ゼロの使い魔 ~ほんとはただ寝たいだけ~   作:真暇 日間

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side 織斑ルイズ

 

王宮に到着した私は、王宮守護隊の止める間もなく姫様のいる執務室の窓を蹴破って中に入る。窓を割る直前にシルバーローブをグライダー+ジェットからメイド服に変えて、いつもの通りにデルフリンガーを右腰に、始祖の祈祷書を左腰に下げた状態で飛び込んだせいか、凄まじく警戒されてしまっている。

 

「ルイズ。王宮に着いたわよ」

「ぅ……あ……」

 

気絶していたルイズは、ゆっくりとその目を開く。どうやら自分がどこに居るのかもわかっていなかったらしく辺りをキョロキョロと見回していたが、姫様の姿を見つけると慌ただしく立ち上がって礼をした。

 

「ルイズ・フランソワーズ・ラ・ヴァリエール、密命を果たして戻って参りました」

 

ペコリと頭を下げながらそう言うルイズを眺めながら、私は【愛情機関】で使えるようになった【解析】でこの部屋を見て回る。

流石にこの部屋で“探知”は使えないのでこの方法をとったのだけど、予想以上に色々な仕掛けがしてあって少し驚いた。

魔法を使ったギミックが堂々と仕掛けられていたり、堂々としたギミックに隠れるように設置されていたり、魔法の使われていない仕掛けで抜け道が隠されていたり、虚無魔法の込められた鏡があったり……本当に色々あるわね。

ちなみに、虚無魔法のかけられた鏡だったら私も似たようなものを作ったことがあったりする。

私がまだまだ若かった頃、家を出た後にカティと連絡を取り合うために作ってもらった手鏡に“窓”をかけたものを渡してそれで時々話をしたりしていた。

私の場合は“窓”をかけていたけど、解析した結果、奥にある大鏡には“扉”の魔法がかかっているというのがわかった。虚無魔法の事に限定すれば、私の解析はEX。間違いなんて無い。

 

……“扉”がどこに繋がっているかはなんとなくしかわからないけれど、とりあえず位置だけはわかった。今度暇なときにでも行ってみようと思いつつ、まだ続いていたらしい姫様の昔語りを右から左に聞き流す。

ノロケなんて素面で聞いてられない。酔ってるんだったら行けるかもしれないけど、ここにはお酒は無いし飲めるような雰囲気でもないなら、右から左に受け流すしかない。

あの時、イチカがいなかったら私もこういう面倒な話を聞かされ続ける羽目になってたのかもしれないわね。イチカにはほんと、感謝してもしきれないわ。

 

……さて、ここから先のことは私にはわからない。私の世界では皇太子殿下は普通に生きていたし、貴族派は私の“カッター・トルネード・ボム”(ちなみにイチカ曰く“デスペラード・ボム”。土風水のどれかのスクウェアメイジなら全力で防御に回ればギリギリ生き延びられるから【絶望的だがほんの僅かな希望だけは残されている】と言う意味を持たせたらしい)で塵すら残さず消滅させたからトリステインとアルビオンの関係は割と良好なままだったし……。

 

……そんな訳で、流石に一つの大国の存亡が違えば歴史は大幅に変わっていくだろう。変わった先では私の世界の情勢知識は全くと言ってもいいほど役に立たない。つまり、予想もつかないような未来を見ることができると言うことだ。

面白いものが好きな私としては、実に喜ばしい。

 

「……ところで、ワルド子爵はどこに?」

「ワルド様? ワルド様がどうかしたのですか?」

 

……知らないフリ知らないフリ。私がヤっちゃったのは名前も顔もわからない仮面のメイジですよーっと。通じるとは思わないけど、私はそんなことは『知らない』ものね。

 

「レア姉様は、ワルド様がどこに居るかご存じですか?」

「知らないわよ?」

「そうですか……レア姉様なら知っていてもおかしくないような気がしたんですけど……」

 

……まあ、実際知ってはいるけど、残念ながら教えてあげる気は欠片も無いのよね。私が殺したなんて言ったらルイズに泣かれちゃうもの。

私は純粋なままのかつての私の姿を見ながら、自分の内側に溜まる黒い何かを奥へと追いやる。いくら蓋がついているからと言っても、あまりにも強すぎる意思は蓋を押し退けて出てきちゃうことだってあるものね。

あんまり黒いのを外に出しすぎると危険(主に周囲が)だし、可能な限り抑えておかないとね。

 

……さて、それじゃあトリステイン魔法学院まで飛びましょう。風石ジェット搭載型グライダーなら二時間もかからず学院の庭まで到着するわ。かわりにルイズが疲れるだろうけど、その辺りは仕方の無いことだと諦めてもらいましょう。じゃないとルイズが授業に遅れちゃうしね。

 

……え? “テレポート”使えば一瞬じゃないかって?

 

……細かいことはいいのよ。今はそんなことよりもルイズを学院まで送り届けることを優先しないと。ルイズの学業の危機なんだから。

学生の本分は勉強にあり。私は主に恋に生きてきた自覚はあるけど、一応勉強方面だって疎かにはしていなかった。その事だけは胸を張って言える。

ただ、私が胸を張るとエレオノール姉様がハイライトの消えた目で私の胸をまるで親の敵を見るかのように睨んでくるのよね。それが怖いのなんのって。

あまりに怖くてちびちび言ってくるエレオノール姉様に『五月蝿いわよ夢の乳と書いて夢乳、儚い乳と書いて儚乳、そもそも無い乳と書いて無乳の三つの『むにゅう』を極め、世界に数多存在する貧乳好きの心を鷲掴みにしながらもその苛烈を通りすぎて暴虐無双とも言える性格のせいで妹にすら先を越された虚乳貧乳洗濯板な行き遅れのお・ね・え・さ・ま? 悔しかったら結婚して三年持たせてごらんなさい、私は初めての結婚から五年以上仲良く暮らしている先輩ですから? お願いするんだったらその秘訣を教えてあげなくもないですよ?』って言っちゃったこともあるくらいだし。

 

ただ、その後凄い顔をして追いかけてきたので“加速”と“忘却”にお世話になったりもした。流石に若干後悔しているので、今度やるときはもう少しオブラートに丁重に包んで柔らかめに言ってあげようと思っている。

 

「まず言うのを辞めてやれよ」

「それじゃあつまらないじゃない」

 

エレオノール姉様ってからかうと面白いのよ? 例えば豊胸薬を作ってみたんですが一本いかが? なんて聞いてみたことがあったけど、まさかまさか片道二日くらいかかるはずの道を手紙を読み終わってから二時間で単独走破して見せるとは思わなかったし。

その他にも豊胸薬と間違えて……間違えて!……縮乳薬を使ってしまった時なんて、イチカに昔の恥を晒された母様くらい怖かった。

 

……まあ、それでも関係無く弄るんだけどね。

 

 

 

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side 織斑ルイズ

 

ルイズと私がアルビオンから戻ってきてから数日。それから何事もなかったかのようにのんびり過ごしている。

密命の内容は言えないし、密命を受けたことも本当は言わない方がいいんだけれど……口の軽い人っていやね。

そんなわけで私はどんな理由でアルビオンに向かったのかを聞かれたらこう答えるようにとルイズに言い、自分自身も実践している。その内容とは……。

 

「ねえルイズ? こんな時期にアルビオンに行くなんてどうしたのよ?」

 

金髪巻き毛のモンモランシーに聞かれて、ルイズはちょっと口ごもる。勿論、こうして一回目は口ごもり、二回目はやんわりと『あまり教えたくない』と言うのも私の仕込み。何しろ私がシエスタにやってみたら結構簡単に騙されていたから、それなりに有効だと言うことは理解しているので否応もなかった。

しかし、性格的には控え目なシエスタに比べて押しの強いモンモランシーは、ちょっと聞かないでほしいと言う空気を完全に無視してつついてくる。

 

「別にいいじゃない。なんなのよ?」

「……別に言いふらすようなことじゃ無いし、聞いて面白いことでもないわよ?」

 

ルイズは先にモンモランシーに釘を刺し、それからなんでもないことのように言葉を紡ぐ。

 

「婚前旅行よ」

「へぇ、そうなの。婚前旅こ…………う?」

 

ルイズの口から突如放り出された一言は、まさに爆弾が爆発したかのような衝撃と威力をクラス中に振り撒いた。

どうやらこのクラスのほぼ全員が聞き耳をたてていたらしく、一気にクラス全体の視線がルイズに向けられる。

あのキュルケすら目を見開いてマニキュアの瓶を落としていることにも気付かずにルイズを見つめているし、どうやらこの一言には私の思った以上の威力があったらしい。

 

「…………え……え………………」

「……? なによその顔。私にだって婚約者くらい居るし、婚約者がいるなら婚前旅行くらい」

 

……と、そこまでは聞こえたのだけれど、生憎と私はそこからなんと言っていたのか聞いていない。

風の精霊に頼んでちょっと音を遮断してもらっていたからだけど、その辺りは後悔していないし反省もしていない。そもそも悪いことじゃないしあたりまえなんだけど。

 

無音の世界で、私は騒がしそうなクラスを見る。ルイズはモンモランシーとキュルケに根掘り葉掘り色々聞き出されそうになっているし、ついでにギーシュは何かを考え込んでいる。

……多分『今度モンモランシーとケティをつれてどこか景色の綺麗なところにでも旅行に行ってみようかな』とでも考えているんだろう。昔に比べて随分と甲斐性が出てきているみたいだけど、二対一のデートは難しいわよ?

 

さて、それじゃあ私は仕事があるからそろそろおいとましようかしらね。

 

「れ、レア姉様? どこにっ!?」

「お仕事よ。掃除とお昼の準備が基本だけれど、今日は洗濯にも挑戦してみようと思ってるの」

 

パチンッ、とウインク一つを残して私はルイズ達の居る教室を出る。後ろからルイズの悲痛な悲鳴や少女達の興味津々の声が聞こえてきたりもする気がしなくもないけれど、とりあえず問題ないでしょう。

 

「……いや、問題じゃね?」

「最悪でも死にはしないでしょ」

「まあ、確かに死にゃしないだろうけどよ……」

「貞操の危険もほぼ無いわよ」

「そこは俺もあんまり疑ってないから」

「あらあら、そうなのね」

 

喋る魔剣といつも通りに話をしながら、私は魔法学院の廊下を歩く。とりあえず今日はさっき言った通りに洗濯に挑戦してみましょう。なんだか新しい出会いがありそうな予感がするし(【直感:B】発動中)。

 

 

 

 

 

side ???

 

手を伸ばし、嵩を増やし、我は探す。

盗まれた、永き時を我と共にあったそれを、ただ探す。

 

少しずつ、少しずつ我は感覚を広げ、我に連なるもの全てに感覚を通す。

 

広く、広く、あれがどこにあるかを知り、再び我が元へと取り戻すために。

 

雨の降る地を探し、川岸から近い場所を探し、探せる場所は全て探しても見付からない。

 

なれば、探せる場所をさらに広げよう。

 

我は更に手を伸ばす。直接届かぬ場所にも意識の手を伸ばし、我にできる全ての方法で探し続ける。

 

我が嵩を増やし続ける水は、やがてこの地を被い尽くす。そうなれば、いつか我が元にあれが戻ってくるのは道理と言うもの。

 

我はただ、そのためだけに手を伸ばす。手を伸ばして意識を伸ばして全ての水に我の意識を伸ばし…………とある場所で、我らが同胞を見つけ出した。

 

我も彼の者も同じ世界の一部。単なる者から昇華した彼の者は『英霊』。我は世界の一部である『精霊』。ほぼ同一と言ってよい。

 

その上彼の者は変わり者の精霊使い。精霊に強制することはなく、契約を結んでも契約外での行為をよしとする奇人の類い。

 

おそらく彼の者ならば、我が願いを聞き入れることを是とするだろう。これも世界のため、そして我のため。

 

私は意識を伸ばした先に居る、この世界の近場で生まれた虚ろの英雄の近くに分霊を作り上げる。

 

分霊と言えど我は我。意識も繋がるし分霊を通せばその場を見ることもできるようになる。

 

我はその力を使い、虚ろの英雄に語りかける。

 

「虚ろの英雄よ。どうか私の願いを聞いてほしい」

「内容次第ね」

 

虚ろの英雄は我に視線を向けることなく、我がいつからそこにいていつ話しかけてくるかもわかっていたかのような反応を返す。

 

確かに、内容がわからなければ受けるどころか断ることすらできない。私はそう納得して、洗濯を続けている虚ろの英雄へと話を続ける。

 

「数えきれぬほど永き時を我と共にあった秘宝が盗まれた。取り返す手伝いと、私を襲撃する者の対処を頼みたい」

 

我の言葉を聞きながらも洗濯の手を止めない虚ろの英雄は、興味無さげに私に振り向き、さらりと軽く返した。

 

「いいわよ。後で直接貴方のところまで行くから、詳しい話はその時に全部纏めて聞かせてもらうわ」

「感謝する、虚ろの英雄よ」

 

我はそう言い残し、虚ろの英雄を待つためにその場より帰還する。

 

我がラグドリアンの湖へ。

 

 

 

 

 

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side 織斑ルイズ

 

トリステイン魔法学院の中庭には、かなり大きめの噴水がある。この学院で働く使用人達はこの噴水から水を取って雑巾がけをしたり洗濯をしたりする。

そう言うわけで学院生活初洗濯の私もこうして噴水から水を汲んで洗濯をしている訳なんだけれど……その途中で私の使っているたらいの水面が突如として盛り上がり、歪な人型を取って私の前に結構強力な精霊が姿を表した。

 

何のために現れたのかわからなくて質問してみたところ、私に依頼があってここに来たらしい。なんでも『普段通りにのんびり暮らしていたら、突然見知らぬ奴等がラグドリアン湖に押し入ってきて中を滅茶苦茶に荒らしたあげく、水の精霊にとってかけがえのない大切なものを力尽くで奪い取っていき、悠々と去っていった』らしい。

細かくは聞いていないが、そのせいで暫く前からラグドリアンの水嵩を増やして探し物をしているときに私が洗濯で割と大きく水に触れたお陰で私を感知し、そして依頼に動いたんだとか。

 

まあ、それについては実のところどうでもいい。重要なのは、水の精霊がいったい何を盗まれたのかだ。

大切なものであり、水の精霊と同等かそれ以上に古くから存在しているだろうそれを盗んだ奴が、何を目的として盗んだのか。何を求めているのかは知らないけど……とりあえずラグドリアン湖に言って直接話を聞いてこようと思ってそれを伝えると、水の精霊はたらいの中の分霊を消して戻っていった。

 

……残されたのは精霊の涙となったたらいの水と、洗濯物と私だけ。すぐに洗濯を終わらせようとそのまま洗濯を続けるけれど、精霊の涙はかなり汚れ落としとして優秀だったので予想以上に早く終わった。

しかも、まだまだ使えそうだ。汚れが常に浄化されてたりするのかしらね?

 

そんなわけで水精霊の涙をたらい一杯分手に入れた私は、洗い終えた洗濯物と水精霊の涙が大量に入ったままのたらいをシエスタに押し付け、それからルイズにちょっと出掛けてくる旨を伝えてからシルバーローブをグライダー型にして学院の塔の頂上から飛ぶ。

こうやって風を掴む翼があると、ただ“フライ”で飛ぶより楽なのよね。今回はある程度時間がかかってもいい移動だし、焦らず行きましょう。

 

ちなみに、シエスタに渡した水精霊の涙は最終的にモンモランシーの目に止まって買い上げられたらしい。それをモンモランシーが何に使ったのかは、またいつかの話と言うことで。

 

私は風を切りながら、これからどうすれば面白くなりそうかを考える。たしか、水の精霊の所にあるアンドバリの指輪は水の力の結晶体らしいので、上手く使えば洗脳から蘇生までなんでもござれの面白道具になりそうで楽しみ。“複製”はちゃんと中身の力までコピーしてくれるから便利だよね。

水の力は命の力。種類で言えば攻撃防御のような純粋な戦闘用の魔法よりも、後衛で味方を回復したり相手を操ったりする邪神官のポジションだよね。イザベラが聞いたら怒るだろうけど。

 

ついでに炎はほぼ完全に攻撃特化の前衛で、職で言うなら魔術師。風は攻撃防御支援妨害と様々な事ができる中衛でシーフ。土は生産職及び人形遣いって感じかな。

虚無魔法使いは……バグキャラかな。自分のことだけど正直そう思わなくもないし。

 

「自覚があるならもう少し自重してくれよ相棒」

「昔大人しくしすぎて窮屈な目にあってたから、あんまり自重しないことにしてるのよ」

「相棒が大人しかった……? なんの冗談だそりゃ?」

 

私は失礼なことを言うデルフリンガーの鍔元にある金具を右手で掴み、そのまま握り締める。身体能力を魔力で強化し、その身体能力を十全に使い尽くしてやる。

金属部分がギシギシと言う鈍い音を奏でるが、こっそりデルフリンガー自体も魔力で強化しているし、デルフリンガー自身もその事はしっかり理解しているから大したこともないのに悲鳴のような声を上げてくれる。

私みたいな人格破綻者に付き合ってくれるなんて、本当にありがたいことだわ。

元々は大して期待もしていなかったけれど、ここまで来たらデルフリンガーの言う通り『相棒』でいいような気がしてきたわ。役にもたつし、話し相手にもいいし、ガンダールヴ発動用にしてもいい。

よく言うあれね。便利な奴って言うの。

 

「なーんか意味が違くねえか?」

「違うけど良いのよ。私はその方が楽しいし」

「……そうかい」

 

なんだか色々なものを諦めたような口調のデルフリンガー。今ふと思ったんだけど、デルフリンガーには消せない魔法とかあるのかしら? 私の魔法も吸い込んだし、中々無さそうな気がするんだけど……。

 

「“ブレイド”とかは吸えねえぜ。正確には吸えるけど杖を中心に後から後から供給されるから吸っても消せねえってのが正しいけどよ」

「つまり相手の精神力を削って折れる寸前まで追い詰めるのにはちょうどいいってことね」

「間違ってねえけど物騒だなオイ。流石相棒」

「前向きに誉められてると取るわ。お礼に今度磨いてあげる」

「やっほう!」

 

デルフリンガーと軽口を叩き合いながら結構な速度で飛び続けた私は、あっという間にラグドリアンの岸に到着する。私が覚えている景色とは随分と変わっているように見えるけれど、きっと本当に変わっているんだろう。

何しろ道や家が水没してるし、その事で色々困ってる人も要るみたいだしね。

 

私はそんな人達を全員スルーしてラグドリアンに歩き出す。誰も居ない場所を探して水の精霊を呼び出して、それからあそこで叩き切った話の続きをしないと。詳しい話がわからないまま動くと色々不味いことになるし。

一方的な視点からの情報は間違い……と言うか偏見が入り交じっていてもそれが偏見だったり間違いだったりと言うことがわからない。今回の事も水の精霊から聞いただけでは精霊視点による偏見や精霊独特の意識などが混ざっていても気付けない可能性が高いし、慎重に慎重に……時に大胆に。

 

「大胆になんのかよ」

「それが必要だったらいくらでも」

 

例えばイチカに結婚を申し込もうとした時とか、チフユ義姉様のいるイチカの布団に潜り込む時とか、イチカとのデートでチョコミントクックベリーパイを二人で分けて食べさせあった時とか。

 

……ちなみに、チフユ義姉様には文字通り死ぬほどお仕置きされた。どうやら無断で割り込んで入ろうとしたのがだめだったらしい。

その後、順番のローテに組み込んでもらってからは、私の順番が来るのが楽しみでしょうがなかったわね。うん。

 

 

 

 

 

 

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side 織斑ルイズ

 

ラグドリアンの湖の水面に立つ。足に魔力を集めて水に対して反発力を上げてやれば誰だってこのくらいの事はできる……んだけど、誰もやろうとしないのはなんでかしらね?

ビダーシャルは水の精霊に頼んで水面を歩くことはできるけれど、魔力のみで水面を歩こうとはしない。

まあ、私の知り合いでは魔力の代わりに『気』を使ったり特殊な力無しで気合いや愛でどうにかしちゃう人達が沢山居るから、魔力を使わない水面歩行どころか壁面歩行、瞬動から派生した縮地等々無茶苦茶やる人が多いんだけど。

 

……つまり、私はパイレンじゃないけどこのくらいは全然普通ってことね。

 

「……魔力使って水面歩行……普通……なの…………か?」

「普通よ」

 

デルフリンガーがまたぶつぶつと呟きながら悩んでいそうだったので、私はその悩みを断ち切るべくデルフリンガーに向けて言う。

それでも暫くデルフリンガーは悩んでいたようだったけど、どうやら悩み事の渦からは抜け出す事ができたようだ。

 

それでもどこか納得行かないという雰囲気を持ったままのデルフリンガーと一緒にラグドリアン湖の中央近くにやってくる。周囲には小舟などは無く、誰かに見られると言うことは無さそうだ。

流石に使い魔の目を通されたらわからないけれど、こんな所を毎日朝晩関係なしに見張っているような酔狂な輩はいないだろうし。

 

そう言うわけで、私は水面に立ったまましゃがんで掌を水面に着ける。シルバーローブの手袋がなければひんやりとした触感があったのだろうけど、剣も弾も爆発も衝撃も熱も炎も冷気も防ぐシルバーローブの前では流石の水も入ってくることはできなかったらしい。

そのまま水を通して精霊を呼ぶ。どうせだったらホウキ様のように神楽舞で呼んでもよかったけれど、面倒だったし却下する。

それに私の神楽舞ってちょっと不格好だしね。トランス状態にも入れないし、世界に繋がることも神を身体に降ろすこともできない。

 

……と、そんなことを考えている間に私のすぐ近くの水面が盛り上がり、水の精霊が姿を表した。

その姿はシルバーローブを基本のローブ状態にした私とほぼ同一だったけれど、やっぱり元が水だけに性能の方は期待できないと言うか、水がそういう形になっているだけで能力や能力値は水の精霊そのものと一切変わることはないらしい。

 

「来たか、虚ろの英雄よ」

「来たわよ、水の精霊」

「では、此度の我が依頼についての説明をしようと思う。構わぬな?」

「そのために来たのよ。どうぞ」

 

先を促す私に、私の姿をした水の精霊は説明を始める。

曰く、昔から一緒にあった大切な指輪が盗まれたから探している。それを探して欲しいというのが一つ。

そしてもう一つは、探し物を始めてから暫くして、メイジが自分を退治しに来るようになったからそれを追い返してもう来ないようにすること。

 

水の精霊の依頼は、大雑把に分けるとこの二つだった。

この二つのうち片方を達成したならば契約を。両方を達成したならば占約を交わす。それが水の精霊の持ち出した依頼に対する報酬らしい。

 

……普通の精霊と契約するにはちょっと時間があればできるんだけど、流石に自意識があそこまで固まってる相手だとなかなか難しいのよね。

自意識があったら相手の意思も含めないとちゃんとした契約は結べないし、相手をある程度尊重してやらないと結べないどころか精霊って言うのはかなり偏屈なのが多いから嫌われて全部の精霊との契約を切られたりもするし。

水の精霊は精霊種の中ではかなりの力を持っているし、自分よりも下位の精霊の同族の契約も上から切れるしね。

 

……しかも、水の精霊は同族に限定すればエルフや水韻竜よりもずっと影響力が強い。契約できればそれが私の味方になる。

 

………………けど、正直に言って必要かどうかで言えば必要ないのよね。あれば便利だけど。

 

そう言うわけで、この依頼を一応受けることにした。私としては特に苦労することでもないだろうし、そこまで急ぐようなことでもないらしいから時間制限も有って無いようなものだしね。

急ぐべきなのは水の精霊への襲撃者に対する攻撃。こればかりは早くやらないと契約相手がいなくなっちゃうもの。

誰が相手かわからないけど、全く面倒な事をしてくれるわよね。指輪を盗むのもそうだし、水の精霊を襲うのも。

 

「……ところで、ここに来るまでに随分家とかが沈んでいるのを見てきたんだけど……何かした?」

「うむ。アンドバリの指輪を探そうと水嵩を上げていた。この世界全てを水で被い尽くせば見付かるだろうと思ってな」

 

……ああうん、確かに見つかるとは思うけど、流石に悠長すぎる。アルビオンまで被い尽くすのにはいったいどれだけの時間がかかることやら……。

それに、地形等によって中々水が入らない所もあるだろうし、水の入らない箱に放り込んで密閉して“固定化”と“硬化”で守ってその回りに結界を張ってやればどれだけ水を増やしてもわからないし。

それに、アンドバリの指輪は聞いた限りでは強力な水の力を持った秘宝。だったらある程度離れていても大雑把な方向くらいはわかるんじゃないかと思うんだけど。

ついでに、アンドバリの指輪は水の力の結晶だって言う話だし、水の精霊がちょっと干渉して一度分解して手元で再構築すればすぐにでも戻ってきそうなものだけど。

……ああ、分解したのを散らさずに自分の手元に戻すために自分のいる水と直接繋げる必要があるわけね。だから水嵩をあげていると。

 

……本当に迷惑ね。襲撃者が水の精霊を攻撃してくる理由ってそれなんじゃないかしら。

だとしたら、まずは始めに少し話し合いで場を納める努力をしてみましょうか。流石にこの状況で問答無用で虐殺しようとするほど頭が固い訳じゃないし、いくらなんでも可哀想だし。

まあ、とりあえず水嵩を増やすのは辞めてもらうとして……そのことを聞いて襲ってこないなら素直にお引き取り願いましょうか。

とは言え向こうから攻撃してきたら普通に反撃するけどね。何しろ相手は水の精霊にダメージを与えられるくらいには強いメイジだろうし、手加減なんてしたら私の方が殺されちゃう可能性だってある。

私は英霊だけどまだ死にたくない。私を殺していいのはイチカだけなんだから、他の人に殺されたくない。

 

……チフユ義姉様? それについては諦めてるわ。イチカ以外でも同類なら……まあ、我慢できるし。

 

じゃあ頑張りましょう。暇潰しにはちょうどいいわ。

 

 

 

 

 

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side 織斑ルイズ

 

ラグドリアン湖の岸辺にて、私は襲撃者を待つ。来た時には水の精霊が教えてくれるそうなんだけど、中々来ない。

まあ、のんびり待っていようと考え、のんびりのんびり待ち続けていたら…………朝になっていた。

 

「……で、遺言は?」

「待て、我にも事情がある。せめて話を聞いてからにしてくれ」

 

魔力をたぎらせながら杖をとると、水の精霊は慌てたように必死になって手を振って私を止めようとする。まあ、私の魔法で分解されたら精霊と言えど元に戻るのは難しいものね。

しかも私の魔法の効果範囲は湖全体および連なる河川と地下水脈全てに設定してある。同時に分解したらかなりの量の水素と酸素ができて大変なことになるだろうけど、知ったことじゃないわ。

 

「どうやら前に来たのは単なる者の言葉で言う所の『斥候』と言う類いの者だろう。実行するには実力が足りないことを理解してから傭兵を雇って何度か来たが、その度に壊してやったのだ。恐らくまた来るだろうが、いつになるかはわからん」

 

……こんなに饒舌にかつ端的に喋る水の精霊は初めて見たかもしれないわね。いつも回りくどく話す水の精霊なんだけど、今はそれだけ必死ってことかしら。

 

「そう言うわけで、我が嘘を言ったわけではない。確かに昨日も斥候らしき者が来て湖を調べていった」

「……そう。じゃあそれでいいわ」

 

私は座りっぱなしで固まった体を伸ばし、杖を袖口からアンダーグラウンドサーチライトにしまう。

でも、多分水の精霊が言ったそれって水が増え続けているから調査しに来たって言うのが正解よね? だったら……。

 

「……じゃあ、アンドバリの指輪は私が探し出してラグドリアンに放り込むから、水を元の位置まで引いていってくれないかしら?」

「うむ、わかった。理由はわからんが、虚ろの英雄が言うのならばその方がいいのだろうな」

「理解が早くて助かるわ」

 

そう言うわけで、私は一度魔法学院まで戻ることにした。アンダーグラウンドサーチライトの中に水の精霊の分体が入った小瓶を入れて、いつでも連絡が取れるようにしながら。

ちなみに連絡方法は、水の精霊の分体の一部を適当な水源等に放り込むだけ。世界中の水源はほとんど海を通して繋がっているので、分体と本体が同時に孤立していない水に居れば繋がることができるらしい。

 

……繋がりのある水からそれなりに近くに居れば、独立した水にもちょっとした分体を作ることができるらしいけどね。具体的な距離で言うと、アルビオンは無理だが火竜山脈のてっぺんで飲んでる紅茶を分体を出すくらいなら問題ないらしい。

流石はハルケギニア最強の水の精霊。水についてはお手の物と言うわけね。

 

それで私は大抵トリステインに居るので伝言用に水の精霊の分体を押し付けられたわけだ。

ちなみにアンダーグラウンドサーチライトの中の分体はデルフリンガーの近くに置いてある。こうしておけばなにかあった時にはデルフリンガーを介して水の精霊が呼んでいたりすることを知ることができる。

流石にいつでもこの瓶を外に出したまま行動する訳にもいかないし、これはこれでちょうどよかったんだろうと思うことにした。

 

……なお、前に分体を作ったたらいの水はどうしたと聞かれたので『服やシーツの汚れを浄化してくれて便利だった』と答えたら水面に手(?)と膝(?)をついてorzになっていた。

何でも自分の欠片がそんな風に使われたことなんて初めてでどうしていいかわからなかったらしい。

だけど、『新しい可能性が開けたんだから喜ぶべきことだよ!』と言っておいたら普通に復活した。

……この水の精霊……チョロい。見ていて悲しくなるくらいにチョロい。

 

だけど空気の読める私は何も言わずに復活したばかりの水の精霊に別れを告げて、誰かが手を出してきたら呼ぶように言っておくだけに止めておいた。

 

「……いや、まあ、今回は間違ったことはしてねえけど……空気が読めるって……」

「いつもはしっかり読んであえてぶち壊してるわ」

「…………まあ、それでも自覚が無いままぶっ壊してるよりはマシか。止めようとすれば止められるってことだもんな。そう言うことにしとく」

「賢明ね」

 

私の事を理解し始めたデルフリンガーの柄を軽く撫で、私はトリステイン魔法学院に向けて一直線に空を飛ぶ。魔力さえ十分なら不眠不休で動いても全く問題無い英霊の体とは言え、やっぱり徹夜はあんまりしたくない。精神の健康が損なわれるわ。

そんなわけで、魔法学院に到着したら軽く仮眠を取ることにする。眠い時にはしっかり寝ないと、健康に悪いもの。

私とイチカの健康的で退廃的な生活には睡眠と言う行為が必要不可欠。絶対に欠かしちゃいけない行為なのよ。

 

「それにしちゃ昨日は徹夜したよな?」

「私にとって一日は私が起きてもう一度眠るまでが一日よ」

「一日の変動が激しくなりそうなカウントの仕方だなそりゃあ」

「それについては諦めてもらうしか無いわね。少なくとも、私にとっての一日とはそうなんだもの」

 

朝起きてイチカにおはようをして、それからご飯を食べて仕事して遊んで昼寝をして起きたらまた仕事をしたりご飯を食べたりイザベラとビダーシャルをからかったりして、それから夜になったら眠る。これが私にとっての一日だ。

この世界に呼び出されてからはイチカがいないから多少変わりはしたけれど、それでも睡眠に始まり睡眠に終わる一日の感覚だけは変わっていない。何十年もかけて培った感覚だし、それについては仕方無いわよね。

 

……それにしても、突然休んじゃって学院の方は大丈夫かしら。一応休むことは伝えておいたけれど、当日になっての事だし少し心配になる。

少なくとも自分に任された分の洗濯だけは終わったし、後の事はシエスタに任せてきたけれど……大丈夫かしら。

 

私は空を飛びながらつらつらと考える。“フライ”を使っている状態でこんな風に考え事なんてしていたら墜落する可能性が高いけれど、グライダーを使っていればよっぽどの事がなければ大丈夫。

具体的には、考え事に沈み込んだまま母様の“カッター・トルネード”でも食らったりしない限りは。

ちなみに“ライトニング・クラウド”等の電撃系統は圧縮空気が絶縁体の代わりをしてくれるので初めから効果が無かったりする。

“カッター・トルネード”でもグライダーは壊れはしないだろうけど、確実に風に巻かれて大変なことになりそうで嫌だ。車酔いはしない方だけど、流石に酔わない自信は無い。

 

……と、もうすぐ着くわね。着地の準備をしないと。

 

 

 

 

 

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side 織斑ルイズ

 

魔法学院に戻ってすぐに、ルイズとシエスタに体の事を心配された。別に問題なかったので正直に答えると、何故か少し疑われた。ちょっとだけショック。

このショックを癒すために明日の訓練の密度を1.5倍に引き上げることにすると言ったら、ルイズもシエスタも泣いて喜んでくれた。

……実は毎日の練習量から計算して毎日少しずつ密度をあげている事を知ったらあの二人はいったいどんな反応をするのか少しばかり気になるところではあるけれど、とりあえず今回は辞めておくことにする。

私は他人の泣き顔を見て興奮するような変態的な嗜好は持っていないので、必要もないのに泣かせたいとは思わない。

 

……確かに泣き顔が可愛い人も居るんだけど、それでもわざわざ泣かせてやろうとは思わない。大抵の場合は笑顔の方が素敵だし、例に漏れずその人もそうだしね。

 

「……し……死んじゃう……これ以上きつくなったらホントに死んじゃう……」

「大丈夫。死ぬ死ぬって言ってても死なないように気を付けてるから、かなりきつくはあるだろうけど死にはしないわ」

「私、メイドのお仕事が……」

「それについても大丈夫。ちゃんと必要な体力は残しておいてあげるわ」

 

にっこり笑顔でそう言ったら、ルイズとシエスタはなんだか悲しげな笑顔で抱き合った。ルイズが視線で『お互い、明日まで生きていられるように頑張りましょう』と言えば、シエスタは儚げな笑顔で頷き返す。仲がいいわね。私とジョゼフみたいな関係かしら。

同じ苦労を分かち合った友人関係だけど、けして恋には発展しない、そんな関係。

 

……そう言えば、私って同性の友達が少ないのよね。シェフィールドとイザベラくらいじゃないかしら。

数は少なくとも親友と言えるだけの相手がいることを誇るべきか、それとも友達付き合いの輪が狭いことを嘆くべきか……微妙な線ね。

 

……さて、それじゃあ私も仕事に戻りましょうか。最近アルビオンがきな臭い動きをしているけれど、私には関係の無い話だしね。

 

 

 

 

 

side シエスタ

 

正直に言って、レア様の鍛練は辛い。見ているだけなら簡単なのだけれど、実際にやってみると非常に疲れる。

まず、身体を動かそうとする時に体幹を揺らさないようにすることを矯正させられる。失敗すると体が揺れて嫌でも転んでしまうので、これは勝手に身に付く。

それから全身に力を入れるわけだから、全身が満遍なく疲れることになる。他の運動と違って、どこか一ヶ所だけ疲れると言うことがまず無い。

そんな運動をするにはしっかりと自分の体の事を知っていないとできない。自分の体の動かし方を嫌って言うほどに知ることになる。

ちなみに、身体を動かす順番を間違えると関節がぎしりと軋んで痛みを訴えるので、上手に動かすために嫌でも覚えることになる。

 

……きっと、私一人だけだったら途中で嫌になっていただろう。自分からレア様に頼んだのに、レア様から、この学院から逃げ出していたと思う。

そんな弱い私を押し止めていてくれたのは、この学院の生徒であるルイズ様。レア様の妹君であるルイズ様も、私と同じだけの鍛練を受けていた。

私よりも小さな身体を必死に動かして、私と同じくらいの早さで成長していくルイズ様。ルイズ様に抜かれないように私は必死に努力して、ルイズ様も私に負けないように努力を続ける。

それはきっとレア様の計画通りなんだろうけど、それでも私はルイズ様に救われているし、ルイズ様も私に気安く話せと言うようにもなった。

 

……ちなみに、ルイズ様が学院を卒業する際には私を雇いたいと言う話を持ってきて頂き、学院長先生も私の意思に任せると言ってくださったので話を受けようと思っている。これで将来職に困ることは無いだろうと思うと、実家に仕送りをしている身としては少し気が楽になってくる。

もちろんそれまで学院のメイドは続けるし、途中でルイズ様の気が変わればこの話はなかったことになる程度の口約束でしかないけれど……まあ、恐らくそれは無いと思う。

 

そんな風に朝の訓練を乗りきった私は、いつもの通りに働き始める。最近はなんだか一度に運べるお皿の量が随分増えてきたし、仕事をしても疲れなくなってきたし、同僚に『なんか綺麗になった』と言われることも増えた。

多分前の二つはレア様の鍛練のお陰で体力と力が付いたんだろうと思うけど、綺麗になったと言われる理由はわからない。

私が綺麗になったといった同僚に詳しく聞いてみると、背筋がいつでもしゃんとしていてなんだか背が高く見えるようになったことと、それに合わせて胸が少し大きく、腰が少し括れてきて今まで以上に均整が取れた身体になっているのをお風呂の時に確認したんだとか。

 

……レア様の訓練には、どうやら豊胸効果とダイエット効果までついているらしい。レア様だから仕方がないとはいえ、いくらなんでも凄すぎる。

 

……しかし、私の身体の変化に気付いた同僚達(気が付いたら沢山聞き耳を立てていた)がその事を放置しておくわけもなく、私から聞き出そうとしてきたので素直に答えたら、全員が目をキラキラさせながらこれから毎朝早起きすることを誓った。

要するに……レア様に鍛練をつけてもらうことにしたと言うことなんだけど…………死んでも骨は拾ってあげる余裕がないと思うから諦めてもらうことに(勝手に)した。

 

……こうなったらこの学院の同僚達のためにも、レア様が心を鬼にして断ってくれることを期待するしかない。魔法学院のメイドが一斉に休んだら、流石に私とレア様だけでは手が回らない。一番食いついて来たメイド長は多分頑張りすぎて戦力にならなくなるだろうし、私の回りで鼻息荒く着替え→軽く髪を整える→備え付けの布団に潜り込んで寝るという流れをこなしている同僚も同じだろう。

 

「あー……」

「大丈夫だよシエスタ!」

「私達も頑張って綺麗なメリハリボディを手に入れるから!」

「シエスタばかりに任せてらんないよ!」

「ここは私達に任せておけば大丈夫!後で必ず追い付くから!」

「大丈夫、問題無いって!」

 

……異口同音に言葉が発せられるけれど、何故か大丈夫な気がしない台詞がいくつも混じっていた。

とりあえず、これだけ大丈夫だと言っているんだから脱落したら笑ってあげようと適当に名前を書いておく事にする。

 

……って、ほぼ全員ね。道連れがたくさん出来ちゃったわ。

 

 

 

 

 

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side 織斑ルイズ

 

朝起きていつもの中庭に行ってみたら、弟子になりたいと言うメイドがわらわらわらわらと、まるで落としたクッキーに群がる蟻のように集まっていた。

何でこんなことになっているのかはわからないけれど、とりあえずひたすら鬱陶しい。

そこで、なんだか元凶臭いシエスタに軽く『オハナシ』してみたら簡単にゲロってくれた。

 

……いや、『オハナシ』って言っても大したことはしてないのよ? ただちょっとにっこり笑顔のまま詰め寄って顎先とか耳朶とかを指先でかすらせるように撫でつつ耳元で『何があったのか教えて欲しいなぁ……?』って囁いただけだから。

ただ、何故かはわからないけれどシエスタは頬を朱に染めて目をとろんとさせたまま私の質問に素直に答えてくれて手間がかからなくてよかったのよね。何があったのかは知らないけれど。

 

「……相棒……いつか刺されても知らねえぞ?」

「刺されそうになったら刺される前に首を撥ね飛ばすから大丈夫よ」

「大丈夫じゃねえだろそりゃ……」

「だけど、昔は同じことがあったら飛ばしてたわよ? 首」

「飛ばしてたのかよ。怖えなおい」

 

怖いと言われてもこれが私って言う存在だし、長く生きていると自分が積み上げてきたそれぞれの常識って言うものによって固まった自分は早々変えることはできないんだけど……。

それに、私は私が私であることを変えようとは思わない。だからこういう風に情報を集めたりすることも辞めるつもりはない。

まあ、仕方無いと思って諦めて頂戴。

 

「……ま、相棒だったら大丈夫だろ。実力については欠片も心配してねえし」

「ありがと。デルフリンガー」

 

……でも、その言い方だと別のところになにか問題があるって言っているように聞こえるんだけど?

 

……まあ、いいわ。私の性格面に問題があることはとっくに理解していたから。理性的に狂気を振るうことができるニンゲンなんて、ただのバケモノと変わらないもの。むしろバケモノよりも質が悪いかもね。

 

さて、それじゃあ私はいつものように自分の鍛練を始めましょうか。これでも私はそれなりに真面目だし、一度こういう鍛練をすると決めたらできる限り欠かさず続けてきたもの。

一日休むとマイナス1、二日続けて休むとマイナス3。そこで慌てて練習してもプラスは1で、合計するとマイナス2でむしろ減ってしまう。

つまり、練習を欠かしたら私はどんどん弱くなる。チフユ義姉様達のように、なにもしないでもイチカにくっついているだけで強くは…………なれるけど、実際の戦闘勘は鈍くなっちゃう。

私はしっかりイメージを固めて行動する派なので、戦闘勘が鈍ったり自分の予想と実際の自分の身体能力(魔法的な方は大きい分には問題無し)の誤差が大きいと強さがガクッと下がってしまう。

最近は体術をよく使っているからそうして困ることはまず無いだろうけど、ちゃんと自分の身体の事はしっかり理解しておかないとね。

 

「そう言うわけで、私は貴女達に何かを教える気はありません。知りたければ自分で勝手に見て覚えなさい。気が向いたら何か言ってあげることもあるかもしれません」

「はい!メイド長!」

 

私はメイド長ではないので返事などは無視し、それから自分の鍛練を始める。一番初めはゆっくりゆっくり、それから少しずつ速度を上げていって、さらに意識の速度を上げる。

身体を動かす速度は変わらないままに動きがゆっくりに見えるようになり、その状態に入ったら身体の速度をじりじりと上げていく。

少しずつ身体の速度を引き上げながら、意識の速度も上げていく。

それでも若干ながら意識の加速の方が私に合っているので、私の視界の中では私の動きは少しずつ遅くなっていく。あくまで身体が遅くなっているんじゃなく、意識が速くなって相対的に身体が遅く見えるだけであって……要するに、結構疲れる。

ついてこれているメイドは誰一人として居らず、メイドでないルイズも頑張ってはいるようだけれど追い付けないようだ。

まあ、流石に初めからついてこさせようとは思っていないけど……いつか思考加速と身体加速を並列して行うくらいの事は簡単にできるようになってもらわないとね。

 

ひゅんひゅんと私の指先が風を切り、それが少しずつかん高い音に変わっていく。ちなみに目標は、どこかの大魔王様のように超高速の手掌で魔法を弾き返せるようになること。

魔力で身体を強化して加速、さらに手を魔力で被って傷付かないようにして、それから魔法の核の部分を見分けて高速かつ的確に手掌を打ち込めるように。中々難しいけれど、難しいからこそ遣り甲斐がある。

 

……それに、これができるようになったら色々と応用が効くしね。

相手の魔法をそのまま弾き返すんじゃなく、一度掴んでから投げ返すと言う二工程を経ることによって緩急自在に相手の魔法を反射することができるようになれば、ひとまず完成となる。

さらに魔法を掴んでいる最中に別の魔法を掴んで二つの魔法を合成させられるようになりたい。

 

……この世界に私が存在した証を残して逝きましょう。シエスタとルイズに残せば、きっと後世に伝わっていくでしょう。

……魔法学院流活殺メイド拳法って名前にしておけばそれを習いたがるメイドも増えるでしょう。学院長には『学院最後の守りとしてメイドに学ばせておきました』とでも言っておけばいい。それだけで考え無しに動く貴族の馬鹿共の行動が少し大人しくなるだろうし、もしも理不尽に殺されそうになったりした時にはちゃんと反撃することだってできるようになる。

 

……まあ、基本はダイエットとか健康体操みたいなものなんだけど、私が居るうちはここのメイドには杖や銃を向けられたら『反射で戦ってしまっている』状態くらいには持っていきたいわね。私としてはその方が面白いし。

そのうちトリステイン魔法学院の勤務経験があるメイドが優遇されるようになったりする可能性が無くもないけど、そうなったらそうなったでまた面白い。

できることなら本当にそうしてしまいたいけれど……私がずっと魔法学院に居る訳にもいかないし、その辺りは諦めるしかない。

 

……まあ、とりあえず今は私の事に集中しつつ、後ろで必死に私の動きを真似ようとしている新入り達を軽くしごいてあげるとしますか。

中にはメイド長も居るけれど、学びに来る相手だったら私はほとんどの場合区別も差別もしないようにしてるしね。

 

……区別や差別はしなくても、拒否や贔屓はするんだけど。

例えばイチカが相手だったらそれはもうあからさまなくらいに贔屓するだろうしね。

 

 

 

 

 

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side 織斑ルイズ

 

新兵(メイド)達に訓練訓練、身体が引き締まってきた人が増えている。それを知った新兵(メイド)達は感涙し、さらに訓練に熱を入れる。そして熱を入れれば入れるだけ成果が出る。

……うん、いい傾向ね。素直な子が多くて助かってるわ。

 

ただ、こんなことを始めてまだ一週間も過ぎていないのに効果が出てくるのは凄いと思うし、少しずつ密度を吊り上げてきているのに誰一人として脱落するものがいないと言うことに敬意を抱いたりもするけれど…………私の二つ名に『教官』と『救世主』って言うのがついたことには素直に驚愕するしかない。

ちなみに何の『救世主』かと言うと、弛んだお腹と平原の救世主らしい。どこが平原とは言わないけれど。

 

……なお、最近ルイズの一部の成長がようやく始まっている。背の方は成長していないので……まあ、後は察してほしい。

それに気付いた男子達はルイズにお付き合いを望んだらしいけれど、その大半はルイズに斬って捨てられている。

一応、ギーシュは自分の器の大きさを自覚してからはあまり派手に動く事はなくなっている。これも一つの愛なのかしらね?

 

……単にモンモランシー達が怖いだけと言うことも考えられない事はないけれど、なんとか二人を上手くコントロールして満足させていることを考えると『そこまで馬鹿ではなくなった』って考える方が自然よね。

つまり、ギーシュは漸く自分の愛情を優先的に誰かに向けることを覚えたと、そう言うことね。

 

まあ、そんなめでたいけれど割とどうでもいい話は適当に放置しておくとして、今は何より大変なことがあったりする。

なんと、神聖アルビオン帝国がトリステインに喧嘩を売ってきた上にゲルマニアはそれを横から見ていながら放置プレイかます気満々だと言う話だ。

ちなみにこれは学院長室でそんな話をしていたのを偶然にも小耳に挟んだだけなので、私に高い諜報能力があると思われては困る。

そして神聖アルビオン帝国軍は、今まさにタルブと言う村のすぐ近くにある草原に兵を降ろしてきているらしい。

 

この話を聞いたルイズはかなり怒っていたようだけれど、それよりも注目すべきはシエスタの方だろう。

その顔色は蒼白となり、涙を流さんばかりに慌てている。いったい何があったのかは……まあ、わからないでもない。

 

恐らくだけれど、アルビオン軍が降下地点に選んだタルブと言う村はシエスタの生まれ故郷か何かなのだろう。少なくとも、相当の思い入れがある場所なんだろう。

そうでなければシエスタはここまで慌ててはいないだろうし、慌てたとしてもそれなりにすぐ冷静になるはず。付き合いは短いけれど、そのくらいはわかっているつもりだ。

 

「……それで、何の用かしら?」

 

……などとのんびりとした回想のような考え事の間、ずっと私の前で何かを言いづらそうにしながら立っていたシエスタに問いかける。シエスタは私の声に肩を跳ねさせるが、まだ口を開かない。

……何かを言ってくれないと、いくら私でも何もわからない。虚無魔法には相手の記憶を読む呪文がありはするけれど、倫理的にあまりよろしくない魔法なのでできれば使いたくないし、上手くやらないと記憶を全て抜き出して『体は大人、頭脳は赤子』を実際に体験させてしまう可能性が高いのでシエスタに使うのは躊躇われる。

 

けれどシエスタは私に話しかけられて意思を固めたのか、その場にゆっくりと座り込む。

 

それはかつて、私がヴェストリの広場でギーシュに強制した『土下座』の体勢。私の訓練についてきた結果として手に入れた姿勢の良さと身体操作をフルに使ったと思われるそれは、たった一度で私の目から見て完璧に近い体勢を取っていた。

 

両膝を地に着け、膝の前で三つ指をつき、そして深々と頭を下げながらシエスタは私に懇願した。

 

「お願いします、レア様。私の故郷を、救ってください」

 

たったそれだけ。それだけ言って、シエスタは頭を下げ続ける。

 

「私からもお願い。レア姉様。シエスタの村を救ってあげて」

「ルイズ様……」

「バカね。『様』なんていらないわよ。だって私たち、友達でしょ?」

 

……なんと言うか、端から見ると凄く危ない状況よね。剣を腰元に差したメイドが貴族とメイドを床に這いつくばらせて謝らせている状況にも見えるわけだし、そんな風に見られたら私は……もうそんな勘違いをした相手を這いつくばらせて爪切りで唇と耳と瞼を少しずつむしり取っていっちゃおうかしらね。

 

まあ、そんな感じの貴族とメイドの友情物語を眺めつつ、私はこれからの事を簡単に考える。シエスタのお願いを聞いてあげることで起きる私に対するメリットとデメリットを考え、できるだけ私の得になるようにしつつ楽しくするには……。

と、そこで始祖の祈祷書が目に入る。私の腰から下がっているやつではなく、つい最近になってルイズが姫様の結婚式で読み上げる詔を考えるために預かってきたそれは、ルイズが虚無の魔法使いになるためには必要不可欠のもの。

幸運なことに水のルビーは無くとも風のルビーはあるので、とりあえず上手に“複製”した模造品で頑張ってもらいましょうか。“複製”でも同じ効果があるのはジョゼフ達と一緒に暇潰しでやった実験で確認してるし、ルイズを虚無の魔法使いとして目覚めさせるには何の問題もない。

 

……ただ、虚無の魔法に目覚めたルイズが戦争の道具にされたりしないかと言うところがとても心配。

なにしろ虚無魔法は対軍殲滅から対個体殲滅、情報操作に広域幻惑に記憶操作と戦争に使うには便利すぎるものが多々含まれている。もしそれが国や軍にバレたりしたら……ルイズの“兵器化”はまず間違いなくなってしまう。

私がいつでも守ってあげられるわけでもないし、上手くやれば洗脳なんて三分あればお釣りが来る。

 

……仕方がないわね。自力でやるとしましょうか。

 

私は椅子から立ち上がり、シルバーローブの形を部分的に変える。

手袋を手甲に、ズボンと靴下と靴を脚甲に。邪魔なだけの始祖の祈祷書をアンダーグラウンドサーチライトにしまって杖を抜く。

 

「それじゃあ行くわよ。細かい場所は私にはわからないから、シエスタは案内についてきて」

「……はい!ありがとうございます!」

 

私の言葉を聞いたシエスタは、笑顔を浮かべながらそう言った。

 

……なお、ルイズもついてきたがったので一緒に行くことに。始祖の祈祷書と風のルビー(複製)を持っているから大体の事は問題ない範囲だと思うけれど、流石にどこもおかしくなっていないあのくらいの年頃の女の子に人殺しをさせるのは……ねぇ?

 

 

 

 

 

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side 織斑ルイズ

 

シエスタの記憶を読み取り、タルブの村に“テレポート”。すると直後に私の視界はのどかな風景に……なるわけもなく、アルビオンの竜騎士部隊に焼かれたらしい廃村に変わる。

……まったく、酷いことするわね。シエスタが泣いちゃってるじゃない。

 

私は小声で“ブレイド”を唱える。無色透明の刃が杖先から伸び、空を舞う竜騎士を切り裂いた。

ちょいちょいと指先を動かすだけで、長く長く伸びた“ブレイド”が次々に竜騎士を落としていく。血がついて“ブレイド”の存在が割れてしまわないように、一度切り捨てたらすかさず縮めてついた血を落としている。

シエスタは生まれ故郷らしい村の惨状にショックを受けているし、ルイズはそんなシエスタを慰めるのに忙しいようで私が何をしているのかを見ていない。この間に、私はさっさと竜騎士だけは全て落としてしまう。的の大きい船は簡単に落とせるけれど、竜はルイズ達には荷が重いもの。

 

「……いつまでそうしているつもり? 項垂れていても何も変わらないわ。変えたいならば前を見て、自分の力で進んでいきなさい」

「…………はい」

「シエスタ……大丈夫なの……?」

 

心配そうに問いかけるルイズに、シエスタは血の気の引いた顔のまま笑顔を浮かべて見せる。

けれどその両手はしっかりと握り締められていて、あまりに強く握り締められた両手は顔よりもなお青白い。

けれど私はシエスタに伝えるべき事は全て伝えた。ここから先はシエスタの意思に任せる。

私の言った通りに進むもよし、村をこんな風にしたアルビオンに復讐するも良し。シエスタの自由意思を尊重するわ。

 

ただ、村の人達は逃げてるみたいだけどね。広域の“探知”に黒髪の人達がそれなりの人数引っ掛かってるし、多分これがシエスタの家族よね。

 

……さてと。それじゃあ一つ頑張るとしましょうか。かつて一つの宇宙を丸々飲み込みながらも狙った物以外は傷つけない爆発を……まあ、あの船の風石を形作っている結界に当てれば相手は無力化されるかしらね。

ただ、結界を破っただけじゃあ風石の中の精霊の力が暴発して船どころかこの辺り一帯が消し飛んじゃうから……精霊の力にはゆっくりと散っていって貰わないとね。

幸運にも私は精霊との相性が抜群どころか非常識のレベルで良いらしいし、そうやってゆっくり散っていってもらうくらいの事は結構簡単にできる

 

……って言うわけで……実行、と。

 

 

 

 

 

side ルイズ・ラ・ヴァリエール

 

私とシエスタは、レア姉様に言われた通りに走っている。なんだか馬より速く走っている気がするけれど、今はそんなことはどうでもいい。そんなことよりシエスタの家族のことだ。

レア姉様の“探知”によってもたらされた情報で、シエスタの村のほぼ全員が居るだろうと思われる場所に向かって走り続けて早五分。自分もシエスタも殆ど疲れていないことに少し驚きながらも、私もシエスタも止まること無く森の中を走り続ける。

大きな樹は走りながら避け、時々ある岩なんかはさっと飛び越え、必要なら機の枝を蹴って進み続ける。

 

……こんなことができるのも、レア姉様の言うことを聞いて始祖の祈祷書を持ってきていたことと、レア姉様が私にくれた風のルビー(の模造品。他にも同じのがいくつもあったから多分本当に模造品)のお陰。それが無かったら私は虚無魔法なんて知らないままだったし、“加速”を私とシエスタに同時に掛けたまま移動するなんてことはできなかったはず。

どうしてレア姉様が私の系統を知ることができたのかはわからない。でももう気にならない。だって相手はレア姉様だもの。不思議いっぱい夢いっぱいな、理不尽の塊レア姉様だもの。何があってもおかしくないわ。

そうね……レア姉様ならエルフに友達がいても、ハールエルフや翼人や吸血鬼なんかが友達にいても全く驚かないわね。

……とは言うものの流石にエルフの友人なんて居ないとは思うし、実際に出てきたらそれはそれで本気でビックリしちゃうんだろうけど。

 

「……!見つけたわ、このまままっすぐ進んで200メイルくらいよ」

「ありがとうございます!」

 

さっきからレア姉様の真似をしてちょこちょこ“探知”で探っていたところ、結構近場に何人も人が集まっているのがわかった。この近くにあるのはタルブ村だけで、こんな森の中に沢山人が集まっているってことは皆纏まって逃げてきた可能性が一番高い……と思う。

確率論なんて正直よくわからないけれど、とりあえずこっちの方向に走らせたレア姉様は凄いと言うことで。

 

“加速”を切って村人達の前に躍り出る。突然現れた私達は当然警戒されたけど、シエスタがいることですぐにその警戒は解かれた。

シエスタが説明をしている最中、私は断続的に広域版の“探知”を使い続ける。私の半径250メイルの内側に居る人間の全てを“探知”する事くらいは私でもできる。

レア姉様のようにその相手が知っている相手なら誰だとまでわかるほどの精査力は無いけれど、それでも何人いてバラけているか固まっているか、どの方角に居るかと言うことくらいなら十分わかるし、ある程度集中すればそこでどんな話をしているかもわからなくはない。

 

そして今、私達が居るこの場所に向かって何人もの人がやって来ている。数人は途中ではぐれたらしい村人のような格好をしているけれど、大半は鎧を着たり剣を持ったりで完全武装。どう考えてもアルビオンの兵ね。

 

…………レア姉様に知られたら怒られちゃうかもしれないけれど……私はシエスタを守りたい。その為なら……人だって殺してみせる。

……できるだけレア姉様にばれないようにしないと。レア姉様は優しいから、きっと私が人を殺したって知ったらきっとショックを…………ショック、を………………。

……………………受ける……わよね?

 

ちょっと最近のレア姉様を思い出す。はっちゃけ始めたレア姉様は、まずギーシュに公衆の面前で土下座させて何度も駄目だしして、フーケを捕まえる時に物凄い案を出して、ウェールズ様を空賊と間違えたことにして脅迫し、その上逃亡を促す時にも脅迫し、たった一回で説得と言う名前の脅迫を終えてウェールズ様を見殺しに……。

 

…………本当に悲しむのかしら?

 

「……それより、今は敵と戦う方が先です!」

「……そうね!」

 

考えるとなんだか怖い想像しか出てこないので、今はとりあえず場の空気に流されることにした。死なないように頑張ろう。

 

 

 

 

 

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side 織斑ルイズ

 

ルイズとシエスタを(多分)村人が逃げていった方向に向かわせてから、私はできるだけ相手を殺さずに無力化する方法をちょっと考える。

運のいいことにトリステイン王国軍がもう近くまで来ているようなので、制空権を奪ってやるだけである程度相手の士気は下がるだろう。

 

……私の経験上、こう言うときは大袈裟に、やりすぎじゃないかってくらいやる方が後々の自分達のためになるのよね。

ほら、あれよ、一罰百戒って奴。一番始めにちゃんとしておけば、それ以降の抑止力になるって言うあれ。

ただ、やり過ぎなくらいやった方がいいけれど、本当にやり過ぎるとトリステインの腐れ貴族共は勝手に調子に乗るからある程度のところで止めないとそれはそれで面倒なことになるのよね。

私の世界でも色々と面倒事を押し付けてきたり擦り付けてきたりしてきたし、エルフや亜人に対する差別的な感情を消してやっても問題ばかり起こしてはその権力で握り潰してきたようなのが大半だったし……。

 

……まあ、いいや。何かあったら前の時みたいに魔法の使い方を忘れさせて森にでも放置しちゃえばいい。後は獣なり亜人なりが綺麗にその存在ごと飲み干してくれる。

それからハルケギニア全土の存在からいなくなった人間の事を忘れさせて、マザリーニ老に適当な人材を置いておいてもらえば、未来のことも大丈夫。

自分でやったことの後始末は自分でつけないとね。撒いた種は刈り取らないと。

 

……この言い方だと、私に影響されて若干はっちゃけ始めたカティを収穫しなくちゃいけなくなるのかしら?

本人は何が楽しいのかにこにこしながら収穫されそうだけど……って、何を考えてるのかしらね私は。

 

袖口から杖を抜く。使う魔法は“幻影(イリュージョン)”。脳に作用して幻覚を見せる“幻像(ヴィジョンズ)”とは別の幻覚系魔法。

実のところ私の魔力を使って『そういう風に見える立体映像』を出してるようなものだから、私が最近できるようになった“ライト”の立体映像とそんなに変わらなかったりする。だけど自動でやってくれる分“幻影”の方が消費魔力は多いんだよね。代わりに私が上手く作れないところまでしっかり作り込んでくれるから一概にどっちの方が上とも言えないけど。

ちなみに“幻影”の方は一度作ると形を変えられないけど、“ライト”で作った方は私の意思で形を変えたりできる。

つまり、肉の形をした囮を置いておいて、それに惹かれて寄ってきた所で閃光弾に変えて網膜を焼いて失明させることだってできるということ。試したことはあまり無いけど、上手くやればセシリアさんのやっていた『レーザービーム』の真似もできそう。

 

……うん、それはまた今度頑張ることにして、今はさっさとあの船を落とすことにしよう。

 

唱える魔法は“ブレイド”。これにちょっとの意思を乗せて、さらに風の精霊に力を借りる。これで準備はよし。

風の精霊の力を受けて緑色に染まった刃は、私の意思に従いある物を除いて影響を与えることはない。そのあるものとは……風石だ。

この刃で結界を破られた風石は、内包する力のほぼ全てをこの刃へと注入する。結果として風石は蓄えていた風の力を失い、その力は私に力を貸した風の精霊へと注がれる。

現状で風の力を精霊以外の場所に注いでしまうと、地下にある風石に引かれて色々と危ないことになる。かといって“エクスプロージョン”や“ディスペル”で消滅させると風の大精霊が生まれなくなって結局私が困る。

前回はイチカが地下の風石をアンダーグラウンドサーチライトに放り込んだお陰で後で取り出すことができたけど、私はそんな面倒なことはしたくない。ならどうするか……と考えて、一つの結論を出した。

要するに、風石に貯まっているエネルギーを直接風の精霊に送り込んでしまえばいいんじゃないか? と。

 

風石とは風の力の結晶体だ。しかし風の精霊そのものではなく、あくまでも『風の精霊が産み出したエネルギー』の結晶なのだ。

つまり、風の色に染められた方向性の無い力の塊。それに少しだけ方向性を持たせてやるだけで簡単に操れる。一体の風の精霊に集中して力を流し込むくらい、造作もない。

私の世界ではあの巨大な風石の鉱脈丸々一つ分を風の精霊に飲み込ませるためにビダーシャルと二人で色々無茶をやったりした分慣れたし、あの程度の量なら私一人で十二分。

 

そう言うことで私は緑色に染まった“ブレイド”を指先で振るう。巨人族でも使いこなせないような巨大な大剣となった“ブレイド”は、次々に軍艦をすり抜けながら緑色を濃くしていく。

そして風石を全て失うことになったアルビオン艦隊は、ゆっくりと墜落を始めた。

 

……と、これが私の視点で起きたこと。けれど“幻影”によって上書きされた視界では、また別の物が見えているはずだ。

具体的に言うと、突然現れた巨人が緑色の剣を振るうと同時に何故か無傷の船が落ちていくように見えているはず。

何が起こったかなんかわかなくていい。何故こんなことになっているのかも知らなくていい。誰がやったのかなんて、教えない。

ただ、今はこうして命が助かったことだけを喜んでいるといいわ。

 

「……いやぁ、まさか相棒が先住魔法を使うなんてなぁ……この世の者じゃねえとはいえ本当に人間か?」

「私は人間よ。普通に生まれて普通に生きて、普通に人を好きになって普通に死んだ、かつて人間と言う種族だった私を世界が拾い上げたのが今の私……『織斑ルイズ』よ」

「……そうかい。ま、相棒は相棒だ。かつての英雄だろうが異世界の娘っ子だろうが今さら関係ねえさ」

「そう言ってくれると嬉しいわ。関係ないついでに今のは黙っておいてね」

「あいよ」

 

デルフリンガーと会話をしながら“ブレイド”を消して取り込んでいた風の精霊を解放する。それなりの量の風石を吸ったためか、初めよりも大分強くなっているようにも見える。

けれどやっぱり風の力は割りと増幅しやすい事もあってそこまで目立つわけでもない。このくらいは誤差の範囲内よね。

……まあ、実のところ風の精霊王どころか大精霊すらいない現状はかなり異常と言ってもいい。精霊界への扉を割と強引に抉じ開けて確認したこともある私が言うんだから多分間違いない。ちなみに証人はビダーシャルね。

 

……ああそうだ、また今度地下の風石からアンダーグラウンドサーチライトの中の風石を補充しておきましょう。必要な時に足りないのは困るし、放っておいたら大陸が浮かぶもの。

けど、イチカがいないんだからその前に土の精霊か大地の精霊に話を通して契約しておかないと。地下に突然巨大な空洞ができたら崩落する可能性だって十分にあるもの。

……ラグドリアンの水の精霊に紹介頼みましょうか。突然出向いていって悪感情を与えたら大変だもの。

 

 

 

 

 

 

 

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