side 織斑ルイズ
姫様と皇太子殿下の感動的な悲恋の物語の終わりを監督してから暫くして。トリステイン魔法学院は夏期の長期休暇に入っていった。
私は確か一夏を呼び出した年は一夏を使い魔として紹介して、それが嘘だと思われて仕方なく何故か一夏が知っていた母様と父様、エレオノール姉様の秘密をぽそぽそっと耳元で囁いて納得(?)してもらってから普通に過ごしてたんだったかしらね。
旅行に行ったりのんびりしたり、ジョゼフやイザベラ、シェフィールドと知り合ったり、ビダーシャルと知り合ったりして……密度の高い所と低い所の差が酷い夏期休暇だったことを覚えているわ。
さて、私の方の夏期休暇が結構ハチャメチャだったことは適当に記憶の隅に整理整頓して押し込んでおくとして、今はこっちの話。
今回の休暇でルイズは実家に帰るつもりであるらしく、それなりの準備をしていた。
私の準備は実は殆ど無かったりするのだけれど、何故かそれを突っ込まれる気配は無い。どうしてかしらね?
「だってレア姉様だもの。何にも用意してないように見せても実際には必要以上にしっかりかっちり準備してるに違いないわ」
「相棒だもんな。そのくらいのことは当然やってるだろうな」
とりあえず、今度からデルフリンガーに人化能力をつけて活殺メイド拳法の師範代になれるくらいまで扱き上げることにする。ルイズはシエスタと一緒にそうなることがとっくに決定してるから……魔力を使わない遠距離攻撃(主に波動拳などの拳圧を飛ばす系統の技)でも仕込んであげましょうか。
誰にでも少しは気と魔力があるんだし、『気と魔力の合一』を叩き込むのも一興かしら。
「……デルフリンガー。もしかしたら私達、地雷を踏み抜いちゃったかもしれないわ」
「しかも超巨大な魔導地雷だろ? やってらんねえよな」
「やらなかったら死ぬわよ。これ私の実体験ね」
「……やるしかねえかぁ……まだ死にたくはねえもんな」
中々失礼な事を言われているような気がするけれど、心優しい私は何も聞かなかったことにしてあげる。
とりあえず、今は色々とやることがあるものね。実家に戻る準備とか、カティと一緒に母様達の前に出た時の事とか。
……今の私とカティは性質的に似通っているから、その場で適当にやっていればなんとかなるような気もするけどね。
と、なんとかなると思っていてもなんとかならなかった時の事を考えるのが私。まあ、簡単に『ルイズに呼ばれたら増えた』って言っておく予定だけどね。
そんなことで増えるなんて話は聞いたことがないって言われたり、信じてもらえなかったりすることもありそうだけど……その時にはカティと一緒に合体魔法でも唱えて見せれば納得してもらえるかしらね。
……ついでに、あの時イチカがやったように“ライト”と“マジックバリア”で『烈風カリン』と『灰被りのサンドリヨン』でもやって見せましょうか。
知っている理由は……王都のとある古道具屋にそういう絵が残っていて、それを描いたと言っていた人が面白おかしく話してくれた……って感じで。
どんな反応をするのか……なんだか考えただけでも面白そう。イチカがやった時は私も驚く側だったから、今度は驚かして楽しむ側に回ってみたい。
……ついでに、エレオノール様へのお土産に豊胸薬でも用意してみようかしら。
そうなったら母様には若返り薬を処方する必要があるけれど、結局一本作るに必要な労力は杖を持ってルーンを唱える分と、僅かばかりの精神力だけ。なんともリーズナブルなお土産よね。
ただし、若返りにも豊胸にもそれなりのエネルギーが必要なので、暫くは食事量が増えたりもするけれど、それはまだオスマンの秘書をやっているフーケの少し前までの食事量を見てもらえればわかると思う。
まあ、太る分が殆ど全部胸に行くようになる薬と、食べた分で無理矢理全身の細胞のテロメアを伸ばす薬。胸の方ならともかく、若返りの方にはかなりのエネルギーが必要になることはよくわかると思う。
胸の方は食べないと他の所から無理矢理待ってくるようになるから、健康なんだったら食べないと体調を崩すようになっちゃうだけ。肥満の人ならむしろ丁度いいかもしれないけれど……まあ、おすすめはしないでおくわ。
さて、それじゃあ準備は大体できた事だし、最後にもう一度確認しておきましょうか。
ルイズの着替えと、ルイズに渡したこの世界の始祖の祈祷書(複製)と、姫様に渡した風のルビー(複製)のかわりに貰ってきた水のルビー(の複製)と、ルイズの杖。
私の分は、アンダーグラウンドサーチライト中にある杖と風石の鉱脈の一部とデルフリンガーと水の精霊の分霊(指に小さいアンドバリの指輪つき)と、この世界の色々な所から頂いてきた宝物と襲ってきた相手の武器及び防具の一部。それに私の世界の土のルビーに私の杖と始祖の祈祷書。こちらの世界の水、風、火の三つのルビーと始祖の祈祷書、オルゴール、大鏡の三つの秘宝。
……と、重要な物はこのくらいかしらね。ちゃんと秘宝やルビーは“複製”品を置いてきたから誰にもバレていないし、これからもバラさせるつもりはない。
確認も終わったし、メイド達のことはシエスタに任せてあるし、予定通りにのんびり出発しましょうか。
……と、そこで一羽の梟が開け放していた窓から飛び込んでくる。
いったい何かと思ったら、どうやらその梟は手紙を運んできたらしい。
その手紙はルイズに渡され、ルイズは準備をする手を止めてその手紙を読みふける。
そして溜め息を一つつくと、私に向けて言葉を紡ぐ。
「……帰郷は中止になりそうです」
……まったく、せっかく準備したのに全部無駄になっちゃうのね。準備そのものよりも確認の方に時間がかかったとは言え、自分なりに完璧を目指して頑張ってみたのに。
いったい誰からの手紙か知らないけれど、迷惑な話ね。
あの姫様は突然そう言われたらこっちの予定が丸ごと潰れちゃうことを理解してないのかしら?
「誰からのかわかってんじゃねえかよ」
「このくらいなら簡単に予想できるわよ」
ルイズが予定を変えるような手紙を出せるのは、家族かあるいは姫様くらい。そして今回の事を考えると、家族のところに帰るのを辞めさせるような手紙をあの家族が出すわけがない。そう考えれば答えは自ずと出てくるわ。
……いったいなんの用事かしらね? 面倒事でなければいいんだけど……。