side 織斑ルイズ
夜を待ち、手始めに気付かれないようにコルベール先生の元にある炎のルビーのコピーを取って摩り替える…………つもりだったのが、実行しようと詠唱を始めた瞬間に水の精霊から連絡が入った。例の襲撃者が行動を始め、大きな空気の泡を作って湖の中に侵入してきたらしい。
なんともタイミングの悪い話に舌打ちをしたい気持ちを全力で押さえ付けつつ、ぱぱぱっとルイズに置き手紙を残して、即座に高速詠唱で“テレポート”をする。
すると私の視界はルイズの部屋から真夜中のラグドリアン湖の岸辺に変わり、そしてすぐに“加速”を唱えて走り出す。
岸辺を軽く一周するまでもなく今まさに湖に入っていこうとする二人組を見つけ、水面に手を付いて鞍馬のように体を横に回転させて二人纏めて蹴り飛ばす。この時“加速”したままだと私の脚が痛くなることが多いので“加速”は切ってあるが、そんなものがなくても私の蹴りは結構な威力がある。証拠に、二人の襲撃者を同時に湖の波打ち際から25メイルほど離れた場所まで蹴り飛ばしている。
そして相手が立ち上がるよりも早く“ブレイド”を唱え、契約を交わした水の精霊の力を乗せて水色に輝かせる。光っていないと相手が認識できなくて暴れたりするから危ないのよね。
ちなみに育てている風の精霊でなく水の精霊の力を使う理由は、始めにここが水辺であって水の精霊の力が十善に発揮できるからと言うことと、風だと……恐らく片方あるいは両方の風メイジの能力範囲だから干渉されてしまう可能性がある。水の精霊を退治するのに水メイジを連れてくるようなアホな人はいないだろうしね。
それに、水の精霊を倒すなら水に触れないようにするために風メイジと、水の精霊を蒸発させる火のメイジの二人で来るのが最善だものね。
……許されるなら虚無のメイジが精霊を狙って消し飛ばすのが一番早くて危険がないんだけど、虚無メイジなんてそんなに居ないしね。その点を考えると、やっぱり風と火のメイジの二人以上で、なおかつどちらもトライアングル以上の魔力を持っていることが望ましいわね。
「ごほっ……く……ちょっと、なんなのよ!」
襲撃者の片方がそんなことを言いながら杖を振ると、その先端に“火球”が、もう片方の小さい方からは“エア・ハンマー”が現れ、私に向かって飛翔する。
私は“火球”を“ブレイド”で切り払い、“エア・ハンマー”をデルフリンガーで吸収しつつ脚に魔力を集め、瞬動で二人の背後に回り込む。
「動かないで貰いましょうか」
首筋に刃を突き付けられた二人は、一瞬前まで私が居た所に杖を向けたまま動きを止める。“加速”を使わないでも、一瞬相手の視界と認識の外に出るくらいなら普通にできる。
……認識外に出ても直感でぶん殴ってくる人や攻撃しようとした瞬間に明後日の方向に振り向いて偶然肘をカウンターで入れてくる人もいるから、私よりも格上の人には大して使える訳じゃないんだけどね。
「……あなたは何者? どうして私達の邪魔を?」
「水の精霊直々に依頼を…………って……」
なんだか聞き覚えのあるような気がする声に疑問を覚え、風の精霊に頼んで相手のフードをずらしてもらう。
フードがぱさりと落ちて、漸く見えるようになった顔は……何故か、それなりに見たことのある顔が二つ並んでいた。
「…………………………はぁ~~~~~~~~………………」
「なによその深い溜め息はっ!?」
「……それで、どうして貴女方がこんなところにいらっしゃるのですか? ミス・タバサにミス・ツェルプストー」
ミス・ツェルプストー……キュルケの言い分を完全にスルーしつつ問いかけると、結構な速度で反応を返してくれた。剣を引くと、それに合わせて振り返り……私の姿を見て不思議そうな表情を浮かべる。
「……あなたは確かルイズの使い魔の……」
「レアとお呼びください。なんならメイド長でも構いませんよ。いつの間にかそう呼ばれてましたし、臨時でメイド長も兼任するようになりましたし」
……と、挨拶はこのくらいにしておいて、いったいこの二人はどんな理由で水の精霊の退治なんかをすることになったんだろうか。
「それはラグドリアン湖の水嵩が上がるのを防ぐため。水嵩が上がり、平民の生活に支障が出始めている」
「ああ、それなら私が死ぬまでは再発しないと考えてもらって構いま……素で話すわね……構わないわ。探し物を見つけてあげれば再び盗み出されるまではよっぽどの事が無い限りは大丈夫でしょう」
「……なぜ?」
「主語がないから質問の意図が正確に理解できないのだけれど、『どうしてそう言いきることができるか』って言う問いだと解釈していいかしら?」
私の言葉にタバサが頷く。ついでにキュルケの方もそれなりに興味がありそうだ。
まあ、興味があろうと何だろうと私の答えはほとんど変わらないけどね。何しろとてもとても簡単な説明をして10秒もかけずに理解を得る事ができるんだもの。
「そう言う契約をしたからよ。なんなら明日の朝を待って確認してみてもいいわよ?」
「内容は?」
「探し物を代行するかわりに契約を。そして代行中は湖の水嵩を元に戻すこと。……ところで、貴女達のはどこからの依頼か聞いても大丈夫かしら?」
そう聞いてみると、タバサは首を横に振る。どうやら聞いても答えは貰えないみたいね。
確かジョゼフとイザベラの話では……この頃はまだガリアの汚い裏の仕事を任される北花壇騎士団に居るんだったかしら?
となるとこの仕事を任せたのはジョゼフ……あるいはイザベラね。イチカに会って常識とかそう言う物をぶち壊されるまでは『色々《いりょいりょ》と酷《ひろ》いころをひちゃった……ゆりゅしてえりぇーにゅぅ……』って酔っぱらって漏らしてたしね。
ちなみにその後、完全に酔い潰れたイザベラはビダーシャルに運ばれて自分の部屋で眠ったらしい。本当に眠ったかは……まあ、聞いてないわ。
とりあえず、その日の夜は若干五月蝿かったとだけ言っておきましょうか。これだけでわかる人はわかるし、凄い人(例えば私の世界のカティ等)なら次の日イザベラが真っ赤になってベッドから出てこようとしなかったことまで予想できるでしょうしね。
……ちなみに私は今までイザベラのその恥態をバラしたことは無いわ。その事でイザベラをからかったことはあるけれど、本気で相手が嫌がることはしないようにしてるのよ。
……敵以外にはね。
……それじゃあ朝を待って水の精霊に確認しに行きましょうか。私の用事は明日でもできるしね。