side 織斑ルイズ
授業が終わってのんびりしていたルイズを瞬動縮地(瞬動術の入りと抜きにほぼ前動作や勢いを殺すための停止動作等が無いもの)でかっさらってから姫様のお墨付きを表す書簡を持たせて始祖の祈祷書と風のルビーの複製品と一緒にタバサとキュルケの二人が待つ風韻竜の上に戻る。
私の身体能力を見たキュルケとタバサの二人は『「四十秒で戻ってくる」って言ってたけどほんとに戻ってくるとか本当に人間? しかもルイズを抱えたままあの速度で走り回れるって……』とかなんとか言っていたような気がするけれど丁重にスルー。
ついでに突然抱え上げられて振り回されたルイズは『え、ちょ、な、レアね、うひゃっ!? わ、わわ、わぁぁぁぁぁっ!? なになになんなのどうなって(ガチンッ!)ふみゅっ!?』と騒ぎまくって舌を噛んで沈黙している。今は風韻竜の上で両手で口を押さえながら半泣き顔でプルプルと震えているけれど、元気そうで何よりだ。
「……それで、説明はちゃんとしてくれるのよね?」
じとっと私のことを見つめながらそう聞いてくるキュルケに、私は笑顔を向ける。
「ええ。大体の事はお話しできますよ」
……やっぱり笑顔と言うものは大切ね。緊張を解いてくれたり警戒心を若干緩めさせてくれたり、ちょっと質を変えれば憤怒や狂気の演出までできるようになるんだもの。便利よねぇ……。
……さてと。それじゃあ何から話しましょうか……。
side ルイズ・ザ・ヴァリエール
天呼ぶ、地呼ぶ、人が呼ぶ……そう、私がルイズ・ザ・ヴァリエール!
…………って、そんなわけ無いでしょうが!『ザ』じゃなくて『ラ』よ、『ラ』!!
いいかしら? 貴族にとって名前って言うものは神聖なもので、特に名字は代々伝わってきた血筋に宿る誇りの集大成のようなもの。名前だったらともかく……いや名前でも良くないけど、名字を間違えるのはもってのほか。今度から気をつけるように!わかった?
「ノリツッコミからのどこかで聞いたことがあるような注意事項……何故かキュルケの顔が目に浮かんだわ」
「……奇遇ね。私も言った覚えが無いのになんだか自分がそう言ったことがあるような気がして堪らなかったのよ」
「七不思議」
後ろの方でレア姉様達になんだか色々言われているような気がするけど、今回は気にしないことにする。いつもいつも私がツッコミをするって言うのは間違いだとこの場で証明して見せるわ!
「……それで、何があったのか教えてもらえるかしら? ヴァリエールの使い魔さん?」
「死亡確認した相手が生きていて、恐らくその方を殺したと思われる人の手にアンドバリの指輪があるようです。操られている可能性が非常に高く、しかもその方が名高きプリンス・オブ・ウェールズだと言うのですから大事にならないわけがない。しかも姫様と皇太子殿下は互いに想い合っており、女王としての自覚が未だ薄い姫様では誘われればホイホイついていきそうで怖いので姫様を押さえつけつつ皇太子殿下が死体である証拠を突きつけ、それでもついて行きたいとか寝言をほざいたらひっぱたいてでも目を醒まさせて連れ戻してあげるのが優しさかな……と思ったの」
「優しさではないわね」
「優しさではありませんよレア姉様」
「むしろ鬼」
「鬼の優しさは理解できねえよ」
言葉は違えどそこに居る全員が同じことを呟いていた。ツェルプストーと気が合うって言うのは嫌だけど……まあ、レア姉様常識に振り回される仲間(みちづれ)は多い方がいいわよね。
「……なにかしら、今ルイズまで黒くなってたような気がするんだけど……」
「血筋」
「あらあら、ルイズにもそういう素質があったのね?」
「なんだかボロクソ言われてる!? と言うかレア姉様にだけは言われたくないんですがっ!?」
「まあ、そう言うわけで女王陛下直属の女官であるルイズに」
「聞いて!?」
「……ルイズにご足労願って情報収集と契約の一部を果たしちゃおうかな? って」
しくしくしく……レア姉様に無視された……。
「あー……ほらヴァリエール、いつまでも泣いてるんじゃないわよ。あんただってやればできる子なんだから」
「……ひっく……ぅっく……ほんと?」
「(なにこの子可愛い)……ええ、勿論よ」
優しく頭を撫でてくれるキュルケにちょっと抱きつき、そのまましばらくしくしくと泣き続ける。悲しみで精神力を溜めさせるためとはいえ、無視するのはひどいですレア姉様。
なんだか上と後ろから暖かい視線を感じつつ、私は傷付いた心を癒す。
……って、ツッコミに忙しくて軽く流しちゃったけどなんだか凄いことを言ってなかった? 死んだはずのウェールズ様が甦らされていいように使われてる(意訳)とかなんとか……。
しかも姫様を誘拐しようとしてるとか……確かにこれは私と陛下の証書が必要な事態ね。今起きていることならレア姉様の広域版“探知”で大体の事はわかるけれど、流石に『過去に何が起こっていたか』はわからないものね。
「そう言うわけだから、協力してくれると嬉しいなぁ……なんて」
「はいはい、協力させてもらうわよ。今トリステインが滅ぶと困るのはゲルマニアも同じだしね」
「ありがとう。お礼に今度私の秘蔵の薬を一つ譲ってあげるわ」
「いらないわよそんなの」
「あら、そうなの? 残念ね」
レア姉様はキュルケと…………タバサに向かって笑顔を向けながら首を傾げる。こんなに純粋そうに見えるのに、いったいどうしてレア姉様はああなんだろう?
「ルイズ。今なにか考えなかったかしら?」
「なにも考えておりませんわレア姉様」
……前々から思ってはいたんだけど、もしかしてレア姉様は人の心が読めるんだろうか? そう考えでもしないとこうして口に出してもいないのに考えていることが読まれてしまうなんて事を受け入れられない。
まあ、もし本当に心が読めるんだとしても、レア姉様だったら仕方無いわね。だってレア姉様だもの。どれだけ理不尽で不条理で非常識な事が起きたとしても、それをやったのがレア姉様って言うだけで全てが納得できちゃうものね。理解はどうやってもできないことが多いけど。
……ああ、あの儚げで優しいちいねえさまはいったいどこに行ってしまったのかしら……?