side 織斑ルイズ
姫様の依頼は、この国の王都の話を逐一送っていて欲しいと言うことらしい。
やはりと言うかなんと言うか、王の耳に入る報告と言うのは何もかも耳触りの良い報告とおべっかばかりで、本当に民が求めているものが何なのかがわからなくなってきているらしい。
そこで、顔のほとんど知られていない私とルイズに市勢に紛れ込んでもらい、生の民の言葉を聞いてそのまま届けて欲しいと言うことなんだそうな。
そこで渡されたのが、恐らく姫様がこっそり自分用に使える金額の殆どだと思われる四百エキュー。これで夏期休暇の間、市民の中に紛れて行動しろと言うことらしい。
……けれど、ルイズの感覚には驚いた。四百エキューを使うに当たって、一番始めに馬を買うなどと言い出した。
その上、泊まるところは四百エキューが二週間と少しで消し飛ぶような高級宿で、食べる物なんかも……と言い出したところで軽く頭を叩いて止めておく。
そして、『平民に混じる』ために必要なものは馬や美味しい料理や上等なベッドなんかじゃなく、貴族としてのプライドを一時的に捨てて貴族らしくない姿、貴族らしくない立ち振舞いをすることだと教えておいたけれど、やっぱり染み付いた振る舞いを完全に抜くのは難しいので……独断で勝手に設定と偽名をつけさせてもらった。
私達は元貴族で、つい最近没落したばかりの家で両親に売り飛ばされそうになったので家を出てきた姉妹と言うことにする。
それに合わせてつける名前は、私がユナ・オーエンでルイズがナンシー・オーエン。ルイズは偽名を名乗ることに嫌な顔をしたけれど、もしもヴァリエールだなんて超有名なところの娘がこうして平民に混じって暮らしている事がバレたら誘拐や何かで平民に紛れる事が難しくなると言うことと、そうなったら姫様のお願いを叶えることができなくなると言うことを伝えると渋々とそう名乗ることを了承した。
本当だったら髪も別の色に染めたいくらいなんだけど……流石にそれはルイズも嫌がるだろうし辞めておくことにする。
……さてと。バレないように気を付けてとは言ったけど、いったい何時ぐらいまでバレないでいられるかしらね。
私の予想だといいとこ二時間から三時間程度だろうと思うんだけど、せめて一日くらいは持たせて欲しいと願う。
……ルイズは真っ正直だから難しいとは思うけど、最近は随分成長してきたからその成長の部分に期待したい。さっきのとぼけた主張は……精神面と肉体面はともかく、知識面は足りていなかったと言うことで一つ。
あと、どうせだったらシエスタも連れていきたいんだけど、密命に関係無い人間を連れ回すのはどうかと思ったので自分で却下した。連れて行けば純粋な平民らしい目線から情報収集をしやすいと思ったんだけど……やっぱり難しいわよね。
まあ、その辺りは置いておいて服を着替える。流石にメイド服やら魔法学院の制服じゃあ『私は貴族です』って大声で言い触れ回っているのと大して変わらないので、その辺りは仕方ない。
私はシエスタの持っていた服を参考にシルバーローブを変形させて、ごく一般的な平民の普段着(黒)にする。若干使い古している感を出すために、襟口や袖回りなどの痛みやすい所を陰影でぼろく見えるようにしてあるけれど……防御能力は変わらないから本当に便利。
ちなみにルイズはシエスタの服を借りようとして、一部がぶかぶかになってしまうことに気が付いてシエスタの胸を揉み潰す勢いで揉んでいる。
ただし勢いよくはあるけれど痛くないように加減はしているようで、シエスタの口からは悲鳴と共に嬌声が漏れている。
……ついでに、その嬌声を聞き付けたらしいメイド達がドアの向こうや壁の向こう、果ては塔の外の壁に張り付いて聞き耳をたてている。
仕事はいいのかと言いたくなるけれど……まあ、怒られるのは私じゃないので流すことにする。
あと、ルイズも最近大きくなってきてるんだからあんまり悲観しないの。と言うか私も昔は気付かなかったけれど、その身長でその胸囲なら十分に大きいのよ? イチカの世界で言う『トランジスタグラマー』って奴ね。
……見てて面白いから止めないけど。
「止めねえのかよ」
「止めないわよ? 見ていて面白いし」
「それはさっきも聞いたよ。……やれやれ、相棒はドSだね」
「私は苛めっ子でも加虐趣味があるわけでもドSでも鬼畜でもナノハでもないわ」
「最後の誰だよ」
いくつもの宇宙が泡のように連なる異世界で、管理世界も管理外世界も人も獣も化物も全部引っくるめて最強と言われた魔導師だと返したらなんだか後で怒られそうな気がしたので、デルフリンガーの問いは受け流す。
ただ、全く何も言わないのもどうかと思ったので『内緒』と返しておき、なんだかイった目をしているルイズと、顔を真っ赤にしてくてっとされるがままになっているシエスタ(時々身体がぴくんと跳ねる)の手を取って、ちょびっと殺気を叩きつけながら投げる。
瞬間、あれだけ力の抜けていたシエスタの身体に力が入り、ルイズと同じように私の方を向いて両足で着地した。
……シエスタの服が乱れて頬が朱に染まったままなのはご愛嬌。なんにしろそれ以外は普段通りに戻ったし、なんにも問題は無い。
「あんまりいちゃいちゃしてないの。扉の向こうや壁の向こうの子達におかずにされちゃうわよ?」
私がそう言ったのと同時に、壁や扉の向こうがにわかに騒がしくなり、屯していたメイド達が即座に撤退していく。
しかし一瞬で扉を開けて追いかけ始めたシエスタの手からは逃げられなかったようで、次々に悲鳴が上がるのが聞こえる。
何人かは命乞いをしているようだけど……今の恥じらいマックスなシエスタには通用しないわよ。
しかもこの状態のシエスタは身体能力がいつもの三倍。顔や耳が真っ赤に染まる以外にも髪の毛が一房纏まって立つので分かりやすい。
あれね、今のシエスタは赤い彗星なのよ。三倍早いし指揮官機を表す角がついてるし、間違いないわ。間違いがあっても押し通すけど。
「キャー!シエスタが怒ったー♪」
「皆撤退よ撤退ー!」
「了か……って早っ!? シエスタがいつもの三倍ははや……キャー!?」
「メリー!」
「わ……わたしの事は置いて早く行って!」
「そ、そんなこと……するっ!」
「ありがとうメリー!あなたの犠牲は逃げ切れるくらいまでは忘れない!具体的には三分くら───」
「───なら、かわりに私の醜態を忘れさせてあげましょう」
「「「「げっ!シエスタ!?」」」」
「全て忘れるまで……私は貴女達を殴るのを止めないっ!」
「「「「「ギャ─────!!?!?」」」」」
……あらら、大変ね。
「原因の一端はレア姉様ですけどね」
「無駄だよ娘っ子。相棒に何言っても通用しねえんだからさ」
あらあら、酷いわねぇ。
学院三強。
1.レア(ルイズ)
2.ルイズ
3.シエスタ
学院長は4位、コルベールとマチルダが大体同率5位。ギトー以下が続く。
……一位と二位の差が隔絶しすぎていることは(真暇の脳内で)ツッコミ禁止令が出されています。