


熱闘

 

 国道を通過し、森へ駆け込むⅣ号。躍進射撃で仕留め損なったが、追撃の手を緩めることはしない。

 

「すみません、カチューシャ。仕留め損ないました」

「いいのよ、別に。それより追うわよ!」

 

 にしても、だ。Ⅳ号にとって森林が有利とは思えない。履帯は細く、腐葉土のような不整地では機動力を発揮出来ない。立ち木で立ち回りが制限され、取り回しの良さが活かせない。その上柔らかな土壌は振動を吸収する。僅かとはいえ音も聞こえにくくなるはずだ。

 

「何が狙い……?」

 

 

 

 橋を渡り、沢で隔てられた雑木林に踏み入る。その時、砲の吠える音と振動。車体を直接襲ったものではない。

 

 後方を振り返ると、崩落した橋。再び前方に目をやると、砲から砲煙をくゆらすⅣ号の姿が微かに見えた。

 

「橋を崩した……ここで一騎打ちに出るつもりかしら」

 

 この森で勝負を決めるつもりのようだ。であれば、こちらはどう出るか。

 

「なら、ここは距離を取りながらゆっくり仕留めるわ。左へ」

 

 砲火力で勝るなら、ここで距離を詰めるのは愚策。去年までの私ならどうしていたかは分からないが。

 

「ノンナ、狙えるときには迷わず撃っちゃって。こうも射線が通らないんじゃ、私の指示を待ってたら好機を逃すわ」

「分かりました。預かります」

 

 樹木が射線を塞ぐ。それらが完全に開ける瞬間はほんの一瞬だ。迷わず撃ち込んでいかないと仕留めることは適わない。

 

「じわじわと、真綿で首を絞めるように攻め込んでやるわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「停車!」

 

 眼前の腐葉土を徹甲弾が抉り取る。停車していなければ履帯を吹き飛ばされてオシマイだった。

 

「近づいてこないね」

「当たり前だね。近づくメリットがないんだし」

 

 森林とはいえ、しっかりと手入れされている。今は、林業用の重機などが通るため、森林をぐるりと囲むように作られた道を周回しながら撃ち合っている状態だ。

 

「いつ仕掛ける?」

「急いじゃダメだよ。この作戦の意味が無くなっちゃう」

 

 相手を閉じ込め、チャンスを窺う。全ての条件が揃ったとき、初めて攻勢に出るのだ。地図で見たデータを、目視で確かなものにしていく。

 

 

 沢は森を迂回するように流れているが、枯れた沢が何本か、森の中にも流れている。それなりに大きく、深い様子だ。林業用の道路は森の中にも何本か通っている。起伏はあるが十分に走れる。

 

 陽の差し方を意識してか、山の麓側に比べて、市街地側の方がしっかりと間伐してあり、視界が開けている。そして市街地側の方が僅かに低地になっているようだ。

 

「……決めた」

 

 仕掛けるプランは決まった。あとはチャンスを待つだけ。椅子取りゲームのようにぐるぐると旋回し、機会を窺う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……仕掛けてこない」

 

 焦れる。しかし焦ってはいけないのも知っている。ここで攻め急げば相手の思うツボだ。

 

「攻めてきたところを落ち着いて迎撃して終わり、がプランなのに……」

 

 ずっと対角線上をぐるぐると回っている。仕掛けてくる様子もないし、何か様子見をしているようだ。

 

「……躍進射撃、用意!」

「仕掛けるんですね」

「ちょっとだけよ! おしりを叩いて動かしてやる!」

 

 相手が動かないなら、窮地に追い込んで無理やり動かすのみ。しっかりと遮蔽が取れるタイミングを見計らって、躍進射撃にかかる。

 

「……停止!」

 

 制動をかける。ノンナが瞬時に照準し、揺動が収まった瞬間に発砲。立ち木に当たって木っ端を撒き散らす。

 

「前進、続けて躍進射撃、装填急ぎなさい!」

「は、はいぃ!」

 

 閉鎖機が閉まる。再び車両は停止、揺動が収まり砲が唸る。今度は立ち木の中をすり抜けて上手く飛翔したものの、敵を掠めるに留まる。

 

 やはりこうも立ち木で射線が通らないと、相手も弾道が予想しやすいのだろう。的確に停車と増速で回避している。

 

「でも、そろそろ焦ってきたんじゃないかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「瑠衣! やばいんじゃないの!?」

 

 確かに、少しずつ射撃の正確度が増して来ている。このまま続けるのはまずい。しかし、タイミングを見誤れば作戦は必ず失敗する。その時が来るまでは動かない。

 

「でも、躍進射撃してくれているのはむしろ好都合。タイミングが測りやすくなった」

「どういうこと!?」

 

 再び砲撃。今度は眼前の腐葉土が抉られる。どんどん正確になる砲撃に、少しずつ不安が増してくる。私は経験者だからいいけど、朝日もすみれもこの大会が初めての試合。相当疲弊しているはずだ。

 

「そろそろ、かな」

 

 次だ。仕掛けるチャンスがくる。

 

「少し速度抑えて。……次の砲撃のタイミングで」

 

 

 砲がぴくりと、僅かに震えた。微調整が終わり、砲が火を吹く、そのタイミング。

 

 

「今! 突っ込むよ!」

 

 行足を森の中へ。森林を突っ切る道へと進路を変えた。速度はめいっぱい。一気にT-34の懐に突っ込む!

 

 

 

 

 

 

 

 

「来た! 停止、遮蔽取って!」

 

 手近な太めの木に車体を隠す。突っ込んでくる敵に照準する。

 

「早く装填しなさい!」

「そう言われても……」

 

 T-34に限らず、ソ連戦車に通じて言えることだが、砲塔内のスペースが小さいのだ。故に割を食うのは装填手。砲弾を手に取り、装填する。それにも時間がかかる。

 

「装填完了だっちゃ!」

「撃ちなさい!」

 

 砲撃が空気を震わす。飛翔した弾丸はやはりⅣ号を仕留めることは叶わず。打ち抜かれた大樹は倒木と化す。

 

 尚も接近するⅣ号。次の装填は、間に合わない!

 

「旋回しつつ後退! 正面を晒しなさい!」

 

 防御性能に優れる正面装甲を晒す。正面であれば受け止めることも十分に可能なはずだ。

 

 

 

 ――――来る!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライブビューイング会場は騒然となる。これは、勝負が決まると。

 しかし、ドローンのカメラが捉えたのは、激しい火花とともに弾かれる砲弾だった。

 

 

 時が戻ったかのように湧き上がる会場。手に汗握る、一進一退の攻防だ。

 

「今のはすごかったね!」

「思わず息を飲んでしまいました……」

「決まったと思ったんですけどねぇ!」

 

 今のはカチューシャさんの判断が良かった。無理に迎撃せず一歩引くことでT-34の装甲を生かした。こう言っては何だが、去年までだったら間違いなく今の一撃で決まっていただろう。

 

「ここから形勢逆転だね……」

 

 Ⅳ号が追われる展開だ。猛攻を凌げるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「逃げるよ、転進、全速前進!」

「あいよーっ、全速!」

 

 朝日がレバーを押し込む。履帯が柔らかな腐葉土を蹴り出してⅣ号は一気に速度を上げる。当然だがT-34も追撃をかけてくる。

 

「一発、一発だけでいい、躱すよ!」

「タイミング指示して! 何とかする!」

 

 瑠衣は完全に後方を向いて、敵の砲口を睨む。その足は朝日の肩を蹴る準備をしていた。ここは完全な撤退戦。しかし、反撃の準備も同時に進める。

 

「装填出来たよ!」

「来る!」

 

 瑠衣が肩を蹴る。朝日がレバーをぐんと引き、車体を右に振る。白い車体を草むらにねじ込み、緑色を付着させながらも何とか回避する。

 

「何とか引き離して!」

「任せてっ」

 

 指示を受け朝日はさらに増速をかける。森を突き抜ける道路は未成道で起伏も激しい。そんな中、神がかり的な速度で駆け抜けていく。少し小高くなっている坂を上り、そして下る。ここで敵の視界から一時的に消える。ここがチャンスだ。

 

「今っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 丘を越える。ふわりと浮遊感を感じ、着地。視界が開けるも、そこにⅣ号の姿はない。

 

「消えた……!?」

 

 あたりを見回す。しかしⅣ号の姿は無く。

 

 視界の端に何かが見えたような気がして、振り向いた。そこには抉り取られた地面。まるで履帯が滑走したかのように―――

 

 

「停止!!」

 

 

 炸裂音。激しい振動。吹き飛ぶ車体に、何が起こったのか瞬時に理解することは出来なかった。

 

 

 ふわり、浮遊感。着地したときに私は全てを悟った。

 

 

 

 落ち葉を被り、枯れた沢の中に身を隠すⅣ号。砲撃は履帯の奥の側面装甲を、超至近距離で打ち抜いていた。

 

「……はぁ」

 

 

 緊張の糸がほぐれる。

 

「カチューシャ」

「何よ」

「いい試合でしたよ」

 

 ノンナの朗らかな笑顔。大切な戦友のねぎらいに

 

「……知ってるわよ」

 

 笑顔で返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まさか本当に勝っちゃうなんて」

 

 ジャイアント・キリングだ。全く無名のチームが、全国大会優勝経験もあるプラウダ高校の、それもエース2人の最強チームを破ったのだ。

 

「次の試合、勝てばあの人達と試合ですね!」

「なかなかの強敵そうだな。私も腕が鳴るぞ」

 

 車長の立案能力、操縦手の技術が光った試合だった。最後の戦術は、操縦手の速度無しには成り立たないものだった。

 

「……ワクワクしてきた」

 

 同じⅣ号戦車同士。いやでもライバル意識が芽生えるというものだ。そのためには次の試合を勝たなきゃ。

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