side 織斑ルイズ
夜になり、皇太子殿下(死)が行動を始めたと同時に全員を起こす。恐らく相手は姫様を拐ったらすぐに行動を始めると思われるので、トリスタニアとラ・ロシェールを最短で繋ぐ街道で出待ちをする。
ただ、足止めをするのはいいけれどどうしてこんなに早く姫様の誘拐を察知できたのかを聞かれると答えられないので力業で行くことにする。
……要するに、ルイズの許可証と“忘却”を使う。それで上手く納得させる事ができればそれでよし。納得させられなければ納得してもらうまで“忘却”と説明を繰り返すことになるだろう。
私は策を練るのがあまり得意ではないのでその場その場で適当に考える事になるのだけれど、上手く思い通りに繋がってくれる事なんて殆ど無いから困る。
やっぱり私は策士や軍師には向いていない。いいとこ前線隊長って所だろう。悲しいけれどそれが事実なのよね。
そう言うわけで私は無色透明で不可視の“ブレイド”を、道のこちら側からあちら側に向けて通す。高さは、およそ馬に乗った人間の首から顎の高さ。
いくら不死とはいえ、首を飛ばされれば周囲の事を知るのは難しくなるはず。水の精霊が個であり群であるように一人の視界を共有できたりするなら全員の視界を潰してやればほぼ無力化できる。
具体的には、はねた首を踏み潰すか焼いてしまえば戻らない。潰す前に元の場所にくっつけたら治ったりするんだろうか?
……まあいいか。とりあえず実行しよう。姫様には憎まれるかもしれないけれど、そう言うのは矛先を逸らしてしまえば怖くもなんともない。
色惚け小娘を一人騙くらかすくらいの事は簡単にできる。しかも相手は姫様だし、見てみた限りでは簡単すぎる。
まあ、騙すと言っても嘘をつく訳ではないし、本当の事を言わないわけでもない。ただ単に事実を一部隠してやるだけで十分。
最悪、風のルビー(の“複製”品)を渡して色々吹き込めばいい。なんなら“記録”を偽造して流してやるのもありね。
……あ、来た来た。やっぱりグリフォンやヒポグリフじゃなくて普通の馬を使ってきたわね。
竜は少し前に殆ど全部落としてあげたはずなので初めから考えていなかったし、“探知”にそれらしい幻獣はかからなかったので馬だとは思っていたけれど……普通こんな大事な作戦に普通の馬を使う? 馬鹿なの? 死ぬの?
しかも速度とかそういうのから考えてもただの馬だし……馬を使うなら使うでいいから白蓮のところの馬くらい用意して見せなさいよ。
……白蓮のところの普通(笑)の馬は兵糧を満載にした五頭立ての荷車を一頭で引く上に、初速から時速80リーグ、最高速度280リーグ、平均時速140リーグのまま荒れた道を半日走り続けることができるような普通(笑)の馬だけど……しかもその普通(笑)の馬は三十年以上生きてとっくに軍馬を退役して荷馬車用になってる奴で、現役のはさらに凄いのが普通にいるけど…………個体によっては壁や水の上や空中すら走ったりするけれど………………とにかく、大切な時に馬を使うんならそれくらい用意して見せなさい。
「いや無理だろなんだその化物。確実に馬じゃねえだろユニコーンでも無理だっての」
「だから普通(笑)の馬よ」
「だから馬じゃねえって」
「馬じゃなくて普通(笑)の馬よ」
「結局馬なんじゃねえかよ」
「だから馬じゃなくって普通(笑)の馬なんだってば」
「……訳がわかんねえよ。馬じゃねえのか?」
どうやらデルフリンガーは馬と普通(笑)の馬の違いがわかっていないらしい。
馬と普通(笑)の馬との違いは……まあ、大体Lv1のスライムベス(全ステータス一桁)とLv99のゴールデンスライム(全ステータスカンスト)くらい違うんだけど……わからない人(人以外も含む)にはわからないわよね。どうでもいいけど。
ザシュッ!と鈍い音が響き、走ってきた一団の首がはね飛ばされる。その中には皇太子殿下のそれもあったのだけれど、勢いよく馬を駆けさせていた彼等にはそんなことは関係無く、その勢いのまま刃に突っ込んでいって自らの首をかき切ってしまったようだ。
馬の上から皇太子殿下達の身体が落ち、皇太子殿下に寄りかかっていた姫様も落馬する。
地面に叩きつけられるより早く“レビテーション”を使って浮かし、首を斬られてなお動き続ける身体から引き離す。
……できれば終わるまでこのまま眠っていて欲しかったんだけれど、早々上手くは行かないわよね。
ゆっくりと瞼を持ち上げる姫様を抱えながら、私はそんなことを考える。
「……カト、レア……さま……?」
「……お久し振りですね、姫様」
姫様の問いには答えず、ただにっこりと笑顔を浮かべる。私はカティではないけれど、見た目だけならカティとほぼ同じだから余計にバレないように頑張らないといけない。
私が失敗するとカティの方に責任が行くんだから、隠すことに必死にもなろうと言うものだ。
「……やれやれ、いきなりこれは酷いじゃないか」
「っ!ウェールズ様っ!?」
「やあアンリエッタ。起きてしまったんだね」
そう言いながら笑う皇太子殿下は、飛ばされた首を拾い上げて元あった場所につけ直そうとしている。
他の死体も同じように首を拾い上げ、くっつけようとしているけれど……とそこでふと気付く。
今作られたばかりの首の傷があっという間に埋もれていき、元通りの肌に戻る。流石精霊の力を使って動く死体と言うべきか、その再生速度には目を見張るものがある。
「……姫様、ご覧になりましたね? あれは皇太子殿下ではありません。皇太子殿下の姿をしていても、皇太子殿下の声で愛を囁いても───あれはただの死体です」
抱き抱えていた姫様を下ろすと、姫様はそのままへたりこむ。真っ正直に真っ直ぐに、事実だけを突きつけた結果がこれって言うのは……ちょっと未来が不安になるわ。
今の姫様は女王ではなくてただの一人の恋する娘だって言うことはわかっているんだけど、恋する娘が愛する男を殺されたら……まあ、復讐にはしっても仕方のない事なのよね。
……その復讐心が暴走して妙な方向に走り出すことがなければいいんだけど……私に向くことは無いわよね?
…………無くなるように工作しますか。感動の超大作だって作れるんだし、今まで見せた事の無いやつならバレないでしょ。
……ふふふふふふ……♪
「怖ぇぞ相棒」
「何の話かしら?」
「……黒いぞ相棒」
「黒は私の好きな色だからドンと来いよ?」
「…………ダメだこの相棒、早くなんとかしねえと……」
失礼ねぇ……。
この小説内では1リーグ=1kmと解釈しています。