side 織斑ルイズ
トリステインが戦勝を記念してパレードを開いたり、姫様が戴冠すると言う事が決定し、戴冠式がもうすぐ行われると言う噂がメイド・ネットワークから入ってきたり、姫様がゲルマニア皇帝との婚約を解消したと言う噂を教師陣から聞いたりしつつ、私は普段通りにメイドの仕事をしていた。
とりあえず今のところ絶対にやらなくてはならないことは無いし、学院の図書館の本は“ディティクト・マジック”を使って三日で読み終えた。欲しい情報は無かったけれど、それなりに役にはたった……と言うことにしておく。
……ちなみに、婚約が解消されたのでルイズが預かっていた始祖の祈祷書はトリステインの王宮に返還されることになった。
その際、水のルビーも返すことになったのだけれど……“複製”って便利よね? 見た目も効果も全く同じ、それでいて私の意思一つで消したり出したりできる上に、一度“複製”した物は覚えてさえいれば何度でもいくつでも作り出せるのだから。
……ただ、目の前で始祖の祈祷書が二つになったところを見てしまったルイズは随分とショックを受けていたようだったけれど。
そして自分の指に填まっている風のルビーの出所に気付いたらしく私に詳しい話を聞いてきたけれど、私は普通にはぐらかす感じで答えておいた。
具体的には
「え? その風のルビーの出所? 別にウェールズ皇太子殿下を説得しようとした時についでとばかりにスリ取って後で適当な宝石を“錬金”して形を整えて外見だけを風のルビーそのものにしただけの模造品を大量にルイズに見せて偽物なんだと思わせておいて本物を与えて虚無系統に目覚めさせようとしたとかそんなことはないわよ?」
と。
実際そんな事はしていないわけだし、何も問題は無いはずなんだけれど、何故かルイズは私の言葉を信じてくれなかった。
実際にルイズに渡したのは“複製”したこの世界の風のルビーと始祖の祈祷書であって、どちらも本物はこっそり私の服の内側のアンダーグラウンドサーチライトに入っていたりするんだけれど、わざわざ本物の所在を教える気は全く無い。
これで私が保有している『四の四』は、トリステインの使い魔と指輪と秘宝、アルビオンの指輪と秘宝、ついでに私の世界のトリステインの担い手と秘宝とガリアの指輪の系八つ。この世界の物だけに絞っても五つ。
これで私がこの世界から消えてしまえば、ロマリアが聖戦なんて物を起こすのに足りない物が出てくるだろう。
指輪二つに秘宝二つ。しかも秘宝の片方はあらゆる虚無魔法の手引き書とも言える始祖の祈祷書となれば……かなりの嫌がらせになるわよね。
……ああ、私はロマリア嫌いよ? 寄付しろ寄付しろ五月蝿いし、汚職まみれで穢らわしいし、寄付しないでいると変な言いがかりつけてくるし、一歩引くとどこまでも傲慢に高慢に押し込んでこようとするし、私やイザベラを見る目が色欲に染まっていて気持ち悪いし、私が貴族じゃないことを知ると差し出すように強制してくるし、それを断ると本国から異端尋問官やら司教やらがやって来てぎゃんぎゃん騒いだり、領内から民を拐っていったり変な噂を流して商人が近寄らないようにしてきたり、王宮に掛け合って圧力をかけさせたり…………ああうん、思い出しただけでイライラしてきた。今度ロマリアの秘宝と指輪でもギってこよう。嫌がらせにはちょうどいい。
確かロマリアの指輪は炎のルビーで、秘宝は壁に埋め込まれた鏡だったわね。私の居た世界で滅ぼす前に頭の中身を覗いておいてよかったわ。
でも、確か指輪は行方不明って言うことになっていたんだったわよね。それで確か……どこかの魔法学院の教職員が持ってるんだったかしらね。
……久し振りに怪盗『土塊』の出番かしら。こっそり頂いていった後、『始祖の大鏡、確かに頂戴致しました。土塊のフーケ』ってサインを残しておけば盗賊行為限定でなんでもフーケのせいになるんだから楽よね。
ちなみに私がやる時は追伸で一言残していたりする。
例えば『追伸、貴方の悪事の証拠はしっかりと貴方の対立派に渡しておきますね。これから貴方がどんどんと惨めに無様に没落していく様を想像するだけで楽しみで仕方ありませんざまあみろ』とか、『この事が知られたらどこにそんな大金があったのかの調査が入り、貴方の不正がバレますね』とか、『王宮に提出しました(事後報告)』とか。
これのお陰で泣き寝入りする貴族が増えて増えて……笑いが止まらないわね。実は提出してないのがまだまだ残ってたりするのに。
「相棒、相棒。笑顔が黒いぞ」
「フォルサテって人を知ってるかしら?」
「……ああ、あのクソいけすかねえ野郎か。なんだ? あいつに嫌がらせでもしに行くのか? だったら手伝うぜ。なんで相棒がフォルサテの野郎の事を知ってんのかは流すとしてな」
「まあ、本人じゃなくて作った国のお偉いさんにだけどね。昔色々と『お世話』になったから、一応礼儀として『御礼参り』くらいはするべきでしょ?」
「違いねえや!」
珍しくデルフリンガーの同意を得た私は、とりあえずロマリアの指輪と秘宝の二つを超々広域……具体的にはこの惑星を丸ごと包み込むだけの範囲を縦横奥行きの三方向から0.1ミリメートル刻みでスキャンする感じ……の“探知”を使って探s…………片方近っ!? 指輪近っ!?
まさかこんな近くにあるなんて……殆ど予想してなかったわ。楽になるからむしろ喜ばしいことなんだけど、なんだか腑に落ちないような気にさせられるわね。喜ぶべきなのに。
「どしたよ相棒」
「……流石にこの学院の教師の持ち物を持っていくだけって言うのは不味いから、その場で複製品を作って入れ換えておこうと思っただけよ」
「……もしかして、片方ここにあったのか? 鏡はでかすぎるから……指輪か?」
「ええ。流石にちょっと驚いたわね」
……でも、正直に言って不思議なのは『何がどうなって炎のルビーがこんなところにあるのか』なのよね。
あの始祖狂いのロマリアが、こんな(ロマリアにとっては)大切な物を手放すなんて考えられない。絶対なにか大きな事件があるに決まってるわ。
例えば……そうね。虚無魔法が使えるだろうとわかった子供を虚無に目覚めさせないようにと母親が指輪を持ち逃げしたとか、秘密裏に盗み出された指輪を持った盗人がコルベール先生に殺されて、その時の戦利品あるいは悔恨の証として持っているとか……そんな感じかしらね?
「……普通ならそんな偶然あり得るかって笑い飛ばすとこなんだがよぉ……実際にここにあって、そんでそれを言ったのが相棒だって言うと突然説得力が倍率ドン!更に倍!……になるのはなんでかねぇ……?」
「私だから?」
「すっげえ説得力だなそりゃあ」
……ああ、イチカがショックだったのも何となくわかるわね。結構クるわ、これ。