side 織斑ルイズ
ルイズとシエスタのところに行ってみると、そこにはいくつも死体が転がっていた。姿は“ライト”を応用したステルスで、気配は普通に消して眺めてみると、どうやらこれをやったのはルイズとシエスタの二人で間違いないらしい。“記録”による過去視にて、ルイズとシエスタがアルビオン軍の兵士を素手と“エクスプロージョン(最弱)”で仕留めているのを確認している。
それも、ルイズは“加速”を使いながらであるため殺された側は殆ど何も感じることなくあの世に逝けたことだろう。
……ただ、やはり使い慣れていないせいか“加速”も“エクスプロージョン”も精度や加速量が甘い。“加速”してはいるけれど精々13倍程度だし、“エクスプロージョン”も狙いからかなり外れてしまっている上に効果範囲がかなり狭い。
流石にずっと柔術などの身体能力面ばかり伸ばしているとこういった弊害もある。一応精神修行と言う面もあるにはあるんだけれど、体術と魔法を分けて考えているルイズじゃあ少し難しかったかもしれないわね。
体術と魔法には繋がりがある。そもそもが同じ自分の体をどう使うかと言うものだし、繋がりがあるのは当たり前の事なんだけれど……この世界でその事を理解している人はとてつもなく少ない。私の知っている限り、ジョゼフとイザベラとビダーシャルとシェフィールド、それから母様とカティ姉様くらいだったわね。半数以上と言うか全員が私の知り合いって言うのはまあ仕方の無いことね。
なお、イチカは私の居た世界の住人ではないのでカウントから除外している。
さて、そんな話はどこかに放り出しておくとして、やることはやったしルイズとシエスタを学院に送り届けないと。アリバイ作りは大切だしね。
実は私のアリバイは“分身”で既に作ってあったりするんだけど、ルイズもシエスタもそんなことは一切考えずに直接この場所にまで来ちゃってるし……アリバイ作りは早い方がいい。
とは言ってもアリバイなんてトリステインじゃあ大して意味を持たないんだけどね。腐った奴らが権力に任せて事実をねじ曲げたり隠蔽したり自白を強要させたり……本当に救いようが無いわね、この国は。
この国がもう救えないほど根幹から腐りきっているなんて言う周知の事実をわざわざ誰に話すでもなく再確認するのも終わらせて、肩で息をしている二人を軽く抱き寄せる。
「わぷっ……なに……って、レア姉様!? いつの間にっ!?」
「つい今しがたよ」
「全く気配を感じなかった上に姿もありませんでしたよ!?」
「頑張って隠れたもの。びっくりした?」
ビックリしすぎて大変なことになりそうだった……何て言う台詞は聞かなかったことにして……私は小声で“テレポート”のスペルを唱える。カセットテープの早送りのようにかなり圧縮されたルーンはあっという間に必要な分の詠唱を終えて、三人纏めて魔法学院のルイズの部屋に移動する。
多分だけれどこれで私達があの場所に居たと言う証拠はなくなったはず。それも誰かに見られてなければの話だけど、実のところ見られていたとしても私はそこまで困らなかったり。困るのはルイズだしね。
……あ、それに意外と心配性だけどそれをうまく表に出せない母様と、そんな不器用な母様以上に不器用なエレオノール様もちょっと困るかもしれないわね。
カティは……むしろ煽ってくるかもしれないわね。私がいれば大体の事は大丈夫だって知っているし、本当に煽ってきたら私は嬉々としてその煽りに乗ってさらに煽っちゃうだろうし。
……そう言えば、私もルイズもカティも私のことを母様や父様に伝えていないけれど……どんな反応をするかしら。
まず驚愕は確定だとして、偽者だと考えて殺意を向けてきたり……とか?
……何にしろヴァリエール領に行く時は色々準備が必要ね。からかうためにも逃げるためにも必要なものは山積みだし、やらなくちゃいけないこともたくさんある。
カティのこともあるから心配はしてないけど、やっぱり考える事は大切よね。
まあ、そんなことは置いておくとして……今回のタルブ日帰り旅行はこれにておしまいです。お疲れさまでした。
「いやいやいやいやそれよりも先に色々聞いておきたい事が山のようにあるんですけどっ!?」
「そうですよ!どうやってあっという間に私の村に移動したのかとかあの岩でできた巨大なゴーレムはなんなのかとかどうして無傷の戦艦が落ちたのかとかそれはもう色々!」
二人から次々と質問の声が上がるけれど、私はそれらを努めてスルー。上手に受け流すにはそれなりの対人スキルが必要になるのよね。
「レア姉様!」
「私にだってわからないことはあるわ」
「胡散臭いです。絶対に嘘ですね」
どうしてかルイズが私のことを苛める。もしかしてこれが反抗期って言うものなのかしら? ルイズも大人になったのねぇ……感慨深いわ。
「嘘じゃないわ。私にだってわからないことやできない事の十や二十はあるわよ」
「神聖アルビオン帝国の皇帝の名前は?」
「クロムウェルね」
「母様の秘密は?」
「昔、騎士団に入ったばかりの頃にユニコーン隊と喧嘩をして騎士団を首になりかけたことがあるわ」
「父様の秘密は?」
「昔、サンドリヨンと言う名前で騎士団に入って浮き名を流していたことがあるわ」
「エレオノール姉様の秘密は?」
「自分の胸の小ささを改善しようとご禁制の薬を作って飲んでみたけど効果が無くって枕を濡らしたことがあるわ」
「姫様の秘密は?」
「昔おねしょをした時に誤魔化そうと火の魔法を使って乾かそうとして小火を起こしたことがあるわ」
「……私の秘密は?」
「詔を考えているとき、ちょっと居眠りをして始祖の祈祷書によだれを垂らしちゃったでしょ?」
ここまで言ったらルイズがorzになったので選手交代。次はシエスタが質問をしてくる。
「私のひいおじいちゃんの名前はなんでしょう?」
「ササキタケオね。ササキが名字でタケオが名前」
「ヨシェナヴェの隠し味と言えば?」
「三種のハーブ。あると無いとで風味が全然違ってくるのよね」
「私の家に伝わる宝物は?」
「『竜の羽衣』と言われる飛行機械。纏った者に飛行能力を与えると言われてるわね」
「トリスタニアで働いている私の従姉妹の名前と店の名前は?」
「『魅惑の妖精亭』の看板娘、ジェシカよね? お手頃価格であの味なら申し分無いと思うけど、もうちょっと頑張れるわ。ちなみに店長であるスカロンの娘さん」
「私が昨日の夜読んでいた本のタイトルは?」
「『メイドの午後』。内容は言わないでおいてあげるわね」
「……私の秘密は?」
「最近胸が大きくなってきて動くとき揺れて大変なのよね?」
「何で知ってるんですかっ!? と言うか知らないことなんて無いじゃないですか!」
「あらやだ、偶然貴女達が聞いてきたことの答えをみんな知っていただけよ?」
クスクスと笑いながらそう答えると、シエスタまで胡散臭いものを見るような目で私のことを見つめてきた。全く、二人とも酷いわねぇ。